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1  アメリカ    United States of America

アメリカ経済のこれまで

<2002年の経済>
 2002年は1〜3月期に高い成長率となったが、その後景気の回復力は弱くなっており、2002年後半の経済成長率は低い伸び率にとどまるとみられている。7〜9月期は3.1%となった後、10〜12月期は2%台前半とみられており、2002年全体では2%台前半となることが見込まれている(民間機関53社の平均2.4%(2002年10月))。なお、政府見通し2.6%(2002年7月)、議会予算局2.3%(2002年8月))。春時点では、2002年後半は3%台後半、2002年全体で2%台半ばの成長を見込んでいたことに比べ下方修正されている。
 2001年秋以降2002年春にかけて、景気は急回復をみせた。これは、減税や金融緩和の効果により個人消費・住宅投資が堅調な伸びを示したことに加え、在庫投資が大幅にプラスの寄与となったことによる。こうした需要の回復に引っ張られ、生産は2002年初から増加に転じ、雇用も持ち直した。しかしその後、個人消費・住宅投資の伸びは鈍化し、在庫投資の寄与も減少したことから、回復は緩やかになった。生産も伸びが鈍化し、雇用の回復は緩やかなものにとどまった。
 景気回復が緩やかになった背景には、株価の下落や企業部門の回復の遅れがあげられる。株価は企業会計への不信の高まりなどから、5月以降急速に下落が進んだ。こうした株価下落は逆資産効果により消費を抑制しているものとみられ、また消費者や企業のマインドに悪影響を及ぼしている。企業部門も、収益の回復が遅れており、設備投資の回復が遅れ、先行き見込みも弱く回復の抑制要因になっている。
 また、純輸出は、輸入が大幅に増加したことからマイナスの寄与となり、成長率低下の一因となっている。経常収支赤字は2001年第4四半期以降拡大傾向となっており、2002年4〜6月期には対GDP比5.0%と過去最高の水準に達した。経常収支赤字の拡大に加え、株価の下落、景気回復見通しの下方修正などから、ドルは大幅に減価した。
 2002年後半は、設備投資は低調で推移、個人消費は鈍化し、在庫投資の寄与も小幅に留まるとみられることから、全体として回復を強く牽引する要因に欠け、回復は非常に緩やかなものとなる可能性が高い。

アメリカの主要経済指標

<2003年の経済見通し>
 個人消費などの家計部門、設備投資などの企業部門とも年後半に向けて高まり、年前半の経済成長率は3%台前半、後半には3%台後半の成長となり、2003年全体で3%前後の成長になることが見込まれている(民間機関53社の平均3.0%(2002年10月))。なお、政府見通し3.6%(2002年7月)、議会予算局3.0%(2002年8月))。また、景気回復にともない、経常収支赤字は拡大傾向が続き、GDP比5%台半ばの赤字となることが見込まれている。物価は前年比2%台の安定した推移を続けるとみられている。
 これらの見通しの基本的シナリオは、消費の緩やかな伸びが下支えするなか、設備投資が回復してくるなど、最終需要が伸び続けることから生産が拡大し、雇用・設備投資の拡大につながっていくとするものである。ただし、2002年10月以降明らかになった経済指標は、消費、生産、雇用などで2002年後半に回復力が予想以上に弱まっていることを示している。このため2003年の景気回復についても年前半にはまだ調整が残る懸念があり、上記見通しについても多少下方修正してみる必要があると考えられる。なお、民間機関見通しのうち下位10社の平均では、2003年は2.5%の成長になると見込んでいる。
 個人消費は、減税や低金利といった政策効果が薄れてくる中、2002年後半のマインドの悪化や雇用環境改善が遅れている影響が2003年前半には残り、低い伸び率にとどまる可能性がある。ただし住宅投資は実需の強さに支えられ堅調な水準を保つ可能性が高く、総じて家計部門は緩やかな回復を支えるものと考えられる。
 企業部門については、高い労働生産性の伸びが企業収益の回復につながっていくことで、2003年には回復環境が徐々に整ってくることが期待され、生産や設備投資、雇用が拡大していくものと考えられる。ただし、2002年後半に景況感が悪化し、生産や雇用の回復が足踏み状態となっており、2003年前半も低い伸びにとどまる可能性がある。今回の景気回復局面は、生産、雇用の回復が非常に緩やかである点、1991年の回復期における「雇用なき回復」に似た状況となっている。2003年に本格的な景気回復となるためには、これら企業部門の回復が鍵となる。
 景気回復を大きく抑制しかねない下方リスクとしては、イラクを巡る軍事的緊張の高まりがある。もしイラク情勢が原油価格の高騰を招く事態になれば、個人消費の落ち込みにつながりかねず、湾岸戦争時やオイルショック時のように再び景気後退につながる可能性も否定できない。
 また、住宅価格が下落に転じる場合、これまで住宅価格上昇の資産効果が株価下落の逆資産効果を相殺していた効果がなくなり、さらなる個人消費の鈍化につながる可能性がある。個人消費、住宅投資といった家計部門の支えがなくなった場合、景気回復の勢いそのものが大きくそがれることとなる。

実質GDP成長率の実績と見通し

<財政金融政策の動向>
 2001年3月に始まった景気後退は、短期間かつ緩やかなものに終わったものとみられるが、これには積極的な財政政策・金融政策が大きな貢献をしたものとみられる。
 2002年度の財政政策は、同時多発テロ以降、景気回復に向けて積極的に取り組みを行った。事件直後に400億ドルの緊急歳出を行い、さらに2002年3月には特別減価償却制度や失業保険給付期間の延長を内容とする景気刺激パッケージを実施しており、2001年7月にはじまった大型減税とあわせて、景気の下支えに寄与したものとみられる。
 財政バランスの面では、同時多発テロ以降国防関連の支出が増加するなど支出は当初見込みを大幅に上回る一方で、景気後退は大幅な税収減をもたらした。この結果、財政収支は2001年度の約2,900億ドル(GDP比2.8%)の黒字から大幅に悪化し、2002年度は約1,600億ドル(同1.5%)の赤字と、97年以来5年ぶりに赤字となった。
 2002年夏までの金融政策は、年前半は低金利による景気刺激を続けるなか、景気回復の不透明さが払拭されるまでは緩和スタンスを維持するという姿勢であり、金利は据置きとされ、リスク評価は景気低迷と物価上昇に均等に置かれていた。その後景気の回復力が弱くなったことを受け、8月にはリスク評価を再び景気低迷警戒に重点を置くこととし、11月上旬には再度の利下げを行った。
 今後の財政金融政策については、基本的に景気刺激スタンスが維持されるものとみられる。
 2003年度の財政政策は、国土安全保障・対テロ戦争の勝利・経済再生を主な施策にあげ、国防関連支出の大幅な拡大を行い、約1,100億ドル(GDP比1.0%)の赤字を見込む、景気刺激的なスタンスとなっている。加えて、ブッシュ政権は税制面の取組みを念頭においた追加景気刺激策の検討を示唆するなど、経済活性化のための追加的な財政政策が行われる可能性もある。また、現在の中東情勢の緊迫が軍事的衝突につながる場合には、大幅に国防費用が増加する可能性もある。
 2003年の金融政策は、少なくとも年前半は現在の低い金利水準を維持するものとみられる。そうした中で、中東での軍事的衝突が起こる場合、現在回復力が弱まっている消費、生産、雇用などがさらに鈍化する場合などにおいては、機動的な対応がなされる可能性が高いと考えられる。


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