第3章 第4節 2.元気なモノ作り中小企業と地域経済

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製造業の誘致に加えて、元気な中小企業をいかに地域に育てていくかも地域にとって重要である。いかに誘致に力を入れたとしても、大企業の地方への進出が全国一律で進むとは考えにくい。しかし、地場の企業が独自に成長すれば、地域のモノ作りの力の底上げにつながる。

中小企業は全国で587万社(06年度)を数え、企業数では全体の99.3%、従業員数では86.0%を占めている。地域の中小企業が元気であれば、地域経済全体の雰囲気も明るくなると考えられる。先に見たとおり、中小企業の景況感はここ1~2年横ばいで推移しているなかで、ここでは特に元気な中小企業を取り出してみる。

中小企業庁では、全国で活躍する独自の高い技術を持つ中小企業を06年からリストアップしており、1年で300社、現在(07年)までのところ600社が元気な「モノ作り中小企業」として認定されている。中小企業のうち製造業に従事する企業は全国で約54万社であるので、選定率は0.1%程度と極めて低いものの、その成功体験は示唆に富む。

600社の分布を都道府県別に並べてみると、東京都、愛知県、大阪府が突出している。これらの3都府県は人口、企業数が多いため、元気なモノ作り企業が多いのもある意味では当然と言えるかもしれない。しかし、都道府県の人口当たりの企業数をみると、北陸3県と和歌山県、山梨県が上位5位となり、様相が異なってくる。また、中小企業の製造業に占める比率をみると、鳥取県、和歌山県、富山県、徳島県、佐賀県が上位5位となり、地方圏が顔を出してくる(第3-4-9図)。

第3-4-9図 元気なモノ作り中小企業の分布

第3-4-9図

(備考) 1. 総務省「国勢調査」、中小企業庁「元気なモノ作り中小企業300社2006年版、2007年版」により作成。 選定企業数は2か年の合計。
2. 中小企業数は、総務省「事業所・企業統計調査」より従業員規模300人未満を抽出。

(1)元気なモノ作り中小企業が出現するには

元気なモノ作り中小企業が出現するために必要な、環境的な条件はどのようなものだろうか。選定企業と製造業比率との相関をみると、製造業比率の高いところほど、選定企業の比率が高くなるという傾向がみられるものの、その関係はごく緩やかであり、製造業の集積が元気なモノ作り中小企業を発生させるための条件になっているとまでは考えにくい。

むしろ、こうした企業はどの地域にいるかというより、その画期的な発想が故に、綺羅星企業になる可能性を秘めているといっても良い。選定理由をみると、世界・国内で高いシェアを誇っていたり、ニッチ分野に特化していたり、といった特色がある。大企業の手がけないような分野に特化することで、結局はその分野のシェアを高めることが出来る。

元気なモノ作り中小企業が出現するためには、ある程度の時間が必要である。選定企業の設立年をみると、1950年代、60年代といった高度成長期の設立が最も多い。中小企業は長い年月をかけて、自分の技術を開発・深化させて行ったとも考えられる。2000年以降に設立された企業も10件あり、発想の独自性が新たな分野の開拓につながっていると言える。01年に設立された鳥取県の会社では、ペットボトルのキャップなどを原料に、リサイクル建材を開発し、環境意識の醸成に一役買っているほか、04年に設立された山形県の会社では、複雑な構造を持つ、ロケットエンジン噴射口の研究開発を進め、オンリーワン企業への道を歩んでいる。

また、元気なモノ作り企業の中には、地元の素材を上手く活用することで、成長を遂げたところも少なくない。例えば、北海道のある会社では、地域資源である「鮭皮」からコラーゲンを抽出・精製することに成功し、食品や化粧品などに付加価値をつけて販売している。また、和歌山県にある会社でも、県の特産品の梅22を使って、梅果汁や梅酒、梅肉エキスを製造販売しており、梅果汁の出荷量は80%のシェアを誇っている。

伝統産業に新たな価値を見出した例もある。愛媛県今治市では、地場産業のタオル産業が価格の安い中国製品などに押されて、生産量が97年から06年にかけて65%も減少するなど、危機に瀕している。そうしたなかにあって、枯葉剤を使わない綿を使い、風力発電を利用するなど、環境に優しいタオル(「風で織るタオル」)を手がけている会社は、バスタオル(72cm×145cm)が1枚3,360円と非常に高価ながら、世界市場で支持を受けている(第3-4-10表)。

第3-4-10表 元気なモノ作り中小企業 -地域資源を活用している企業例-

2006年
企業名 都道府県 内容
企業A 北海道 開拓の歴史において、農耕、炭鉱などに重要な役割をはたした馬。その馬具作りを引継ぎ、競馬用の鞍やカバンなどを手掛ける。
B 広島県 200年の筆製造の伝統技術を応用した化粧筆を開発。有名ブランドに採用されるなど世界シェア60%。
2007年
企業名 都道府県 内容
企業C 北海道 酪農家の負担軽減のため、乳牛の給餌を機械化し、酪農業の経営強化に貢献(50頭に5時間掛かっていたのを15分に)。
D 北海道 地元の素材にこだわった高品質のお菓子を開発。夕張メロンを使ったゼリーやとうきびを使ったチョコなどが有名。
E 北海道 地域資源‘鮭皮’からコラーゲン(タンパク質の一種)を抽出・精製。食品、化粧品、研究試薬として付加価値をつけ販売。
F 北海道 地域に豊富に植生された針葉樹を用いた、構造用合板の製造。森林組合と植林の供給システムを確立し、地域と一体化。
G 岩手県 地元の伝統工芸品‘南部鉄器’に改良を加え、錆びにくい鉄器の開発に成功。
H 山形県 日本最古の工芸鋳物山地‘山形鋳物’を伝承し、時代に合った商品を生み出す。
I 群馬県 群馬県産の絹を使い、絹糸を繭の状態で染色する技術を開発。これまでにない色合いの絹糸を創りだす。
J 福井県 地場産業である‘メガネフレーム’の開発に取り組む。世界100カ国にネットワークをもち、国内最大規模の生産高。
K 京都府 京都の伝統産業‘金銀糸’の製造技術を活かし、フラットパネル用や回路基盤用などに用いる高性能フィルムを製造。
L 和歌山県 県の特産物‘梅’を素材とした梅果汁、梅肉エキスを製造販売。梅果汁の出荷量は80%。
M 鳥取県 千年の歴史を持つ‘因州和紙’の伝統を継承し、抗菌壁紙、立体漉き和紙などの技術を確立。
N 島根県 全国的にも有名な石見地方の‘石州瓦’に改良を加え、赤褐色以外の色を発現させたるなど、深みと落ち着きのある瓦を実現。
O 広島県 国内最大の筆の産地である熊野町で、800アイテム以上の化粧ブラシを製造。自社ブランドを国内外で確立。
P 愛媛県 今治伝統のタオルを活用し、環境と人間に優しいブランドを確立。1枚3,360円のタオルは厳しい安全規格をクリアし世界市場で支持。
Q 愛媛県 紙どころ四国においてメーカーニーズを的確にキャッチし、全自動巻取ロール放送機は日本一の生産量など、なくてはならない存在。
R 鹿児島県 膨大なシラス(火山灰)が堆積している県内でシラス活用の研究を重ね、緑化基盤材として工業資源化に成功。
(備考) 中小企業庁「元気なモノ作り中小企業300社2006年版、2007年版」等により作成。

さらに、地場産業で培った技術を応用し、発展させた事例もみられる。福井県はメガネ枠が地場産業として名高い。ある企業は当初はメガネ枠に使う鉄やチタン製部品の加工機械を製造していたが、切粉を出さずに材料歩留まりが良いという特徴を自動車部品に応用し、販売を伸ばしている。

元気なモノ作り中小企業は、中小企業であるが故に、地域の雇用創出には、大規模な誘致工場ほど貢献しないかもしれない。しかし、こうした元気な中小企業が地域に積み重なり、地域の産業に広がっていけば、地域のモノ作りの基盤に厚みが増し、ひいては地域経済活性化の一助になると考えられる。


22.
和歌山県は、梅の生産量日本一である(05年)。

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