第1章 第3節 消費の動向

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ここでは、2019年の各地域における消費の動向について、販売形態別に財消費の動向をみていく。2019年10月には、消費税率が8%から10%に引き上げられたが、その影響に関して販売形態別には違いがみられたものの、地域別には大きな違いがみられなかった。

(百貨店販売額では、消費税率引上げに伴う駆け込みと反動減がみられた)

百貨店販売額については、2019年に入ってから、ほとんどの地域で7月まで前年を下回って推移していた(第1-3-1図)。特に7月について、近畿及び中国を除いて前年を5%前後下回っているのは、梅雨明けが7月末になったことで、気温が上がらず夏物商品の販売が不調だったためとみられる。しかしながら、8月以降は気温が上昇して夏物商品が売れ出したことや、2019年10月の消費税率引上げを前にして、高額商品や化粧品等を中心に駆け込み需要がみられたため、8~9月に掛けて前年を上回った。10月については消費税率引上げの反動や、大型の台風や大雨による短縮営業の影響もあり、前年を大きく下回った。

地域別にみると、北陸(2019年1~2月)及び近畿以外はおおむね前年を下回って推移している。北陸については1月が前年比3.7%増、2月が8.2%増と高い伸びとなったが、これは2018年の1~2月に掛けて大雪の影響で百貨店販売額が大きく減少した反動とみられる。近畿については、主に化粧品や、美術・宝飾・貴金属といった高額品が全体の押上げに寄与し、2月以降前年を上回って推移している。こうした商品は外国人旅行者の購入額が大きい。近畿から入国する海外客の動向をみると、中国人は引き続き前年を上回って推移しており、中国人観光客のインバウンド消費が近畿における百貨店販売額の押上げに寄与しているとみられる。

(スーパー販売額では、消費税率引上げの影響は百貨店に比べて小さい)

スーパー販売額については、2019年はおおむね前年を上回る地域が多かった。7月はすべての地域で前年を大きく下回ったが、これは百貨店販売額と同様に、梅雨明けが前年より遅かったことが影響したとみられる。しかしながら、8月にはほとんどの地域で前年を上回り、特に9月は前年を大きく上回った(第1-3-2図)。背景には、8月に入って気温が上昇したことから夏物商品の売上が好調になったことや、消費税率が10月に引き上げられる前の駆け込み需要で酒類や日用品等の売上が好調だったことがある。しかしながら、スーパーの主な商品である飲食料品については軽減税率が適用されることもあり、百貨店に比べて9月の販売額の増加幅は小さい。10月については、大型の台風や大雨による短縮営業の影響や駆け込み需要の反動減もあり、前年を下回った。

(コンビニ販売額では、消費税率引上げの影響は大きくない)

コンビニ販売額については、2019年6月まではほとんどの地域で前年比を上回って推移していたものの、梅雨明けが遅れたことで、7月については百貨店やスーパーと同様に、ほとんどの地域で前年を下回った(第1-3-3図)。しかしながら、百貨店やスーパーと異なり、消費税率引上げ直前の9月は、8月よりも伸びが低下あるいは前年を下回る地域もあったものの、10月についてはいずれの地域も前年を上回った。背景には、前年にあたる2018年10月のたばこ税率引上げ時ほど、駆け込み需要や反動減が大きくなかったことが影響している。また、コンビニの主力商品である飲食料品が軽減税率の対象になったことや、コンビニはキャッシュレス決済のポイント還元事業の対象になったことが、販売額の下支えに寄与したと考えられる。

(自動車販売や家電販売は、9月に増加)

乗用車新規登録・届出台数については、7~9月に掛けて伸びが高まり、特に消費税率引上げ直前の9月については、すべての地域で前年を大きく上回った(第1-3-4図)。10月については大型の台風や大雨による短縮営業の影響や駆け込み需要の反動減もあり、前年を大きく下回った。

なお、沖縄の乗用車新規登録・届出台数について、2018年4月は前年比38.1%増、5月は同19.9%増となったものの、2019年6月は前年比18.8%減、7月は同9.9%減と大きな変動がみられた。これは、沖縄ではレンタカー向けの乗用車の新規登録・届出台数の占める割合が高く、この台数に季節的な変動が影響しているためである。例年は、おおむね観光客が増加する春及び夏に大幅に新規登録台数が増加し、秋~冬に掛けて減少するという傾向があるが、年によって増加する月に変化がある(第1-3-5図)。そのため、沖縄の乗用車新規登録・届出台数は他の地域と異なる動きになることがある。

家電量販店販売額については、地域的なばらつきはほとんどなく、5~6月に掛けて前年を上回ったものの、梅雨明けが遅れて、エアコン等の夏物家電の売上が振るわなかったこともあり、7月は前年を下回った。夏場以降、特に9月には消費税率引上げを前にして多くの地域で販売額を前年より大きく(70%以上)上回った。10月については、大型の台風や大雨による短縮営業の影響や消費税率引上げ前の駆け込み需要の反動減もあり、いずれの地域も前年を20%程度下回った。

(コラム2:消費税率引上げが景況感に与えた影響(景気ウォッチャー調査から))

2019年10月の消費税率引上げが景況感に与えた影響について、景気ウォッチャー調査を中心に、前回消費税率引上げ時(2014年4月)と比較しながらみてみる。

現状判断DIの推移をみると、前回は、消費税率引上げの半年以上前から50を上回る高水準で推移しており、引上げの前月に当たる2014年3月(54.1)~4月(38.4)に掛けては15.7ポイント低下した。今回は、引上げ直前の2019年8、9月になって上昇し、9月(46.7)~10月(36.7)に掛けて10ポイント低下した(コラム図1-2-1)。消費税率が引き上げられた月については今回の方が、前回に比べて低下幅が小さい。また、後述のコラム3「台風等が地域経済に与えた影響」にあるとおり、2019年10月には、台風・大雨等による被害が生じた影響も含まれている。

ウォッチャーの現状判断に関するコメントを、消費税率引上げ直前に当たる2014年3月と2019年9月についてみてみよう。百貨店については、前回も今回も駆け込み需要についてのコメントがみられたが、前回は、高額品のみならず一般商品にも駆け込み需要があった等の声があったのに対して、今回は、宝飾、時計、化粧品等の高額品について駆け込み需要があったという声、あるいは、前回のような駆け込み需要がみられない等の声があり、前回の方が幅広い商品に対して駆け込み需要があったとみられる。消費税率引上げ直後に当たる2014年4月及び2019年10月については、前回、今回共に、家電量販店等を始め、駆け込み需要の反動や買い控えに関するコメントが多くの業種でみられた。また、今回は、スーパー、コンビニ等で、食料品等に対する軽減税率や、キャッシュレス決済に伴うポイント還元等の施策が、消費の落ち込みに対する下支えになっているとのコメントもみられた(コラム表1-2-2)。

さらに、ウォッチャーのコメントの中から、「消費税」、「増税」というキーワードが含まれるものを抽出し、前回と今回の比較をしてみよう。コメント数の推移をみると、前回も今回も消費税率引上げが近づくにつれて大きく上昇し、引上げを実施した月(2014年4月及び2019年10月)にコメント数が最も多くなり、その後は月を追うごとに減少している(コラム図1-2-3(1))。一方で、前回は消費税率引上げの7か月前に当たる2013年9月からコメント数が100を超えており、ほとんどの期間で前回の方が今回よりコメント数が多い。コラム図1-2-3(2)は、「消費税」または「増税」についてコメントしたウォッチャーの景況感をみるために、これらについてコメントしたウォッチャーの回答でDIを作成したものである。前回に比べて今回の方がDIの水準は低いものの、推移については、前回、今回共に、引上げ前に上昇傾向にあり、引上げを実施した月に大幅に低下し、その後上昇している。また、全体DIとの差については、前回、今回共に、引上げ前はおおむねプラスであり、引上げ後がマイナスであることは共通している。

このようにみていくと、景気ウォッチャー調査の結果からは、消費税率引上げによる駆け込みや反動について、前回と今回では景況感に影響を与えている点は同様であるものの、その程度については、コメント数やその内容から、今回は前回ほどではないと考えられる。こうしたことの背景には、コメントにもあるとおり、キャッシュレス決済にかかるポイント還元や軽減税率の導入といった各種施策の効果もあると考えられる。

一方で、引上げ後のDIの上昇度合いについては、前回は引上げから2か月後の2014年6月までに9.5ポイント上昇しており、これは低下幅に対して約6割強戻していることになるが、今回は2019年12月までの上昇幅が3.1ポイントとなっており、低下幅に対して約3割強の上昇にとどまった。前回と異なり、今回は、消費税率引上げ以外に、世界経済の減速や12月の暖冬等が、家計関連動向や企業関連動向の景況感に影響を与えていることが、消費税率引上げ後の景況感の回復の度合いを緩やかにしたとみられる。

それでは今回の消費税率引上げに際して、消費者はどのような消費行動を取ったのだろうか。日本銀行が前回と今回の引上げ後に行ったアンケート調査5によれば、消費税率引上げ前に前倒しで支出したものがあるかという問に対して、前回引上げ時に「ある」と答えたのは40.8%、今回引上げ時に「ある」と答えたのは39.9%となっており、前回も今回も駆け込み購入した人の割合は約4割でほとんど変わらない。ただし、前倒しで支出した商品・サービスについて、今回引上げ時は洗剤や雑貨といった日用品は前回より多くの人が駆け込みで購入したものの、家電や自動車、家具、住宅といった高額品については、今回よりも前回の方が購入したと答えた人の割合がやや高かった。

それに対して、消費税率引上げ後の支出については差がみられた(コラム図1-2-4)。消費税率引上げ後の支出状況について、前回引上げ後は「支出を控えた」及び「支出をやや控えた」とする回答が約6割だったのに対し、今回引上げ後は約3割とおおよそ半分となっている。

同調査で消費税率引上げ後に支出を控えた商品・サービスについての回答をまとめた結果がコラム図1-2-5である。これによると、前回よりも今回の方が駆け込み購入をした人の割合が唯一高かった日用品を除いて、いずれの商品・サービスについても支出を控えた人の割合は今回の方が小さい。ただし、消費税率引上げ後に支出を控えたと回答した人のうち、おおよそ半数が外食や衣服・履物類への支出を控えたと回答しており、こうした分野について消費税率引上げの影響が出ているとみられる。景気ウォッチャー調査の現状判断DIの家計分野の内訳をみると、小売については10~12月に掛けて上昇が続いているものの、飲食(レストラン等)、サービス及び住宅については11月に上昇したものの12月に低下している。ウォッチャーからは、飲食については忘年会が減少していることや、節約志向の高まりを指摘する声がみられており、社会的なすう勢による年末行事の減少に加えて、消費税率引上げによって消費を控える動きが飲食関連に出ている可能性がある。

今後の景況感に対する見方についてはどうだろうか。景気ウォッチャー調査の先行き判断DIは現在から2~3か月先の景気について、ウォッチャーの回答を集計している。そのため、消費税率引上げの3か月前に当たる2014年1月及び2019年7月以降大きく低下し、引上げ1か月前に当たる2014年3月及び2019年9月にそれぞれ底を打った(コラム図1-2-6)。消費税率が引き上げられた2014年4月及び2019年10月に大きく上昇し、その後は緩やかな上昇又は横ばい傾向が続くのは、前回も今回も同様となっている。

低下幅については、先行き判断DIが大きく低下を始める月の前月に当たる消費税率引上げの4か月前の値と引上げの前月を比較すると、前回は22.7ポイントの低下になったのに対し、今回は8.9ポイントの低下となり、今回の方が低下幅は小さい。

その後の先行き判断DIの上昇幅については、最もDIが落ち込んだ消費税率引上げの前月と、引上げから2か月後を比較すると、前回は18.8ポイントの上昇になったのに対し、今回は8.5ポイントの上昇になった。上昇幅自体は今回の方が小さいものの、低下幅に対してどの程度戻したかについて、前回は引上げから2か月後の時点では約8割の回復にとどまったのに対し、今回は、引上げから2か月後である12月は年末年始商戦に対する期待が高かったこともあり、元の水準と同等程度まで回復している。

これまでみてきたとおり、消費税率引上げが景気ウォッチャーの景況感に与えた影響について、前回と今回を比較すると、引上げ時の景況感の低下幅は今回の方が小さく、その後の上昇幅については前回ほどの戻りではない。ただし先に述べたとおり、現状判断DIについては天候要因や世界経済の動向といった要因もあることを考え、総じてみれば、消費税率引上げ前後の駆け込みと反動減は前回ほどではないとみられる。一方で、節約意識の高まりを指摘する声もあり、DIの水準は高いと言えないことから、消費者や企業のマインドについては、引き続き注視が必要である。

(コラム3:台風等が地域経済に与えた影響)

2018年は、同年7月豪雨や北海道胆振東部地震を始めとして、各地域において多くの災害による影響・被害を受けたが、2019年についても、台風・大雨等による被害が各地域において発生した。特に、台風15号(9月7~9日)、台風19号(10月10~13日)及び台風21号の太平洋側沿岸通過に伴う大雨(10月24~26日)については、東日本を中心に多大な被害を与えた。こうした台風による経済への影響についてみてみる。

生産活動において、工場が阿武隈川や千曲川を始めとした河川の氾濫による浸水被害等で操業を停止するとともに、直接被災しなくとも被災工場からの部品調達が困難となった企業や、逆に、供給先の被災によって生産数量を抑制せざるを得ない企業も現れ、サプライチェーンリスクがみられた。次に物流関係では、中央自動車道や上信越自動車道の高速道路を始めとした道路が一部で通行止めとなるなど、交通網の機能不全から物資の運搬に影響がみられ、一部のコンビニエンスストア及びスーパーマーケット等の休業、宅配事業者における一部地域での配達停止や遅配が生じた。また、観光面では、ホテルや旅館の浸水、建物破損等の被害、東京国際空港や成田国際空港における航空路線の運休や、北陸新幹線を始めとした鉄道路線の運休による影響を受けた。さらに、農林水産業については、作物等の秋の収穫期とも重なり被害が大きく、台風15号では、12都県において約815億円、台風19号及び台風21号に伴う大雨では、38都府県において約3,275億円の被害が発生し、合わせると4,000億円を超える被害となった。

このように、2019年秋において各地域では台風等により大きな経済的な被害が生じたが、その地域や産業への影響について、景気ウォッチャー調査における9~11月の結果をみてみよう。景気の現状判断においてその判断理由を「台風」若しくは「災害」と答えた回答者についてみると、地域別では、甲信越(10月:31.4%)、北関東(同月:25.4%)、南関東(同月:21.2%)、東北(同月:19.3%)といった台風が直接上陸し、通過した地域においてコメント割合が高くなっている(コラム図1-3-1)。

また、「台風」又は「災害」についてコメントしたウォッチャーの回答によりDIを作成してみると、10月のDIの水準は、回答割合が高かった上位5地域において、甲信越(21.3)、南関東(28.2)、北陸(28.3)、東北(28.8)、北関東(33.6)の順に低い値となっている。

このように大きな河川が氾濫した甲信越や東北、台風が通過した南関東等においては、コメント割合が高くかつDIも低くなっており、台風等による影響が大きかったことがうかがえる。また、北陸については、これらの3地域と比べて直接的な被害が少なかったこともありコメント割合も相対的には低いが、コメント内容をみると、北陸新幹線が運休となった影響を指摘するコメントが、ホテル・旅館や旅行代理店等の観光に関連の深い業種で多くみられ、秋の行楽シーズンとも重なり、インパクトが大きかったことがうかがえる。

続いて、業種別でみると、コメント割合は、飲食関連(10月:24.7%)、サービス関連(同月:21.6%)、小売関連(同月:13.9%)といった家計動向関連に集中している(コラム図1-3-2)。

「台風」又は「災害」についてのコメントによるDIについて、10月の水準をみると、回答割合が高かった上位3業種において、飲食関連(26.1)、小売関連(29.3)、サービス関連(30.3)の順に低い値となっている。

コメント内容をみると、小売関連では、食料品等の備蓄や災害からの復旧・復興需要のため一時的に売上が伸びたとの声も一部にはあったが、台風の接近に伴う自主休業や被災により店舗を休業せざるを得なかったという声が多くみられた。また、飲食関連では、大雨の影響で客足が伸びなかったというものや高級レストランなどでは予約のキャンセルが発生したとのコメントがみられた。さらに、サービス関連では、旅館やホテルの宿泊キャンセル、団体ツアーや個人旅行のキャンセルなど観光に関連するコメントが多くみられたところである。総じて、家計動向関連では被災による消費者マインドの低下を指摘する声が多くみられ、被災地域のみならず、他の地域においても自粛ムードにあるというコメントもみられ、一定程度の影響の広がりもあった(コラム表1-3-3)。

このように、台風等による経済への影響については、景気ウォッチャー調査の結果からも数多く読み取れた。台風等はDIの押下げ要因となったが、11月以降の調査においては、コメント数の減少とともに影響も小さくなっている。台風被害等の深刻さを受けて、政府においても復興に向けた予算措置を行うなど迅速な支援を進めており、政策効果とあいまった早期回復が図られることを期待したい。


脚注5 日本銀行「生活意識に関するアンケート調査」。
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