第2章 (2)一般・精密機械
続いて本節では、自動車の他に世界的な比較優位があり、輸出額、出荷額も伸ばしている一般・精密機械のうち、特に比較優位があり、出荷額シェアも大きい建設・鉱山機械と半導体等製造装置について、地域別にみていく。
1.概況
(長期的な出荷額は南関東で減少も、東北、北関東、東海、近畿等が伸び)
一般・精密機械について、長期的に出荷額の推移をみると、2022年の総出荷額は、41.0兆円と、ここ35年間で最大であった1991年(41.8兆円)と同程度となっている。地域別にみていくと、南関東では特に2009年のリーマンショック後の世界的な景気後退期に大きく減少し、その後も余り回復しておらず、2022年の出荷額は1985年比でも2000年比でも減少している。一方、東北、北関東、東海、近畿を中心に、多くの地域では出荷額を伸ばしている。特に甲信越や北陸では、2022年の全国シェア(全製造品出荷額)はそれぞれ4.3%、2.7%であるが、寄与度でみると中国(全国シェア8.4%)や九州(同7.6%)と同程度と、比較的大きい。(図表2-12(1)、(2))。
一般・精密機械は、現在の産業分類でははん用機械器具、生産用機械器具、業務用機械器具に再編されているなど、幅広い製品群を含む分類である。そこで、一般・精密機械の中でもどの製品が多いのかを2022年の出荷額の細分類ベースでみると、最大が建設機械・鉱山機械で4.7兆円(11.6%)、次点で半導体製造装置4.6兆円(11.4%)と、前章でみた比較優位の高い2製品が、3番目に来る冷凍機・温湿調整装置の1.7兆円(4.1%)以下より際立って多くなっている(図表2-13)。
(労働生産性、TFPの比較優位の観点からも、東北、北関東、近畿、九州等で伸び)
続いて、前節と同様に、一般・精密機械製造業における労働生産性の比較優位を都道府県別にみると、近畿や北関東など、出荷額が伸びている地域の都道府県が上位に来ている。特に、熊本県では、全てで上位10都道府県に入っている。また、東北の各県も2005年以降表れ始めているなど、出荷額を伸ばした地域の都道府県とおおむね一致している(図表2-14(1))。
また、TFPでの比較優位をみると、こちらも労働生産性の場合と似た地域が上位に来ており、熊本県は労働生産性の場合と同様、全てで上位10都道府県に入っている(図表2-14(2))。この点は輸送用機械とは異なる特徴である。
(愛知県の就業者数が1位も、輸送用機械と比べて集中度は低い)
一般・精密機械製造業(はん用・生産用・業務用機械製造業)の就業者数について、どの都道府県に多いのかを直近の2020年の国勢調査により確認する。
それによると、愛知県が合計で11万人を超え、1位となっているが、輸送用機械の場合と異なり、シェアとしては9%である。神奈川県や大阪府も9万人を超え、特に大阪府は、はん用機械において就業者数が3万人を超え、1位となっている。その他、合計では4位の東京都から、兵庫県、埼玉県、静岡県、茨城県と続く(図表2-15)。出荷額の大きい地域が多いものの、輸送用機械と比べると、就業者の集中度は低い。
2.茨城県・大阪府の建設機械・鉱山機械
本項では、一般・精密機械製造業のうち、出荷額のシェアが最大で、国際的な比較優位の観点からも我が国の強みといえる建設機械・鉱山機械についてみていく。中でも、2022年時点の都道府県別のシェアの大きい茨城県・大阪府を取り上げる。
(茨城県・大阪府の建設機械・鉱山機械は2000年代以降、特に2021年以降に大きな伸び)
茨城県、大阪府の建設機械・鉱山機械の製造品出荷額の長期推移をみていく。
茨城県では、2000年代に大きく出荷額を伸ばしている。その後は、リーマンショック後の世界的な景気後退による落ち込みを経て、2010年代はおおむね横ばいで推移した後、コロナ禍を挟み2021年以降は再び出荷額を大きく伸ばしている。大阪府についても、おおむね似た動きであるが、2000年代の伸びが茨城より緩やかである一方、2010年代半ば以降大きく伸ばしている(図表2-16)。前章でみたように、建設・鉱山機械の輸出先は米国向けが圧倒的に多く、両府県とも、米国の景気動向の影響を大きく受けていると考えられる。
(就業者数が減少傾向の中、給与は出荷額に比例して増減する傾向)
続いて、両府県の一般・精密機械製造業の就業者数についてみると、大阪府については、2010年まで減少の後、2010年以降は横ばいとなっている。茨城県については、1995年時点でピークをつけて以降、2010年時点で底を打ち、その後は横ばいとなっており、両府県とも、長期的には減少傾向といえる(図表2-17)。
同期間の所定内給与の推移をみると、両府県とも、1990年代前後までは伸びていたものの、その後は変動をならすとおおむね横ばいとなっている。その後、足下、2019年から2024年にかけては大きく伸びている(図表2-18)。給与の伸びと出荷額の伸びはおおむね一致しており、各産業の製品需要(出荷額)と従業員1人当たり給与が連動して決定されていたことがうかがわれる。
(茨城県の港湾地帯の大手メーカー工場を中心に事業所が集積)
両府県の一般・精密機械製造業のメッシュ地図も確認すると、茨城県では、日立市、東海村、ひたちなか市といった、港湾地帯を中心に集積がみられる(図表2-19(1))。日立市は建設機械以外の大手一般機械メーカーが複数立地しており、ひたちなか市には大手建設機械メーカーの工場が複数立地しているところ、その周囲に集積がみられる。自動車同様、こうした大手メーカーを中心として、関連産業が集積していると考えられる。
一方で、大阪府については、堺市の大手建設機械メーカーの工場周辺にも事業所の集積はみられるものの、多数の中小製造企業の集積する東大阪市、八尾市の集積が進んでいる(図表2-19(2))。大阪府の一般・精密機械(はん用・生産用・業務用機械)製造業の就業者数は、前述のように国内3位であり、城下町型以外の集積もみられている点が特徴といえる。
3.宮城県・熊本県の半導体等製造装置
本項では、一般・精密機械製造業のうち、2022年時点で出荷額のシェアが建設機械・鉱山機械に次いで大きく、国際的な比較優位の観点からも大きな強みとなっている半導体等製造装置について、2022年時点のシェアの大きい宮城・熊本の両県を取り上げる。
(宮城・熊本両県の半導体等製造装置出荷額は、2010年代半ば以降急増)
まず、宮城・熊本両県の半導体等製造装置の出荷額の長期推移をみていきたい。
宮城県では、2000年頃より出荷額を伸ばし、2010年代半ば以降急伸している。2010年に熊本県にも工場を構える大手半導体製造装置メーカーのグループ企業が宮城県に設立され、2011年11月より操業開始されていることから、当該企業により出荷額が大きく伸びていると考えられる。
熊本県では、1990年代から2000年代にかけて緩やかに増加した後、2008年から2009年の世界的な景気後退による落ち込みを経て、宮城県同様、2010年代半ば以降急伸している。また、両県とも2021年以降はそれまで以上に急激に伸びている(図表2-20)。世界的に半導体需要が伸びる中、特に東アジア向けの輸出が2010年代に伸びており、両県ともに、それらの国に向けた製品の出荷が伸びていると考えられる。
(両県とも、一般・精密機械製造業の就業者数は長期的に増加傾向、給与も上昇)
続いて、両県の一般・精密機械製造業の就業者数についてみると、宮城県は1995年以降緩やかに増加しているように見受けられ、熊本県は1990年以降長期的に増加が続いている(図表2-21)。宮城県では2005年調査から、熊本県では2000年調査から人口が減少している中、両県における当該産業の雇用に占める重要性も増している。
また、同期間の所定内給与の推移をみると、統計の制約上期間が短いものの、2010年代半ば以降は大きな上昇が続いている(図表2-22)。こちらも出荷額の大きな伸びと給与の上昇はおおむね一致しており、売上を伸ばしていくにしたがって、給与も安定して上昇していったと考えられる。
(大手メーカー工場の周辺に集積も、その度合いは他の機械産業より弱め)
最後に、宮城県、熊本県の一般・精密機械製造業のメッシュ地図も確認する。
まず、宮城県をみると、仙台市の都市部の他、大和町南東部や利府町に集積がみられる(図表2-23(1))。熊本県では菊池市の工業団地、合志市東部がやや色が濃くなっている(図表2-23(2))。内閣府政策統括官(2024)にもあるように、宮城県大和町及び熊本県合志市には、大手半導体製造装置メーカーの工場が立地しており、その周囲に関連産業が集積している様子がみられる。もっとも、特に熊本県などは半導体等製造装置に限らず、半導体関連の企業が集積しているところ、自動車や建設・鉱山機械ほどの一般・精密機械製造業自体の集積はみられない。