第3章 我が国財政の総合的把握


第3章のポイント

第1節■拡大する財政赤字

  • バブル崩壊以降、財政赤字が大幅拡大(国・地方99年度GDP比8.2%、長期債務残高は国・地方2001年度末GDP比約130%)←長期景気低迷や減税による税収落ち込み+累次の経済対策で支出拡大
  • 構造的財政赤字(景気が良くなってもなくならない赤字)は最近年GDP比約6%で、赤字を減らすためには、財政構造改革が必要
  • 国・地方のプライマリー・バランス赤字は、バブル崩壊以降増加傾向(99年度末GDP比約5%)
  • 現在の状態((1)プライマリー・バランス大幅赤字、(2)長期金利>名目GDP成長率)が続けば、→ 公債残高が発散、財政は破綻
  • 財政支出(受益)と税負担(負担)を都道府県別(1人あたり)でみると、90年代に入り、地域間のばらつきは拡大(受益・負担比率が高い5団体は受益29%増、低い5団体は15%増)

第2節■資産・負債のストック・データでみた財政

  • 企業会計の原則(発生主義、時価評価)に則り、公的部門の資産・負債のストック・データを試算
  • 公的部門全体では資産2274兆円、負債2422兆円であり、正味資産は148兆円のマイナス
  • 90年代の社会資本の整備は、学校・社会教育施設などに比べ、道路、空港、下水道・廃棄物処理、治水が相対的に大きく増加
  • 道路関係4機関(日本道路公団他)と空港関係2機関(成田、関空)の事業資産の評価額を収益還元法に基づき試算
  • 道路関係4機関、空港関係2機関の資産・負債差額(資産評価額-負債額)はそれぞれ△8200億円、1400億円

第3節■国民の受益・負担からみた財政

  • 個人の生涯を通じた受益・負担の観点から、我が国財政の状況を評価
  • 過去30年において、世代間格差が拡大
  • 世代会計において、「高齢世代」は受益超過、「若齢世代」は負担超過(生涯を通じて、60歳以上世代は5700万円の受益超過、40歳代以下世代は負担超過、20歳代世代と60歳以上世代との差は7000万円超)
  • 「将来世代」の負担超過分は、現在の20歳代世代の3倍以上
  • 「将来世代」の重い負担を減らすためのシミュレーション分析

→ 将来世代だけが追加負担する場合、必要な追加負担は消費税率水準90%に相当、現在世代を含め、2005年から追加負担を行う場合、必要な追加負担は、消費税率水準23%に相当

→ 現在世代を含めた追加負担と受益抑制が必要

第4節■地方財政の課題

  • 地方財政は、長期債務が累積するなど、深刻な財政危機に直面している。
  • 地方の歳入基盤の諸課題
  1. 地域住民のニーズに充分対応できていない補助金(25年以上前からの補助金が43%、戦前・戦後復興期のものは12%)
  2. 地方交付税の総額が増加(90年代に42%増加)
  3. 地方交付税の機能の変化と地方交付税の算出方法見直しへの取組み(特定の事業を遂行する財政手段としての性格)
  4. 地方税収増加に向けた取組み(留保財源率引き上げなどによりインセンティブ強化)
  5. 公的資金依存から民間資金を一層活用した地方債発行へ
  • 地方行財政改革の基本的な考え方⇒国と地方を通じた歳出削減、市町村合併、地方に対する国の関与縮減、国庫補助負担金の整理合理化、地方交付税制度の抜本的改革、国と地方の税源配分を含めた地方税の充実確保
  • 改革のシミュレーション(歳出削減、税源移譲の影響を検証)
  1. 税源移譲により、経済力のある大都市などの地方公共団体は自立。一方で地方圏を中心に大部分の地方公共団体の財政状況はさほど改善しない。
  2. 税源移譲のみで問題は解決せず、歳出削減、市町村合併、地方の税収努力などが必要。

第3章 我が国財政の総合的把握

我が国財政は、極めて厳しい状況にある。バブル崩壊の90年代の初め以降、低成長や減税により税収が落ち込む一方、度重なる景気対策や社会保障費用の増加などで政府支出が拡大したため、財政赤字は拡大を続け、今や先進国中最悪の水準となっている。また、財政運営に大きなインパクトを与える少子高齢化は、他国に例を見ないスピードで進行している。

本章では、わが国財政の現状について、経済的視点から客観的な分析を行う。わが国財政の現状と課題を把握するためには、多面的な分析が必要である。以下では、(1)財政赤字、政府支出、税収・地域別の財政収支動向の検討(フローの分析)、(2)政府の資産、負債、正味資産の評価(ストックの分析)、(3)将来世代を含めた各世代が、生涯を通じてどれだけ受益しどれだけ負担するかについての検証(「世代会計」の分析)、という3つの観点から、わが国財政の現状を明らかにする。さらに、危機的な状況にある地方財政について分析し、地方財政改革の方向性を探る。

第1節では、財政赤字の現状を、国際比較を含め概観する。財政赤字は景気が弱いと拡大するが、一方景気が良くなってもなくならない構造的な部分もある。現在の財政赤字の約8割は、こうした構造的財政赤字であることを示す。また、もし現状のような状況が続けば、わが国の債務残高は無限に拡大しわが国財政は破綻するという点も明らかにする。また、このような財政支出と税負担の状況を地域別にみると、90年代に入り、地域間のばらつきが拡大していることも指摘する。

第2節では、公的部門全体の資産・負債のストック・データを試算し、政府資産・負債のストックの観点から、わが国財政を概観する。資産・負債のストック・データの作成は、企業会計で採用されている原則に則って行なう。特に将来支払いを約束した年金債務、退職金債務を推計、計上する。現状では、資産総額から債務総額を引いた政府の「正味資産」は、マイナスとなっていることがわかる。

第3節では、個人が政府からどの程度受益し、一方税金支払いなどでどの程度負担しているかという観点から、わが国財政、特に社会保障制度の現状と課題を分析する。「世代会計」の考え方に沿った計量的な分析によって、現在の高齢世代と若齢世代の受益と負担の姿にはどの程度の違いがあるのか、これから生まれてくる将来世代への負担の先送りはないのか、といった問題が明らかにされる。

第4節では、地方財政の現状と課題について分析する。地方財政は、深刻な財政危機に直面している。国から地方への巨額な財政移転を前提としている現行の制度は、地方公共団体が独自に地域の発展に取り組む意欲を弱めている。したがって、住民が自らの判断と責任で選択するシステムを構築する必要があり、歳出の見直し、制度の抜本的な見直し、地方税の充実確保を図る必要があることが明らかにされる。

こうした多面的な分析は、わが国財政が抱えている問題点を浮き彫りにし、なぜ抜本的な財政構造改革が必要であるかを明らかにする。