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第2〜3章のポイント

1.消費の底堅さによって明暗を分けた景気回復力の強さ

●2001年に世界経済は同時減速を経験し、2002年から回復局面に入った。しかし、回復力は主要国の間で異なった。回復力が比較的強かった米英加では、2001年以降成長率の低下にもかかわらず消費が底堅い伸びを続けた。他方、回復力が弱かった日本や大陸欧州では、景気後退とともに消費が弱い動きとなり、成長率は年率1%以下の厳しい状況となった。
●世界同時減速の主因はIT不況であり、アジア経済も景気後退に見舞われた。しかし、それらの中では中国とタイが景気後退に陥ることなく、拡大を続けている。その主因は、両国では消費が堅調に増加しているためである。

2.米英加の消費が底堅い伸びを続けた要因

●景気後退期に米英加の消費が底堅く推移した大きな要因は、所得の減少は一時的なものと認識され、将来を考慮した恒常的な所得の見込みが低下しなかったからであると考えられる。90年代後半以降、米英加では潜在成長率が低下することがなかったことがその一つの背景になっていると指摘できる。
●ITバブルの崩壊によって米英では、家計の金融資産残高が大きく減少した。しかし、利下げ効果から住宅建設が大きく伸張した結果、住宅価格の上昇が生じ、非金融資産残高の増加をもたらした。そのため、株価下落は家計のバランスシート調整を深めることがなかった。
●住宅資産価値の上昇は、モーゲージ市場の取引を通じて家計に潤沢な資金を提供した。米英では2003年においてGDP比4%程度の資金が家計部門に流れ、消費の拡大要因になったとみられる。

3.中国とタイにおける堅調な消費の背景

●両国においては、雇用者所得が大幅に増加しており堅調な消費の基本的要因となっている。中国では耐久財消費が急速に普及している。自動車は高額であり、保有は少数の家計に限られているが、今後は力強く増加する可能性が考えられる。
●中国では2桁増の賃金を背景に所得は高い伸びとなり、家計貯蓄率は上昇が続いている。タイでは通貨危機時に不安から貯蓄率が大きく上昇したが、その後、内需拡大に取り組む政府の施策もあり貯蓄率は低下している。

4.世界経済はアメリカが牽引し2004年には着実な回復へ

●2003年4月イラク戦争の終了とともに先行き不透明感が払拭され、景気回復の展望が開けた。アメリカは他国に先んじて着実に回復している。新型肺炎(SARS)の流行からアジアでは景気減速の動きがみられたが、中国やタイでは景気拡大が続いている。他方、ユーロ高の影響もあり欧州の景気は停滞している。
2004年の中心シナリオは、アメリカが世界経済を牽引することによって、アジアは成長率が一層高まり、輸出の増加によって欧州も景気回復が進むと見込まれる。下方リスクとしては、アメリカにおける雇用創出の動き、為替レート(米ドル)の世界的な調整の今後の動向等が挙げられる。


第2章 景気回復力の違いと消費底堅さの要因

 2001年にアメリカが景気後退に陥ると世界経済は同時に減速した。2002年からの景気回復局面においては、世界の回復動向に違いがみられた。アメリカ、イギリス、カナダでは成長率の低下が小さかった一方、日本や大陸欧州では成長率の低下が著しく、景気の停滞が長引いた。その一つの要因が、消費の底堅さの違いである。消費の堅調さが続いた国では、回復力が相対的にしっかりしていた。本章では、消費の強い中国やタイも取り上げながら、主要国における消費の強さの違いをもたらす要因について検討する。また、家計貯蓄率の現状についても概観する。


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