平成6年

年次経済報告

厳しい調整を越えて新たなフロンティアへ

平成6年7月26日

経済企画庁


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第1章 93年度の日本経済

第4節 減少した設備投資

民間設備投資(実質)は,91年10~12月期以降,94年1~3月期まで10期連続して減少を続けてきた(季節調整済み前期比)。このことが内需低迷の主な要因の一つとなっている。ここでは,こうして設備投資が低迷を続けた要因について考える。

(ストック調整の進展にもかかわらず設備投資の減少が続いた製造業)

製造業の設備投資を,大蔵省「法人企業統計季報」でみると,91年度後半から前年同期比で減少し始め,その減少幅が拡大傾向で推移してきたが,92年下期からは20%程度の減少が続いている( 第1-4-1図 )。

こうした製造業の設備投資については,縦軸に設備投資の伸び,横軸に資本ストックの伸び(いずれも前年同期比)をとると,時計回りの循環図を描くことができる( 第1-4-2図 )。このような循環図が描けるのは,次にようなメカニズムによると考えられる。まず,①生産の伸びが高まる局面では,設備の稼働率が回復へ向かい,これに対応して当初は減少していた設備投資も加速度的に回復してくる。②生産の伸びがピークに達する頃には,まだ資本ストックの伸びもそれほど高まっておらず,稼働率の上昇もピークを迎える。このとき,設備投資は最も盛り上がりをみせる。③その後,生産の伸びが低下してくると,この頃には資本ストックも積み上がりが実現しており,投資が生産能力化していることもあって設備の過剰感が生じ,設備投資の伸び率は加速度的に低下し,やがて減少に転ずる。

この循環図でも分かるように,前回の設備投資拡大期には,資本ストックの伸びが5%台程度まで低下してくると,フローの設備投資の減少幅が小さくなってくる(つまり前期比ベースでは増加に転ずる)という関係がみられた。しかし,93年度においては,資本ストックの伸びが4%台にまで低下し,ストック調整が進展してきたにもかかわらず,設備投資は立ち上がりをみせなかった。その要因としては,以下のようなものが考えられる。第一は,上記のメカニズムがスタートする最初の前提であった,「生産の伸びが高まる」ことがなかったことである。すなわち,ストックの伸びが低下しストック調整終了の素地はできていたものの,需要が更に落ち込んで稼働率の低下が続くこととなり,ストック調整が長期化したと考えることができる(第2章第2節参照)。

第二に,円高の進行などにより,足元の生産水準から想定される以上に,企業が将来の生産回復に悲観的となった可能性がある。事実,経済企画庁「企業行動に関するアンケート調査」でも企業の中期的な成長期待(今後3年間)は低下してきている。93年1~3月期以降の製造業設備投資の減少幅(前年比)の2割程度は,円高によって説明することができるということは,すでに第2節でみた。93年度には円高が進行したため,企業は将来の輸出の減少,競争輸入の増加による生産の減少を見越して,設備投資計画を下方修正したとみることができる。

(ストック調整が本格化した非製造業)

非製造業の設備投資は,92年10~12月期以来前年比で減少を続けており,94年1~3月期には減少幅は縮小したものの,総じて減少が続き,93年度には減少幅が更に拡大した(前掲 第1-4-1図 )。

このように非製造業の設備投資が減少した一つの理由は,建物投資についてのストック調整が長期化していることである。非製造業の設備投資においては,建物の占める割合が約4割となっており,製造業(約1/4)よりかなり高い。ところが,こうした建物投資は,機械投資と比較して投資の懐妊期間及び資本ストックの耐用年数が長いため,いったんストックが積み上がると,そのストック調整の期間も長引くことになる。第2章で詳しくみるように,今回の景気後退局面に先立つ景気拡大期にはバブルの影響もあって,非製造業の建物部分のストックがかなり積み上がっていた。このため,その後の非製造業のストック調整も長期化せざるをえなかったのである。例えば,不動産業では建物部分が設備投資の9割近くを占めているが,不動産業の資本ストックは93年に入っても前年比7~8%程度の伸びを示しており,まだストック調整が進展していないことを示している。

こうしたストック面の動きだけでなく,需要面の動きも非製造業のストック調整を長期化させている。非製造業の売上は,個人消費の低迷に加え,企業の中間経費圧縮の影響などもあって総じて低迷しており,これが93年度における設備投資の減少の要因となっていると考えられる。ただし,建設業では公共投資の増加があったため,これらが設備投資の下支えに寄与したと考えられる。


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