第1部 2.企業部門の回復
(1)生産の回復
今回の景気回復局面は輸出の回復に伴って、鉱工業生産の持ち直しが続いたことから始まったものである。その後、04年秋ごろから各地域で電子部品・デバイス工業の生産が減少したことは、各地域の景況感に大きな影響を与えた。
しかし、電子部品・デバイス工業の生産は、05年7-9月期から10-12月期にかけて、全地域で再び増加に転じた。電子部品デバイス工業の調整は、地域によって、調整速度に差がみられたものの05年秋くらいにはおおむね全地域で終了していたと言える。また、自動車、船舶はともに輸出が好調となっており、これらを合わせた輸送機械も堅調な動きとなっている(第1-2-1図)。
生産の好調さは06年秋現在、全地域に浸透しており、上記2業種に加えて、一般機械や電気機械、化学などにおいても堅調な動きとなっている。
第1-2-1図 各地域の生産に占める電子部品・デバイスと輸送機械の寄与度 -05年後半には電子部品・デバイスが各地で増加し、調整局面を脱出- |
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05年7-9月期 |
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05年10-12月期 |
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(2)地域でも進む「3つの過剰」の解消
バブル経済崩壊以降、日本経済が低迷から中々脱出できなかったのは、いわゆる「3つの過剰」の解消が中々進まなかったことが要因として挙げられる。すなわち、「設備の過剰」、「雇用の過剰」、「債務の過剰」である。日本全国ベースでは今年度の経済財政白書で分析しているように、解消が進んでいるが、地域別にみるとどうかを検証する。
設備過剰感をみると、直近の06年7-9月期は、景気の谷(02年1-3月期)の頃と比較して1、全地域で過剰感が解消の方向へ向かっており、多くの地域がゼロ近傍となっている。中でも、四国は過剰超・不足超がゼロとなっており、東海、九州に至っては設備不足感すらみられるようになっている(第1-2-2図)。
第1-2-2図 設備過剰感 -景気の谷と比較して、全地域で設備過剰感が解消へ- |
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06年度の設備投資計画をみると、05年度の実績に引き続き、多くの地域で前年度を上回る計画となっている。各地でも設備投資の大型案件が続々と表明されており、その中身としては、新工場の設置や能力増強投資が目立つようになっている。ただし、北海道では過剰感の解消はさほど進展しているわけでもなく、06年度の設備投資計画をみても、前年度大きく伸びた反動はあるにせよ、前年を下回る計画となっている(第1-2-3図)。
第1-2-3図 設備投資計画 -製造業を中心に設備投資が増加- |
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(1)05年度実績 |
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(2)06年度計画 |
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雇用の過剰感をみても、全地域で改善が進んでいる。北海道・沖縄を除く全ての地域で雇用の不足感もみられている。北海道は過剰感がゼロとなっており、沖縄も過剰感が縮小に向かっている(第1-2-4図)。
第1-2-4図 雇用過剰感 -景気の谷と比較して、全地域で雇用過剰感が解消、多くの地域で人手不足感- |
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債務の過剰は解消が進んでいるのだろうか。財務省「法人企業季報」2で地域別の有利子負債キャッシュフロー比率をみると、データが公表されているところ3では、02年度と比較して低下している。ただし、低下幅には地域差がみられ、北海道や九州では比較的小幅の低下にとどまっている(第1-2-5図)。
第1-2-5図 有利子負債・キャッシュフロー比率 -3年前と比較して、いずれの地域でも債務の過剰が解消方向- |
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(3)厚みを増す地域の成長企業
1)着実に増加を続ける成長企業
02年の景気の谷からの景気回復局面において、着実に売上を伸ばした企業の状況をみてみることにする。以下では、(株)帝国データバンクの企業概要ファイルを基に、売上を順調に伸ばしている企業4を「成長企業」と呼び、02年と直近年の比較から地域別の状況などを分析する。
第1-2-6表は、成長企業数などを02年と05年を比較したものである。成長企業数は全体では43.7%増の21,161社となっている。業種別には製造業(2.3倍)、金融・保険業(84.7%増)で大幅に増加しているほか、卸小売・飲食店(39.4%増)、運輸通信業(37.3%増)などほとんどの業種で増加を示している。しかし、建設業(5.9%増)では公共事業抑制の影響などから増加幅が小さくなっている。
また、従業員数も約191万人と02年に比べ51.4%増となっている。業種別では製造業(3.0倍)が企業数同様に大幅な増加となっているが、金融・保険業(10.7%減)は減少となった。このほかの業種では運輸通信業(46.7%増)で大幅に増えているほか、多くの業種で増加となった。
なお、1社当たりの従業員数でみてみると、全産業では4人増(5.3%増)の90人となっている。製造業で33人増(35.6%増)と大きく増加しているほか、建設業が4人増(11.0%増)、運輸通信業が7人増(6.8%増)と増加したものの、卸小売・飲食店で10人減(15.5%減)など多くの業種で減少している。
第1-2-6表 業種別成長企業の推移(02年→05年) -製造業が大幅に増加- |
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2)産業構成により違いをみせる地域の成長企業
第1-2-7表は、地域ごとの成長企業数の02年から05年の増減率を示したものである。企業数は沖縄を除く各地域で増加しており、北関東(50.6%増)、東海(68.2%増)、北陸(91.2%増)、近畿(59.3%増)、中国(45.1%増)の5地域で全国平均(43.7%増)を上回っており、特に北陸、東海で大きく増加している。その他の地域でも20~30%台の増となっており、各地で業績を上げている企業数が増えている。一方、沖縄は02年に比べ17.0%減と唯一成長企業数が減少した。
また、成長企業の就業者数の増加率も同様に、東北(59.0%増)、北関東(104.6%増)、北陸(129.5%増)、近畿(90.3%増)、中国(66.4%増)、九州(62.6%増)で全国平均(51.4%増)を上回り、それ以外の地域でも30~40%台の増となっているものの、企業数が減っている沖縄だけが5%減となっている。なお、1社あたりの従業員数でみてみると、東海で14人減(14.1%減)となったものの、北関東、九州、北陸などで大きく増加している。
第1-2-7表 地域別成長企業の推移(02年→05年) -北陸、東海で大幅に増加- |
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各地域で成長企業の数にばらつきがみられるのはなぜだろうか。
05年の成長企業の傾向は、製造業が倍以上に増加しているのに対して、建設業はわずかな増加に留まっていることが挙げられる。これは、地域の産業構造の違いが成長企業の増加率に影響を及ぼしていると考えられる。
そこで、各地域の県内総生産に占める各産業の生産額の割合と成長企業数の関係をみることにする。第1-2-8図は、県内総生産に占める製造業、建設業の割合と02年から05年の成長企業の増減率をプロットしたものである。製造業では、県内総生産に占める製造業の割合が高いほど成長企業数が増えており、正の相関がみられる。一方、建設業では県内総生産に占める割合が高いほど成長企業数増減率が低くなる負の相関がみられる。
これを地域別にみてみると、成長企業数の増加率が全国平均を大きく上回った北関東、東海、北陸では製造業の比率が高い一方で建設業の比率は比較的低くなっている。また、近畿も製造業の比率が比較的高く、建設業の比率が全地域で一番低い。全国平均を下回った北海道、南関東、九州では比較的製造業の比率が低い。南関東、九州は建設業の比率がそれほど高くないことから、30%台となった一方で、北海道は建設業の比率が全地域で一番高いことなどが成長企業数の増加に影響して20%台になったと思われる。唯一減少となった沖縄は製造業比率が最も低いうえに建設業、サービス業の比率が高いことが原因と考えられる。
第1-2-8図 成長企業増加率と県内総生産比率との関係 -製造業比率の高い地域ほど、成長企業数も増加- |
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(1)製造業 |
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(2)建設業 |
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さらに、製造業でも、業種ごとのウェイトによって地域ごとの成長企業に違いがみられている。製造業の増加寄与度を業種別にみると、一般機械器具製造(38.9%)、鉄・非鉄金属製造(21.6%)、電気機械器具製造(21.1%)、金属製品製造(18.3%)で高くなっている(第1-2-9表)。特に増加寄与度の大きい一般機械器具製造について、地域別の状況を調べてみる。第1-2-10図は、地域別の一般機械器具製造の製造業に占める割合を示したものであるが、各地域で構成比が上がっているが、成長企業数の増加率でダントツの伸びを示した北陸が大幅に増加していることがわかる。一方、北海道では、構成比自体が小さいうえに、構成比もそれほど大きく変動しなかったことから、成長企業数の伸びが他地域に比べ低調だったことが伺える。
第1-2-9表 製造業の業種別増加寄与度 -一般機械の寄与度が最も高い- |
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(%) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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(備考)(株)帝国データバンクの企業概要ファイルを用いて内閣府にて作成。 |
第1-2-10図 業種別構成比の変化(一般機械製造) -北陸は3年前と比較して、一般機械の構成比が大幅に伸長- | |||||
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これまでみてきたように、地域ごとの産業構成の違いにより、成長企業数には大きな違いが出ているが、景気回復とともに製造業を中心として企業の業績は上がっている。成長企業の大幅な増加をみると、地域の成長企業に厚みが出てきたものといえる。
(4)中小企業への波及
中小企業の景況感をみると、景気の谷の時期(02年1-3月期)と比較して、直近の06年7-9月期では全地域で景況感が改善している。ただし、景況感の水準をみると未だにゼロより下にあり、厳しいと感じる企業のほうが多いことが示されている。
改善の幅をみると、関東、中部、近畿は20ポイント以上改善しているのに対して、九州では10ポイント程度の改善にとどまるなど、地域差がみられる(第1-2-11図)。これは製造業の改善度に差があるためと言える。中でも中部の製造業は突出しており、地域経済の好調さが中小企業にも波及していることがうかがえる。非製造業の改善は製造業ほどの地域差はなく、これは各地ともに建設業や輸送業など、恒常的な不況業種を抱えるためであると言える。
第1-2-11図 中小企業景況判断DIの改善幅(02年1-3月期→06年7-9月期) -景気の谷と比較して全地域で景況感が改善、ただし水準は水面下- |
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中小企業業況判断DI(06年7-9月期) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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(備考)中小企業基盤整備機構「中小企業景況調査」により作成。 |
一方で、地域別にみて、大企業と中小企業の景況感の差は縮小しているのだろうか。「法人企業景気予測調査」によると、直近の06年7-9月期の景況判断BSIは大企業が全地域で上昇となっている一方、中小企業は全地域で下降となっている(第1-2-12(1)図)。同調査はここ2年分しかデータが存在していないため過去の回復局面との比較はできないが、1年前と比較すると、東北、北陸、近畿、北・南九州で景況感の差は縮小してきている(第1-2-12(2)図)。しかし、残りの地域はむしろ差が拡大しており、地域によって、景況感の差の方向性にはばらつきがある。
第1-2-12図 法人企業景気予測調査 景況判断BSI | |||||
(1)06年7-9月期 -大企業は全地域で上昇、中小企業は全地域で下降- |
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(2)大企業と中小企業の景況感の差 -1年前と比較して、景況感の差が縮小したのは東北、北陸、近畿、北・南九州- |
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また、従業員数の過不足感をみると、全地域で大企業、中小企業もともに総じて不足気味となっている。その中で、中小企業のほうが人手不足感を訴える地域もあり(関東、北陸、近畿、中国、北部九州)、大企業と中小企業の差は一面的ではない(第1-2-13図)。
第1-2-13図 法人企業景気予測調査 従業員数判断BSI | |||||
(1)06年7-9月期 -全地域で企業規模を問わずに人手不足感- |
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(2)大企業と中小企業の景況感の差 |
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最後に設備投資計画をみると、大企業・中小企業ともに06年度の計画が前年を上回る見込みとなっているのは東北、東海、中国、四国である。北海道、近畿は2年連続で前年割れの計画となっている(第1-2-14図)。ただし、景況感の方向性と設備投資計画は必ずしも一致せず、四国の中小企業は先行きに対して非常に厳しい見方をしているにもかかわらず、設備投資には積極的である。
第1-2-14図 法人企業景気予測調査 設備投資 -06年度は東北、東海、中国、四国で、企業規模を問わず設備投資が増加の見込み- |
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北海道 |
東北 |
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関東 |
東海 |
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北陸 |
近畿 |
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中国 |
四国 |
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北九州 |
南九州 |
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1. | 日本銀行の短期経済観測調査は04年3月調査から、調査設計の見直しが行われており、比較には注意を要する。 |
2. | 地域別に集計されているのは、資本金1億円以上の企業である。 |
3. | 東北、東海、北陸、四国、沖縄地域は文書の保存年限が過ぎているという理由のため、データが存在しない。 |
4. | 各年2月現在の(株)帝国データバンクの「企業概要ファイル」に収録された企業の中から、次の条件に該当する企業を抽出した。1)各企業の決算期において、最新期と前期の2期(2年)連続で売上高が10%以上伸びていること、2)法人であること、3)最新決算期において売上高が5億円以上であること、4)従業員が1名以上であること。 |