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第 I 部 第1章のポイント

1. 世界の経常収支不均衡拡大の現状:米国の赤字拡大と、黒字国の拡大

●世界の経常収支不均衡は拡大している。アメリカの経常収支は1970年代半ば以降赤字基調となり、05年1〜6月期にはGDP比6.4%となっている。80〜90年代前半までは、アメリカの赤字は現在ほどの規模ではなく、また、途上国は一般に赤字であった。2000年代以降は、アメリカの赤字を先進国だけでなく産油国やアジア諸国の対外余剰によってファイナンスするという新しい資金の流れとなり、不均衡の規模や範囲が世界に拡大している。
●アメリカでは90年代末以降投資率が横ばい傾向になる一方で貯蓄率が大幅に低下し、投資超過が拡大している。一方、ドイツではITバブル崩壊後、アジア諸国ではアジア危機後投資率が低下した国が多かったことが、貯蓄超過の要因となっている。中国では高い家計貯蓄率を背景に、90年代以降投資率を貯蓄率が上回る状況が続いている。産油国が黒字になった背景としては、原油価格上昇の影響があると考えられる。

2. 貯蓄・投資バランス:黒字化傾向がみられる企業部門と、国により異なる家計部門

●各国の貯蓄・投資バランスを制度部門別に90年代前半と比較すると、アメリカの経常収支赤字の背景には、家計部門及び政府部門の赤字が拡大していることがある。ドイツでは、政府部門の赤字が安定的に推移する中で、家計部門の貯蓄超過は将来不安等により増加している。日本では、家計部門は貯蓄超過だが超過幅は縮小しており、政府部門は赤字が続いている。英国、中国、韓国では、政府部門の動きは安定しているが、英国、韓国では家計部門の貯蓄が縮小、英国では赤字となっている。
●企業部門は、アメリカ、ドイツ等でITバブル崩壊後投資超過が縮小し、最近では貯蓄超過となっている。韓国、タイでは、アジア危機後投資が抑制され、企業部門の投資超過が縮小し、タイでは貯蓄超過となっている。一方、中国では、投資超過が02年以降再び拡大している。

3. 企業部門の貯蓄超過の現状:ITバブル崩壊後の各国のバランスシート調整の動き

●ITバブル崩壊後、アメリカでは、企業の資金調達が急速に減少し投資も縮小した。その結果、バランスシート調整は短期で終了し、投資も03年以降持ち直している。一方、ドイツをはじめとする欧州では、ITバブル崩壊後も借り入れによる調達が続き、調整が遅れたこともあり、収益が回復した後も投資の伸びは総じて弱い。アジアでは、97年の通貨危機後投資は大きく減少し、その後増加に転じているものの、危機以前と比較すると抑制傾向にある。
●企業部門の資金余剰の持続性については、アメリカでは資本ストック調整もほぼ終了しており、企業の資金余剰は早期に縮小していく可能性が高いと考えられる。一方、欧州では当面貯蓄超過の状態が継続する可能性もある。アジアでは、中国に代表されるように投資意欲は引き続き強く、企業収益の向上と共に投資が活発化することが期待される。
●ITバブル崩壊後の各国の政策対応が同一ではないこと、欧州では99〜2000年にかけて情報通信分野で巨額の投資が行われたことなどに留意する必要はあるものの、アメリカではキャッシュフローを重視した経営を行っていたこと、資金調達が直接金融中心のためバランスシートに調整圧力が働きやすいことなどから、ITバブルというリスクに対して早期に対応することが可能になったと考えられる。付加価値重視という時代の要求、技術革新の速度の上昇、グローバル化などの要因によって、企業が直面するリスクはより多様化しており、柔軟に対応できる企業経営が求められている。また、マクロ経済にとっても、企業のリスクへの対応が重要な意味を持つようになってきている。


第 I 部 海外経済の動向・政策分析

第1章 拡大した経常収支不均衡と企業部門の貯蓄超過

 世界経済は2003年後半から着実に回復を続けているものの、世界の経常収支不均衡は拡大している。今回の経常収支不均衡には、(1)アメリカの経常赤字がかつてない水準に達しており、赤字国としてアメリカが大きな比率を占めていること、(2)それを先進国に加え、産油国及び中国やNIEs等アジア諸国がファイナンスしている(貯蓄超過国が増加、拡大している)こと、(3)制度部門別にみると投資低迷による企業部門の赤字縮小・黒字化が目立っていること、といった特徴がある。世界的な経常収支不均衡拡大については、その要因として、途上国が投資超過国から貯蓄超過国に転じたことを重視し、これを「世界的貯蓄余剰(Grobal saving glut (1))」と呼び、世界的な長期金利低迷の一因とする指摘もある。
 本章では、まず、第1節で世界的不均衡拡大の現状を概観する。第2節で、部門別貯蓄・投資バランスの動向をみる。そして、第3節で企業部門について取り上げ、その特徴をみるとともに、一部の国でみられる企業部門における資金余剰ないし投資超過縮小の要因、現在みられる傾向の今後の持続性等について考察する。


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