第2章 (3)仕事のための地域選択

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続いて本節では、就業時の地域選択要因の背景について、より詳細に各種のデータを確認して分析していきたい。

1.大学卒業後の就職時の移動状況

(東京圏の大学では、地域外出身者による域内就職が多い)

就職の決まった大学生の就業先地域について、大学の所在地別にみると、東京圏(首都圏)の大学を卒業する者が同じ東京圏を就業地とする域内就職割合は9割近くと高くなっている。一方で、北関東、大阪圏(京阪神)を除く近畿、四国については、大学所在地域内に就業する学生の割合が全国平均に比べて低い(図表2-14)。

さらに、出身地(出身高校の都道府県が含まれる地域)も加味して、域内就職・域外就職について時系列でみると、近年は、域内進学(高校所在地と大学所在地が同一地域内の進学)・域内就職の者の割合が上昇している地域が多い。一方で、域外進学・域内就職の割合をみると、東京圏(首都圏)の大学が他地域と比べて高く、次いで大阪圏(京阪神)の大学が高くなっている(図表2-15)。東京圏を中心とした都市圏の大学に進学した学生は、そのまま同じ地域内にとどまることが多いことが分かる18

(就活中の大学生のUターン希望割合は、全地域でコロナ禍後の2025年卒見込みで増加傾向)

2024年に就活中の大学生・大学院生による就職先地域の意向についても確認したい。

進学により、自らの出身高校の都道府県を含む地域から他地域に転出した者に対し、就職で再び出身地域に戻ること(Uターン)を希望しているかを確認したところ、2025年卒では、関東が突出して高く、次いで関西、東海、九州と続く(図表2-16)。東京圏以外の生徒は、東京圏に進学するとそのまま東京圏で就職する割合が高いが、東京圏を含む関東の生徒は、他の地域に進学しても、就職でまた関東に戻ってくる場合が多いことが分かる。

一方で、コロナ禍前の2019年に調査が行われた2020年卒への意向調査と比較すると、全地域でUターン希望の割合が上昇している。特に、東海、九州出身者では、2025年卒見込みのうち、50%超、東北、北陸出身者も50%近くがUターンを希望しており、コロナ禍を経て大学生の動向にも変化が生じている可能性がある。

この傾向が今後も続くかは注視が必要であるが、重要なのは、希望にかなう就職先の有無である。実際に、中国地域出身者で地元外に転出した者に対し、「希望する仕事、やりがいのある仕事があれば地元に残りたかったか」を調査した結果によれば、約3分の2が地元に残りたかったと回答した(図表2-17)。地域において、大学生や大学院生にとって魅力ある雇用を創出することが重要といえる。

2.地域の産業構造との関係

本項では、若年者の就業希望の背景の一つとして、地域の産業構造についても確認したい。

(南関東では、若年雇用比率の高い情報通信産業、金融業、不動産業のシェアが高い)

産業別に、全国の正規雇用に占める若年者(15~34歳)の割合(若年雇用者比率)をみると、最も高いのは情報通信業となっている。次いで、金融・保険業、電気・ガス、不動産業が続く1920図表2-18)。

それに対して、県民経済計算をもとに、各地域の生産額ベースの産業シェアをみていくと、全国的には、約7割を第3次産業が占めているが、大分類ベースでは、製造業、卸売・小売がシェアの上位を占めている。一方で、若年雇用比率の高い情報通信業、金融・保険業、不動産業については、いずれも東京圏(南関東)の域内シェアが最も高い(図表2-19)。

すべての若者が希望の業種で働いているとは限らないものの、結果から希望を推論(顕示選好)すると、若年層雇用比率の高い業種は若年層の希望業種と一定程度連動していると考えられ、若年層に好まれる産業比率の高い東京圏に若年層の流入が進みやすくなっていることが考えられる。

3.地域の雇用・職場環境との関係

前項では、若年者の希望する雇用がどこにあるかという問題意識から、若年雇用比率の高低と産業の関係を確認した。本項では、実際の雇用環境・職場環境と人口流出入の関係も確認したい。

(コロナ禍後、労働需給と人口移動の相関が高まっている)

労働需給と人口の流出入の関係を考えると、人手が足りない地域(労働需要が旺盛な地域)には人口が流入(転入超過率)すると想定される21。しかし、有効求人倍率と人口流出入率の関係は必ずしも明確ではなく、相関をみると、10年前はほぼ無関係であった。さらに、コロナ禍後の2022~23年をみると、人手が足りない地域に流入するというよりも、人手不足と人口流出が同時に生じていることが示唆される(図表2-20)。

前章でみたとおり、生産年齢(15~64歳)人口は年々東京圏に集中しているが、65歳以上を含めた労働力人口でみても、東京圏が大きく増加している一方、三大都市圏以外の地域では減少傾向にある(図表2-21)。人手不足と人口流出が同時に起きている地域が増えていることが推察される。

(新卒者を中心とした20代前半では、相対賃金の高い地域ほど転入超過率が高い傾向)

続いて、若年層に絞り、賃金と人口の流出入の関係も確認したい。

20代前半の相対賃金(各都道府県と全国平均の賃金比率)と、同じく20代前半の都道府県別の転入超過率で散布図を描くと、正の相関が確認でき、大学新卒を中心とした20代前半では、相対賃金が高い地域ほど転入超過率が高い(図表2-22(1))。これは、就職に賃金動機が垣間見られた第1節のアンケート結果とも整合的である。

一方で、20代後半になると、回帰直線の係数も統計的には有意であるものの、両者の相関は弱くなっている(図表2-22(2))。この情報のみで背景を特定することはできないが、転出入には、所得向上を目指す転職等による移動以外に、社内転勤も多く含まれているため、相関が弱くなっている可能性がある。

(若年層ほどテレワークを好む一方、テレワーク等導入企業割合は南関東、近畿で高め)

これまで賃金との関連をみてきたが、アンケート調査における待遇面の理由には、その他の福利厚生や職場環境も含まれる。そこで、働きやすい職場環境の指標の一つとして、テレワークについてみていきたい。

テレワークへの各年代の選好についてみるため、「勤務先がテレワークをやめて出勤を指示・推奨した場合の対応」についてアンケートを行った結果を見ると、おおむね若年層になるほど勤務先の方針に従う割合が低くなる傾向となっており、勤務先と交渉、あるいは転職・独立起業を検討するとしている割合が増加している(図表2-23)。このように、若年層ほどテレワークに対する選好は強いと考えられる。

他方、実際の企業のテレワーク・在宅勤務状況についても確認すると、全地域でコロナ禍による大きな影響を受けた2020年を境に導入率が上昇している。水準としては、南関東が他地域と比較しても高く、次いで近畿の順となっている(図表2-24(1)(2))。こうしたテレワーク・在宅勤務の導入状況の差異も、若年層がこれらの地域に流入する要因の一つと考えられる2223

コラム2:テレワーク実施率と産業構造、通勤時間との関係

本節第3項では、テレワークの実施状況の地域差が若年層の地域選択に影響を与えている可能性を指摘した。一方で、内閣府政策統括官(2021)が指摘するとおり、テレワークは業務によってなじみやすさが異なる。また、通勤時間の長さも雇用者のテレワーク需要に影響している可能性があり、これらによって東京圏等のテレワークの実施率が高くなっている可能性がある。

そこで、実際に直近の産業別テレワーク実施率を確認すると、「情報通信業」が最も高く93%、次いで「金融・保険業」、「不動産業」と、本節第2項で確認した東京圏でシェアが相対的に高い業種とおおむね一致する(コラム2図表1)。また、通勤時間をみると、東京圏、次いで大阪圏の各都府県が長くなっている(コラム2図表2)。森川(2018)によれば、労働時間の増加より通勤時間の増加への忌避感の方が高く、こうした点も踏まえれば、テレワーク実施率の地域差には地域の産業構造や通勤時間の影響も大きいと考えられる。

4.男女別にみた地域選択

第1章では、女性の三大都市圏、特に東京圏への純流入が男性と比べて多いことを確認した。そこで本章でも男女別にみた地域選択動機に焦点を当てることとしたい。

(20代前半の男女を比べると、女性は相対賃金が転入超過率に与える影響が大きい)

前項で確認した賃金と転出入率の関係について男女別にみると、20代前半では、男女ともに正の相関がみられるが、賃金差に対する転入超過率の変化は女性の方がより大きく、相関も高いことがわかる。少なくともこの年代において、相対賃金が転入超過率に与える影響は、女性の方が強い(図表2-25(1)(2))。例えば、賃金差を0.1ポイント縮小(全国平均の賃金換算で10%分上昇)すれば、当該地域からの女性の転入超過率は3.5%ポイント増加(流出の減少)と、男性の場合に比べて約1.4倍の動きを示すと推測される。


脚注18 本統計は、2024年1月時点での調査のため、配属・就業地が同年4月の入社後に決まる場合は含まれていない点に留意が必要である。
脚注19 正規雇用に限らない場合は、宿泊・飲食の若年雇用者比率が最も高くなるが、これは学生のアルバイトが影響していると考えられる。
脚注20 図の面積が雇用の吸収力、すなわち実際に若年者の雇用者数が多い産業を表しており、最も面積が広いのは製造業、次いで医療・福祉、卸売・小売となっている。情報通信業は、若年雇用者数の順位でみると、5位となる。
脚注21 例えば内閣府政策統括官(2021)では、1990年~2019年の東京圏を除く各道府県のデータを用いて、東京都との相対的な有効求人倍率が高いほど転入超過率が高い関係を示している。もっとも、両者の時系列データをみると、2010年代後半から、それまでと異なる動きがみられるようになっている。
脚注22 本調査は事業所調査ではなく企業調査のため、例えば東京に本社がある企業が東北地方の支社でテレワークを行っても、分子・分母ともに南関東に計上される点には留意が必要である。
脚注23 内閣府政策統括官(2021)では、産業によりテレワーク率に差があり、「情報通信業」「学術研究、専門・技術サービス業」等で高く、これらの産業が東京圏等の都市部に集中しているために地域毎の差が生まれてくるとされているが、前項の産業構成はこれと整合的である。また、東京圏、大阪圏は他の道県と比較して通勤時間も長く、雇用者のテレワーク需要が高い点も影響していると考えられる。
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