第2章 (1)輸送用機械

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本節では、まず出荷額・輸出額の観点から日本の基幹産業といえる輸送用機械、特に自動車及びその関連産業について、地域ごとの分析を行う。

1.概況

(輸送用機械はシェア・寄与ともに東海が最大で、東北、北関東、中国、九州等も伸びている)

まず、輸送用機械の製造品出荷額を長期的にみていく。前章でもみたように、輸送用機械の地域別出荷シェアとしては、東海が最も高い状態が長期的に続いており、ここ四半世紀は4割を常に上回っていた。一方、南関東は、東海に次ぐ2位であり続けているものの、1985年時点では4分の1を上回る出荷額であったが、2000年代にかけてシェアを減じ、2022年には13%ほどのシェアとなっている。代わってシェアを伸ばしたのは、東北と九州である(図表2-1(1))。

長期の成長率寄与度についてもみると、1985年比、2000年比のいずれでみても東海の寄与が最も大きく、九州も1985年比では10%ポイント以上の寄与となっている。2000年比で比べた際は、両地域に次いで、北関東、東北、中国となっている(図表2-1(2))。

(輸送用機械製造業の比較優位は、東北、北関東、東海、中国、九州で高い)

続いて、地域間の産業構造及びその伸び率の差の背景を確認するため、各都道府県の比較優位の状況について確認する。ここでは、独立行政法人経済産業研究所(以下「RIETI」という。)の公表している「都道府県別産業生産性データベース2021(以下「R-JIP2021」という。)を用いて、各都道府県・各産業の労働生産性及び全要素生産性(以下「TFP」という。)の比較優位について、都道府県ランキングの推移をみていく11。なお、国際経済学の分野においては、労働及び資本が固定であると仮定しているために労働生産性を用いて比較優位を計算することが通例であるが、国内では労働の移動は比較的容易であり、また中長期的には資本の移動も行われると考えられるため、本稿では労働生産性とTFPの双方から比較優位を確認する。

まず、輸送用機械製造業における労働生産性の比較優位をみると、2010年までは、九州の各県が上位に来ている他、いずれの年を見ても、東北、北関東、中国の各県も上位の多くを占めている。特に、群馬県は全てで、愛知県も2010年を除いて全て上位10都道府県に入っており、これらの県を中心に労働生産性の観点から比較優位が見られることが分かる(図表2-2(1))。

TFPの比較優位についてみると、おおむね似た地域が上位に来ているものの、群馬県は3回、愛知県が2回しか上位10都道府県に入っていない(図表2-2(2))。労働生産性は、TFPの他に、資本投入量と労働投入量の比率である資本装備率等にも影響を受ける12ため、これらの県は資本装備率の高さが労働生産性の相対的な高さに寄与している可能性がある。輸送用機械、特に自動車産業は比較的サプライヤーとの結びつきが強く、一度投下された資本の移動に対して、取引費用も含めたコストが高いことから、TFPより労働生産性による比較優位の方が現実をよく表している可能性がある。

(愛知県に3割弱、東海4県に半分近くの輸送用機械製造業の就業者数が集中)

最後に、輸送用機械製造業の就業者数について、どの都道府県に多いのかを直近の2020年の国勢調査により確認する13

それによると、愛知県が30万人を超え、2位の静岡県の3倍以上となっており、全国の輸送用機械製造業の就業者数の28%を占めている。また、東海4県合計では47万人と、全国の44%が東海地方に集中している。その他、3位に神奈川県、広島県、埼玉県、群馬県、栃木県と、大手自動車メーカーの工場が立地する都道府県が続く(図表2-3)。

2.愛知県の自動車及び自動車部品

前項の概況を踏まえ、本項では、具体的に、出荷額及び就業者数の特に大きい、愛知県の自動車製造業及び自動車部品製造業の状況について分析する。

(2000年代に海外生産比率を上げる中で完成車出荷額が減少する一方、同部品の出荷額が増加)

これまでみたように、愛知県の輸送用機械は、出荷額で全国・全製品の1割以上、全国の輸送用機械の就業者の3割弱を占める一大集積地となっている。そこで、愛知県の輸送用機械の中でも、自動車・同附属品(小分類)、すなわち自動車関連の製造品出荷額について、長期でみてみると、1980年代、2000年代にかけて上昇、リーマンショック及び東日本大震災による落ち込みを挟み、2010年代も伸びている。さらに、細分類の自動車(完成車)と自動車部品・附属品までみていくと、完成車は1980年代、90年代は伸びていたが、その後2000年代の出荷額は減少している一方、自動車部品・附属品については、2000年代に大きく出荷額を増やしている(図表2-4)。

背景について、愛知県に本社及び主要工場を置く大手自動車メーカーの長期の生産台数をみると、1990年代半ばから2000年代半ばの国内生産台数はおおむね横ばいとなっている中、1980年代後半より海外生産台数を増やしている。特に2001年から急増し、2007年には海外生産台数が国内生産台数を上回り、グローバルでの生産台数は、これを反映して2000年代に大きく伸びている14。これより、2000年代の愛知県の自動車産業は、経済のグローバル化に伴うサプライチェーン再構築の進展や、特に米国における現地生産比率の引上げ方針とともに、完成車の生産拠点を海外に移していく中で、当該生産拠点に輸出するために、関連会社の自動車部品の出荷額を大きく伸ばしていったと考えられる。

(輸送用機械の就業者数は長期的に増加傾向、給与は近年横ばいが続くも足下で上昇の兆し)

続いて、同期間の愛知県の雇用・賃金状況についても確認する。

まず、愛知県の輸送用機械製造業の就業者を長期でみると、1995年から2000年にかけて微減ながら、長期的にみると、増加傾向を示している(図表2-5)。統計の制約上、輸送用機械の内訳までは分からないものの、出荷額推移と合わせると、自動車部品・附属品製造業に就業する者が増えていると考えられる。

また、賃金構造基本統計調査で、愛知県の輸送用機械製造業の所定内給与の推移をみると、1980年代から90年代にかけては伸びていたが、2000年代以降は、日本全体の給与が伸び悩む中、横ばいとなっている(図表2-6)。2024年は、全国・全産業的に賃金がやや上昇傾向にある中、愛知県の輸送用機械でも増加の兆しがみられている。

(都市部・港湾部の他、三河地域の完成車・車体工場周辺に事業所が集積)

最後に、愛知県の輸送用機械製造業の事業所が、県内のどこに多いのかをメッシュ地図にて確認する。図では、赤が濃いほど、その地点に輸送用機械の事業所数が多いことを示している。同図によると、大都市でオフィスが多いと考えられる名古屋市や、沿岸・河口地域、幹線道路沿いの他、豊田市、緑で示した完成車・車体工場の周辺地域にも事業所が多い(図表2-7)。前章でもみたように、自動車産業は企業城下町型の集積がみられることが多いとされるが、正に、大企業の生産工場に部品等を供給するサプライヤーが工場周辺に立地しているという集積の様子がみられる。

3.群馬県の自動車及び自動車部品

続いて、自動車産業のシェア、伸びともに大きい地域のうち、愛知県とはやや異なる動きをみせており、また輸送用機械製造業の比較優位の観点でも上位の群馬県の自動車及び自動車部品の状況について確認する。

(群馬県は、1990年から2010年代半ばにかけて、完成車、自動車部品ともに伸び)

前項と同様に、群馬県の自動車関連の製造品出荷額について、長期でみてみると、1980年以降2010年代半ばに至るまで、長期的に出荷額を伸ばしている。2020年にコロナ禍の影響で大きく減少したこともあり、2022年はピーク時には及ばないものの、出荷額は増加している。細分類までみていくと、自動車部品は2000年前後の落ち込みを除いて、継続的に出荷額を伸ばしている中、完成車は1990年以降は微増となっており、特に2010年以降の伸びが大きい(図表2-8)。

前項同様に、群馬県に本工場を持つ大手自動車メーカーの公表資料より背景についてみていくと、遡れる2005年から2016年にかけて、海外生産台数とともに、国内生産台数を伸ばしている15。2010年代前半は、海外生産比率を一定割合に維持したまま、完成車と海外生産拠点用の自動車部品の双方の輸出を増やしていったと考えられる。

(群馬県の輸送用機械の就業者数は長期的に横ばい、給与は2010年代以降増加)

群馬県の輸送用機械製造業の就業者数推移をみると、2000年から2005年に大きく減少したものの、それ以外の年では上昇傾向にあり、2005年の減少16をならすと、長期的には横ばい圏内の動きとなっている(図表2-9)。

また、所定内給与についてもみると、1990年代半ばから2000年代にかけて、横ばい圏内で推移していたが、2020年以降、増加傾向がみられる(図表2-10)。愛知県とは異なり、同時期は自動車部品とともに完成車の出荷額を伸ばしていることが背景として考えられる。なお、2024年に上昇傾向を示している点は愛知県と同様だが、愛知よりもその傾向ははっきりとうかがえる。

(太田市、伊勢崎市を中心に輸送用機械製造業の事業所が集積)

群馬県の輸送用機械製造業の事業所のメッシュ地図を確認すると、大手自動車メーカーの本工場のある太田市や、伊勢崎市を中心として、事業所が多くみられる(図表2-11)。群馬県においても、愛知県と同様、大企業の自動車生産工場に部品等を供給するサプライヤーが工場周辺に立地している企業城下町型の集積の様子がみられる。


11 本稿では、RIETIのR-JIP2021で公表されている都道府県別・産業別の付加価値や労働投入等を用いて労働生産性を計算し、公表されているTFPも含め、比較優位をより適切に表すため、当該産業の生産性と、当該産業を除いた全産業の生産性を比較している。計算方法の詳細は付注を参照。
12 詳細は徳井(2018)または徳井・牧野(2022)を参照。
13 2020年10月1日時点。コロナ禍の期間ではあるものの、2015年と比較して大きく差異が出ている状況ではなかった。
14 トヨタ自動車75年 https://www.toyota.co.jp/jpn/company/history/75years/data/automotive_business/production/production/overview/index.html より(2025年7月22日確認)。
15 株式会社SUBARU公表資料より(2025年7月22日確認)。
16 2005年の減少は、2002年に大手トラックメーカーの群馬工場が閉鎖された影響があると考えられる。
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