第1章 第1節 生産の動向

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本節では、地域別の企業の景況感および生産活動をみていく。今回の景気回復局面では、企業の景況感における地域ごとのばらつきが小さいことが特徴である。2019年の生産活動は、世界経済の鈍化に影響され、弱い動きがみられる。

(地域ごとの景況感のばらつきは小さい)

民間企業における景況感を地域別にみると、リーマンショック後の2009年を底に各地域とも改善傾向となっており、2014年以降は多くの地域において、業況が良いと判断する企業が多い状況が続いている(第1-1-1図)。2002年からの景気拡張期においては、業況が良いと判断する企業が多い地域(関東甲信越、東海、近畿等)と、そうではない地域(北海道、東北、四国等)があり、景況感に差がみられたが、直近の谷1である2012年11月以降の期間は、地域ごとのばらつきが小さいことが特徴として挙げられる。背景の一つとして、今回の景気回復局面は、以前の回復期と比べて輸出に依存する割合が低く、内需主導型の景気回復2であったことから、地域においても、地域ごとの輸出依存度の違いによる影響があまりみられずに回復したことなどが考えられる。

さらに、業種別に景況感の動きをみると、製造業では、2019年以降、「良い」が「悪い」を下回る地域(東北、北陸、近畿、九州・沖縄)がいくつかみられる一方、非製造業では、2019年以降もすべての地域において、「良い」が「悪い」を上回る状況が続いている(第1-1-2図)。我が国経済においては、2019年半ば以降、輸出に弱い動きが続いたことが影響し、後述するように製造業の生産に弱さがみられたことが、地域の企業の景況感に現れたと考えられる。

(世界経済の成長鈍化に影響された鉱工業生産)

企業マインドにおいてこのような動きがみられるなかで、各地域の生産活動について鉱工業生産指数の動きをみると、2019年において、九州では比較的高水準で推移しているものの、その他の地域においては弱い動きがみられる(第1-1-3図)。

さらに、この1年の鉱工業生産における業種別の寄与度をみると、多くの地域において、汎用、生産用、業務用機械などの輸出型の産業3が大きく減少に寄与している(第1-1-4図)。これについては先に述べたとおり、中国経済の鈍化や、米中貿易摩擦等を背景として、我が国の輸出については弱含みの動きが続いているが、そうした世界経済の減速の影響がうかがえる。

(コラム1:2019年のインバウンド需要(韓国からの訪日旅行控えとラグビーワールドカップの影響))

我が国におけるインバウンド需要は急速に拡大している。日本を訪れた外国人旅行者数は、2003年には521万人であったが、2019年には3,188万人となり、この16年間で約6.1倍となっている。多くの外国人旅行者の訪問に伴い、日本国内における外国人旅行者の消費額(SNAベース)は、直近の2018年で4兆2,657億円(SNAベース)となり、2003年の6,456億円と比べて約6.6倍となっている。インバウンド需要は、人口減少による国内での需要減を補うための新たな需要として期待されている。特に地域経済にとっては、地域の特色を活かしながら「にぎわい」を取り戻し、観光・宿泊業や外食業、小売業といった関連産業の売上や雇用を増加させるなど、地域の活性化にも大きく資するものと考えられる。

2019年の訪日外国人旅行者数は、2018年と比べると増加率は鈍化したが過去最高を記録した(コラム図1-1-1)。夏場以降は韓国からの訪日旅行控えが続き、韓国人旅行者が減少したものの、中国人旅行者等が好調に推移している(コラム図1-1-2)。また、ラグビーワールドカップにより、出場国からの訪日旅行者数が前年比約3割増加するなど、世界中のラグビーファンが全国各地を訪れた。

地域別に外国人旅行者の出身地別宿泊者数の割合をみると、韓国からの宿泊者は、地理的にも近い九州では4割以上を占め、次いで沖縄、北海道で、割合が高い。地域別の韓国人旅行者の推移をみると、九州、近畿を始めとして、各地域で、季節的な要因や災害の影響等にも留意することが必要であるが、8月以降は旅行者数が減少している(コラム図1-1-3コラム図1-1-4)。

韓国人旅行者の1人当たり消費額については、他国からの旅行者と比較して少額であり4、旅行者数に比して消費額は少ないため、経済的な影響については限定的との見方もある。韓国人旅行者数の占める割合は地域により異なるため、その影響については地域ごとに状況を注視していくことが必要である。

一方で、2019年については、ラグビーワールドカップの開催により、世界中のラグビーファンが全国各地を訪れた。旅行者数の増加にとどまらず、通常の外国人旅行者の平均滞在日数よりも約5泊長い平均約13泊の滞在をし、約2.4倍の消費をしたほか、地域の住民との交流も生まれるなど、多くの地域ににぎわいと活気をもたらした。

2020年は、東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開催が予定されている。ラグビーワールドカップ以上に、日本への関心が高まるとみられ、この機会を活用して、東京だけでなく、地域の魅力を海外に発信し、インバウンド需要につなげていくことが期待される。


脚注1 我が国の景気の転換点を示す景気基準日付(山・谷)は、景気動向指数研究会の議論を踏まえて、内閣府経済社会総合研究所長が設定する。
脚注2 2000年代の景気拡張期と直近の今回の景気回復局面における実質GDPへの輸出額(純輸出)の寄与(内閣府「四半期別GDP速報」)をみると、その寄与率(寄与度/実質GDP変化率)は、2002年第1四半期~2008年第1四半期までの期間では4割程度、2009年第1四半期~2012年第1四半期までの期間では約2割半ばとなっていたところ、2012年第4四半期~2019年第3四半期までの期間においては、1割程度となっている。
脚注3 経済産業省「鉱工業出荷内訳表」に基づき、業種別の海外向け出荷比率(2015年)をみると、生産用機械が約45%、電子部品・デバイスが約39%、汎用・業務用機械が約36%と、他業種と比べ比較的高くなっている(鉱工業全体では約21%)。
脚注4 観光庁「訪日外国人消費動向調査」及び日本政府観光局「訪日外客数」より推計される訪日外国人の1人当たり消費額は、全国籍・地域平均が約13.1万円に対し、韓国人旅行者は約6.9万円、中国人旅行者は約19.3万円である。
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