第2部 第1章 第3節 デフレの中の地域経済

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1.デフレの地域別の状況

2001年から2002年秋にかけて、各地域でデフレの状況が続いた。このデフレについて地域別の状況を検討してみよう。

消費者物価指数をみると、すべての地域で2000年、2001年と2年連続で下落した。2001年の下落率をみると、近畿、九州、沖縄、関東、四国の順になっており、この5地域で全国平均の0.7%以上に下落した(地域区分はC)。四半期でみると、2001年4-6月期以降2002年4-6月期まで5四半期連続してすべての地域で前年比下落している。とりわけ2002年1-3月期の下落幅が大きく、全国ベースで1.4%(生鮮食品を含む)であったが、地域別には近畿、北陸、北海道、九州の順に大きくなっている。2002年4-6月期においては、すべての地域で前年比下落率は縮小しているが、近畿と北海道の1.0%を最大として下落が続いている。

しかもこれは、固定ウェイトの場合の下落率であり、実際には消費者の需要は単価の安いものにシフトしているため、百貨店やスーパーなどの消費の現場では、顧客当たりの売上金額(顧客単価)はさらに下落している。これによって、スーパーの売上高、企業の売上高が伸びない状況が続いている。

消費者物価では、商品・サービスの価格(フローの価格)についてみている。実際には、フローの価格だけではなく、地価、株価という資産の価格(ストックあるいはアセットの価格)の下落も続いている。その結果、土地の評価額も低下し、全国ベースでの土地評価損も大きなものになっている。1990年から2000年までの土地(民有地)の資産額は全国で864兆円減少した。1995年から2000年の期間をとっても、274兆円になる。この土地の評価損は、地域別にはどのようになっているのか。資産額の減少率と減少額を地域別にみてみよう(第2-1-11図)。

地方圏の地価は、大都市圏に比べて80年代の上昇は緩やかであったので、北海道を除き大都市圏よりも減少率はかなり小さなものになっている。ただし、2000年から2002年にかけて地方圏、特に地方の中核都市の地価が、大都市圏を上回って下落しており、土地資産評価損の逆資産効果には今後とも注意を要する。

物価と地価の下落が続き、個人消費などの需要の下押し圧力になっているため、需給ギャップがなかなか縮小しない。需給ギャップの状況は失業に現れるが、完全失業率を地域別にみてみよう(第2-1-12図)。

ここでは、地域別完全失業率(原数値)の季節的な変動を均すために半期ベースでみている。これによると、各地域で中長期的に上昇を続け、2001年から2002年にかけて、すべての地域で一段と上昇し、過去最高(最悪)水準を更新している。地域別には、近畿、北海道、九州・沖縄の3地域が全国平均を上回り、東海・北陸、中国、関東の3地域が全国平均を下回っている。この地域別の傾向はかなり長期に続いており、地域別完全失業率の順位が長期的に安定していることが確認されている(3)。ただし、2001年後半から2002年前半にかけては、これまで全国平均を下回っていた東北が全国を上回り、同じように四国も2001年後半に全国を上回るなど、地域によってはやや違った動きもみられる。

2.地域金融の状況

このようなデフレの継続の背後には、金融仲介機能の問題もある。金融仲介機能の改善のためには、銀行経営基盤の強化が必要となるが、不良債権問題が大きな障害となっている。

2001年以降、不良債権処理の促進と各金融機関の経営状況の見直しが監督機関によって進められている。そのため、2001年には地域金融機関の破たん・整理が相次いだ(後述第2-2-1図参照)。2002年4月には、定期性預金についてペイオフが解禁され、それに対応して個人、法人、地方自治体などによる預金の見直しが発生した。全国ベースでも、定期性預金から普通預金や当座預金への資金シフトが確認されている。

地域に拠点を置く企業にとって、地域金融機関の役割は大きい。取引が長期にわたりモニタリング・コストが低下していること、地理的な距離の近さが情報の密度を高めること、地域の事情に精通しておりきめ細かなサービスを提供していることなどが、地域金融の優位性の理由としてあげられる。間接金融に依存してきた地域経済にとって、地方銀行、第二地方銀行、信用金庫への依存度は高くなっている(後述第2-2-6図参照)。

地域金融機関の預金と貸出が、どのように推移したかをみてみよう(第2-1-13図)。業態別の預金の変動をみると、2001年7月までは減少していた都銀の預金は、同年8月から増加に転じ、定期性預金についてペイオフが解禁となった2002年4月前後に大きく増加した。地方銀行は、2001年中は安定的に推移したが、2002年3月より預金量がやや増加した。一方、第二地銀ではそれと同時期より預金量の減少が続いている。

貸出の変動をみると、全銀行ベースでの貸出は減少を続け、減少率も緩やかに拡大している。業態別にみると、都銀の減少率が拡大するなかで、地銀は安定している。一方、第二地銀は2001年には都銀よりも減少率が大きかったが、2002年に入り減少率が縮小している。このように、預金、貸出ともに業態格差が拡大している点を踏まえると、地域に拠点を置く企業活動への影響を注視する必要があるとみられる。

これと関連して、企業の資金繰り判断を地域別にみてみよう(第2-1-14図)。2001年から2002年にかけて、各地で判断DIは下げ止まりつつあるものの、さほど明確な動きにはなっていない。今回は、東北と四国を除いて、1998年当時のDIのボトムよりもやや上の位置で下げ止まる傾向がみてとれる。地域別にみると、東北、北陸が全国を下回り、東海、近畿、関東が全国を上回っている。九州、中国などにおいても低水準横ばいが続き、企業の資金繰りは厳しい状況が続いていることがわかる。

3.倒産発生率と完全失業率の関係

2002年においても、多くの地域で倒産件数の増加が続き、南関東、近畿、東海、四国では1998年の水準を上回っている(第2-1-15図)。普通法人企業数で調整した倒産発生率をみても、各地域で上昇が続いている。2001年を地域別にみると、近畿が全国で最も高く、次いで九州、東北、北陸となっている。これに対し、関東、東海は全国平均を下回っている。

倒産発生率は、1997年には北海道において急上昇し、1999年には低下した。これには北海道拓殖銀行の破たんが関係しているとみられる。また、2001年に地域金融機関の破たんが増加した北陸では、倒産発生率が上昇した。このように、地域ごとの倒産には、地域の金融機関が影響しているとみられる。

このような倒産の増加は、非自発的失業の増加に結び付き、地域の完全失業率を押し上げる要因となる。倒産発生率の高い地域では、完全失業率が高くなる傾向があるだろうか。1996年から2001年について地域別の倒産発生率と完全失業率をとり、その関係をみたのが第2-1-16図である。これをみると、緩やかではあるが、倒産発生率が上昇するにつれて完全失業率も上昇する関係がみてとれる。特に、倒産発生率と完全失業率の高い近畿について動きをみるとその関係が現れている。


  • 3)OECD (2000),Chapter2,table2.5参照。

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