第2章 (3)公的部門の賃金

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これまで民間事業所における雇用と賃上げの状況をみてきたが、地域経済をみる場合、公的分野のウェイトが高いことから、こうした部門の賃金改定についても整理していきたい。

1.公的部門の規模

本項では、まず基本的な事項として公的部門の経済活動の規模について確認する。

(公務、医療・福祉等の就業者は全国で3割であり、県により4割弱を占める)

地域の就業構造においては、公的部門は一定の割合を占める。実際に、公務、教育・学習支援業、医療・福祉、あるいは建設業など、公的部門やそれに近い産業に従事する就業者比率は、全国的には3割弱、うち医療・福祉が最も多く、13%程度となっている。都道府県別では、一番高い沖縄では4割近く(うち医療・福祉は約17%)となるなど、地方圏、特に、北海道・東北・中国・四国・九州・沖縄で相対的に高い(図表2-17)。

また、各都道府県の雇用者報酬のうち、これらの産業が占めるシェアを確認すると、全国平均で約33%、最も多い沖縄県で約52%、最も少ない東京都で約25%となっている(図表2-18)。前掲図の就業者比率では、それぞれ約39%、約24%となっており、特に地方部において、就業者比率以上に雇用者報酬に占める公的部門の割合は高い。

コラム3:過去25年の公的部門の就業者割合

前項では2022年の公的部門の就業者割合をみたが、ここではその変遷を長期的に確認したい。

まず、現在と同じ分類で確認できる最も古い1997年の就業構造をみると、公的部門の割合が高い都道府県の順位は2022年と大きく変わらないが、その水準は大きく異なっている。全国平均でも2割程度で、特に建設業従事者がほぼ1割であったのに対し、医療福祉はわずかに4%程度、都道府県別にみても、3~7%程度であった(コラム3図表1(1))。その後、2002年になると、医療福祉の割合は全国平均で約7.5%、最大の県で11%程度にまで増加、その後も割合が増加し続け、それが公的部門従事者のシェア拡大の主因となっている(コラム3図表1(1)~(5))。

一方で割合を減らしているのが建設業で、1997年から2007年にかけて、5年で約1%ポイントずつ減少している。特に地方部では、1997年にはシェアが10%超の都道府県は32を数えていたが、10年後の2007年には7県となっており、2022年においては福井県のみである。

この25年間、公共事業の削減に伴い、建設業従事者の割合が減少していった一方で、高齢化に伴い医療・福祉に従事する者が大きく増えていったことが分かる。

2.公務部門の賃金改定

本項では、具体的に、行政に携わる公務員の賃金について確認していく。

(地方公務員の給与改定率は、過去2年と比較して大きく上昇も、民間のベアには及ばず)

まず、公務員の賃金改定は、法令等に基づき決定される。例えば、国家公務員については、労働基本権が制約されているため、代償措置としての人事院勧告(給与勧告)に基づき、一般職の職員の給与に関する法律(昭和25年法律第95号)等の改正をもって行われる。同様に、地方公務員についても、各都道府県の人事委員会勧告に基づき、給与改定方針が決定され、条例等の改正をもって決定される。その際、それらの水準については、民間給与との均衡を図ることとされている。

そこで、地方公務員の給与改定率の推移をみると、2024年度は、過去2年と比較して、月次給与、ボーナスともに、全都道府県で上昇している(図表2-19)。しかし、全国で民間企業のベア及び一時金と比較すると、その伸びは下回っている。民間企業の春季労使交渉は、いわゆる労働組合を持つ企業に限られ、また都道府県によってもその結果が異なるために単純比較はできないが、公務部門においては、民間企業ほどの強さはない可能性が示唆される。

(会計年度任用職員の賃金は上昇しているが、最低賃金とかなり近い層も)

公務部門の従事者には、一般職の職員とは別に、各地方自治体で採用している臨時・非常勤職員である会計年度任用職員もいる。会計年度任用職員の賃金は、最低賃金が前回調査から約11%上昇する中、各職種で7~13%ほど上昇しているものの、職種による水準差がある。例えば、事務補助職員は最低賃金にかなり近い水準となっている(図表2-20)。

そこで、事務補助職員の賃金と最低賃金の関係をみていきたい。最低賃金法(昭和34年法律第137号)は、国家公務員法附則第6条及び地方公務員法(昭和25年法律第261号)第58条において適用除外とされている。実際、2022年の最低賃金引上げ後は、複数の自治体で時給が改定後の最低賃金を下回る状況となった。しかし、最低賃金は「賃金の最低額を保障することにより、労働条件の改善を図る」ことで、「労働者の生活の安定、労働力の質的向上」に資することを目的の一つとしている。これを踏まえ、総務省は、最低賃金も踏まえて会計年度任用職員の給与を適切に決定するよう通知13を発出した。

こうした経緯もあり、2024年4月時点では、各自治体等で採用する事務補助職員の平均賃金と、その都道府県における最低賃金をプロットした図をみると、ほぼ全自治体14で最低賃金以上の賃金となり、おおむねどの自治体も、最低賃金から1.5倍の範囲に収まっている(図表2-21)。

3.医療・介護、保育分野

最後に、医療・介護、保育分野の賃金についても、確認していく。

(医療・介護、保育分野は報酬等の改定の影響もあり、一定程度賃金は上昇)

医療・介護、保育分野では、公的制度によってサービス受益者の支払う金額がある程度決まっている。例えば医療分野においては、公的医療保険制度を利用して医療機関を受診した場合の医療費を診療報酬といい、患者が3割の一部負担金を医療機関の窓口で支払い、残りは医療機関が審査支払機関を通じて保険者に請求して受け取る仕組みとなっている。診療報酬は、個々の技術・サービスごとに点数が決められており、医療機関は提供した技術・サービスに基づき対価を得る。この診療報酬は医療の進歩や社会情勢、日本の経済状況などを踏まえ、2年に一度見直される(診療報酬改定)。介護についても同様で、介護サービスに対する点数が定められており、3年ごとに見直しが行われる。

こうした医療・介護分野においては、報酬価格への上乗せ分の活用などを通じ、賃上げ対応を行ってきている。特に診療報酬改定時に、処遇改善、賃上げに関する加算措置が行われた年は、医療・介護分野の給与も、2020年は約2.0%、22年は約1.7%、24年は約2.8%となっている(図表2-22)。

また、保育分野についても、保育士や幼稚園教諭、認定こども園等の職員の給与のベースとなる公定価格(保育運営に必要な費用として国が定める基準)を改定することにより、人件費として、その上乗せ分の一部が保育士の待遇改善に充てられている。

(診療報酬・介護報酬は上方改定、保育士等に適用される公定価格の人件費改定も1割超)

診療報酬と介護報酬は、2024年度も上方改定されている。医療分野を例にとると、賃上げによって加算される報酬改定、賃上げ促進税制等も通じて、2024年度、2025年度と2%以上の医療分野の賃上げを目指すこととしている(図表2-23)。実際に2024年の医療福祉分野の賃金上昇率は2.8%となっている(前掲図表2-22)。

もっとも、これは物価上昇率や前項でみた民間企業のベースアップに比べると高くなく、まずは加算措置を活用し、物価上昇に負けないよう賃金を引き上げていくことが求められている。さらに人手不足に対応するためには、更なる賃金上昇が必要となるが、そのためには、報酬改定を引き上げるだけでなく、省力化投資の促進等も求められよう。

保育士の賃上げについては、公定価格の引上げどおりに賃金が上昇していくことが重要であり、その上でデジタル化による事務負担の軽減等を通じた効率化も重要である。2024年度についてみると、まずは公定価格を10.7%引き上げることによって処遇改善につなげることとしている。これは前年度の引き上げ率(5.2%)のおよそ2倍で、2017年度以降で最大の引き上げ率となっている(前掲図表2-22図表2-24)。公定価格改定は、同年8月に行われることの多い人事院勧告を踏まえて決定されるので、統計に表れるのか翌年度からであり、今回の大幅引上げがどの程度来年の賃金統計に反映されることになるのか注目される。


脚注13  総務省自治行政局公務員部長「会計年度任用職員制度の適正な運用等について(通知)」(2022年12月23日)。
脚注14  全国で唯一、地方公共団体財政健全化法(平成19年法律第94号)に基づく財政再生団体である夕張市のみ、平均賃金が北海道の最低賃金である960円を下回っている(946円)。
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