第1部 第2章 第1節 グローバル化に適応する地域の製造業 4. まとめ
4.まとめ
(1) 一定の方式がみえるグローバル化への対応
これまでグローバル化に対応しつつ、成功を収めている企業群を見てきた。成功の要因とこれらから得られるインプリケーションは何であろうか。
技術が勝負
まず、いずれの企業も世界に誇れる独自の技術を有していることである。技術開発に対する飽くなき探究心、その陳腐化を恐れる危機感が企業の競争力の源泉である。海外市場に進出するということは、海外の同業種の企業と対抗するということでもある。独自の技術を有していれば、し烈な競争に打ち勝つことができると言える。
分野の選択がカギ
これは企業が取り扱う分野の選択にかかってくる。つまり、潜在的な成長の高い分野に目を向けて、そこにいち早く資源を投入することで、技術を確立してしまうということ、「先行者の利益」を得ることが重要と言える。
また、取り扱う分野に対する変わり身の早さも指摘できる。地場産業から転換して成功を収めている企業は、その地場に培った技術をもとに、それを活かしながら成長の見込める分野に転換している。また、中小企業では、大企業が参入してもうまみの薄い、いわゆるニッチ市場を開拓して、そこに資源を投入し続けることで、他の追随を許さない技術を確立しているとも言える。
市場を求めて海外進出
グローバル化への対応をみたときに、これら成功企業に共通して言えることは、単なる「コスト削減目的」の工場の海外移転をにらんだ海外進出では決してないということである。市場を求め、市場のあるところで生産するという市場対応・適地生産型の海外進出が目立つ。国内市場で存在感を示した上に海外市場に進出することで、その企業の市場規模は拡大する。また、国内市場が低迷している場合や飽和状態にある場合でも、海外市場を考慮に入れて事業展開することで、事業リスクを軽減することができると言える。
製造のための基盤は国内に残留
また、競争力の源泉である開発部門や高級品の生産は国内に基盤を残し、普及品は海外、つまり、生産コストの安いところで生産するという、いわゆる生産のすみ分けも進んできている。技術の流出を防止するために、現在のところ海外生産は考えていないという企業もいくつかみられた。
ブランド化を図る
さらに、海外進出によって、ブランド名を確立し、それまで取引のなかった国内メーカーとの取引が成立し自社の国内市場が活性化することとなった、資金調達が容易になったという企業もみられた。ブランド化を図ることで、低価格化を阻止できるという効果もみられている。
人材育成への取組
技術が競争力の源泉であり、その技術の源泉である技術者、つまり人の養成に心がけている企業も多かった。企業の社内教育を充実させることや、産学官連携等の仕組みを活用するといった取組が目立った。デュアルシステムを導入した都立高校の生徒を区内企業が積極的に受け入れる大田区では、区ぐるみの人材育成に取り組み始めている。また、技術力を維持するためにも特許対策は欠かせない。
(2) 行政に求められるのは情報提供にとどまらない
実際に海外に進出した企業によると、市場拡大を意図した進出であっても、現地工場を建設するための進出であっても、進出にあたって大変な苦労をしている企業が目立った。行政による支援を希望する企業も目立った。
情報提供や相談の仕組みは既にJETROなどで整えられている。しかし、仕組みの存在自体を知らないという企業のために、情報提供の仕組みとその提供の仕方を再度見直すことが必要であろう。
また、大田区や諏訪・岡谷地域の自治体の取組は注目に値する。地域としてグローバル化に取り組むために、地域の企業をまとめて海外の見本市に出展することや、自治体が海外に常設ブースを開設して地元企業と海外企業とのマッチングを取り持つという自治体自らの営業行為である。これらの取組は、自治体にとっても企業の誘致にとどまることなく、地元企業の足腰を鍛えること、ひいては地域のリーディングカンパニーを育てることにもつながる。行政に求められているのは情報提供にはとどまらないのである。