第2章 第1節 活発化する新分野への戦略的投資

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(各地域で大幅に落ち込んだ設備投資)

地域別の設備投資の動向を日本政策投資銀行「設備投資計画調査」を用いてみてみると、2008年度(実績)は、電力関連等の大型投資があった北海道、薄型ディスプレイ関連の大型投資が相次いだ近畿を除き、多くの地域で前年を下回った。2009年度(計画)でも、北海道、北関東、東海、中国、四国、九州では、製造業の大幅な落ち込みにより、前年比で2割から3割強の大幅な減少となっており、大半の地域では、2年連続で前年の水準を下回るものとなっている。こうした大幅な減少は、リーマンショック後の国内外の需要の急減を受け、稼働率が極めて低い水準にあることが影響している。足元では、生産や出荷が持ち直しているものの、本格的な需要の回復は、当面、見込めないことから、能力増強のための設備投資が抑制されている(第2-1-1図)。設備投資計画の中止や先送りも各地域で見受けられ、なかには、新工場が完成したものの、需要が見込めないことから稼働を延期するケースもあった。地方自治体による積極的な企業誘致の取組もあり、一旦工場立地が決定したものの、新工場の建設が中止となり、新規採用の見送り等、期待された地域雇用の創出につながっていないケースも発生している。

第2-1-1図 地域別 設備投資
―大半の地域で2年連続の減少―
第2-1-1図
(備考) 1. 日本政策投資銀行 「2008・2009・2010年度 設備投資計画調査」により作成。
2. 沖縄のデータは除く。

全国の工場立地件数をみると、2007年下期(7~12月期)に減少に転じた後、減少が続き、2009年上期には、前年同期比47.3%減と、調査開始以降の過去30年間の中で最も大きな落ち込みになっている。地域別にみると、自動車産業の集積の高い東海で、輸送機械の工場立地の縮小により大幅な減少がみられ、南関東、近畿、九州・沖縄でも、前年のほぼ半数の立地件数となっている(第2-1-2図)。業種別にみると、輸送機械や金属製品の落ち込みが大きい一方、食料品は減少したとはいえ、他業種に比べて減少幅が小さく、逆に増加した地域も多く、底堅い動きがみられる(第2-1-3表)。

第2-1-2図 地域別 製造業立地件数
―東海、近畿、九州・沖縄で大幅に減少―
第2-1-2図
(備考) 経済産業省 「工業立地動向調査(平成21年上期)」により作成。

第2-1-3表 主要製造業の地域別立地件数
第2-1-3表
(備考) 経済産業省 「工業立地動向調査(平成21年上期)」より作成。

(環境分野への経営資源のシフト)

製造業を中心に能力増強のための投資は抑制傾向となっている一方、地球温暖化問題の解決に向けて、温室効果ガスの大部分を占める二酸化炭素(CO2)の排出削減が求められるなか、太陽光発電や風力発電といった新エネルギー関連、電気自動車やハイブリッド車向けの二次電池関連、エネルギーの貯蔵・平準化のための蓄電池関連等の投資に関して、戦略的な動きが活発化している。

太陽光発電関連の投資をみると、太陽電池に対する需要の高まりを受けて、増産のための投資計画をたてる企業が多い。リーマンショックにより半導体原料業界は打撃を受けたが、太陽電池の原材料となるシリコンウェハの増産に向け、大型新工場建設に着手し、2010年に稼働予定の企業も数社ある。さらに、シリコンウェハから太陽電池セルやモジュールを経て、太陽電池パネルとして組み立てる際に必要となってくる電極、バックシート、ガラス、封止材等の部材の増産体制を整えるため、金属メーカー、化学メーカー等も設備投資を計画している。太陽電池パネルの組み立てについても、電気機械メーカー各社が当初計画から前倒しでフル生産に入ったり、他の製品の生産ラインを太陽電池パネル用のラインに転用するといった動きもみられる。また、石油依存から脱し、新エネルギー分野への進出を目指す石油会社が、電気機械メーカーから大規模なプラズマパネル工場を買収し、太陽電池の工場に転換し生産能力を大幅に引き上げるといった事例もある。需要拡大が見込まれる太陽電池ではあるが、特に結晶系太陽電池モジュールの価格低下は著しく、シリコン使用量を大幅に減らした薄膜型シリコンの変換効率の向上等、国際競争力を維持するための研究開発投資も進められている。

新エネルギー関連として、風力発電関連の投資案件もみられる。国内外で風力発電所の建設が進むなか、ブレード(風車の羽)やタワーを製造する鉄鋼メーカーや金属加工メーカーが増産のための投資を計画している。また、風車の主軸を支える軸受を生産するベアリングメーカーの中には、リーマンショック後の自動車向けの受注の急減を受け、自動車向け部品の新工場建設は延期した一方、風力発電向けの生産拠点の増強は行うといった経営戦略の見直しを行っている企業もある。風力発電は、日本国内よりも海外で普及していることから、風力発電関連の企業は、海外市場での需要拡大も視野に入れた戦略をとっている。

電力会社各社も、CO2排出量の削減に向け、CO2排出量の少ない液化天然ガス(LNG)を燃料とする発電所関連の投資のほか、大規模な太陽光発電所(メガソーラー発電所)の建設を進めている。

太陽光発電や風力発電は、気象条件に左右されるため、出力の変動が大きいというデメリットを持つ。安定供給のためには、太陽光や風力によって発電された電力をいったん蓄電池に蓄えた上で電力会社の送電網に送ることが必要となる。このため、風力発電所や大規模太陽光発電所の建設に伴い、大容量の蓄電池が必要となってくるが、日本企業の中には、独自のセラミック技術を活かし、この大容量の蓄電池分野で世界的にも高いシェアを誇るなど、これまで培ってきた技術を新たな分野に応用している企業も少なくなく、こうした企業では生産能力増強のための投資が見込まれる。

自動車向けのリチウムイオン蓄電池については、電気自動車やハイブリッド車の市場拡大を想定し、大手電機メーカー各社が200~300億円の大型投資に着手している。また、セパレーター等のリチウムイオン蓄電池の部材生産に関わる化学メーカーも、リチウムイオン蓄電池の増産に対応するため、設備増強を行っている。リチウムイオン蓄電池の国内生産量の推移をみると、2009年1~3月期には、大幅に落ち込んだものの、4月以降、生産が持ち直し、7~9月期には2008年春頃の水準にまで戻している。また、リチウムイオン蓄電池の国内生産のうち、近畿における生産の割合は約80%で推移しており、近畿の生産シェアが高い(第2-1-4図)。この背景としては、近畿において、従来から、電気機械、化学、窯業・土石等の素材・部材製造業が集積し、電池技術に応用可能な技術があったことがあげられよう。

第2-1-4図 リチウムイオン蓄電池生産量の推移
―国内生産に占める近畿のシェアが高い―
第2-1-4図
(備考) 経済産業省「生産動態統計(機械統計)」、近畿経済産業局「主要製品生産実績」により作成。

(資源制約が強まる中で、長年培った技術の新たな分野への応用)

環境・エネルギー分野の生産技術において、我が国は高い技術レベルを持つが、それを維持・発展させるために、様々な課題がある。その1つがレアメタルの確保である。例えば、我が国では、電気自動車が2009年夏に市販化され、今後、普及していくことが期待されるが、電気自動車や風力発電のモーターの性能は磁石に左右される。中長期的に電気自動車や風力発電の普及が進むと予想されるなかで、希土類磁石等の希土類金属の安定供給が一層重要となる。しかし、我が国は、その多くを中国からの輸入に依存している。現状では、製造工程での切削や破損などでスクラップとなった磁石についてはリサイクルが行われているものの、使用後の製品に含まれる磁石のリサイクルは遅れている。レアメタルの確保に向けては、資源国への技術協力等を通じた海外資源の確保とともに、廃棄される家電製品等の「都市鉱山」からレアメタルを回収するシステムの整備などの重要性が再認識されている。

非鉄各社は、金属資源の安定供給のため、金属資源の輸入依存度を少しでも引下げる必要があることから、使用済みリチウムイオン蓄電池や、薄型テレビの普及に伴い廃棄量が増加するブラウン管テレビ等を回収・再利用するリサイクル事業を強化するための投資を進めている。

秋田県北部は、小坂銅山や花岡銅山を中心に鉱山業が発展した地域であるが、これら鉱山は1990年代半ばに閉山された。しかし、この地域の金属関連企業は、家電リサイクル法施行後、従来から培ってきた鉱石から各種金属を分別・抽出する技術を家電リサイクルに応用し、レアメタルのリサイクル技術を高めている。さらに、今後、レアメタルの需給逼迫が懸念されることから、大手金属メーカーも秋田県に置くリサイクル事業の拠点強化を計画している。秋田県北部において、非鉄金属のリサイクル事業が構築されてきたのは、こうした資源開発に関する地元企業の技術力に加えて、地域住民の理解もあり、家電回収のネットワークを当初の大館市一市から、2008年度には秋田県全域に拡大してきたことがある。家電の回収個数・回収量も、2006年度4,727個(重量6.8トン)、2007年度9,576個(同17.5トン)、2008年度39,750個(同19.5トン)と着実に伸びている1。さらに、地域の知の拠点である秋田大学が工学資源学部を有し、資源開発に係る研究・人材育成が進められていることとの相乗効果もある。こうしたレアメタルの回収・リサイクルの拠点として地域を再生させようとする取組は、かつて鉱山で栄えた地域がある茨城県や福岡県等でも進められている。


1.
本リサイクルの推進事務局「R to S(Reserve to Stock)研究会」によれば、2007年度から2008年度にかけて、回収個数が大幅に増加する一方、回収量(トン数)の増加が鈍化している理由は、携帯電話、アダプター、MDプレイヤーといった小型家電の回収個数が大幅に増加したことにあるとのことである。

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