第1部 第1章 第1節 地域経済の「新しいシステム」への移行

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1.地域の活性化を目指す改革の推進

地域経済においても、市場取引を基本とした新しい経済システムへの移行が進められている。新しい経済システムへの移行とは、市場機能が活用されて経済資源がその潜在力を発揮するように有効に配分される仕組みを強化する作業を意味している。

経済資源が「結果的に」有効に配分されることも重要であるが、経済資源が有効に配分されるような「メカニズム」を強化することが更に重要と考えられる。そのメカニズムを強化することは、経済主体の選択の自由度が高まって、その活力が引き出されるばかりでなく、将来における経済変動や技術進歩、内外における不測のリスクなどへの経済主体の適応力を高めることになるからである。

そのために、労働力、資本ストック、技術などの経済資源のそれぞれの市場が効果的に機能するように、ルールとインセンティブを作り変える作業が続けられている。労働市場においては、就業形態の多様化に対応した制度改革が進められ、金融市場においては、銀行の経営体質と監督機能の強化、技術面では技術移転機関の活発化などである。

企業や産業の分野においては、新しい需要に対応した企業の再構築、コーポレート・ガバナンスの改善が各地で進められている。地方政府においては、歳出構造の見直しと合理化が進められている。中央政府においては、規制、財政構造に加え、経済活力の回復を目指した税制、社会保障制度の見直しが進んでいる。地域経済の活性化を目指して構造改革特区の設置も推進されている。

このような各分野各地域における新しいシステムづくりが進められることで、新しい産業と雇用が生み出され、各地域の潜在的な活力が発現されることが期待されている。

2.地域の雇用は厳しい状況が続く

地域経済の現状は2001年の景況悪化から持ち直しつつあるものの、どの地域においても回復力が十分とは言えない状況にある。特に地域の雇用の現状は厳しく、2001年から2002年にかけて、いずれの地域においても完全失業率が上昇し過去最高水準となった。

95年以降の地域別完全失業率の推移をみると、第1-1-1図のようになる。近畿は6%を超え、北海道、九州・沖縄、四国、東北が5%を超えた。中国、東海、北陸、関東では全国平均を下回っているものの、98年から上昇し4%台となっている。

このような完全失業率の上昇については、中期的な需要の低調さによるものと、企業の整理、倒産によるものに加え、雇用ミスマッチの増加という要因が指摘される。第1-1-2図は、全国的な完全失業率を需給要因によるものと構造的要因によるものに分解している(1)。

これによると、完全失業率は、91年1-3月期から2002年4-6月期にかけて3.3%上昇しているが、そのうち約6割の1.9%が、構造的要因によるもので、それは雇用ミスマッチを意味している。完全失業率の水準をみても5.3%(2002年4-6月期)のうち8割近い4.1%が構造的要因によるものと推計されている(2)。

新規の産業が雇用を作り出す一方で、既存の産業が雇用を調整し、労働移動に対応し切れなかった部分がミスマッチとして拡大した結果と考えられる。これは、これまで構造改革が遅れたことによって、新規の産業の拡大が不足していたことに加え、雇用システムの改良が間に合っていなかったことの結果ということができる。ここに雇用システムを改善する必要性を指摘することができるが、それと同時に、新規の産業が雇用を作り出す運動を更に促進するような雇用創出型の構造改革が必要となっていることが分かる。

3.新しい分野が創る地域の雇用

経済財政諮問会議の雇用拡大専門調査会(3)は、2001年5月にその「緊急報告」の中で、「サービス産業雇用創出の例示」(以下「例示」と略)として、サービス産業における雇用が今後約530万人創出されることが可能であるとの試算を示している。

そこで例示された業種は、大きく9つの分野に分かれている(第1-1-3表)。「個人向け・家庭向けサービス」「企業・団体向けサービス」などであり、これらは更にいくつかの業種に分類される。例えば、「個人向け・家庭向けサービス」であれば、「家事代行サービス」「庶務代行サービス」「旅行サービス」などであり、「企業・団体向けサービス」であれば、「情報サービス」「人材派遣サービス」などである。

これらの業種のなかには、従来存在していなかったか、あっても限定的なものが含まれている。例えば、「ライフ・モビリティサービス」がある。これはグループで特定のタクシーなどを定期的に利用できるサービスである。あるいは、「不動産の評価サービス」「公設民営ケアハウスサービス」などがある。

これらの業種は、技術、規制、人材など何らかの理由によって市場にはほとんど存在していなかったものだが、今後は条件が整備されることによって成長の期待される「新しい分野」と言うことができる。例えば、インターネットは、およそ20年前には存在していなかった。そのようなものがあればいいという願望(ウォンツ)はあっても、技術的な要件が実際の需要(ニーズ)に転化されることを阻んでいた。

今では当たり前の携帯電話、デジタルカメラ、DVD(デジタル多用途ディスク)も、コンビニエンス・ストアにおけるATMも以前は当たり前ではなかった。このような例はいくらでも見出すことができるし、これからも発現すると考えられる。阻害要因を適切に取り除くことによって、「例示」に示されたような産業分野をはじめとする多くの新しい産業が各地域に広がり新しい雇用を生み出して行くことが、地域経済の活性化につながると考えられる。

「例示」にあるような「サービス9分野」に属する就業者は、地域別にどのように分布し、どのように変動しているのか。ここで、この9分野について、実際の状況を地域別・分野別に確認する。

第1-1-4表は、サービス9分野に属する産業分野の就業者数(4)を「サービス業基本調査」により地域別に集計したものである。全国計でみると、サービス9分野における就業者は89年の840万人から99年には1,162万人へと322万人増加した(増加率は38.4%)(5)。

このうち、「企業・団体向け」の109万人と「個人向け・家庭向け」の108万人の2分野の増加が大きく、これだけで全体の約3分の2を占めている。次いで、「医療」「子育て」「環境」「高齢者ケア」の順になっている。増加率でみると、「高齢者ケア」が217.4%増と3倍以上になったのをはじめ、「医療」の113.8%、「環境」の61.9%と続いている。どの分野をとっても高い伸びを見せており、最も低い「リーガル」でも16.7%増加した。

これを地域別にみると、どのような特徴があるか。9分野の合計でみると、増加数では関東が139万人でトップであるが、増加率でみると中部、沖縄、中国、北海道の順になる。増加率の低い順でみると、四国、近畿、東北、九州という順になるが、どこもおおむね同じような増加率になっている。増加率の高い地域について、増加の要因となった分野をみると、中部では「企業・団体向け」、沖縄では「個人向け・家庭向け」、中国では「医療」の増加が寄与している(第1-1-5図)。

このように、中長期的にみて、どの地域においてもサービス分野の雇用は増えているが、具体的にはどのような業種が伸びているのだろうか。サービス業基本調査の産業小分類(6)ベースで、期間中の増加数をみると、「他に分類されない事業サービス業」の32万人をトップに、「個人教授所」「ソフトウェア業」「老人福祉事業」「建物サービス業」などの順になっている。増減率では、「その他の医療業」「その他の広告業」「各種物品賃貸業」などの順になっている。増減率の上位10業種のうち、8業種が「その他」「他に分類されない」という言葉で始まる業種であり、90年代に増加率の高かった分野は、これまでの分類に仕分しにくい「新しい産業分野」であったことが分かる。


  • 1) 内閣府「平成13年年次経済財政報告」における分析による。
  • 2) この雇用ミスマッチをさらに詳しくみると、年齢、性、産業という3つの要因に分解できる。「地域経済レポート2001」参照。
  • 3) 正式名称は「サービス部門における雇用拡大を戦略とする経済の活性化に関する専門調査会」。
  • 4) サービス業基本調査の公表ベースでは「従業者数」であるが、ここでは「就業者数」としている。以下、事業所・企業統計調査についても同様。
  • 5) この調査には、病院、診療所、学校、高等教育機関などが調査対象外となっている。詳しくは第1-1-4表の備考6を参照のこと。また、統計上の秘匿措置により地域属性が不明の部分があるので、全国ベースの従業者数(1,172万人)よりも合計値が少なくなっている。
  • 6) 日本標準産業分類は平成5年10月改定版。以下同様。

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