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第I部 海外経済の政策分析

パート1:中国経済5つのトピック

4.地方財政における地域間格差

●拡大する所得の地域格差
 中国では、経済開発の進んだ東部沿海地域と遅れた西部・中部内陸地域との経済格差が大きな問題となっている。一人当たりGDPでみると、東部地域を100とした場合の格差は90年以降年々拡大しており、2001年には中部地域は50、西部地域は39となっている(トピック4-1図)。一方、一人当たり所得と消費について、都市部・農村部に分けて地域格差をみると、(i)格差の程度は一人当たりGDPより小さく、(ii)農村部では所得や消費について格差が横ばいまたは縮小しており、(iii)都市部の消費の格差は拡大傾向にはない。しかし、都市部と農村部の消費格差をみると、格差は大きく、しかもすべての地域で拡大している(トピック4-2表)。

●財政にみる地域格差
 財政面から地域格差をみると、一人当たり歳入額は東部地域100に対し中部地域が34、西部地域が34であるのに対し、一人当たり歳出額は中部地域が26、西部地域が69となっている。地方財政収支は赤字であり、一人当たり歳入額よりも歳出額の方が大きい。また、歳入額と歳出額で中部と西部の格差の状態に乖離が生じているのは、中央政府から地方政府への財政移転によるものである。
 そこで中央からの財政移転の額を同様に一人当たりでみると、東部地域100に対し中部地域が88、西部地域が119である。最近地域格差が言われるようになり、西部大開発による中央からの資金が流入しているため西部地域への移転が増加しているとみられる。しかし、経済力・財政力共に圧倒的に豊かな東部沿海地域に対しても、西部・中部地域とほぼ同額の財政移転が行われている(トピック4-3図)。

●地方財政における支出と収入構造の不均衡
 1994年の分税制改革以降、国家財政収入における中央−地方の比率はほぼ5対5となっている。しかし、財政支出をみるとその比率は中央3対地方7となっており、分税制改革以前とほとんど変わっていない(トピック4-4図)。地方政府は自らが徴収する税制や税率等に関する決定や変更を行う権限はなく、また資金の借入れを行うこともできない(実際には非公式に借金があると言われている)。法規上、予算において赤字を計上することもできない。その結果、地方政府は財政支出に充てるべき財政収入の不足を中央政府からの財政移転によって補填している。
 80年代後半以降、地方分権化が進み地方政府に多くの権限や支出責任が移譲されるに従って、地方政府の支出割合は増加している。中央政府が国防や外交、マクロ経済政策等の分野に責任を負うのに対し、地方政府は各地方における経済社会開発に責任を負う。教育、医療、社会保障、インフラ整備等が地方の責任となっている。しかし、その責任分担は詳細について決められておらず、特に省レベル以下の多層にわたる政府間での責任範囲が制度的に不明確なため、混乱や支出の重複が起こり、効率的な支出がなされていないとOECDは指摘している。

●中央からの財政移転制度
 分税制導入に当って中央政府は、財政収入の減少に抵抗する地方政府に配慮し、地方政府に対し制度導入前の収入を保証する制度を併せて導入した。現行の中央政府から地方政府への財政移転は大部分がこの制度により占められている。具体的には分税制導入直前の93年の収入額を基数として地方収入がそれを下回らないように中央から地方政府へ税収が返還されるため、税収返還制度と呼ばれる。95年以降は各地方の前年の付加価値税伸び率を加味して変換額が逓増するようになった。この制度により、もともと豊かで財政収入が大きく、税収の伸びも高い先進地域に対してより多額の財政移転が行われる結果となっている。例えば、一人当たり歳入、歳出の最も大きな省・市は、東部沿海地域の上海市であり、最も小さいのは西部の重慶市だが、後者の一人当たり財政移転額は、前者の10%しかない。
 中央から地方への財政移転にはその他に価格補助、教育、環境、貧困地区発展等特定目的のための補助金と、地域間財政格差是正を目的として95年から導入された過渡期財政移転と呼ばれる一般補助金がある。しかし税収返還の規模が財政移転額全体の60%以上を占めるのに対し、過渡期財政移転は1.8%程度(1998年)と小さいため、格差是正効果は極めて限られているとみられる。中央政府の収入増加分はほとんど地方に返還されるため、中央政府には地方への移転額を増額する余裕はない。西部大開発プロジェクトなどのために多額の国債が発行されており、国家財政赤字も年々拡大している。このような状況では、中西部の財政基盤強化は容易ではないと考えられる。

●改革が続く中央・地方財政関係−さらなる関係強化に向けて
 2002年3月の全国人民代表大会において発表されたところによれば、2002年から所得税について、中央と地方の配分方法が変更された。94年の分税制改革により個人所得税は地方財政収入、企業所得税はその所属により各地方または中央政府の収入とされていたが、2002年からは一部の特定業種の企業を除いてすべての個人・法人所得税収を、中央と地方に一定の比率で配分することとなった。配分方法の詳細は不明だが、2001年の税収を基準とし、翌年以降の増加分について、2002年は5対5、2003年は6対4、2004年以降は実情に合わせて決めるとされている。
 所得税は今後税収の増加が期待される分野であり、この改革による中央政府の増収が期待される。中央政府は改革による増収分はすべて主に中西部地区への財政調整に充てるとしている。しかし、地方政府の既得権益を保証するとされていることから、実際にどの程度の効果が期待できるのかは不透明である。今回の改革が税収返還のようにその効果がほとんど実現されないような結果にならないのか、今後の動向が注目される。


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