第2章 第1節 インバウンド需要の拡大と地域差

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インバウンド需要は近年急速に拡大しているが、地域ごとの状況はどのようになっているのだろうか。ここでは、インバウンド需要全体の動きと地域的な偏りを概観する。

1)拡大が続く我が国のインバウンド需要

(2017年の訪日外国人旅行者数は東日本大震災前の3倍以上に)

我が国のインバウンド需要は近年急速に拡大している。日本を訪れる外国人旅行者数をみると(第2-1-1図)、2003年には500万人台に留まっていたが、2007年には800万人台まで増加した。その後、世界的な経済不況に陥った2009年及び東日本大震災が発生した2011年に大きく落ち込んだこともあり、2012年までは1,000万人の壁が超えられなかったが、2013年には1,000万人、2016年には2,000万人を突破した。直近の2017年については、旅行者数は2,869万人(前年比19.3%増)となり、3千万人超過が目前となった。なお、2018年について四半期でみると、年率ベースで3千万人を超えるペースで推移している。今回の景気回復局面が始まった2012年(835万人)と2017年の比較では約3.4倍となり、その規模は急速に拡大している。

(我が国の消費の1%以上がインバウンド需要)

これに合わせて、日本国内における訪日外国人旅行者の消費も急増している。インバウンド消費をSNAベース(「非居住者家計の国内での直接購入」)でみると(第2-1-2図)、2012年以降、前年比30%超の伸びが続き、中国人旅行者の「爆買い」が大きく話題となった2015年には、前年比57.9%と高い伸びとなった。その後、前年比での伸び率は低下したが、直近の2017年には3兆5,253億円(前年比15.5%増)となり、2012年(9,198億円)との比較では約3.8倍の規模となっている。なお、2018年の第1四半期~第3四半期については、年率ベースで4兆円前後の規模となっている。また、これらを国内家計最終消費支出との比率9でみると、2012年には0.3%であったが2017年には1.2%となっている。

また、訪日外国人旅行者の延べ宿泊者数についても、年々増加している(第2-1-3図)。2012年以降、前年比20%超の伸びが続き、2015年には前年比46.4%と高い伸びとなった。2016年以降は伸び率が低下したものの、直近の2017年については、7,969万人泊(前年比14.8%増)となり、2012年(2,631万人泊)時に比べて約3.0倍の規模となっている。

2)インバウンド需要の地域的偏り

このように、我が国のインバウンド需要は近年急速に拡大している。しかし、これを地域別にみると、その状況には大きな偏りがみられる。以下、2012年と2017年を比較する形でみてみよう。

(インバウンド需要は一部の地域に大きく偏っている)

訪日外国人旅行者数を2012年と2017年の地域別分布10でみると(第2-1-4図(1))、南関東及び近畿に圧倒的に偏った形となっていることが分かる。同様に都道府県別にみると(第2-1-4図(2))、分布は東京都、大阪府、千葉県、京都府に大きく偏っている。訪日外国人旅行者の消費額(以下、「旅行消費額」11という。)についても(第2-1-4図(3))、やはり東京都、大阪府の占める割合が圧倒的に大きい。さらに、訪日外国人旅行者の延べ宿泊者数をみても(第2-1-4図(4))、やはり東京都、大阪府、北海道、京都府、沖縄県など少数の都道府県に偏っている。

このように、旅行者数、消費額、延べ宿泊者数のいずれで見ても、インバウンド需要は関東や近畿の一部の都道府県に大きく偏っている。

(インバウンド需要の増加寄与も、南関東・近畿が圧倒的)

インバウンド需要は、各指標で見た一時点での水準が偏っているだけでなく、増加分もやはり地域間で大きく偏っている。

先に述べたとおり、2012年から2017年にかけて、訪日外国人旅行者数は約3.4倍となっているが、これを横軸に2012年の都道府県別シェア、縦軸に伸び率(倍率)を取ったグラフ(スカイライン・グラフ)でみると(第2-1-5図(1))、東京都や大阪府、京都府、そして成田国際空港を擁する千葉県のシェア、伸び率が大きいことが分かる。このグラフの面積が日本全体の増加に対する寄与分を表すので、これら4都府県の旅行者数の寄与が非常に高いことを示している。

旅行消費額についても同様であり、地域別でみると伸び率では四国や沖縄などが高いものの、シェアは南関東や近畿が顕著に大きい(第2-1-5図(2))。この間の訪日外国人旅行者の消費の増加分の大宗が南関東や近畿における消費の増加であり、四国や北陸は伸び率では高いものの、増加額は相対的に小さなものに留まっている。

延べ宿泊者数でみても同様だが、北海道や九州、沖縄の増加分が旅行者数や旅行消費額に比べると相対的に大きくなっており、偏りの程度は旅行者数や旅行消費額に比して小さい(第2-1-5図(3))。

以上のように、近年のインバウンド需要の急速な拡大に伴い、旅行者数、消費額、延べ宿泊者数のいずれにおいても増加率こそ各地域で高い伸びを示しているが、そもそも水準そのものに大きな偏りがみられ、大半の地域でインバウンド需要の恩恵を十分に取り込めていないことがわかる。

(延べ宿泊者数上位5都道府県で旅行者の5割、宿泊者数の6割、消費額の7割以上を占める)

先にみた地域間の偏りを更に詳しくみるため、2017年における外国人旅行者の延べ宿泊者数の上位を占める東京都、大阪府、北海道、京都府、沖縄県の5都道府県(以下、「成熟圏」という。)と、それ以外の42県(以下、「潜在成長圏」という。)に分けてみてみよう。

旅行者数、旅行消費額、延べ宿泊者数について、潜在成長圏42県が全体に占める割合をみると(第2-1-6図)、いずれも半分を下回っており、合計しても上位5都道府県に及ばない。また、項目別にみると、直近の2017年において、旅行者数については、潜在成長圏のシェアは概ね半分となっているが、延べ宿泊者数で潜在成長圏のシェアは4割以下、旅行消費額については3割以下となっている。潜在成長圏において、旅行者数に比して延べ宿泊者数や旅行消費額のシェアが低いのは、成熟圏から日帰りで潜在成長圏を訪れたり、土産物等の買い物についても、潜在成長圏ではなく成熟圏で行う旅行者が多いことが考えられる。

2012年以降の変化をみると、特に消費額の潜在成長圏のシェアはやや低下傾向にある。旅行者数・延べ宿泊者数のシェアはほぼ横ばいであることから、これらについては、潜在成長圏において成熟圏並に伸びている一方、旅行消費額はそれに呼応した伸びにはなっていないことがわかる。


脚注9 国民経済計算(SNA)において、訪日外国人旅行者が国内で行った消費(「非居住者家計の国内での直接購入」)は、国内総生産(GDP)の構成要素としては、財貨・サービスの輸出の一項目として計上され、民間最終消費支出からは控除されている。したがって、外国人旅行者の消費を我が国の消費需要を補うものとして示すため、「非居住者家計の国内での直接購入」が差し引かれる前の国内家計最終消費支出との比率としている。
脚注10 地域別(都道府県別)の外国人旅行者数については、同一旅行者が複数の地域(都道府県)を訪れた場合にも、それぞれの地域(都道府県)においてカウントされている。このため、地域別(都道府県別)での旅行者数の合計と、一国でみた場合の旅行者数の合計は一致しない。
脚注11 ここでいう訪日外国人旅行者の「旅行消費額」は、「訪日外国人消費動向調査」(観光庁)の調査結果に基づく。具体的には、外国人旅行者が日本国内で支払った滞在中の支出に、旅行前に支出したパッケージツアー参加費のうち、宿泊料金や飲食費、交通費等の日本国内の収入分が加算された額をいう。
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