第2章 第4節 雇用への影響

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本節では2020年以降の各地域の雇用の動向についてみていく。感染症は、消費や生産だけではなく、各地域の雇用にも大きな影響を及ぼした。地域の雇用は、感染症の影響により弱い動きとなっている中で、求人数等の動きに底堅さもみられる。

(有効求人倍率は大きく低下したが9月以降は多くの地域で持ち直しの動き)

有効求人倍率は、感染が拡大する前(2020年1月)には1.51倍であったが、感染が拡大した2月以降は低下が続き、2020年9月及び10月には1.04倍となった(第2-4-1図52。有効求人倍率の低下幅をリーマンショック時と比較すると、リーマンショック時の求人倍率の低下幅は▲0.44であったが、今般の感染症による低下幅は▲0.47であり、低下幅は感染症時の方がやや大きい。ただし、有効求人倍率の水準に着目すれば、2008年のリーマンショック時には、ショックが発生する前より倍率は1.0を下回る水準にあり、2009年の8月に0.42まで低下した。一方、2020年の感染が拡大する前の求人倍率は1.5を上回る水準にあり、感染症下の2020年9月と10月に倍率は1.04まで低下したものの、依然として1.0倍を上回る水準を維持している。

続いて地域別の有効求人倍率の推移をみると(第2-4-2図)、各地域の倍率は感染症以前に比べて大きく低下したが、多くの地域では持ち直しの動きがみられる。まず2019年12月から2020年9月までの動きをみると、全ての地域で求人倍率は低下している。変化幅をみると南関東、東海、北陸、近畿、中国及び沖縄で特に低下幅が大きい。2020年9月以降の動きをみると、甲信越、東北、北陸など多くの地域で、持ち直しの動きがみられる。ただし北海道、南関東、近畿、沖縄といった大都市部や観光・宿泊業が基幹産業である地域では、戻りが弱い傾向もみられる。なお、有効求人倍率の水準に着目すると、2019年12月には、すべての地域で倍率は1.0倍を上回る(求人数が求職者数を上回る)状態であったが、2021年6月には、南関東と沖縄で倍率が1.0を下回る状態となっている。特に沖縄の有効求人倍率は0.88と他の地域より一段と低い水準にある。

上述のような各地域の有効求人倍率の変化が、求人数の変化と求職者数の変化のどちらの要因によって生じたかを確認するため、ここでは、2020年3月から2021年6月までの有効求人倍率の月次変化について寄与度の分解を行った(第2-4-3図(1)~(12))。

結果をみると、総じて有効求人倍率の変化要因の動きは多くの地域で共通しており、2020年の3~5月までの期間は、各地域で求人数が大きく減少したことが有効求人倍率低下の主要因となっていた。背景として特に4月以降の緊急事態宣言に伴う経済活動の抑制により、事業者等からの求人数が大きく減少したことがあったとみられる。また同時期には、複数の地域で求職者数が減少する傾向もみられていることから、感染症に対する懸念により求職者が求職活動を一時的に控える動きも出ていたものと推測される。続く2020年の6~9月頃までの有効求人倍率の変化の状況をみると、この時期には主に求職者数の増加が寄与する形で、各地域の有効求人倍率が低下した。同時期には段階的に経済活動が再開されたことで求人数の減少が緩やかになったものの、感染症の落ち着きをみて求職活動を再開した人々の動きが、求職者数の増加につながったものとみられる。2020年の10~12月には、求人数と求職者数に大きな変化はなく、有効求人倍率がほぼ横ばいで推移した地域が多かった。

2021年1月から6月にかけては、都市部を中心に緊急事態宣言が再び発出される中で、各地域の有効求人倍率は概ね上昇傾向となった。特に、東北、甲信越、北陸、九州といった地域では、2021年の3月から5月にかけて、求人数の増加が有効求人倍率の上昇に寄与している。一方、南関東や近畿のように求人数は増加しているものの求職者数も増加しているために、有効求人倍率があまり上昇していない地域もあり、求人倍率の変化の背景には地域差もみられる。

(都道府県別の有効求人倍率は地方圏で戻り幅が大きい傾向)

都道府県別の有効求人倍率について、全国値のボトムである2020年9月より2021年6月までの変化をみると(第2-4-4図)、地方圏の長野県(+0.39)、山梨県(+0.37)、熊本県(+0.34)などで戻り幅が大きい傾向がみられる。一方、都市部である東京都(▲0.02)は2020年9月の水準を下回っており、大阪府(+0.02)や千葉県(+0.02)なども戻り幅が小さい。こうした都道府県間の求人倍率の動きの違いには、背景として各都道府県の感染症の状況の違いが影響している可能性もある。そこで、都道府県別に2020年9月より2021年6月までの有効求人倍率と、2020年10月より2021年6月末までの新規感染者数の累計(人口10万人あたり)との相関をみると(第2-4-5図)、新規感染者数の累計が少ない地方圏の都道府県ほど、有効求人倍率の上昇幅が大きく、累計数が多い都市部の都道府県ほど上昇幅が小さい傾向がみられる。

(新規求人数は飲食・宿泊業などで減少)

ここでは、感染症が雇用に与えた影響について、産業別の観点からその特徴を確認するため、2007~2020年までの新規求人数の変化について業種による寄与度分解を行い、特にリーマンショック時と感染症時との状況を比較した(第2-4-6図)。

最初に2007年からの新規求人数の変化率の推移を確認すると(第2-4-6図(1))、新規求人数は2007年より減少傾向が続き、2009年第2四半期にはリーマンショックの影響により、対前年同期比で▲27.8%の減少となった。しかしその後、新規求人数の減少幅は次第に縮小していき、2010年第1四半期にプラスに転じると、それから2019年第1四半期までの間、新規求人数は前年を上回る傾向が続いた。2020年に入ると感染症の影響によって新規求人数の変化率は急速に低下し、2020年第2四半期にはリーマンショック時と同程度の変化率である▲27.5%となったが、続く2020年第3~第4四半期にかけての変化率は、少しずつ上昇している。

リーマンショック時の2009年第2四半期と感染症時の2020年第2四半期とを比較してみると(第2-4-6図(2))、上述のとおり両時点の変化率は概ね同じ大きさだが、産業別の寄与度には、異なる部分もあることがみて取れる。具体的には、感染症時の求人数の減少は、リーマンショック時に比べて、飲食・宿泊業と医療・福祉で寄与が大きい。一方、製造業や建設業の寄与は感染症時の方が小さくなっており、サービス業の寄与は両時点でほぼ変わらない。前節でみたように企業による生産は、感染症の影響下にあって一時的に大きく減少したものの、その後は持ち直していることから、製造業が雇用分野に与えた影響はマイナスではあるものの、リーマンショック時に比べれば、相対的に影響は小さいものになったと推察される。一方、第2節でみたとおり、飲食・宿泊業は、感染抑止のため人々が行動を変容した結果、景況感が特に大きく悪化した産業であるため、リーマンショック時以上に、雇用への影響が大きいものになったとみられる。

最後に、2020年第4四半期の新規求人者数の変化率について、地域間でどのような違いがあるかを確認した結果が、第2-4-6図(3)である。新規求人数は南関東(▲26.5%)、沖縄(▲26.5%)及び東海(▲24.5%)が他の地域に比べてマイナス幅が大きい。また、南関東と沖縄では飲食・宿泊業やサービス業のマイナス寄与が大きく、東海では製造業や卸売・小売業のマイナス寄与が、全国に比して大きくなっている。

(失業率はほぼすべての地域で上昇したが、リーマンショック時と比較して上昇幅が小さく、水準も低い)

はじめに2006年より長期的な失業率の推移を全国値で確認すると(第2-4-7図(1))、失業率はリーマンショック前(2008年4-6月期)には4.0%であったが、リーマンショックの影響により大きく上昇し、2009年の7-9月期には5.4%まで上昇した。その後、失業率は低下傾向が続き、感染症が拡大する前(2019年10-12月期)には2.3%まで低下していた。しかし2020年以降、感染症の影響により失業率は上昇し、2020年の7-9月期には3.0%となり、続く10-12月期にも同水準で推移したが、2021年1-3月期には2.8%へと低下した。感染症時の失業率の変化をリーマンショック時と比較すると、感染症時には失業率は0.7%ポイント上昇53したが、リーマンショック時には1.4%ポイント上昇54しており、失業率の上昇幅はリーマンショック時の方が感染症時に比べて2倍近い大きさとなっている。また失業率の水準も両時点で大きく異なっており、リーマンショック前の失業率は4.0%であったが、感染拡大前の失業率は2.3%であり、リーマンショック時の失業率は、感染症時に比べて上昇幅が大きく水準も高い55

続いて地域別の失業率の状況をみると(第2-4-7図(2))、まず、リーマンショック時の2008年4-6月期と2009年7-9月期を比較した場合、沖縄を除くすべての地域で失業率が上昇しており、特に製造業が地域の産業に占める割合の高い(第2-4-8図)東海で、失業率の上昇幅(+2.2%ポイント)が大きかったほか、東北や近畿といった地域でも失業率の上昇幅が大きくなっていた。一方、2009年7-9月期の失業率の水準をみると、リーマンショック前より7%を超える水準にあった沖縄の失業率が7.3%と最も高くなっており、続いて東北(6.4%)、近畿(6.3%)といった地域の失業率が6%以上の水準であった。

次に、感染症の拡大前の2019年10-12月期を起点として、各地域の失業率の推移をみると、すべての地域で失業率は感染症前よりも上昇した。しかし、2019年10-12月期と2021年1-3月期の失業率を比較すると、上昇幅が最も大きい沖縄では1.3%ポイント上昇しているが、その他の地域は0.8%ポイント以下の上昇幅であり、各地域の上昇幅はリーマンショック時よりも小さくなっている。また、リーマンショック時とは異なり、東海のような製造業が占める割合の高い地域で失業率の上昇幅が大きい傾向もみられない。失業率の水準に着目すると、2021年1-3月期には沖縄の失業率が最も高く4.0%となっており、他には、北海道、東北、近畿及び九州といった地域の失業率が3%を超える水準となっているが、リーマンショック時の失業率と比較すると、いずれの地域も水準は下回っている。

(非製造業では感染症の影響を受けてもなお人手に不足感)

最後に企業の人手不足感が、感染症の影響によりどのように変化したかを確認すると(第2-4-9図)、製造業と非製造業のどちらも人手不足感は大きく低下したが、特に非製造業では感染症の影響を受けてもなお人手に不足感のある状況が続いている。

まず製造業について詳細をみると(第2-4-9図(1))、日銀短観における雇用判断DIによれば、感染拡大前の2019年12月のDIは▲17であり、人手が不足である企業の割合が、過剰である企業の割合を上回る状態であったが、2020年以降は、人手が過剰である企業の割合と不足する企業の割合が逆転し、6月のDIは11となった。ただし、2021年3月にはDIは▲2まで低下しており人手の過剰感は大きく低下している。なお、過去には2008年のリーマンショック時にも、2020年の感染症時と同様に、企業の人手不足感は不足から過剰へと大きく変化している。そこで、2つの経済ショックの影響を、DIの変化の幅によって比較すると、リーマンショック時には+44ポイント56であったのに対し、2020年の感染症時には+28ポイント57である。感染症の影響により、製造業の企業では人手の過剰感は大きく高まったものの、DIの単純な比較からは、リーマンショック時の方が人手の過剰感の高まりは強かったと推察される。

次に非製造業の人手不足感をみると(第2-4-9図(2))、感染拡大前(2019年12月)のDIは、▲40と製造業以上に人手不足感が強い水準であったが、2020年6月には▲17までDIは上昇し、感染症の影響により非製造業でも企業の人手不足感は大きく後退した。ただし2021年3月にはDIは▲20に低下している。リーマンショック時と比較すると、2020年の感染症時の人手不足感のDIの変化幅は+23ポイント58であり、リーマンショック時の+25ポイント59と比較すると、概ね同程度の変化幅となっている。ただし、感染症下にあって非製造業の人手不足感は大きく減少したものの、製造業とは異なり人手が不足している企業の割合が、過剰である企業の割合を上回る状態は継続している。

続けて地域別の人手不足感をリーマンショック時と比較してみたところ(第2-4-10図(1))、製造業については、北海道を除くすべての地域で、リーマンショック時の方が感染症時に比べて、人手不足感の低下幅(雇用人員判断DIでは上昇幅)は大きかった。全体的な傾向として、北関東や東海などリーマンショック時に人手不足感が大きく低下した地域は、感染症時においても人手不足感の低下幅が大きく、反対に四国や東北など、リーマンショック時に人手不足感があまり低下しなかった地域は、感染症時にあっても、低下幅が小さい。ただし、九州・沖縄の人手不足感は、リーマンショック時には大きく低下したが、今般の感染症時では、低下幅はあまり大きくないといった違いもみられる。

次に非製造業の状況をみると(第2-4-10図(2))、製造業とは異なり、リーマンショック時に比べて感染症時の方が、より人手不足感の低下幅が大きくなっている地域が複数みられる。具体的には、中国、九州・沖縄、四国、東北及び北海道といった地域では、リーマンショック時よりも感染症時の方が、人手不足感の低下幅が大きい。非製造業は先に第2-4-9図(2)でみたとおり、感染症下にあっても人手不足感が強い状態が続いているが、地域別にみれば、感染症による経済ショックは、リーマンショック以上に広範な地域で、非製造業の人手不足感を後退させたと言える。

(地方圏は、生産年齢人口の減少に比べれば、雇用者数の減少は緩やか)

最後に、感染症の影響による雇用者数の変化を、三大都市圏、地方圏別で男女別に、2019年同期と比べて、確認してみる。まず、男性については、三大都市圏、地方圏共に、雇用者数(除く役員)が2020年4-6月以降、2019年に比べて減少している(第2-4-11図(1)~(2))。2021年4-6月の雇用形態別の寄与をみると、三大都市圏、地方圏共に、非正規雇用を中心に減少している。ただし、地方圏は、生産年齢人口の減少に比べれば、雇用者数の減少は緩やかなものとなっている。

女性については、雇用者数(除く役員)は、三大都市圏、地方圏共に、2020年4-6月以降、2019年に比べて減少し、7-9月には、男性より減少幅が大きかった(第2-4-11図(3)~(4))。2021年1-3月、4-6月については、三大都市圏は生産年齢人口が減少する中で2019年を上回り、地方圏は2019年とほぼ同水準で推移している。2021年4-6月について、雇用形態別の寄与をみると、三大都市圏では、正規雇用の増加幅が非正規雇用の減少幅を上回っている。地方圏では、非正規雇用の減少幅が正規雇用の増加幅をやや上回るが、ほぼ拮抗している。

さらに、女性について、年齢階級別の寄与をみると(第2-4-12図(1)~(4))、2021年4-6月について、三大都市圏では、25~34歳は正規雇用の増加幅が非正規雇用の減少幅を上回る一方で、15~24歳は正規雇用・非正規雇用が共に減少し、35~44歳は非正規雇用が減少している。また、45~64歳は正規雇用・非正規雇用共に増加し、65歳以上は非正規雇用が増加している。地方圏では、人口減少や東京圏への移動等の影響もあり、15~34歳が正規雇用の増加がみられない中で、非正規雇用が減少している。また、45~64歳は正規雇用が増加し、65歳以上は主に非正規雇用が増加している。このように、女性の雇用者数については、三大都市圏では全体では正規雇用の増加が非正規雇用の減少を上回るものの、15~24歳では正規雇用でも非正規雇用でも減少し、35~44歳の子育て世代では非正規雇用が大きく減少している。また、地方圏では、人口動態の変化等もあろうが、増加している雇用者は主に中高年であり、44歳以下の子育て世代、若年世代の雇用者数は減少している。若年世代や子育て世代の雇用機会については、三大都市圏、地方圏共に注視する必要がある。また、非正規雇用の離職者については、世帯の主たる稼ぎ手ではなく、生活面への影響が限定的である場合もあろうが、一部には、感染症前は、非正規雇用で家計を支えていた方が、生活面で厳しい状況に置かれている場合もあるとみられ、そうした状況にある人々への支援が必要であると考えられる。

(三大都市圏の方が情報通信業など、より多くの業種で雇用者数が増加)

雇用者数を産業別に2019年に比べてみると(第2-4-13図(1)~(2))、男性については、三大都市圏では、2020年4-6月期以降、情報通信業が増加への寄与が続いており、2021年4-6月においても増加に寄与している。一方で、2021年4-6月では、建設業、宿泊業・飲食サービス業等が減少に寄与している。地方圏では、生産年齢人口の減少に比べれば雇用者数の減少が緩やかな中で、2021年4-6月では建設業、卸売業・小売業等が減少している。

女性については、三大都市圏では2020年10-12月以降、医療・福祉業、教育・学習支援業が増加への寄与が続いており、2021年4-6月には、情報通信業も増加に寄与している(第2-4-13図(3)~(4))。一方で、2020年4-6月以降、宿泊業・飲食サービス業が大きく減少に寄与し続け、2021年4-6月には生活関連サービス業・娯楽業も減少している。地方圏でも、医療・福祉業、教育・学習支援業は増加に寄与する傾向があり、宿泊業・飲食サービス業は大きく減少に寄与し続け、製造業は減少が続いている。

感染症の影響により、外食、旅行等のサービス消費が以前に比べて大幅に減少していることを背景に、女性を中心に三大都市圏においても、地方圏においても宿泊業・飲食サービス業の雇用者が減少しているとみられる。感染症が終息すれば、再び雇用者数が増加すると期待されるものの、引き続き、雇用情勢には留意が必要である。

三大都市圏では、男性で情報通信業の雇用者の増加が続き、女性でも足もとでは情報通信業の雇用者が増加している。また、女性を中心に、三大都市圏、地方圏でも、医療・福祉業、教育・学習支援業が増加している。全体としては、三大都市圏の方が、多くの業種で雇用者数の増加がみられる。今後の中長期的な生産性向上や経済成長の観点からは、ニーズの高い分野や成長分野に失業なき労働移動を促進していくことも必要で、情報通信業の雇用者はテレワークの実施率が高い(前掲第1-3-4図参照)ことを鑑みれば、テレワーク等による「転職なき移住」等によって、情報通信業のような、これまで都市圏の比率が高かった産業の雇用者が地方圏においても増加することも期待され、その実現に向けた環境整備も課題となっている。

(コラム1:感染症により厳しい影響を受けた経済分野)

ここでは、景気ウォッチャー調査により、感染症により特に厳しい影響を受けた経済分野について、リーマンショック時と比較しつつ概観する。コラム2-1-1図は、景気ウォッチャー調査において、景気の現状が「悪くなっている」と答えた回答者の比率を、回答者が属する業種別に集計し、特に比率の高かった上位10業種をリーマンショック時(2008年12月)と感染症時(2020年4月)とで比較した結果である。

まずリーマンショック時の結果からみると、上位10業種の内訳は、製造業(4件)、雇用(4件)、小売(2件)となっている。特に上位の3業種は輸送用機械器具や電気機械器具などいずれも製造業であり、4位から6位までは求人情報誌製作会社など雇用関連の業種が並んでいる。また小売については、自動車や住居といった、いわゆる耐久財を扱う小売店で景況感が特に悪くなっていた。

一方、感染症時の状況をみると、上位10業種の内訳は、飲食(4件)、サービス(3件)、小売(2件)、雇用(1件)となっており、リーマンショック時とは業種の構成が大きく異なる。詳細をみると、まず上位の4業種は、飲食の高級レストランなどに加え、サービスの都市型ホテル・旅館、また雇用では新聞社の求人広告が入っている。続く5位以降には、サービス関連の旅行代理店とタクシー、小売の百貨店や衣料品専門店といった業種がみられる。

このように、今回の感染症下において特に景況感が悪化した業種をみると、特徴として、飲食、ホテル、タクシー、百貨店、衣料品専門店など人々が日常的な消費を行うサービスに関わる業種が多く、製造業や雇用分野の景況感が特に悪化していたリーマンショック時とは、大きく様相が異なっている。景気ウォッチャー調査によれば、今回の感染症により特に厳しい影響を受けた経済分野は、主にサービス業であり、その背景として緊急事態宣言等により、多くのサービス業で営業の自粛等があったことや、人々が外出や人との接触を回避するような生活を意識したことから、サービスを消費する機会が大きく減少したため、こうした業種の景況感が特に悪化したものと考えられる。

(コラム2:感染症は人々の仕事の満足度をどのように変えたか)

本編でみてきたとおり、2020年からの感染症の流行は、人々の生活や働き方を大きく変えた。ここでは、感染症下で働く人々を対象に実施した意識調査の結果から、感染症によって、人々の仕事に対する満足度がどのように変化したかをみていく。

(感染症によって仕事に対する満足度は低下)

全国の就業者約1万人に対して、感染拡大前(2020年2月まで)と感染症下(2020年3月以降)の両時点について、仕事に対する満足度を尋ねた意識調査の結果(コラム2-2-1図)によれば、感染症によって人々の仕事に対する満足度は低下した。具体的には10点満点で評価した満足度は、感染拡大前は平均値で6.13点であったが、感染症下では5.38点に低下し、その差は▲0.74点となった。なお、満足度の分布を感染拡大前と感染症下で比較すると、7点以上の回答比率が低下した一方、5点以下の回答比率は上昇した。最も回答比率が低下した階級は8点であり、最も回答比率が上昇した階級は3点及び4点であった。

次に仕事に対する満足度が低下した背景を調べるため、特にどのような属性の回答者で満足度の低下幅が大きいかを確認した。回答者の(1)年齢階級、(2)雇用形態、(3)属する産業、(4)居住地域の4つの属性別に、それぞれ満足度の変化を再集計したところ、結果はコラム2-2-2図(1)~(4)のようになった。(1)年齢階級別では50代以上の高齢者で、満足度の低下幅は回答者全体の低下幅よりも大きかった。また、(2)雇用形態別では、自営業主において特に満足度の低下幅が大きく、アルバイトで働く人々も満足度の低下幅が大きかった。(3)回答者が属する産業別に満足度の低下幅の違いをみると、「宿泊業、飲食サービス業」と「娯楽業、生活関連サービス業」で低下幅が目立って大きく、「教育、学習支援業」、「医療、福祉」及び「サービス業(その他)」でも低下幅が大きかった。(4)回答者の居住する地域別では、沖縄や近畿といった地域で満足度の低下幅が大きい傾向がみられた。ただし地域間の低下幅の差異は、他の属性に比べれば小さい傾向にあった。

最後に、回答者が感染症の影響下で経験した仕事に関わる出来事(収入の増加・減少、労働時間の増加・減少、仕事の生産性の上昇・低下)について、満足度の低下幅を比較したところ、結果はコラム2-2-3図のようになった。感染症下にあって、収入の減少、労働時間の減少、及び職場の生産性の低下といった出来事を経験した回答者は、そうした経験のない回答者よりも、満足度の低下幅が大きい。一方、感染症下にあっても収入の増加や生産性の上昇を経験した回答者は、満足度の低下幅が小さい。ただし、労働時間については、増加した場合にも満足度の低下幅がやや大きくなる傾向がみられる。

以上の結果からは、今般の感染症の影響下にあって、仕事に対する満足度が大きく低下した人々は、特定の年齢階級や地域に住む人々であるというよりは、特定の産業や雇用形態で仕事をしていた人々や、収入や労働時間の減少、あるいは生産性の低下といったように、仕事の量や質の低下を経験した人々であることが示唆される。

(宿泊業、飲食サービス業などで働く人々で収入や労働時間が低下)

仕事に対する満足度が大きく低下した人々は、特定の産業で働く人々や、収入や労働時間が減少した人々であった。こうした結果の背景をより詳しく理解するため、ここでは、産業別に収入や労働時間がどのように変化したかを確認した。意識調査において、感染拡大前に比べて感染症下で収入がどのように変化したかを尋ねた質問の回答結果を、産業別に集計したものがコラム2-2-4図である。

結果をみると、感染症下にあって、収入が減少した60と回答した比率は、「宿泊業、飲食サービス業」と、「娯楽業、生活関連サービス業」で特に高く、回答比率はどちらも50%を超えていた。次いで「サービス業(その他)」や「製造業」でも、収入が減少したと回答した比率は高くなっていた。一方、収入が増加した61とする回答比率をみると、「学術研究、専門・技術サービス業」の比率が最も高いが、その値は10%程度であった。収入の減少と比べて、収入の増加については、全般的に産業間の差異が小さい傾向となっていた。

続いて、収入と同様に労働時間の変化について尋ねた質問の回答結果を、産業別に集計すると(コラム2-2-5図)、労働時間が減少した62と回答した比率の高い産業は、「宿泊業、飲食サービス業」、「娯楽業、生活関連サービス業」、「サービス業(その他)」、及び「製造業」であり、収入が減少したと回答した産業と、概ね同様の傾向となっている。一方、労働時間が増加した63と回答した比率が高い産業をみると、収入が増加した産業と比べて、産業間のばらつきがやや大きい傾向がみられる。具体的には、「学術研究、専門・技術サービス業」、「教育、学習支援業」、「情報通信業」及び「医療、福祉」で労働時間が増加した、との回答比率が高い傾向にあった。

コラム2-2-2図(3)で示したとおり、仕事に対する満足度の低下幅が大きい産業は、「宿泊業、飲食サービス業」、「娯楽業、生活関連サービス業」、「教育、学習支援業」、「医療、福祉」及び「サービス業(その他)」などであった。これらの産業のうち、「宿泊業、飲食サービス業」、「娯楽業、生活関連サービス業」及び「サービス業(その他)」は、労働時間が減少したとの回答比率が高く、かつ収入が減少したとの回答比率も高い産業であるため、労働時間の減少が収入の減少へとつながり、こうした産業で働く人々の満足度を大きく低下させた可能性が考えられる。一方、「教育、学習支援業」や「医療、福祉」は、労働時間が増加したとの回答比率が他の産業に比べて高いものの、収入が増加したとの回答比率は、他の産業に比べて特に高い傾向にはない。したがって、こうした産業では、労働時間は増加したものの収入の増加は限られた人が多かったことが、仕事の満足度の低下へとつながった可能性が考えられる。

(生産性は主にサービス業で大きく低下)

前述のとおり、仕事に対する満足度の変化には、仕事の生産性が低下したと感じた人において、仕事の満足度の低下幅が大きい傾向もみられた(コラム2-2-3図)。ここでは感染症の影響によって、仕事の生産性にどのような変化を感じたかを尋ねた質問の回答を産業別に集計したところ、回答の構成比率はコラム2-2-6図のとおりとなった。

まず、全体的な姿をみると、すべての産業において、感染の拡大前に比べて仕事の生産性が低下したとする回答の比率は、生産性が上昇したとする回答比率を上回っていた。生産性が低下したとする回答比率が高い産業をみていくと、特に「宿泊業、飲食サービス業」及び「娯楽業、生活関連サービス業」では比率が高く、半数以上の回答者が感染症の影響下において仕事の生産性が低下したと回答していた。次いで「サービス業(その他)」でも回答比率が高くなっており、サービス業全般で生産性が低下した傾向にあることがみてとれる。生産性が低下したと回答した者の比率が、他の産業に比べて一段低い産業(「不動産、物品賃貸業」、「医療、福祉」及び「公務」など)もみられるものの、ほとんどの産業では、概ね30%程度の回答者が生産性の低下を感じており、感染症が広範な産業の生産性に、マイナスの影響を及ぼしたことがみてとれる。反対に、感染拡大前に比べて、生産性が上昇したと回答した者の比率が高い産業は、「学術研究、専門・技術サービス」、「情報通信業」、「金融業、保険業」である。

(サービス業で生産性が低下した要因は衛生対策の仕事の増加など)

主にサービス業(「宿泊業、飲食サービス業」、「娯楽業、生活関連サービス業」及び「サービス業(その他)」)において、仕事の生産性が低下した理由はどのようなものだろうか。意識調査において、宿泊業や飲食業などのサービス業で働く人々に、生産性が低下した仕事上の出来事について尋ねた結果は、コラム2-2-7図のとおりであった。生産性低下の要因として最も多く挙げられていたのが、「職場や店舗の消毒作業など、これまでになかった衛生対策の仕事が増えた」、次いで多かったものは「感染症対策で客席数や入場者数などの制限をしたため、販売やサービス提供の回数が減った」であり、直接的な感染症対策に関わる業務の純増や、サービス提供の効率性の低下に関する出来事が挙げられていた。一方、生産性の上昇を感じた出来事を尋ねた回答によれば(コラム2-2-8図)、「職場全体で業務フローの見直しや効率化が行われた」といった項目では、サービス業の回答比率が全体を上回っており、職場全体の取組で生産性の向上を図る現場の姿も垣間見える。

以上の結果をまとめると、感染症の影響は、就業者の仕事に対する満足度を全体的に低下させた。また満足度の低下は、特定の地域というよりは特定の産業、特にサービス業に従事する人々で低下幅が大きい結果となっていた。そうした背景には、労働時間や収入の減少といった感染症下における労働環境の急激な変化がある。また、感染症対策に関わる業務負担から生産性が低下したことも、仕事の満足度の低下につながったものと推察される。一方、仕事の生産性に着目すれば、感染症下にあっても、生産性の上昇を感じた回答者は、満足度の低下幅が小さくなる傾向もみられた。サービス業はその性質上、客足の鈍化や衛生対策の負担など、感染症下にあって特に厳しい状況におかれているが、業務フローの改善等により生産性が上昇したとの回答も一部にはある。こうした生産性を上昇させるためのノウハウの蓄積や社会的な共有といった取組が、そうした産業で働く人々の仕事に対する満足度を、少しでも向上させることが期待される。


脚注52 なお、令和2年1月から求人票の記載項目が拡充され、一部に求人の提出を見送る動きがあったことから、求人数の減少を通じて有効求人倍率の低下に影響していることに留意が必要である。
脚注53 2020年7-9月期及び10-12月期の失業率3.0%を感染症時の最高水準と見做し、2020年10-12月期の失業率2.3%を感染症前の水準として、両者の差をとった場合。
脚注54 2020年7-9月期の失業率5.4%を感染症時の最高水準と見做し、2008年4-6月期の失業率4.0%を感染症前の水準として、両者の差をとった場合。
脚注55 なお、内閣府(2020)「経済財政白書」によれば、雇用保蔵の効果により、今回の感染症による失業率の悪化の程度は、過去の経済ショックに比べて、小さく抑えられている可能性があることが指摘されている。また、内閣府(2021)「日本経済2020-2021-感染症の危機から立ち上がる日本経済-」では、雇用調整助成金による失業抑制効果を試算し、2020年4-6月期の失業率は、雇用調整助成金の特例措置等がない場合に比べて、3%ポイント程度抑制されたとしている。
脚注56 2009年3月のDI38をリーマンショック時の最高水準と見做し、2008年3月のDI▲6をリーマンショック前の水準として、両者の差をとった場合。
脚注57 2020年6月のDI11を感染症時の最高水準と見做し、2019年12月のDI▲17を感染症前の水準として、両者の差をとった場合。
脚注58 2020年6月及び9月のDI▲17を感染症時の最高水準と見做し、2019年12月のDI▲40を感染症前の水準として、両者の差をとった場合。
脚注59 2009年6月のDI12をリーマンショック時の最高水準と見做し、2008年3月のDI▲13をリーマンショック前の水準として、両者の差をとった場合。
脚注60 収入が「大幅に減少した」、「減少した」、又は「やや減少した」の合計。
脚注61 収入が「大幅に増加した」、「増加した」、又は「やや増加した」の合計。
脚注62 労働時間が「大幅に減少した」、「減少した」又は「やや減少した」の合計。
脚注63 労働時間が「大幅に増加した」、「増加した」又は「やや増加した」の合計。
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