第2章 (1)若者が都市に集まる理由

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本節では、各種のアンケート調査等により、若者が東京圏を中心とした都市に集まる理由について示したい。

1.高校卒業後の進路

(過去30年で、高校卒業後の就職率は半減し、大学の現役進学率は3倍弱に上昇)

まず、高校卒業後の進路について、長期的な傾向を確認したい。

約30年前の1994年3月に高校等を卒業した者が、同年4月に選んだ進路を調査した結果をみると、就職した者の割合は約3割であった。それに対して、約2割が現役で大学へ進学しており、短期大学等、専修学校(専門課程。以下「専門学校」という。)や大学受験予備校を含むその他学校等8も合わせると、進学・入学した者が3分の2程度となっていた。

その後、2024年の同調査においては、高校卒業直後に就職する者の割合は15%を下回り、30年前の半分程度となった。一方で、全体の半数以上が現役で大学に進学し、30年前の3倍弱となっている(図表2-1)。専門学校への進学割合は、この30年間で大きく変わらないものの、短期大学・その他学校等への進学・入学割合も減少しており、多くは大学に進学している9

なお、この間に少子化が進んでおり、1994年と2024年では高校等の卒業生数に2倍近い差がある。このため、就職者数はおよそ4分の1にまで減少している一方、浪人生も加味すると大学への進学者数は60万人程度10と大きく変動しているわけではない。

2.若者が地元以外を選ぶ理由

続いて、各種のアンケート調査により、若者が進学・就職等を機に地元から都市へ転出する理由について確認していく。

(地元からの転出理由で多いのは、進学・就業環境、都会への憧れ・利便性、地元への不満)

若年層を対象とした地元(出身高校の所在都道府県)からの転出理由を問うアンケート調査は、全国や各地域など、様々な範囲で行われたものが存在する。アンケートの趣旨によって調査方法や質問内容が異なっているため、似た項目でも統計値の水準感にはかなりのばらつきはあるものの、それらの中で共通する項目に着目して分類すると、一定の要因がみえてくる(図表2-2)。

まず、進学時については、進学環境要因と生活要因が挙げられる。全体として、就職時と比べて対象アンケートは少ないものの、進学環境としては、希望の進学先が都市部にある、学びたい内容を学べる大学、あるいは学力に見合った大学が地元にないという理由が挙げられている。生活環境に目を転じると、都会への憧れ、あるいは親元を離れたいなどが挙げられている。

就職時では、まずは就業環境として、希望の就職先が都市部にあるという理由のほか、志望業種や業務内容の面、あるいは賃金・待遇の面で、都会の方がよかった、あるいは地元で希望するものがなかったという理由が多い。生活要因では、就職環境要因より多様な理由が挙げられており、都会での生活や趣味・娯楽面での利便性など、大都市の優位性のほか、1人暮らしへの欲求、地元への不満などで、地元から出たいという理由も一定程度ある。

総じて、進学・就業環境要因に関する理由が多いものの、都会への憧れや利便性、あるいは地元への不満といった理由もみられ、若年層が地元から転出する要因は、複合的に絡み合っていると考えられる。

(大卒・院卒の就職時に地元就職を希望しない理由は、就業環境理由と生活環境理由が拮抗)

現在では大学に進学する者が半数以上となっているところ、その層の就職時における地域選択の理由をより子細に確認したい。

2025年に大学・大学院(修士課程)を卒業・修了見込みである就活生を対象に実施された民間調査において、地元(自らの出身地と思う都道府県)での就職を希望しないと回答した者(919名)の理由をみると、「志望する企業が地元にないから」「給料が安そうだから」「希望するキャリア/スキルを身に着けられないから」といったキャリア・就業環境に関する理由と、「都会の方が生活/遊びや趣味活動の上で便利だから」「実家に住みたくない/離れたいから」といった、生活環境を理由として挙げる声が双方あり、割合としても拮抗している11図表2-3)。

(女性は地元から離れたいという声が男性より強く、地元外進学者は就業環境と利便性が拮抗)

続いて、同調査の回答について、属性別の回答率の差から特徴を確認したい。

男女別に分けると、地元就職を希望しない理由で男女差の大きい項目は、「実家に住みたくない/離れたいから」「地元の風土が好きではないから」といった生活環境理由、特に地元から離れたいという内容の項目が多くなっている。いずれも、5%の有意水準で、女性側の選択率が高くなっている(図表2-4(1))。一方で、就業環境を理由として挙げた割合は男女で余り大きな差はない。本調査からは、女性の三大都市圏への純流入が大きい背景には、生活環境があると示唆される。

続いて、進学先が地元以外の者と、地元内の者の間で、地元就職を希望しない理由を比較すると、「都会の方が生活/遊びや趣味活動の上で便利だから」という都会の利便性と、「給料が安そうだから」「大手企業がないから」といった就業環境の項目において、5%の有意水準で、地元外進学者の割合が高い(図表2-4(2))。実際に地元外での学生生活を送る中で、大学が所在する都市の生活環境・就業環境の良さを感じているのかもしれない。

なお、地元内進学した者が地元外進学者より5%の有意水準で高い割合を示した理由としては、「地域にとらわれず働きたいから」という理由が挙げられている。


脚注8 大学受験予備校は、その他学校等に含まれる専修学校(一般課程)又は各種学校等に含まれている。
脚注9 なお、2004年は「その他」が他と比べて多いが、1990年代後半~2000年代前半にかけて「その他」に含まれる無業者の数が多い。いわゆる就職氷河期世代(おおむね1993~2004年学校卒業期を迎えた者と定義される。)にあたることから、景気の影響が大きいと考えられる。
脚注10 仮にその他学校等進学者がすべて大学進学を目指して浪人した者と仮定すると、1994年3月卒業生は59.4万人、2024年3月卒業生は56.6万人が大学に進学することとなる。なお、大学側から見た場合、日本の高等学校を卒業した者(1年以上前に卒業した者を含む。外国の学校卒業生、旧大学入学資格検定合格者等を除く。)の入学者数は1994年度で55.2万人、2024年度で59.0万人となっている。
脚注11 グラフの赤線(就業環境理由)に囲まれた項目の選択割合を足し上げると135.2%ポイント、青線(生活環境理由)に囲まれた項目の選択割合を足し上げると126.2%ポイントとなる。
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