第1部 第3章 第1節 サービス雇用の地域別・分野別分布

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1.地域別にみたサービス9分野の雇用状況

(1) 「サービス産業雇用創出」のために

2001年11月「雇用拡大専門調査会」は、経済財政諮問会議において、雇用創出型の構造改革の推進を提言した。それに先立って、同専門調査会は雇用創出型の構造改革を行えば、サービス分野を中心に約530万人の雇用創出が可能とする試算をまとめた(24)。

そこには、「サービス産業雇用創出の例示」として「個人向け・家庭向けサービス」、「企業・団体向けサービス」など9つの分野について、主なサービスの例、推計のポイント、約5年後に期待される雇用の増分が示されている(第1-3-1表)。

この試算の目的は、どのような分野に新しい需要があり、どのような分野に新しい雇用があるのかを例示することによって、雇用創出型の構造改革を後押しすることにある。また、目標を設定することで、そこに到達するための施策について具体的に検討する環境が整備される。ここでは、その一環として、地域別の雇用創出について検討する。

(2) サービス分野ごとに特徴的な地域別雇用

「サービス産業雇用創出の例示」(以後「例示」と略)におけるサービス9分野には、具体的にはどんな業種が含まれるのだろうか。また、その業種ごとの雇用は、地域別にはどのように分布しているのか。

雇用拡大専門調査会の「緊急報告」と、その「例示」にある「主なサービス例」などを参考に、分野ごとの業種をあげると、以下のようになる。

  • [1]個人向け・家庭向けサービス・・・コンシェルジェサービス(家事や庶務代行サービス、資産運用、医療情報サービス)、健康増進(リフレッシュ)サービス(旅行、スポーツ施設提供、娯楽、美容)、ライフ・モビリティサービス(生活空間移動を支えるライフ・モビリティサービス)
  • [2]社会人向けサービス・・・生涯教育(個人教授所)、高度な職業教育(大学、プロフェッショナルスクール)
  • [3]企業・団体向けサービス・・・情報サービス(ソフトウェア、情報処理、情報提供)、ロジスティクス支援サービス(物流)、人材派遣サービス
  • [4]住宅関連サービス・・・不動産の評価サービス、仲介・売買サービス(不動産取引)、リフォーム・メンテナンスサービス(不動産管理)
  • [5]子育てサービス・・・保育士・スタッフサービス、児童クラブサービス、学習塾サービス
  • [6]高齢者ケアサービス・・・公設民営ケアハウスサービス、民間の施設・介護サービス(特別養護老人ホーム、老人保健施設、ケアハウス)
  • [7]医療サービス・・・病院、一般診療所
  • [8]リーガルサービス・・・法曹・隣接職種等の広義のリーガルサービス(裁判官、検察官、弁護士、司法書士、弁理士、公認会計士、税理士、官庁や企業の法務担当者)
  • [9]環境サービス・・・廃棄物処理サービス、メンテナンスサービス(環境対策設備の設置、メンテナンスサービス)

それぞれの分野に属する就業者数は、地域別にどのように分布しているのか。総務省「サービス業基本調査」(1999年)を用い、全国9地域(地域区分はB)における9分野の就業者の分布をみたものが、第1-3-2表である。

1999年におけるサービス業就業者数は1,172万人(全国、サービス業基本調査ベース)であるが、統計上の秘匿のため地域別に分割可能な人数は1,162万人となっている。「例示」の「現状」にある約1,285万人よりも少ないが、これは、比較年の違いに加え、9分野が日本標準産業分類上ではサービス業に含まれない業種を含んでいること、サービス業基本調査が調査対象としていない業種(病院など)があることなどによる。

例えば、リフォームサービスやロジスティクス支援サービスは、日本標準産業分類では前者は建設業、後者は運輸業に分類されると考えられるが、人々の生活や企業活動に直結し、有形無形の「サービス」を提供するという観点から「サービス産業」に分類されている。

地域別に、サービス9分野の就業者の状況をみると、第1-3-3図のようになる。すべての地域において「個人向け・家庭向け」の構成比が最も大きく、約4割になっている。構成比が2番目に大きな分野は、どの地域も「企業・団体向け」になっている。3番目の分野としては、関東、近畿、沖縄では「子育て」、それ以外では「医療」(九州は「子育て」と「医療」が同率)となって、地域の特徴が現れている。沖縄では「子育て」が9.4%を占めるのに対し、四国では「医療」が6.4%となって、それぞれ全国で最も大きなシェアになっている。これに対して、東北では「子育て」が4.1%、関東では「医療」が3.7%と、それぞれ構成比が全国で最も小さい。

分野別に就業者の地域分布をみると、第1-3-4図のようになる。「企業・団体向け」は約半数が関東に属している(25)。これには、関東、とりわけ東京に企業・団体の本社機能が集中し、それに対応して企業・団体向けサービス関連ビジネスが集中していることが関係すると考えられる。また、「社会人向け教育」「リーガル」についても関東の比率が高い。

これに対して、「高齢者ケア」「医療」「住宅関連」「子育て」では三大都市圏のシェアが相対的に低く、地方圏にも分散していることが分かる。

2.サービス業の特徴と雇用への影響

(1) 生活密着型と都市型サービスは地理的分布が異なる

日本のサービス産業の就業者について、その地理的な特徴をみると、第一に個人や家庭向けサービスが、幅広く各地域に分布している。旅行サービスや娯楽サービスに代表される余暇と趣味に対応する産業が広く分布しているためとみられる。

この分野は、人々の個人的なニーズに対応しているため、人々の生活する場所であればビジネスが成立し、雇用も生まれやすいと考えられる。今後は、人々の潜在的なウォンツが顕在化することによって新しい産業と雇用が発現する分野ということができる。

第二に、企業・団体向けのサービスが関東に集中しているという特徴が指摘される。この中には、情報サービス、ロジスティクス支援サービスなどが含まれる。このような専門的な業種については、供給側でも人材の確保しやすい都市圏に立地する傾向がある。また、需要側においても、本社機能の集中する東京などにニーズが偏在していることから、他地域には拡散されにくい傾向があると考えられる。

このことから、各地域においてそれぞれ本社機能の集積地点が形成されるようになれば、この種のサービス産業の事業と雇用もそこに拡大されてゆくことが期待される。

(2) 多様な雇用機会をもたらすサービス産業

9分野のサービス分野をみると、内容が多種多様である。このようにサービス産業の特徴として、多様性をあげることができる。特に新しいサービス分野については、分類の難しい複合的な業種もかなり含まれてくる可能性が高い。

次に、サービス産業は、製造業と比べ、決まった場所で決まった時間に集合して作業しなくてはならない制約が少ないとみられる。そして、製造業に比べて大規模な生産設備を設置する必要も少なく、参入障壁は比較的小さい。これらのことは、サービス雇用にとってどのような影響を及ぼすだろうか。

まず、多種多様な産業であるゆえに、多種多様な人々に就業機会を提供できると考えられる。サービス産業では、高度な専門知識を必要とする弁護士などの職種から、比較的基礎的な知識でも就業が可能な職種まで、その技術的要件の幅が広くなっている。このことは、教育水準の許容範囲が広く、多くの人が参加する可能性をもたらす。例えば、入門レベルで就業するうちに、オン・ザ・ジョブあるいは外部教育訓練を経て、次第に高度なレベルに到達するという経路も可能になる。また、時間的空間的制約が少ないということは、短い就業時間でも勤務が可能になり、高齢者や女性にとっても機会が増えることになる。

このように、経済的には技術の許容範囲が広いことから、参入障壁が小さいとみられるサービス産業であるが、現実には解決すべき多くの課題があって、消費者の潜在的な「ウォンツ」が実際の「ニーズ」となって発現しにくい状況が多く見受けられる。また、新しい就業形態が不利にならないような雇用システムによって、女性や高齢者などが働きやすい就労環境が整備されることもサービス産業の拡大にとって重要とみられる。今後は、こうした点が改善されることによって、新しいサービス産業と雇用が各地域で創出されることが期待される。「サービス産業雇用の例示」はそれを推進するためのものである。

(3) 必ずしも低くないサービス雇用の賃金水準

新しい需要の発現によってサービス産業の雇用が増えると期待されるにしても、そこにおける賃金の水準はどのようなものになるのだろうか。アメリカにおいても90年代に議論されたように、サービス産業の拡大は「安い労働」を増やし、所得格差を拡大させる懸念は妥当なのだろうか。サービス雇用の拡大を推進するに当たっては、この点を検証する必要がある。

第1-3-5図1は、厚生労働省「賃金構造基本統計調査」により、製造業とサービス業の「きまって支給する現金給与額」(賃金)の全産業計に対する比率をみたものである(26)。まず、全産業計で最も就業者数の多い25~29歳の層の賃金比率をみると、製造業は99.5とわずかに全産業計を下回っているのに対し、サービス業は99.96と全産業計とほぼ同じ水準になっている。また、40~44歳の層をみると、製造業は96.1であるのに対し、サービス業では100を上回っている。同図右にある医療業の賃金比率をみると明らかなように、医療業によってサービス業が高くなっている。

また、パート従業員の賃金については厚生労働省「毎月勤労統計調査」により、全従業員平均の賃金比率をみる(第1-3-5図2)。これによると、サービス業は製造業を下回っているものの、サービス業の賃金は全産業平均を継続して上回り、2001年における比率は1.06となっている。

サービス業の賃金水準は、正社員ベースでは製造業よりも高く、全産業計とほぼ同じ水準であり、パート従業員ベースでみると製造業よりは低くなるものの、全産業計を上回っていることがわかった。このように、サービス雇用の賃金が相対的に低いという事実は確認されず、サービス雇用の拡大は生活水準の向上に寄与すると考えられる。

  • 24)サービス部門における雇用拡大を戦略とする経済の活性化に関する専門調査会が、2001年5月に行った「緊急報告」における「サービス産業雇用創出の例示」。
  • 25)この「関東」区分は、静岡県、新潟県を含む1都10県の合計。
  • 26)この「サービス業」は日本標準産業大分類の「サービス業」であり、金融、保険、不動産などは含まれていない。

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