平成18年度

年次経済財政報告

(経済財政政策担当大臣報告)

−成長条件が復元し、新たな成長を目指す日本経済−

平成18年7月

内閣府


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第5節 まとめ

 本節では、これまで述べてきた企業部門の行動の変化や不良債権処理を終えた金融部門の動向について簡単に整理するとともに、今後の企業部門・金融部門の動向を考える上で重要なポイントについて考察する。

●企業行動はバブル崩壊後の構造的な調整を終えて正常化
 企業部門は、厳しいリストラの過程を経て、バブル期を上回る収益をあげているが、他方で、かつてと比べて企業行動には慎重さがみられており、例えば、1990年代後半以降、企業部門は貯蓄超過(資金余剰)となっている。これは、企業が経済合理的に債務比率を低下させるために、設備投資や人件費を抑制してきたことによるものであり、企業部門が自律的に均衡に戻るメカニズムが働いていることを示している。ただし、最近の期間になるほどバランスシートの状況がより強く企業行動に影響を及ぼすようになっていることからすると、企業の財務戦略が、かつてと比べて、より収益性、資本効率を考慮したものに変化してきていることも考えられる。賃金決定の在り方についても、年功制による一律的な賃金決定が見直され、成果主義が採用されることによって、結果的に、かつてほどには企業業績の改善と企業全体の雇用者報酬の連動性が直接的なものではなくなってきている可能性が考えられる。
 他方、こうした企業行動の慎重化はあるものの、雇用・設備・債務の3つの過剰が解消したことで、企業収益の増加が設備投資や配当の増加をもたらすというメカニズムは着実に働いている。過去に行った様々なリストラ措置も、それから数年が経過して目に見える形で企業業績の押上げに寄与してきている。こうしたことを考えれば、企業部門の改善は今後も息長く継続するものと考えられる。

●国際競争における日本企業の比較優位は日本の企業風土に根ざす
 経済のグローバル化が進展する中で、多くの日本企業は国際的な市場で競争しているが、そうした日本企業の特徴や優位性はどこにあるだろうか。国際的な視点から日本の産業をみると、日本は技術集約度の高い産業に比較優位を持っている。その背景には、日本の科学技術力が世界的にみても高い水準にあることは言うまでもない。そうした技術力やそれを製品化する能力については、企業内における優れた人的資本の蓄積が重要な役割を果たしている。その意味では、終身雇用と呼ばれる日本の長期雇用慣行は、日本の技術分野における比較優位の構造と密接な関係をもっている。
 他方、設備投資や財務面における基本的な日本企業の行動については、総じてみれば他の先進国の企業とそれほどは変わらない。これは、企業が収益の最大化を目指している以上、ある意味当然のことであろう。日本企業の雇用調整速度は他の国よりも遅いと言われていたものの、2000年代以降においては、かなり早くなっている。しかしながら、ROAといった日本企業の資本効率については、他の国と比べて低い状況がずっと続いている。この背景には、日本では株式持合い等の慣行もあって、株主からの圧力が十分働いてこなかった面もあると考えられる。ただし、近年では、企業の株主重視の姿勢が強まりつつある中で、資本効率も改善している。

●日本的経営−変わったもの、変わらないもの
 グローバル化の進展に加え、法制度等の改正もあって日本的経営と呼ばれる日本企業の特徴は大きく変わっているのではないかということが指摘される。そこで、企業アンケートによって、終身雇用と年功賃金制、企業内部から昇進した経営者と銀行を中心にした企業統治のしくみ、企業間の長期的な取引関係といった日本的経営の特徴について現状を調査した。すると、企業統治、財務戦略、雇用方針、企業間関係等において、こうした日本的経営といわれる特徴が、依然としてある程度多くの企業に共通にみられる。ただし、こうした日本的経営を構成する各要素についてみると、濃淡がみられ、例えば、長期的雇用を重視する姿勢や従業員を重要なステークホルダーとして位置づける傾向はかなり多くの企業でみられるものの、メインバンクとの関係や長期的な企業間取引については、重視していない企業も多い。財務戦略についても、企業規模を重視する姿勢は根強いものの、ROAといった資本の効率性やキャッシュフローを重視する企業も多い。
 日本的経営と企業のパフォーマンスとの相関については、従業員重視といった日本的経営の特徴をもった企業の資本効率はむしろ相対的に高いことが示される。企業業績の回復が続く中で、あらためて日本的な経営に自信を深めている企業が増えているものと考えられる。他方、メインバンク依存度の高い企業では、リストラによって企業規模を縮小させる傾向がみられており、そうした企業では業績も低迷している。日本的経営の中で変わりつつあるのは、多くの企業で株主重視の姿勢がみられるようになっていることである。そうした企業では、株主重視の姿勢をみせることによって株式市場で高い評価を得、それを生かして株式による資本調達を活発に行っている。
 以上を総合的に考慮すると、従業員重視といった日本的経営の特徴は、依然として日本企業の強みであると考えられる。既にみたように、日本企業が国際的に技術集約度の高い産業で優位をもっていることと、企業内部の人的資本の蓄積は密接に関連していることから、企業内部の人的資本の充実が今後も重要な鍵となると考えられる。

●企業を取り巻く制度の変化と今後の課題
 90年代後半から2000年代にかけて、法制度・会計制度・税制など企業を取り巻く諸制度が大きく改正されたが、企業側からはこうした改正はどのように評価されているだろうか。アンケート調査の結果によると、企業統治関連制度、事業・組織再編関連制度、法人課税、会計制度、企業年金、雇用・賃金関連制度といった6分野の改革については、いずれも企業は高い評価をしていることがわかった。どのような企業が構造改革を評価しているかを分析すると、実際に事業再編を行った企業や研究開発支出を増加させている企業など政策目的にあった企業が該当する改革を高く評価している様子が伺われる。
 他方、さらなる制度改正に対する企業の要望も強い。特に、行政手続等の利便性向上・透明性向上、法人課税の見直し、規制緩和・官業の民間開放等の推進については、多くの企業から期待しているとの回答が寄せられた。こうした企業の意見も踏まえ、今後も改革を継続していく必要がある。

●金融機関の現状と今後の課題
 金融システム改革による銀行の不良債権処理が着実に進展している。今後、再び金融システムが不良債権問題に揺るがされないためには、自己資本の充実や適切な金利設定のほか、収益力の向上による経営基盤の強化が求められる。我が国の銀行は、過去との比較では、いずれをとっても、改善・強化されているが、海外の主要行との比較では、いまだ開きもある。日本的経営のうち、メインバンクとしての企業との関係が変化しつつある中、従来の貸出中心による収益の拡大は厳しくなりつつある。こうした中で、金融コングロマリット化やリテール業務重視の動き、さらに業態を超えた投資や提携もみられ始めている。今後は、家計が求める金融サービスのニーズに応え、企業が抱える様々な問題を解決に導くことを追求しつつ、それぞれの工夫により付加価値創出に繋げていく必要がある。

●今後の企業部門の展望と課題
 90年代末から続いた企業部門のリストラの成果もあって、企業部門は高い収益をあげている。こうした日本企業の復活は、財務面での効率化の徹底ということだけではなく、企業内部の人的資本の力を生かした比較優位の確立といったことによっても達成されてきたと考えられる。かつて日本的経営と呼ばれた要素のうち、財務面の効率や企業間取引の関係等には大きな変化があった可能性があるが、他方で、多くの企業で従業員を重視する姿勢は根強く残っている。今後も日本企業がさらに発展していくためには、こうした内部の人的資本を強みとして生かすことが重要であるが、同時に、それが非効率性につながらないように株主による監視機能が十分働くような環境を構築することも重要である。これについては、必ずしも一つの正解はないものの、そうしたバランスのとれた企業統治の在り方について今後も不断に検討していく必要がある。また、官の課題としては、急速に変化する企業の事業環境に合わせて、機動的に制度・行政手続き等の在り方を見直すなど、迅速かつきめ細かな対応が必要であるとともに、さらに官から民への流れを推進していくことが重要である。


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