第2章 第3節 4.人的資本と労働生産性

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さらに、地域における人的資本の差異も労働生産性を決定する一因になっていると考えられる。

高等教育修了者には、人的資本が蓄積されているとみなすと、高等教育修了者比率の高い地域、すなわち人的資本が蓄積されている地域ほど労働生産性が高いという関係がみられる9。10年前と比較すると、その関係はやや弱まっているものの、依然としてその関係は有意である(第2-3-3図)。

第2-3-3図 人的資本(高等教育修了者)と労働生産性

第2-3-3図

(備考) 1. 内閣府「県民経済計算」、総務省「就業構造基本調査」により作成。
2. 点は都道府県。
3. 高等教育終了者比率=短大、高専、大学、大学院卒の有業者/15歳以上の有業者×100

一方で、大学進学率は1人当たり県民所得の高い地域ほど高いという関係もみられる(第2-3-4図)。大学進学には学費に加えて、親元を離れる場合には仕送り金が必要になるなど、多額の費用がかかることから、進学に当たってはそれなりの収入を得ていることが必要になるからである10。よって、所得の高い地域の方が、大学進学に関して有利になるという傾向は否めない。所得の低い地域では、大学進学率が相対的に低水準にとどまっており、県外就職比率なども鑑みると、人的資本の蓄積には困難があるのが現状である。

第2-3-4図 1人当たり県民所得と大学進学率(東京都除く)

第2-3-4図

(備考) 1. 内閣府「県民経済計算」(04年度)、文部科学省「学校基本調査報告書」(06年度)により作成。
2. 点は道府県。

人的資本の形成は、学歴に加えて、職歴も重要な要素になると考えられる。長年の経験と知識の積み重ね、つまり熟練が生産性の向上をもたらす。そこで、都道府県ごとの勤続年数をみると、高等教育修了者の比率ほど差があるわけではない(第2-3-5図)。

第2-3-5図 都道府県の勤続年数のばらつき

第2-3-5図

(備考) 厚生労働省「就業構造基本調査」、「賃金構造基本統計調査」により作成。

9.
なお、第2-3-3図は、労働生産性が高いために(=1人当たりの所得が高い)、高等教育修了者比率が高いという逆の因果関係も考えられるが、この図における高等教育修了者割合は、調査時点における当該県の人が高等教育を修了している比率であり、当該県の大学進学率ではない。所得と大学進学率の関係は第2-3-4図でみている。
10.
様々な奨学金制度は充実しているものの、進学を決意する段階で、収入の多寡はかなり大きく影響すると思われる。

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