第2章 景気回復力の違いと消費底堅さの要因 |
第1節 世界同時減速からの回復力の違い
まず、ほとんどの国が景気拡大局面にあった90年代後半における実質GDPと民間消費の平均増加率を調べてみたい。そして、その時期と比較した場合、2001年の景気後退局面から2003年4〜6月期までの期間において、主要国の回復力にどのような違いがあったのかを明らかにしておこう。
●90年代後半における経済成長と消費増加の関係
ある程度の長期間をとると、所得(=GDP)と消費は同じような増加率を示す。これは、消費者が恒常的な所得にあわせて消費を平準化するような行動をとるからである。他方、貯蓄率が低下すれば、消費の増加は所得の増加を上回ることになる。
90年代後半における実質GDPと消費の増加率の相対的な関係をみると、主要国は3つのグループに分けることが可能である(第2-1-1図(1))。(1)アメリカ、イギリス、カナダ:先進国の中では高い経済成長と強い消費の増加、(2)日本、大陸欧州の諸国:潜在成長率程度の経済成長と消費の増加、(3)中国、タイ等のアジア諸国(通貨危機を経験した国は危機後):高成長と堅調な消費の拡大、である。
●世界同時減速以降、底堅さを維持したアメリカ、イギリス、カナダ
2001年における世界同時減速は、ITバブルの崩壊をきっかけとして、アメリカにおけるIT部門の生産減少が瞬く間に世界に広がり、世界の景気が同時に減速した。景気後退局面においては、ほとんどの国や地域において雇用調整が行われ失業率が上昇した。そのため、多くの国で消費者マインドの悪化が生じた。このように世界経済が同時に減速したが、前述の3グループの動きは、90年代後半と比較して大きく異なるものとなった(第2-1-1図(2))。
(1) アメリカ、イギリス、カナダ:世界同時減速において成長率は鈍化したが、日本や大陸欧州に比べると、その鈍化は小さい。他方、所得の伸び鈍化に対し、消費は90年代後半に近い増加率を維持している。
(2) 日本、大陸欧州の諸国:経済成長率が大きく低下し、ほぼ横ばい状態となった。消費の増加率も90年代後半に比べて著しい減速を示した。しかし、所得に比べ消費の増加率は高く、消費を維持する行動がみられている(=貯蓄率は低下)。
(3)アジア諸国:中国、タイは90年代後半とそれほど違わない経済成長と消費の増加を維持している。他方、シンガポールは実質GDP、消費とも大きく鈍化した。また、韓国は2001年以降の平均をとると、90年代後半とそれほど違わない増加率を示しているが、2003年に入って景気は後退し、消費は減少している。
●消費の底堅さが回復力の強さにつながる
このような違いは、所得の鈍化に対して消費がどれほど底堅く推移するかという観点から考えることができる。人々が所得の鈍化が一時的なものであると考え、恒常的な所得見通しに変化がなければ、消費は底堅く推移することが期待される。また、将来の不透明感が少なく、消費意欲の維持が図られていれば、消費の減少は回避することができよう。このようにして、消費の底堅さが持続すれば、景気減速を緩やかなものにとどめ、回復を着実なものにすることが可能となる。
所得と消費は相互に影響を与える関係にあるため、一方向からすべてを説明することはできないが、消費の底堅さは今回の世界同時減速からの回復にあたって主要国の動向を説明する切り口になると思われる。
以下では、まず先進7か国を取り上げ消費の底堅さの違いを比較しながら、アメリカ、イギリス等で消費が相対的に堅調である要因を明らかにする。次に、アジアの中から中国とタイに着目し、両国の消費拡大の背景を検討する。