第2章 インバウンド需要の取り込みに向けて
近年、日本を訪れる外国人旅行者は大きく増加している。そうした中で、中国人旅行者が商品を大量に購入する行為である「爆買い」が2015年に流行語大賞8に選出されるなど、海外から日本を訪れる外国人旅行者の消費(インバウンド需要)が我が国経済に与える影響が注目されている。人口減少による我が国の経済成長率の低下が懸念されている中、そうした国内での需要減を補うための新たな需要の創出の必要性が指摘されており、インバウンド需要はそうした新たな需要の一つとして期待されている。特に、人口減少のペースが速い地域経済にとっては、インバウンド需要により観光・宿泊業や外食業、小売業といった関連産業が売り上げや雇用を増加させると共に、街が異文化を交えて「賑わい」を取り戻すこととなり、地域の活性化にも大きく資するものと考えられる。
政府が取りまとめた「明日の日本を支える観光ビジョン-世界が訪れたくなる日本へ-」(平成28年3月30日)においても、東京オリンピック・パラリンピック競技大会が開催される2020年に、訪日外国人旅行者数を4千万人、訪日外国人旅行者による国内消費額を8兆円(さらに、2030年には、訪日外国人旅行者数を6千万人、訪日外国人旅行消費額を15兆円)とする目標が掲げられており、そのための各種施策が盛り込まれているところである。
しかし、以下でみるように、訪日外国人旅行者の訪問や消費はまだまだ我が国の一部に偏っている。インバウンド需要が我が国の地域経済を活性化させるためには、東京や大阪などの大都市や、富士山や京都といった代表的な観光地のみならず、全国各地に存在するまだ十分に知られていない「新たな魅力」(観光資源)に外国人旅行者を惹きつけ、実際に訪問してもらう「インバウンド需要のすそ野の拡大」が不可欠である。
本章では、その方策を探るため、我が国のインバウンド需要の現状を概観した上で、訪日外国人旅行者の訪問が少ない地域を訪れる旅行者の特性を分析するとともに、世界的な観光市場の動向についても考慮しながら、今後のインバウンド需要の拡大を展望する。