第2章 第2節 3.地域の生産要素の流出
視点を変えて、地域経済を構成する生産要素-具体的には人口面と資金面-を確認する。
(1)若者の流出
ある世代を固定して、都道府県ごとの人口の変化を見てみよう。具体的には2000年の15~19歳人口と05年の20~24歳人口を比較する。自然減6を除けば、国内外への移動と考えられる。
増加がみられるのは南関東の4都県と、京都府、愛知県、大阪府、滋賀県、福岡県にとどまり、残りの38道県では減少している。減少率が最も高いのは秋田県(△26.3%)、次いで島根県(△25.4%)、長崎県(△25.0%)、宮崎県(△23.6%)、和歌山県(△22.4%)となっている(第2-2-11表)。
第2-2-11表 若年人口の変化
(単位:人)
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(備考) | 総務省「国勢調査」により作成。 |
若年人口の増減に差が生じている要因としては、他県への進学や就職が考えられる。06年3月のデータによると、高卒の県外就職率(=県外企業への就職者/高卒就職者)が高いのは、鹿児島県(44.6%)、青森県(44.2%)、長崎県(44.1%)、佐賀県(42.5%)、高知県(42.3%)となっている。県外就職率は、高卒新卒者の求人倍率と逆相関になっており、求人倍率の低いところほど、県外就職率が高いという関係がみられる(第2-2-12図)。地元で就職したくても、仕事がないために他地域に就職せざるを得ない状況にあると考えられる。
第2-2-12図 高校新卒者の県外就職率と有効求人倍率(東京除く、06年3月)
また、全国レベルで県外進学率を示すデータは見当たらないことから、逆の概念として、県内進学率(県内大学への入学者に占める大学の所在地出身者数)をみることにする。県内進学率が低いところほど、県外からの進学者が多いことを意味する。南関東4県や滋賀県、京都府では県内進学率が低く、他地域から学生を誘引していると考えられる(第2-2-13図)。この要因もあってか、これらの都府県では2000年から05年にかけて若年人口が増加している。
第2-2-13図 大学 県内進学率(06年度)
(備考) | 1. | 文部科学省「学校基本調査報告書」により作成。 |
2. | 県外就職率=県外企業への就職者/高卒就職者 | |
3. | 県内進学率=大学の所在地出身者/入学者数 | |
4. | 上図の点は、道府県。 |
さらに、南関東への流入を年齢別にみると、85年から90年にかけても、95年から2000年にかけても、地方圏からの流入はいずれも20~24歳が全体の3割超を占めている。特に地方圏からの流入について、この2期間の変化をみると、15~19歳の流入が2%ポイント程度低下した一方で、25~29歳、30~34歳の層が2%ポイント程度上昇しており、流入人口の年齢階層がやや高まっている。これは、就職先として南関東へ流入する層がやや多くなっていることを示しているとみられる(第2-2-14図)。
第2-2-14図 年齢別にみた南関東への人口流入
(備考) | 総務省「国勢調査」により作成。 |
(2)資金の流出
地方には資金が不足していると言われることがあるが、統計データをみると必ずしも資金が不足しているわけではないことが分かる。
預金と貸出金の比率(預貸比率)をみると、地方圏では、80年代以降ではおおむね全期間を通して全国平均を下回っており、大幅な預金超過となっている。これに対して、南関東はおおむね全期間を通して、また近畿では90年代においては、貸出超過となっている(第2-2-15図)。
第2-2-15図 3大都市圏と地方圏の預貸比率
(備考) | 1. | 日本銀行「金融経済統計」により作成。 |
2. | 国内銀行とは、都市銀行、地方銀行、第二地方銀行、信託銀行、長期信用銀行であり、 日本銀行、政府関係機関、外国銀行在日支店を含まない。 |
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3. | 各年はそれぞれの3月末残高。 |
ここから読み取れることは、地方で集められた資金が、地方の資金需要の不足のために、地方では利用されず、都市圏に吸収され、そこで利用されているということである。
なお、金融機関の仲介を通さず、寄付というような形で地域の資金需要を満たそうという動きもみられる(これは次章で紹介する)。
6. | 厚生労働省「人口動態統計月報年計」によると、15~19歳人口の10万人当たりの死亡率は27.6人(05年)である。 |