第2章 第3節 人口減少とサービス業のイノベーション
財輸出や外国人旅行客の取り込みによるサービス活動の活性化に加え、我々の日常生活において必要となるサービス提供の確保についても、人口減少は課題となっている。
1)人口集積の推移
(最近20年はほとんどの地域で人口密度が低下し、大都市部への集中が顕著)
人口集積は経済活動にとって重要である。人が集まることで賑わいが生まれ、それがさらに人を呼び込む。そこでは需要を取り込もうとするイノベーションが生まれ、進歩への動きが生じやすい。人口密度の変化をみると、1975年から95年は、東京都を除く多くの都道府県において上昇がみられた。当時の東京都では、神奈川県等の周辺3県への人口移動が発生したことにより、人口密度が低下していた。しかし、その後の20年(95年から2015年)は、東京都、神奈川県、愛知県等の都市部で人口密度が上昇し、多くの都道府県では低下する動きが進んでいる(第2-3-1図)。
(最近5年は東京圏への集中)
人口密度の二極化は、地方から大都市部(特に東京圏)への社会的な人口移動によって生じている。最近5年間の3大都市圏(東京圏、名古屋圏、大阪圏)と他道県の転入転出の状況をみると、他道県では転出超過、東京圏では転入超過が続いており、その規模は年間9万人程度である(第2-3-2図)。
(都道府県内の人口集中地区数も減少傾向、規模も縮小傾向)
都道府県単位の比較は、広域的な人口移動や集積の傾向は掴めるものの、空間的に広すぎる。そこで、経済社会的に意味のある集積動向をみるために、DID(人口集中地区)36の数という市町村レベルでの動きに着目する。DIDの数によって集積動向を評価すると、25-45年前(1970-90年)は35の都道府県においてDIDは増加していたが、その後の20年(90年-2010年)では、29の都道府県でDIDが減少している(第2-3-3図)。
ただし、DIDの数は減っているものの、DIDの居住者が当該都道府県人口に占める割合(寡占度)は、過去40年の間に和歌山県を除く全ての都道府県で上昇している(第2-3-4図)。地域間の移動だけでなく、多くの地域内においても、集積が生じていることが示唆される。
2)需要密度と立地可能なサービス
(サービスの立地には一定の需要密度が必要)
日常生活を営む上で、我々は多くのサービスを購入しているが、小売店にせよ理髪店にせよ、ある程度の顧客数が見込める場所にしか出店を維持できない。したがって、需要密度を維持することは、地域の日常生活にとって重要なことである。
サービスを提供する施設や店舗が立地可能か否かについては、当該サービスの提供に最低限必要となる需要規模、一定商圏の需要密度を求めることで見込むことが出来る。国土交通省は、3大都市圏を除く市町村を前提としてこうしたサービス別に必要となる需要規模の計算をしているが、それによると、生活に必要となる飲食料品の小売店や飲食店、郵便局、一般診療所等は、おおむね500人が集まれば、80%の確率で施設や店舗の立地が可能になる。一方、百貨店などの大型商業施設が80%の確率で立地可能となるためには、27万5千人程度の需要規模・人口規模が必要となる(第2-3-5表)。
(銀行、病院、訪問介護、学習塾等の立地にはある程度の人口規模が必要)
こうした立地可能な需要規模、需要密度の推計結果を利用し、今後予想される人口減少により、どの程度の市町村数において、どのようなサービスの立地が厳しくなるかを計算する。具体的には、2010年時点の人口規模において店舗の立地出来る確率が50%以上であるものの、将来人口推計に基づく2040年の人口規模になると、その確率が50%未満になってしまうと見込まれる市町村の割合(3大都市圏を除く)を求めた。
3大都市圏に属する市町村を除いているので、母数となる市町村総数は1,229である。サービス別に動きをみると、百貨店は3割、大学、有料老人ホーム、ハンバーガー店は2割を超える市町村で施設・店舗がなくなる可能性がある。特に、百貨店は大きな需要規模(25万-30万人)を必要としているので、人口減少によって立地が厳しくなる。生活インフラや介護など、日常生活で利用の多い病院や銀行も、1割を超える市町村で立地が難しくなる可能性がある(第2-3-6表)。
(人口減少を踏まえて生活インフラ施設等の配置も再検討が必要)
今度は市町村別将来人口推計から、規模を分類し、立地が難しくなるサービス内容を整理する。2010年時点で人口規模が2万人超、2万人以下、1万人以下の市町村数は、それぞれ1,075、281、224であるが、このうち、2040年の将来人口規模でみると、人口減少により、一定規模(2万人、1万人、5千人)以下となる自治体数は、それぞれ133、150、143である。
それぞれの人口規模の下で提供が困難になるサービスを例示すると、人口規模が2万人以下では、ペットショップや英会話教室等のサービスが、人口規模1万人以下では、救急病院や介護施設、税理士事務所等のサービスが、人口5千人以下では、一般病院や銀行など日常生活に必要なサービスの提供主体は立地が難しくなる(第2-3-7表)。
3)立地にとらわれないサービスの提供
(情報通信技術(IT)の進展などにより、立地にとらわれないサービスの拡大へ)
サービスは、生産と消費が同時に発生する性質があることから、一般的には、供給側と需要側が近くに存在することが要件と考えられる。しかしながら、情報通信技術(IT)の発展等により、立地(又は居住地)にとらわれずに、生活に必要なサービスを提供(又は享受)することが次第に可能となっている(第2-3-8表)。特に、一般病院や銀行などは日常生活に不可欠なサービスであり、人口減少下でもこうしたサービスが今後利用可能となるよう、ITの利活用による立地にとらわれないサービスの提供を促すなどの環境整備を進める必要がある。
(小売業、金融保険業の通信販売は既に普及)
ITやネット技術は、小売業、金融保険業等の通信販売事業を中心に、既に多くのサービスで定着している(第2-3-9図)。実店舗を有する百貨店やスーパーも、並行的にインターネットを通じた販売事業を展開している。販売額は小売販売額全体の5%程度に過ぎないが、居住地や営業時間等の制約が少ないことから、今後の拡大が期待される。
(医療・介護サービスも遠隔サポートとの組み合わせで需要密度の低下に対応)
医療・介護サービスのような対面前提のサービスについても、ある程度の部分は居住地や立地にとらわれずにサービスの提供が可能な体制を整えていく必要がある。「日本再興戦略2016~第4次産業革命に向けて~(2016年6月2日閣議決定)」では、インターネットによる医療・介護サービスの情報提供等の遠隔サポートを実際の訪問医療、介護サービスに併用することや、ロボット等の活用を推進することで、需要密度が低下する時代でも、サービスを提供していくことを目指している。これ以外にも、IoT等を活用することで個別化した健康サービス(企業・保険者が有するレセプト・検診・健康データの集約・分析・活用)の提供を促進することや、介護の現場におけるロボットやセンサーを一層活用することで、介護サービスの質と生産性の向上を目指している。