第2章 (2)進学のための地域選択

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前節では、アンケート調査から、進学や就職時に地元から離れる理由について考察した。本節では、高校卒業後の進学割合の大きい大学と専門学校について分析していく。

1.大学進学時の移動の傾向

(大学進学時における東京集中はコロナ禍後も続く)

各都道府県の所在大学の入学者数から当該都道府県内の高校生の大学進学者数を除いた、大学進学時における都道府県別の流出入者数12をみると、東京都が突出して流入が多く、2024年では約7.8万人の純流入と、コロナ禍前の2019年より流入者数が増えている。その他の道府県で純流入となっているのは、三大都市圏及び各地域の中心都市を含む府県とおおむね一致しており、大学進学時に、東京圏を中心とする都市圏に人口が集中していることが分かる(図表2-5)。

(三大都市圏への進学者割合には、中心地からの距離・交通アクセス等による影響がみられる)

続いて、各都道府県における大学進学者のうち、三大都市圏に進学した者の割合をそれぞれの都市圏で確認する(図表2-6)。

まず、北海道・東北の高校生は、相対的に東京圏への進学割合が高い。北海道や青森県では2割程度となっているが、福島県では4割程度と、距離が近くなるにつれてその割合は上昇する傾向にあり、北関東では5~6割程度が東京圏の大学に進学している。なお、東京圏の高校生は大半が同圏内の大学へ進学している。甲信越及び静岡県も同様に東京圏への進学割合が最も高い。これらのうち、静岡県や長野県については、距離的には名古屋圏も近いが、東京圏へのアクセス、情報文化や経済取引等の商流量の多寡13が影響していると考えられる。

岐阜県、愛知県、三重県の東海3県については、名古屋圏(愛知県)の大学への進学割合が最も多い。岐阜県、三重県は地理的に愛知県に隣接しているのみならず、交通アクセス上も名古屋への交通網が発達していることが影響しているとみられる。

北陸3県については、福井県は大阪圏への進学割合が最も多く、富山県については東京圏への進学割合の方が多い。石川県は大阪圏への進学割合が多いが、東京圏も拮抗している。これらの違いには、文化的な関係の強さや交通アクセスが影響していると考えられ、2024年3月に北陸新幹線が敦賀まで延伸していることから、その影響についても、今後注視したい。

近畿、中国、四国の各府県については、大阪への距離に応じた高低はあるものの、大阪圏への進学割合が最も多い。九州では、拮抗している県もあるものの、どの県も大阪圏より東京圏への進学割合の方が多くなっており、距離の関係性は薄れる。これは、一定以上距離が離れると、社会文化的な近隣性が薄れていくことに加え、空路が使われることが多くなることから、道路や鉄路といった交通アクセスの影響が相対的に弱くなるためと考えられる。

総じて、各都道府県から三大都市圏への進学者割合は、おおむねその中心都市への距離に応じた多寡がありつつ、地域によっては交通アクセスの優劣による影響もみられる。

2.大学進学で大都市圏に集まる要因

前節では、大学進学時に大都市圏に集まる要因として、「(大都市圏に)行きたい進学先がある」「地元に学びたい分野の大学がない」といった理由が一定の割合を占めていることが示された。そのため、本項では高校生にとっての各大学の知名度と、実際に各地域で学べる学問分野としての選択肢の偏りを確認したい。

(各地域での高校生の知名度上位20大学は地元と東京圏(関東・甲信越)が中心)

2024年4月現在、地域ごとの大学設置数は、北海道が38校、東北が54校、関東・甲信越が307校、東海・北陸が112校、関西が151校、中国・四国が72校、九州・沖縄が79校となっている。

これらの大学について、2025年春に高校を卒業予定かつ大学への進学を希望している高校3年生はどの程度の認知をしているのだろうか。彼らに対して大学名などを知っているかどうかという各大学の知名度を調査したランキングによると、北海道と関西を除く地域では、知名度トップ20大学のうち関東・甲信越の大学が占める割合が最も高かった(図表2-7)。

調査段階で選択肢が地域によって偏りがある点には留意が必要ではあるが、前項で紹介した都道府県別の三大都市圏進学割合と似た傾向を示しており、北海道や東北では自地域か関東・甲信越の大学、東海・北陸以西の地域では自地域か関東・甲信越、関西の大学が大半を占めている。特に、中国・四国においては、知名度トップ20大学の中で、自地域の大学が関東・甲信越だけでなく関西の大学より少ない結果となっており、北海道、東北地方では自地域の大学が知名度上位になっている点と異なっている。

自らの大学進学を前にして、最も大学に関心があると考えられる年齢層で、大学の知名度に偏りがみられ、こうした知名度の差が少なからず進学先の選択に影響している可能性がある。

(学科の地域割合をみると、芸術系や国際・語学系は学科数の7割以上が三大都市圏に集中)

全国にある大学の学科数について、学問分野ごとにその地域シェアをみていくと、芸術・文学・表現分野、国際・語学分野では、三大都市圏の大学が全体の7割以上を占めている。特に、芸術・文学・表現分野では、東京圏が4割以上を占めており、これらの分野に関心の強い学生は、東京圏を中心とする三大都市圏以外の選択肢が限られてくると考えられる(図表2-8)。

一方で、法律・経済や理学系(数学・物理・化学)、教育・福祉系、工学系については、三大都市圏が学科数の過半を占めるものの、大学の立地比率(2023年現在、三大都市圏合計で約51%)と比べて、必ずしも偏っているわけではない。さらに、スポーツ・健康・医療の他、地球・環境・エネルギー、生物分野では、三大都市圏の学科数シェアは半数を下回っており、むしろ三大都市圏以外の方が充実している。

これらの中で、更に学科をみていくと、スポーツ・健康・医療では、歯学(三大都市圏以外60%)、保健衛生学(同58%)、医学(同56%)、看護学(同54%)、生物では、獣医・畜産学(同68%)、森林科学・水産学(同66%)、農学(同60%)が特に三大都市圏以外で高い14。これらの背景には様々な面があると考えられるが、政策による影響15、農業・水産・畜産など地元産業との関連の深い学問分野に特化していることなど、社会・地元からのニーズがあったことも考えられる。

3.専門学校生の移動状況

高校生の進路をみると、専門学校に進学する層も一定の割合があった。そこで、大学と同様に専門学校進学時の流出入の状況を確認したい。

(専門学校進学時の流入先は、東京都が圧倒的)

専門学校の場合、そのまま就職に直結するコースが多いという特性上、既卒の入学者も一定程度いる16ため、その影響を補正して流出入者数を確認すると、大学と同様、東京都への流入者数が圧倒的に多くなっている。他に純流入となっているのは、宮城県、愛知県、京都府、大阪府、広島県、福岡県と、おおむね各地域の中心的な都市がある府県となっている(図表2-9)。

(都内の専門学校は入学者の2割強が東京圏以外出身だが卒業生の1割弱が東京圏以外に就職)

都内の専門学校について、生徒の出身高校の所在地を確認すると、都内の高校出身者が3分の1強になっている。東京圏の各県から進学している者も多く、東京圏以外の高校出身者で都内の専門学校に進学した者は全体の2割強しかいない(図表2-10)。本調査は現役で進学した者のデータである点に留意が必要だが、専門学校の進学においては、大学ほど東京圏への集中が進んでいるわけではないといえる。

また、専門学校は、一般に職業との結びつきが強いという特性上、地域性が強い面がある。実際に、都内の専門学校の卒業生で就職した者のうち、7割以上は都内で就職しており、東京圏以外に就職する者は1割に満たない17図表2-10)。出身データのない既卒の入学者も多い点や、卒業後に就職でなく大学等へ進学する層も一定数いる点には留意が必要だが、専門学校進学時に東京圏への人口集中はそこまで強くないものの、一度非東京圏から東京圏に進学すると、なかなか地元にUターンしない可能性が示唆される。

(東京の専門学校が比較優位を持つ文化・教養分野では就職率は低いが都内就職が多い)

さらに、都内の専門学校の分野別の傾向も確認する。

東京都の専門学校の分野別割合を全国と比較すると、農業関係が少ない一方で、衛生関係、文化・教養の割合が相対的に高い(図表2-11)。特に文化・教養関係の分野別割合は、全国では18%だが、東京都では29%と高い。文化・教養関係の学科の中には、語学、デザイン、音楽、法律行政、スポーツ、アニメ・声優などが含まれており、こうした分野に進みたい生徒にとって、東京都の専門学校は選択肢が多くなっている。

卒業後の進路をみると、農業関係、医療関係、衛生関係、教育・社会福祉関係は卒業生の約9割が就職しており、工業関係、商業実務関係はおよそ75%が就職している(図表2-12)。文化・教養関係の就職割合は60%しかないものの、その就業地をみると、東京都が77%、東京圏全体で95%以上を占めている(図表2-13)。東京都が比較優位を持つ文化・教養分野は、他分野より就職との結びつきは弱いものの、就職する場合は都内が多い。


脚注12 県外からの大学進学者数と県内高校から県外大学への大学進学者数の差と一致する。
脚注13 例えば、2022年度、静岡県・長野県から愛知県への旅客輸送量(鉄道・海運・自動車計)はそれぞれ、55.0万人、485.4万人なのに対し、東京都への旅客輸送量(同)はそれぞれ、437.6万人、769.7万人、東京圏に広げるとそれぞれ593.3万人、1487.4万人と、東京圏への旅客移動の方が多い。
脚注14 その他の学科系統は、スポーツ・健康・医療分野で、薬学(三大都市圏以外53%)、医療技術学(同53%)、リハビリテーション学(同50%)、健康科学(同47%)、スポーツ学(同42%)。生物分野で、生物学(同59%)、生命科学(同50%)となっている。なお、地球・環境・エネルギー分野は、原子力工学(同75%=3/4学科)、エネルギー・資源工学(同56%)、地球・宇宙学(同55%)、環境科学(同51%)となっている。
脚注15 例えば、文部省(1992)によれば、1973年に閣議決定した「経済社会基本計画」により、「無医大県の解消」が盛り込まれ、医科大学(医学部)の存在しない地域への国立医科大学が設置された。また、歯学部も人口10万人当たり50人程度の歯科医師を確保することが提唱されたことから、設置が進んだ。中田(2021)によれば、看護婦等の人材確保の促進に関する法律(平成4年法律第86号)により、看護人材の養成が地方公共団体の責務とされ、看護系の公立大学の新増設を支援したとされる。
脚注16 2023年3月に高校を卒業した者のうち専門学校に進学した者の数は、同年4月の専門学校入学者の約64.8%となっており、約3分の1は既卒生となっている。
脚注17 厳密に両者の関係をみるには、入学した生徒が卒業する年次の卒業生の就業地を確認する必要があるが、専門学校は課程・コースによって修業年限が1~4年と幅が広く、実際に文部科学省「学校基本調査」で2023年度現在の修業年限別の在籍生徒数をみると、2年以上3年未満が49.5%と全体の約半分を占めるものの、3年以上4年未満が36.3%、4年以上も10.3%を占めており、特定が難しい。また、ここ数年で入学者の出身高校所在地、卒業生の就業地の分布が大きく変わりがないため、直近年度の数値どうしで比較した。
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