第1部 第1章 第3節 年齢別地域別に異なる建設業の就業構造

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1.雇用創出により緩和される公共投資縮減の影響

公共投資は、様々な経路を通じて経済に影響を及ぼす。公共投資の減少は、短期的にはGDPを減少させ、関連産業の需要と雇用が減少する。しかし、その中長期的な影響は複雑で、生産性、供給、財政金融、所得分配など経済社会の多くの分野に及ぶとみられる。

公共投資の縮減は、建設業をはじめ多くの製造業の売上減少を通じてその雇用を減少させる。直接的には、建設業に対する建設工事の発注量が減少し、間接的には、建設工事に必要な資材を供給する製造業、資材を運送する輸送業など多くの関連業種に対する需要が減少する。こうした需要と売上の減少は、直接・間接両方の公共事業関連業種の雇用に対する需要を減少させ、建設業などにおいて就業者が減少することになる。この就業者の減少は、直接的な影響を受ける建設業において最も大きいとみられる。建設業からの離職者のうち、一部は他産業に再就職し、また一部は労働市場から退出するものの、それ以外は失業者になり、失業率が上昇することになる。ただし、以上の効果は、公共投資の縮減が民間建設の増加によって補われる場合には、ある程度相殺される。また、建設以外の需要が創出される場合、建設業などの関連産業から他の産業に再就職する率が上昇し、失業はその分減少するとみられる。

したがって、失業率の上昇を抑制するには、再就職率を増加させることが有効となる。そのためには、[1]雇用の転換が円滑になされるように雇用ミスマッチの減少を図ること、[2]公共投資が縮減されても民間部門の活性化を通じて長期的には需要を増加させることにより、再就職率を向上させることが必要とされる。

[1]マクロ的な需要と供給に対する理論上の影響

マクロ的にみると、公共投資の増減は、需要と供給の両面から経済に作用する。その効果を、時間軸によって分類すると3つの段階に分けることができる。

まず短期的には、公共投資の減少は関連需要を減少させ、財政赤字の減少をもたらす。関連需要の減少は、前述のように関連産業の雇用の減少をもたらす。また、公共投資の減少は、社会資本ストックを低下させ、社会資本ストックの低下は、産業の生産性を低下させる要因となる。

一方、民間設備投資、住宅投資などに公共投資を代替するものがある場合には、需要は増加する。この需要の増加はやがて雇用の増加と民間資本ストックの増加につながる。民間資本ストックの増加は、長期的には労働生産性の上昇をもたらす。また、財政赤字の減少は公的部門の貯蓄の増加を意味する。これが民間部門の貯蓄増と等価とみなされる程度に応じ、民間部門の消費が増加する効果がある。このように、需要と供給、短期と長期、プラスとマイナスの効果が複雑に入り組んでいるので、公共投資の効果が、雇用と生産性に長期的に及ぼす影響は一意には予見できない。

[2]財政金融面の影響

また、公共投資は、事業主体別に大きく3つに分類され、その資金調達は、税収と公債、財政投融資によってまかなわれる。公共投資の削減は、このような事業主体の財政収支の改善と公債発行額の減少につながる。どの主体の財政収支がどれだけ改善されるかは、どの事業が削減されるのかによるが、公共事業が総額として削減されることは、通常は公債の発行額の減少につながり、公債の金利が低下する要因になる。

[3]所得分配への影響

公共投資は、税収と支出の再配分を通じ、国内の地域間、業種間の所得格差を是正する機能をもつ。国土の均衡ある発展をめざす国土政策の一環として、社会資本ストックの水準が低いところに投資額を厚くすることなどにより、地域間の所得格差、資産格差が縮小する。また、公共投資の雇用効果によって失業率の地域格差を縮小することができる。そして、短期的には公共投資はケインズ効果を通じて景気循環の変動を小さくする効果をもつ。公共投資の縮減は、こうした所得再分配効果を減少させることから、地域間の所得格差を拡大させる懸念がある。

このように、公共投資の経済的な影響は多面的かつ複雑であり、マクロ経済、地域産業振興の観点に限らず、多方面にわたってその影響の十分な検討が必要である。

2.年齢別地域別に異なる建設業の就業構造

(1) 地方圏を中心に離職が増加するとみられる建設業就業者

公共投資の縮減の影響は、まずその実施に携わる建設業とその就業者に及ぶとみられる。そこで以下では建設業就業者及び建設事業者について地域別の分布を中心に実態を把握する。

建設業就業者数の推移をみると(第1-1-25図)、建設業就業者は公共工事請負金額の高まりと共に、88年から97年にかけて増加していたが、98年以降減少している。

建設業就業者の職種別分布をみると、2000年の建設業就業者数は653万人であり、技能工・建設労働者が432万人と全体の66%を占めている。これを85年と比較すると、建設業就業者数が123万人増加しているなかで、技能工・建設労働者は52万人増加している。しかし、建設業就業者数がピークであった97年と比較すると、建設業就業者数が32万人減少していおり、公共投資縮減の影響がみられる。内訳をみると、専門・技術職が1万人増加している一方で、技能工・建設労働者は23万人減少していることから、公共投資が縮減されると技能工・建設労働者を中心に離職者が増加するものとみられる。

年齢別分布をみると、公共投資が増加した88年から97年にかけて、建設業就業者の全産業就業者に占める割合が上昇し、90年代後半には約10%となった。特に15~24歳と65歳以上の年齢層の上昇幅が大きく、もともと割合の高かった55~64歳の層でも94年まで上昇を続けた。このことから建設業が特に若年層と高年齢層の雇用の受皿となっていたことが分かる。しかし、公共投資が縮減傾向にある98年以降には多くの年齢層で建設業の割合が低下しており、特に15~24歳の若年層の低下が大きい。

全国で653万人であった2000年の建設業就業者の地域別分布をみると(第1-1-26図)、南関東、東海、近畿では約5割の325万人が就業しているものの、建設業就業者の全就業者数に占める割合をみると、10%以下となっている。一方、地方圏ではその割合は10%以上となっており、建設業への依存の高さがうかがえる。特に、北海道、東北、北陸で割合が高くなっている。年齢別にみると、15~24歳では東北、北陸、四国において割合が高くなっており、65歳以上では北海道、北陸で高くなっている。そして55~64歳の層では北海道、東北、北陸において割合が高い。このことから類推すると、公共投資が縮減されることにより、地方圏を中心に建設業就業者の離職が増加し、特に若年層、高年齢層において大きな影響を受けるとみられる。

(2) 重要性を増す中高年への職業訓練

こうした建設業就業者は労働移動という点で、どのような特徴を持つのだろうか。建設業就業者の産業間移動をみる(第1-1-27表)。建設業就業者の前職の産業をみると、建設業が72.4%を占めていることから、多くの建設業就業者は建設業内で移動しており、他産業への移動は少ない。製造業においても54.6%と産業内での労働移動の割合が高い。一方、前職がサービス業の就業者は幅広い産業への労働移動が目立つ。技能工・建設労働者の割合の高い建設業では、他業種への転職に難しさがあることがうかがわれる。

建設業への入職者にはどのような特徴があるだろうか。建設業への転職入職者の年齢階層別の割合をみると(第1-1-28図)、建設業を除く産業と比べて、34歳以下の転職入職者が低くなっており、45歳以上が高くなっている。このことから、建設業への転入職が中高年において比較的容易であると言える。地域別にみると、45歳以上の転職入職者の割合が高い地域は近畿、北関東、北海道となっている。一方、北陸では24歳以下の割合が高くなっており、ここでは若年層の雇用の受皿としても機能している。

建設業への転職入職者の賃金変動区分別と就業の動機別の割合をみると(第1-1-29図)、賃金が10%以上増加した建設業への転職者の割合は、建設就業者が減少した98年以降低下した。このことから建設業に転職することでの賃金の上昇は難しい状況となってきており、97年ごろまでは条件の良い転職先であったとみられる。生活水準の向上を動機とする転職の割合も93年をピークに低下していることから、建設業においても雇用条件は変化している。

次に、建設業からの離職者の特徴についてみてみる。はじめに、99年の離職率をみる(第1-1-30図)。地域別にみると、北海道、東北、北関東で建設業の離職率が全産業の離職率よりも高くなっている。これを年齢別にみると、特に45歳以上の中高年から全産業よりも建設業の離職率が高くなっている。

建設業からの離職者の離職理由別の割合をみると、93年をピークに個人的な理由による離職者の割合は低下している一方で、経営上の都合による離職者は増加傾向にあり、98、99年は17.0%、11.8%と2ケタの割合を占めている。次に、離職者の勤続期間別の割合をみると(第1-1-31図)、建設業では1年未満の離職者の割合が47.4%と最も高い。一方、製造業では10年以上の割合が最も高い。建設業は雇用の受皿となってはいるものの、就業期間の短さがその特徴となっている。続いて、離職者の学歴別の割合をみると(第1-1-32図)、建設業を除く産業と比べると、中卒の離職者の割合が37.2%と高い一方で、大卒の割合が6.8%と低い。このことから、公共投資縮減の影響で建設業からの離職者の増加が懸念されるなか、雇用対策として教育と職業訓練が重要になるとみられる。

(3) 建設業者を取り巻く経営環境

建設事業所の地域別分布をみると、建設事業所数は全国に61.2万事業所あり、そのうち35.4万事業所が三大都市圏にある。一方、全事業所数に占める建設事業所数の割合をみると、三大都市圏では南関東、近畿、東海ともに10%を下回っているのに対し、地方圏では沖縄を除いて10%を上回っている。特に北関東、東北、北陸で建設事業所の割合が高い。建設事業所数は三大都市圏に過半数が存在するものの、その割合は地方圏で高くなっており、地方圏における建設業への依存度の高さを反映している。

次に、建設事業所の規模別分布をみる(第1-1-33図)。従業者別構成比をみると、従業者数が10人未満の建設事業所が全国では約8割を占めており、中小企業の割合が高い。地域別にみると、北関東で中小事業所の割合が高い。資本金別構成比をみると、資本金1,000万円未満の建設事業所が全国では約5割を占めている。地域別にみると、東北、北関東でその割合が高くなっている。

第1-1-34図は建設業の倒産を示している。建設業の倒産件数は90年代に各地域で増加しており、2000年度の倒産件数は90年度の約4倍になった。2000年度は対前年度比でみるとすべての地域で公共工事請負金額が減少していることもあり、倒産件数はすべての地域で増加した。建設業の全倒産件数に占める割合も各地域で上昇しており、南関東、東海、近畿を除き30%を超えていることからも、建設業への依存度が高い地方圏での公共投資縮減の影響はすでにあらわれている。

第1-1-35図によって、建設業の事業所数の増減をみる。91年から96年にかけては南関東を除く各地域で公共工事請負金額が増加したこともあり、96年には、91年と比べてすべての地域で事業所数は増加した。これに対し、99年には、96年と比べて北海道、近畿、沖縄において従業者数1~4人の事業所が増加したのを例外に、多くの地域で事業所数が減少した。ここにも98年以降の公共投資縮減の影響がすでにあらわれており、今後ともこうした傾向が持続すると推測される。

<コラム>地域間所得格差に影響を与える公共投資

地域間の所得格差を、県民所得の分散あるいは変動係数でみると、所得格差は1990年以降低下傾向にある。これには、1990年以降のバブル崩壊による大都市圏の所得上昇が鈍化したことにも影響している。それに加えて、公共投資が所得再分配に寄与しているとみられる。

公共投資の県民総支出に占める割合と、公共投資を除いた1人当たりの県民所得とを比べると、1人当たり県民所得の低いところほど、公共投資の比率が高く、所得水準と公共投資依存度は負の相関関係にある。(第1-1-36図)。このことは、公共投資が相対的に所得の低いところで多く実施された結果、所得均等化につながっていることを示しており、公共投資が縮減されることは、地域間の所得格差は、少なくとも短期的には、縮小しにくくなる要因となるとみられる。

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