平成16年度

年次経済財政報告

(経済財政政策担当大臣報告)

−改革なくして成長なしIV−

平成16年7月

内閣府


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第2節 改革の成果が実り始めた企業部門

 前回の景気回復は、企業のバランスシートや雇用・所得環境に脆弱さを残しながらの回復であったため、外需の弱まりに伴って景気は後退局面に入っていった。こうしたことを踏まえ、特に金融システムの強化、企業部門の再生といった分野で、経済の脆弱性を克服するための構造改革が推進されるとともに、企業部門でも厳しいリストラが行われてきた。こうした改革努力やリストラ努力もあり、将来不安が一時と比べて低下する中、企業部門では前向きの動きがみられている。本節では、不良債権処理の進展によって企業部門の脆弱性がどのように低下してきたか、企業の抱える雇用、債務、設備の過剰はどの程度解消されたか、企業の財務はM&A等の事業再編や債務・人件費の削減によってどの程度強化されたか、設備投資が現在回復しているメカニズムはどうなっているか、について論じる。

●増収増益型の企業収益

 企業収益はほとんどの業種で増加しているが、増益の内容は、徐々に増収増益型が増えてきている。製造業についてみると、2002年における収益の回復のほとんどは人件費の抑制によるリストラ効果によるものであったが、2003年に入ると売上高の増加によって収益も増加する「増収増益」型の収益回復パターンになっている(第1−2−1図)。非製造業についても、ほぼ同様のパターンがみられるが、収益の回復の程度は製造業に比べると緩やかなものとなっている。
 業種別の動向について、前回の回復のピークにあたる2000年末時点と2004年第I四半期時点を比べると、前回(2000年)では、不動産を除くと売上高が増えている業種でも人件費の削減が続くなど、厳しいリストラが行われていたが、今回の局面では、輸送機械、サービス、鉄鋼など売上高の増加にともなって人件費も増加している業種がみられるようになっている(第1−2−2図)。このように、過去数年間にみられたリストラによる人件費の大幅な抑制といった動きは、多くの業種で一服しつつあるものとみられる。他方、売上高が伸びていない業種では、引き続き人件費の削減等のリストラを行っている。
 また、素材・中間材価格の上昇により、企業の投入価格が上昇する一方、企業の産出価格は一部の業種を除いて引き上げられていないことから、企業の交易条件(産出価格を投入価格で除したもの)が悪化しており、それが企業収益に与える影響が懸念されている。業種別にみると、パルプ・紙・木製品、石油・石炭製品等は、投入価格上昇の一部が産出価格の上昇に転嫁され採算(交易条件)の悪化の程度が比較的小さいが、鉄鋼、非鉄金属、化学、一般機械などでは、投入価格上昇を産出価格に十分転嫁できておらず、採算は悪化している(付図1−7)。この点については、第4節で詳しく論じるが、企業収益への影響に関しては、過去にも景気回復期に投入価格の上昇ほど産出価格は上昇しない(交易条件が悪化する)という現象は繰り返しみられていることである(第1−2−3図)。したがって、交易条件の悪化は企業収益に対して減益効果をもたらすものの、そういう場合には、景気回復によってもたらされる増収効果によって、その一部が相殺されていることが考えられる。

●不良債権処理に伴う債務の削減

 銀行の不良債権処理の問題については、第5節で詳しく論じるが、ここでは、銀行の不良債権処理によって、その裏側にある不良債権業種の過剰債務の処理がどこまで進んだか、それが当該業種の収益率にどのような影響をもたらしたかをみる。まず、主要行の業種別の不良債権残高(リスク管理債権ベース)の推移をみると、2001年度末から2003年度末までの2年間に、不動産業や建設業向けの不良債権残高がかなり急速に減少している(第1−2−4図)。また、その他の業種についても、総じて不良債権残高が着実に減少している。その裏にある企業側の債務残高については、不良債権比率の高い不動産、卸小売、建設業でもこのところ着実に債務残高が減少しており、2003年時点では、おおむね90年代初めの水準まで減少している(第1−2−5図)。こうした債務削減と生産性の低い企業の退出の動きを反映して、不動産、卸小売、建設業の総資本利益率(ROA)は、このところ持ち直してきている。また、収益率の改善や不良債権処理に伴う不透明感が徐々に払拭されてきたこと等から、これらの業種の株価は今回の回復局面では総じて下げ止まり、ないし上昇に転じている。

●縮小する債務、雇用、設備の過剰

 企業収益の改善の背景には、過去数年間にわたる企業のリストラの成果が現れていることがある。ただし、債務、雇用、設備の3つの過剰の全てがそろって縮小しているわけではなく、債務の削減が先行し、雇用、設備の過剰の解消が徐々に進んでいるという状況にある。
 まず、債務の過剰について、手元のキャッシュフローでみて何年分の負債を抱えているかをみると、全規模・全産業では2003年に8.3年分の債務を抱えている。これは、バブル経済が始まる前の1980年代半ばの水準とほぼ同程度であり、かなり債務の整理が進んできたことがわかる(第1−2−6図(1))。ただし、規模別にみると、中小企業ではまだ1980年代半ばの水準を上回っている。
 次に、雇用の過剰について日銀短観の雇用人員判断DIをみると、2004年6月調査では大企業は6ポイント、中小企業は5ポイントといずれも90年代前半並の水準まで改善してきており、総じて雇用の過剰感は縮小してきている(付図1−8)。また、企業からみた人件費の負担を労働分配率(企業の付加価値に占める人件費の比率)でみると、全規模・全産業では、2003年で66%であり、1998年のピーク時と比べると3.3%ポイント低下している(第1−2−6図(2))。ただし、1990年代初めと比べると分配率はまだ高い水準にあるが、これは従業員の年齢構成において中高年層の割合が増えていることや、従業員の高学歴化が進展していることがある(2)。総じて分配率が抑制傾向にある中で、規模別にみると、依然、中小企業は大企業に比べ高い水準にあると言える。
 設備が過剰かどうかをみる一つの目安として、日銀短観の設備判断DIをみると、足下では改善の動きがみられる(付図1−8)。また、一単位の資産を使ってどの程度の売上げを生み出しているか(総資産回転率)という見方があるが、これによると、長期的にみれば、90年代を通じて低下傾向にあったが、2003年についてはやや上昇がみられる。業種・規模別にみても、こうした傾向にはあまり違いがない(第1−2−6図(3))。これを有形固定資産だけに限ってみても、回転率は同様の傾向を示している。総資本利益率(ROA)については、90年代を通じて低下傾向にあったが、98年を底に3%前後の水準で下げ止まり、2003年には3.2%と、前年の水準からやや持ち直している(第1−2−6図(4))。設備の過剰については、後に詳しく論じるように、このところ古い設備の廃棄が大きくなっていることによって、過剰感が足下では若干低下しているが、それでも資本の効率性を十分引き上げるまでには至っていない状況にある。

●企業のリストラの効果

 以上にみたように、企業の債務、雇用、設備の削減といったリストラ効果は、経済全体でみた場合には、足下の総資本利益率の上昇といった形で現れてきてはいるが、改善の程度はまだ十分とは言えない水準である。しかしながら、実際にリストラやM&Aなどの企業再編を行った個別の企業については、かなり明確にその効果がみられている。この点を検証するために、連続して連結決算データの詳細が入手可能な1094社について、1999年から2002年までの期間において行われたM&Aや、人件費、有利子負債の動向が、どのように総資本利益率に影響を与えたかを調べた。
 まず、データベースに含まれる企業のROAの水準別の分布状況をみると、平均値に近い4%のあたりに最も多くの企業が分布し、そこから離れるほど企業数が減少するが、他方でROAがマイナス1%未満、あるいは8%以上の企業もかなりある(付注1−1)。ROAの水準別に売上高人件費比率をみると、1999年から2002年の間に、ROAの低い企業で人件費比率が上昇している一方、ROAが比較的高い企業では人件費比率が低下している(第1−2−7図)。同様に、売上高負債比率の1999年から2002年の間の変化をみると、比較的ROAの低い企業で債務比率の低下が大きいが、ほとんどのROA区分で債務比率が低下している。また、事業買収・売却額の総資本に対する比率が高い企業ではROAも総じて高いという相関がみられる。
 次に、このデータベースを用いて、事業買収・売却の規模、人件費、有利子負債の動向が、総資本利益率にどのように影響したかを推計すると、
 (i)事業の買収や売却を行った企業では、時間差を伴って利益率にプラスの効果がみられる
 (ii)売上高に占める人件費の割合が低くなると利益率が高くなる
 (iii)売上高に占める負債の比率が低くなると利益率が高くなる
という結果が得られた(前掲第1−2−7図及び付注1−1)。こうした結果は、事業の買収、売却により、得意部門の強化と不得意部門からの撤退という事業の「選択と集中」を進めた企業は、高い収益をあげていること、あわせて人件費の削減や債務の圧縮といった財務面のリストラ等も収益力の向上に寄与していることを示している。
 これらの企業について、単純に2時点間のROAを比較すると、1999年の方が2002年よりも若干高いが、収益環境の変化に対する財務の健全性という観点からみると、2002年の方がより強固な体質になっている。この点をみるために、個々の企業のデータを用いて、売上高が10%低下した場合、金利が1%上昇した場合に、企業行動に変化がないと仮定して、それぞれ利益にどの程度の直接的な影響が出るか試算(ストレス・テスト)を行った。なお、この試算は減益幅の絶対額を推計することを目的としたものではなく、二つの時点の減益幅の大小を比較するものである。この結果によると、2002年の方が1999年の場合よりも、いずれも利益の減少の程度が小さくなっている(第1−2−8表及び付注1−2)。これは、債務残高や人件費比率が低下したことにより、損益分岐点が低下したことが効果を発揮していることを反映しているものと考えられる。

●設備投資の持続性

 設備投資は、これまでのところ、SNAベースの実質前期比でみて2002年第3四半期から2004年第1四半期まで7四半期連続で増加している。こうした設備投資の増加は、既にみたように、企業収益が改善していることが背景にあるが、キャッシュフローの増加の程度と比べると、設備投資の増加は緩やかなものとなっている。企業のキャッシュフローと設備投資額の割合をみると、2002年、2003年とむしろ低下が続いている一方、キャッシュフローと債務減少幅の割合は上昇しており、企業は依然として優先的に債務の返済を続けていることが示唆される(第1−2−9図)。
 今回の設備投資の回復の特徴は、古くなった設備を廃棄しつつ新規の設備投資が行われているということがある。90年代に入ってから、企業は新規投資や既存設備の更新を控えてきたために、設備の使用年数は上昇しており、推計によると、2003年時点では平均12年程度となっている(第1−2−10図)。しかし、こうした中で、特に2000年以降、企業は古くなった設備を廃棄する動きを強めていることもあり、除却額が伸びている。このため、資本ストックの伸び率は2002年、2003年と大幅に低下しており、2003年で1.4%の伸びとなっている(第1−2−11図)。したがって、民間設備投資の対GDP比が上昇していても、資本ストックのGDP比率は逆に低下しており、設備が過剰に積み上がるという状況はみられない(付図1−9)。また、生産能力指数でみると、このところ生産能力は80年代後半の水準まで低下してきている(前掲第1−2−11図)。
 このように過剰設備が発生し、設備の廃棄が行われたことの要因の一つには、企業の期待成長率が90年代を通じて低下してきたことが考えられる。ただし、最近の状況については、内閣府「平成15年度企業行動に関するアンケート調査」によれば、今後5年間の予想成長率が昨年度調査の水準を上回るなど、企業の期待成長率も若干上昇していることから、仮に、企業が中長期の期待成長率と整合的に望ましい資本ストックの水準を決めているとすれば、今後、期待成長率の上昇とともに、資本ストックの伸びの低下も、ある時点で下げ止まってくるものと考えられる。今後の設備投資の持続可能性については、(i)現在みられる設備投資の増加はほとんど資本ストックの増加につながっていないことから、仮に一時的に生産の水準が低下しても資本ストック調整が始まる可能性は少ないこと、(ii)技術革新が急速に進む中、そうした分野では前向きの設備投資が見込めること等から、当面は底堅く推移するものと考えられる。


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