第1章 第2節 雇用・労働の動向

[目次]  [戻る]  [次へ]

本節では、今回の景気回復局面以降における雇用・労働の状況をみていく。先にみた企業の景況感と同様、雇用環境については、各地域のいずれにおいても改善している。ただし、2019年半ば以降、企業の生産活動が弱含んでいることから、その影響もみられる。

(有効求人倍率は全地域で1倍を超える高い水準で推移)

景気回復局面が続くなかで、雇用環境も改善している。地域別に有効求人倍率の動きをみると、2009年を底に上昇傾向となり、2016年以降では、すべての地域において倍率が1倍を超えて高い水準で推移している(第1-2-1図)。2000年代の景気拡張期においては、地域ごとで倍率の上昇にばらつきがみられ、有効求人倍率が1倍を超えた地域は、関東や甲信越、東海、北陸、近畿、中国といった一部の地域に限られていた。しかし、今回の景気回復局面においては、すべての地域で倍率が1倍を超えて推移しており、各地域とも高い水準での改善となっていることが特徴と言える。この背景には、我が国の人口動態において生産年齢人口が減少に転じているなかで、景気回復が長期化していることから、求職者数が減少した一方で、求人数が増加したことなどが挙げられる。

(新規求人は製造業を中心に減少)

以上のように、地域別の有効求人倍率は高い水準で推移しているが、2018年後半~2019年前半をピークに、多くの地域において倍率がやや低下する動きもみられている。新規求人数の動きをみると、今回の景気回復局面が始まった2012年を起点とした2018年までの新規求人数の伸び率は、各地域ともプラスとなっており、特に沖縄で大きく伸びるとともに、近畿、中国、九州といった西日本で主にプラス幅が大きくなっている(第1-2-2図)。さらに産業別の寄与度をみると、おおむねどの産業もプラスに寄与しているが、特に医療・福祉業や製造業、卸売・小売業において寄与が大きかった。

一方、新規求人数の動きを四半期ごとの時系列でみると、2019年以降、前年同期比でマイナスが続いており、この間の産業別の寄与度をみると、これまでプラスに寄与していた製造業を中心に、サービス業や卸売・小売業でマイナスへの寄与が大きくなっている(第1-2-3図)。特に製造業は、2019年7-9月期には北海道を除く全地域において前年同期比寄与度がマイナスとなっている(第1-2-4図)。この背景には、人手不足の状況が続くなかで、なかなか採用者を確保することが出来ず求人を諦める企業が出ている可能性も考えられるが、製造業においては、通商問題を巡る動向や中国経済の減速等の影響による外需の落ち込みが求人を控える方向に作用していることも考えられる。

(依然として、強い人手不足感)

このように、有効求人倍率は高水準にあって雇用環境は引き続き良好であるものの、新規求人数の減少といった変化の動きもみられる。こうした中、景気に遅れて動くとされる完全失業率について地域別の動きをみると、今回の景気回復局面において、緩やかに低下し、各地域共に2%台の低水準で推移している(第1-2-5図)。完全失業率は、引き続き労働需給のひっ迫を示しており、今のところ大きな変化はみられていない。

また、日銀短観における雇用人員判断DIの動きを地域別にみると、総じて、各地域とも雇用人員が過剰と判断する企業よりも不足と判断する企業が多い状況となっており、どの地域においても多くの企業において人手不足感が継続している。これを業種別にみると、製造業、非製造業共に、雇用人員が不足とする企業が多い状況には変わりがないが、製造業では、一部の地域で雇用人員が過剰とする方向へとやや反転する動きもみられる(第1-2-6図)。こうしたことから、先にみた製造業における新規求人の慎重化の動きが、今後も続く可能性について注視する必要がある。

さらに、雇用情勢の先行きを考える上では、働き方改革の動向にも留意が必要である。既に2018年6月において、働き方改革を推進するための複数の関係法律の改正が成立しているが、この中で、パートタイム・有期雇用労働法及び労働者派遣法の改正において、同一企業及び団体における正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者)と非正規雇用労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)の間の不合理な待遇差の解消を目指す、いわゆる同一労働同一賃金の導入が規定されている。これら法改正の施行日が2020年4月1日とされているところ、施行までの日程が迫ってくるなかで、企業においては、人件費負担の高まりを警戒する見方も出始めている。景気を身近に判断できる個人から景況感とその判断理由を毎月調査している景気ウォッチャー調査(令和元年12月調査)の結果においても、同一労働同一賃金に関連して、人件費の高騰を懸念するコメントがみられるところ、こうした制度改正が雇用環境に与える影響も今後注視される。

[目次]  [戻る]  [次へ]