第2部 第1章 第1節 持ち直しの動きが広がった地域経済

[目次]  [戻る]  [次へ]

第1節 持ち直しの動きが広がった地域経済

1.景気は下げ止まりから持ち直しへ

全国的な景況は、2000年10月に景気の山を越え、2001年を通して後退を続けた(1)。アメリカ経済の減速を契機に輸出が減少し、すべての地域において在庫調整が続いた。とりわけ、IT(情報技術)関連需要の変動は大きく、この分野での調整は世界的にも大幅なものとなった。

さらに、2001年9月にはアメリカにおける同時多発テロ事件とその後の対テロ戦争が発生し、日本においても消費者と企業の先行き警戒感をまねいた。個人消費と設備投資の減少により、実質GDPは2001年4-6月期から10-12月期まで3期連続して対前期比減少し、2001年度の経済成長率はマイナス1.9%となった。

2002年に入りアメリカ経済とアジア経済が回復したことから輸出は下げ止まり、2002年央にかけて大幅に増加した。この輸出増と国内の大幅な生産調整により、在庫調整は各地域で進展し、2002年4-6月期には終了したとみられる。

雇用情勢は厳しい状況が続いた。完全失業率は上昇を続け、2001年平均で5.0%となり、同年12月には5.5%に達した。その後、2002年に入りほぼ横ばいで推移している。2002年央までの状況は、生産面での調整は進展したものの、消費者物価、地価、株価の下落が続き、雇用面でも厳しい上に、個人消費の低迷、設備投資の減少など需要面でも回復力の弱いものとなっている。

2.下げ止まりから持ち直しへ向かった地域経済

地域経済の動向をみると、2001年度に入ってからは沖縄を除くすべての地域で後退を続けていた(第2-1-1表)。同年5月の「地域経済動向」では、3年1か月ぶりに全地域において景況判断が下方修正された。さらに同年8月においても引き続いて全地域の判断を下方に修正している。

2001年末頃から、いくつかの地域で上向きの経済指標がみられるようになり、2002年2月には3地域の判断が引き上げられた。また、同年5月には生産の増加を背景に、全地域において判断が引き上げられるなど、地域経済にも持ち直しの動きが広がりつつある。

この間の「地域経済動向」による地域景況判断の動きを四半期ごとに簡単にまとめると、以下のようになる。2001年4-6月期には、欧米向け輸出と鉱工業生産の減少が続き、企業業績と雇用情勢も悪化したことから1998年4月期以来およそ3年ぶりに全11地域の景況判断を下方修正した。2001年7-9月期には、鉱工業生産の大幅な減少の影響が各地域に浸透し、雇用情勢も厳しさを増したため、前回に続いて全11地域の判断を下方修正した。特に、北海道、東北、四国の3地域について「大幅に悪化している」と判断した。2001年10-12月期には、生産の顕著な減少と需要の不振から8地域で下方修正した。北海道、東北、四国の3地域では判断の変更はなかった。沖縄を除くすべての地域で「悪化」の表現が使われた。アメリカにおける同時多発テロとBSE(牛海綿状脳症)の影響が各地域で続いた。2002年1-3月期には、輸出の持ち直しと生産の下げ止まりから、3地域の判断を引き上げた。輸出の影響を受けた九州と最も状況の厳しかった北海道と四国の3地域が最悪期を脱したとみられたものの、東海と沖縄は下方修正が続いた。2002年4-6月期には、鉱工業生産の持ち直しを確認し、個人消費にもやや明るさがみられたことから、全11地域の判断を上方修正した。各地域の判断から「悪化」の表現がなくなった。2002年7-9月期には、鉱工業生産の増加を確認し、北関東、北陸、近畿、中国、九州など8地域で景況判断を上方修正した。沖縄については住宅建設の減少などから下方修正した。

(1) 減少から増加に転じた鉱工業生産

鉱工業生産を地域別にみると(第2-1-2図)、2001年中にはすべての地域において減少した。2001年10-12月期から2002年1-3月期にかけてすべての地域で下げ止まり、2002年4-6月までには増加に転じている。

2001年の減少局面においては、IT関連業種と輸出の割合の高い地域である中国、東北、九州、東海、北陸の各地域の生産減少が先行し、関東、近畿などが続いて生産調整に入った。2002年からの増加局面においては、輸出比率の高い東海、中国、九州が先行し、IT関連の比率の高い東北、北陸が続くというパターンがみられた。

なお、鉱工業生産指数(1995年=100)の水準を地域別に比較すると、東海、中国、東北の3地域が全国平均よりも高く、沖縄、北陸、四国、関東などが全国平均を下回っている。これは1995年水準を100とした指数で、95年当時の生産水準との比較であるが、自動車とIT関連の比率の高い3地域で生産水準が高まったことがみてとれる。

(2) 横ばい状況の中で気候の影響がみられた個人消費

個人消費の動向を大型小売店販売額でみると、2001年度を通じてすべての地域において対前年比減少を続けた(四半期、店舗数調整済み)。百貨店販売額をみると、すべての地域でスーパー売上高よりも減少幅が小さく、東北と北陸を除いて前年水準を上回る動きもみられた。スーパー売上高は、前年を上回る動きがほとんど見られず、2001年10-12月期には各地で減少幅が拡大した。

この理由としては、百貨店では、閉店した店舗の顧客の取り込みに加え、リニューアルによる来客数の回復、高級ブランド品の好調な売上という要因がある。一方、スーパーでは、顧客の低価格志向が強く、顧客単価の減少が続いた。さらに、2001年9月には国内初のBSEが確認され、それ以降の牛肉の消費が一時的に落ち込んだこともスーパーの売上に響いたとみられる。2002年度に入ると、百貨店販売額は状況が変わらない中で、スーパーの減少幅はやや縮小している。

地域ごとの個人消費の動きを、内閣府「景気ウォッチャー調査」の家計動向関連・現状判断DIでみる(第2-1-3図)。これによると、消費者の動きは、2001年6月から10月にかけて悪化し、2001年年末にかけて下げ止まり、2002年3月に急に持ち直した後、おおむね横ばいとなっているとみられる。地域別にみると、東海、南関東など大都市圏のDIが全国平均をやや上回る一方で、北関東、東北、北海道、北陸という地域のDIは全国をやや下回っている。後者の傾向は2002年についてより明確である。中国、沖縄、九州、四国という西日本については、さほど明確ではないが、2002年に入ってからは全国平均を上回る傾向にある。このように、2002年前半の消費については、地方圏の間においても、気温が高めに推移した西日本と低めであった北日本の間に開きがみられた。

(3) 減少が続いた住宅投資

住宅投資は、沖縄を除いて全地域で減少が続いた。沖縄では那覇近郊に宅地開発事業があることから貸家が増加していたが、2002年には建設が一巡している。他の地域では、金利の低下にもかかわらず、所得・雇用環境の悪化と地価の下落などから持家を中心に減少している。

新設住宅着工戸数は、2001年4-6月期に沖縄と北関東以外の9地域で対前年比減少し、同年10-12月期にはすべての地域で減少した。2002年1-3月期には、南関東、近畿でマンション建築が増加し、同年4-6月期にも近畿、中国、九州などで前年減少の反動増がみられたが、基調としては弱い状況が続いている。

(4) 減少が続く民間企業設備

民間設備投資は、2001年度においてはIT関連業種の業況悪化と事業再構築の影響により製造業を中心に、関東を除くすべての地域において前年度比で減少した。2001年度の実績を前年度増減率でみると、東北は29.2%減、北陸が13.8%減、近畿12.5%減、中国13.9%減などの地域で顕著に減少した。

2002年度の設備計画については、設備過剰感が強いこと、工場の海外移転も続いていることなどから、沖縄と関東を除く各地域において対前年度比減少している。特に、北海道、東北、北陸、四国の4地域では、製造業を中心に2ケタの減少計画となっている。一方、沖縄では商業、九州では輸送機械がそれぞれ設備投資を積み増している。

2002年央には、資本財出荷、機械受注など設備投資の先行指標に下げ止まりの兆候が見られ、企業収益の改善も見込まれているものの、設備投資の減少幅の縮小が確認されるまでには至っていない。

(5) 基調として前年水準を下回った公共投資

公共工事請負金額をみると、2001年度にはすべての地域において前年度より減少し、1999年度から3年度連続して全地域で減少した。減少幅の大きな順に、九州、関東、近畿、東北、東海となっており、三大都市圏における減少幅が目立った(第2-1-4図)。

2000年度について、減少幅の大きな地域を順にあげると、東北、四国、北陸、近畿、九州など、地方圏の減少が大きかったが、2001年度には地方圏での減少が相対的に緩和されたと考えられる。例えば、東北は前年度に16.8%減少したが、2001年度は7.4%の減少に減少幅が縮小した。四国でも、同様に15.9%減から7.0%減へと縮小した。これに対し、三大都市圏の関東、近畿、東海では、地方機関発注分が減少したことにより公共工事請負金額は引き続き前年を下回り、東海では減少幅は2000年の4.9%から2001年には7.0%へ拡大した。

2002年度に入っても、財政状況を反映して公共工事請負金額は各地域で減少基調が続いているものの、第二次補正予算の効果もあって地域によっては前年を上回る動きもみられる。2002年の4月から8月までの累計でみると、九州、四国、東海などで前年を上回っているが、これはそれぞれ北九州空港、高速道路延伸、中部国際空港に関連した発注が関係している。それ以外の地域では、公共事業費の減額が続いている中で、入札方式の改革、技術基準の見直し、PFI(民間資金等活用事業)方式の導入などによって公共投資のコストの効率化を実施している。

(6) 厳しい状況の中で持ち直しの動きもみられる地域雇用

景況の悪化を反映して、就業者も雇用者も共に前年度から減少し、特に就業者では4年連続の減少となった。完全失業者数(2001年度平均)は対前年度比29万人増え、完全失業率は前年度から0.5%ポイント上昇し、過去最高水準の5.2%に達し、厳しい状況が続いた。

2001年度においては、すべての地域において有効求人倍率が低下したが、これは各地域で求人が減少し続けた一方で、求職者が増加したことによる。求人の減少は、生産の大幅な減少を反映し、求職の増加は、企業の倒産、整理、海外移転などが増加したためである。

2002年に入ると、生産の持ち直しを受けて求人数が北海道と四国を除いて増加に転じた。求職者数も2001年10-12月期を境に増勢が鈍化した。これにより、有効求人倍率は多くの地域で2002年1-3月期に下げ止まった(第2-1-5図)。4-6月期以降も、すべての地域において新規求人数が対前期比で増加し、有効求人倍率も四国と北海道を除いて対前期比上昇し、持ち直しの動きをみせている。

地域別完全失業率(四半期、原数値)は、求人と求職のミスマッチなどにより2002年央においても高水準にある。厳しい雇用情勢を反映し、完全失業率は、すべての地域において過去最高水準を更新している。2001年7-9月期に沖縄で9.0%、同10-12月期に四国で5.6%、東海で4.5%、2002年1-3月期には北海道で7.2%、九州で6.4%、中国で4.6%、北陸で4.5%まで上昇した。2002年4-6月期においても、近畿で6.8%、東北で6.4%,南関東で5.7%、北関東で4.6%に達し、それぞれ最も高い水準になった。

(7) 高水準で、なお増え続ける企業倒産

2001年度前半までは、中小企業に配慮した金融緩和措置もあって倒産件数の増加は一服したが、9月には全国的大手スーパーが破たんするなど再び増加に転じた。10-12月期においては、銀行の不良債権処理の加速と地域金融機関の破たん、景況の悪化などにより、関東、近畿をはじめ多くの地域で倒産件数が増加した。2002年に入っても、南関東、近畿、東海、北陸、四国などで増加が続き、これらの地域では1998年の倒産件数のピークを上回る過去最高の水準にある。具体的には、販売不振により九州の地元大手スーパーが2001年度末にかけて2件相次いで破たんした。東北と東海では大手建設会社が倒産した。関東では高級ゴルフ場が倒産している。

この状況の背景としては、業況の悪化という要因に加え、2000年4月に民事再生法が施行され、破たん企業の事業再生への取り組みが本格化していること、金融機関の不良債権処理が厳格になっていることが考えられる。

[目次]  [戻る]  [次へ]