第2部 第2章 2.アンケートの概要
(1)今回の調査の趣旨
以上のような流れの中で、指定管理者制度は施行から3年の経過期間が過ぎ、制度の定着が進んでいるところである。
この制度が制度設計の趣旨どおりの効果を発揮するためには、制度自体が効率性を確保する必要性があると考えられる。
こうした趣旨に立って、内閣府では都道府県、県庁所在地の市、政令指定都市において、公募による選考を経て指定管理者となった事業者を対象にアンケート調査を行った(6月5日~7月3日)。既存の調査が業務を委託する地方自治体を対象としていたのに対して、今回のアンケートは、業務を請け負っている団体に直接聞いたことがポイントである。直接聞くことによって、実際の声を拾うことが出来ると考えたためである。また、公募による選考を経た団体に絞り、競争条件が民間事業者と公的団体の間で公平さが確保されているかを検証した。
対象となったのは連絡先等が確認できた1,583団体である。同一団体が複数の施設を担当している場合もあるため、対象となる施設数は2,412施設である。回答団体数は734団体、回答率は46.4%であった。
以下では、公募による選考を経た場合民間事業者の参入が増えたのか、民間事業者が参入するに際の問題点は何か、参入後にどのような効果が表れたか、今後も業務を継続する意思があるか、などを調査することで、制度導入によるメリットや運営上の問題点などを指摘する。
(2)既存の調査からみえること
指定管理者制度を調査したものは先行していくつか存在しており、そこからみえることを少しまとめておこう。04年以降、おおむね毎年調査が行われている(04年総務省、05年みずほ情報総合研究所、三菱総合研究所、06年日経グローカル)。
調査対象は地方公共団体である。いずれの調査においても都道府県は対象となっているが、市区町村の調査範囲は調査によって様々である。
指定管理者の団体属性をみると、調査時期が最近になるにつれて、公益団体の占める割合が低下している。同様に民間企業の占める割合も低下しているものの、「その他」の割合が高くなっている。「その他」には民間企業を含む共同企業体3が入っており、1企業が単独で参加するわけではなく、共同体として参加する方式が増えていると言える。
また、04年で半数弱が公募によって選定されており、調査の対象・やり方、実施時期によって差はあるものの、最低でも30%程度は公募方式が活用されている4。
第2-2-1図 既存調査による指定管理者の団体属性 |
第2-2-2図 既存調査による指定管理者選定時の公募実施割合 |
(3)施設の区分
今回の調査において、指定管理者制度の対象となっている施設をみると、最も多いのは公民館や生涯学習センターのような社会施設である5。次に体育館やプール、運動場などのスポーツ施設に都市公園、レクリエーション施設などが続く。逆に少ないのは、公営住宅や医療・福祉施設である6。
屋内・屋外という括りにすると、屋内が6割強、屋外が4割強となっている。
第2-2-3図 指定管理者制度導入施設の種類と立地 |
(4)公募方式でも公共系が約半数を占める
対象となっている2,412施設の指定管理者の属性をみると、公募方式を取っているものであっても、半数近くが財団法人や社団法人等、元々当該施設を管理していた公的団体が占めている。民間団体は民間企業、NPOを足し上げて、約3割となっている。
また、共同企業体での参加は15%ほどであり、その過半が民間企業のみで構成されている。ただし、公的団体と民間企業から構成されているものも2割近くとなっている。
なお、共同企業体で参入した理由としては、単独の参入ではノウハウが不十分であるという回答を挙げる団体が多くなっている。これは後述の設問で参入理由として「自社のノウハウが活かせる」という回答が多いことと矛盾するようにも思えるが、施設管理の仕事に自信を持っていても、公共の仕事を担うことに対する不安が表れているためであろう。
また、共同企業体での参入のほうが公募を勝ち取るのに優位と考えられている面もあり、特に民間企業でその割合が高くなっている。
第2-2-4図 公募方式で指定管理者となった団体の属性 |
第2-2-5図 共同企業体として参入した理由 |
(5)民間企業の内訳
今回のアンケートで対象となっている民間企業は計725社である。
産業別の内訳をみると、サービス業が約半数を占めており、次いで建設業が20%程度、不動産業が10%程度となっている。サービス業をさらに細かくみると、建物サービス業を営んでいる企業が約半数、スポーツ施設提供業、警備業、事業サービス業を合わせて25%程度となっている。施設管理と日ごろから密接な関係にある企業が参入を果たしている。
また、企業規模をみると、総従業員数50人未満の中小企業が約半数を占めており、300人以上の大企業が20%程度と少ない。指定管理者制度は大企業よりも小回りの効く中小企業のほうが参入しやすいのかもしれない。
第2-2-6表 産業別・企業規模別の内訳 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
産業別 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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サービス業(他に分類されないもの)内訳
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企業規模別 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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(6)施設別の民間の参入度
施設別・業態別の参入度をみよう。民間企業単独での参入度をみると、駐車場や駐輪場などへの参入は5割を超えており、福祉施設への参入も3割程度となっている。その他はおおむね2割程度は参入を果たしている。NPOは、公民館や生涯学習センターなど社会施設への参入は1割強となっている。共同企業体は上下水道施設、都市公園、スポーツ施設で比較的多い。
これに対し、公共団体は多くの施設で半数程度以上のシェアを保っており、件数は少ないものの医療・保健施設では8割、図書館や博物館のような文化施設では6割、都市公園やスポーツ施設で5割程度のシェアを占めている。
制度発足当初としては、民間企業もある程度は参入を果たしているが、施設別にみると、まだまだ参入の余地があるということである。
第2-2-7表 各施設指定管理者の属性別内訳 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
(%) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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(7)本業と指定管理者
指定管理者に選出された民間事業者は、その本業と指定管理者の業務に何らかの相似点はあるのだろうか。産業別の分類で多いものをみてみよう。
建設業は共同企業体として参入しているケースが多い。単独で参加したものをみると、半数ほどが都市公園であり、次いでレクリエーション施設、スポーツ施設、駐車場・駐輪場などが続く。やはりハコモノ系が多いが、福祉施設への参入も1件あった。
建物サービスは単独での参入が多くなっており、文字通り建物サービスに強さを発揮している。体育館やプール、運動場等のスポーツ施設、公民館などの社会施設、レクリエーション施設などで半数近くを占める。また、建物には直接関係ないような都市公園や駐車場にも参入を果たしており、これらへの参入は比較的本来業務と関係ないところでも参入できそうである。
不動産も単独の参入が多く、駐車場・駐輪場が約半数を占める。警備も駐車場・駐輪場が約半数を占める。スポーツ施設提供は、当然のごとくスポーツ施設への参入がほとんどである。
民間事業者の指定管理者への参入理由として、「自己のノウハウを活かせるから」という回答が最も多かったが(後述)、まさにその本業との一致性が読み取れるところである。
第2-2-8表 民間事業者上位5業種の参入施設(単独参入案件のみ) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
(件) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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(8)指定を勝ち取った団体は近場が多い
団体の立地をみると、管理施設の同一市内が3/4程を占めており、「施設」と「管理」は距離的に密接している。同一県内にまで広げると90%強となり、県外は10%に満たない。
公募段階の地域要件の設置は、設置ありが50%弱と、条件のなかった団体のほうが多い。
中身をみると、本社又は主たる事業所を指定するものが30%強、本店又は事業所、営業所が60%強となっている7。中には、「地域内における一定の管理運営実績」や「構成員の過半数を地域内住民とする団体」を要件とするものもあり、他地域からの新規参入はほぼ不可能となる。
公共投資においては、規制改革・民間開放推進3か年計画(改定)(05年3月・06年3月閣議決定)で「過度に競争性を低下させる運用とならないよう、国において、地方公共団体における地域要件の設定の在り方についての基本的な考え方を検討し、その結果を地方公共団体に対して周知する」などとされ、総務省は「適宜検討」していく考えを明らかにしている。指定管理者制度においても、公共投資の地域要件の検討状況を参考にすべきであろう。
ただし、地域要件を課していなくても、選ばれているのは至極近いところに立地している団体であり、地元企業にとっては新しい市場が広がることで、ビジネス拡大の好機と言える。その際、行政は施設の管理を地元企業が行ったほうが良いという明確な理由を示すべきであろう。
第2-2-9図 指定管理者と管理施設の立地関係 |
第2-2-10図 公募段階での地域要件の有無 |
第2-2-11図 具体的な地域要件 |
(9)参入の理由
指定管理者への参入理由としては、属性を問わず、自己の「ノウハウの活用」を挙げるところが70%近くと最も多かった。民間企業や公的団体では「仕事量の確保」を理由に挙げるところが50%近くとなっているものの、「十分な収益を見込んで」参入を決定したところは民間企業ですら10%程度にとどまる。ここから、「仕事はあれど、儲けはなし」という状況が見える。
また、「ノウハウの活用」を挙げているのは民間企業が最も多く、自信の表れと言えよう。
また、公的団体では「従前から担当しているから」や「団体の設立趣旨」を挙げるところが2割を占めており、今更「新規参入」ではないという態度がうかがえる。
なお、民間企業やNPOでは「公共サービスへの興味」を挙げるところも多く、公的市場の開放に対する期待感が見られる。
第2-2-12図 公募への参入理由 |
3. | 本稿では、公共団体が参加する事業体についても「共同企業体」としている。 |
4. | 日経グローカルでは施設単位で公募か非公募かを認定しており、みずほ情報総合研究所では自治体ごとに公募か非公募か、公募・非公募の併用かを認定している。 |
5. | 公民館などは市の中の区に1つずつ配置されていることも多く、数が底上げされているきらいもある。 |
6. | 本調査では、複数施設を一括委託する場合、1件として集計していることに留意する必要がある。 |
7. | 地域要件の設定に関する既存の調査結果では、制限なし49.8%、制限あり50.2%とほぼ今回のアンケート結果と同様(日経グローカル、2006年4月)。具体的な要件は、地元本社15.5%、地元事業所71.9%となっている。 |