第2章 第2節 ケーススタディ:自動車と公的投資の影響力

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自動車産業の立地は、公的投資の削減が続くなか、これまで公的投資の担ってきた役割を肩代わりして、地域の雇用創出などに大きな効果をもたらしていると言われる。自治体の首長が、誘致のために自動車関連会社にトップセールスをかけているといった報道を目にすることも多い。自動車産業の立地と公的投資はどちらも雇用創出という効果を持つと考えられるが、公的投資が需要創出型なのに対し、自動車産業の立地は地域の生産力の向上・改善という面が強いと考えられる5。公的投資はその事業が終了してしまえば、需要自体もなくなってしまうのに対し、自動車産業はそこに工場がある限り、地域の生産・雇用を支えるものとして期待される。以下では、自動車工場の建設が地域経済に及ぼす影響について検証する。

各地域の産業連関表(2000年)で自動車産業と公的投資の影響力係数をみてみよう。これが1を超えていると、その地域内の他の産業に対する影響力が強いと考えられている。

自動車産業は関東、中部、中国、九州で1を超えており、とりわけ関東と中部の係数は大きくなっている。これに対し、公的投資は沖縄がやや高いものの、各地域でおおむね1程度となっている。さらに、両者を比べると北海道、東北、四国、沖縄では、自動車よりも、公的投資のほうがより高い影響力を持っている(第2-2-9図)。

第2-2-9図 自動車と公的投資の影響力係数(2000年)

第2-2-9図

(備考) 1. 各経済産業局「平成12年産業連関表」により作成。
2. 自動車は乗用車とその他の自動車の係数の単純平均。

自動車の影響力が地域によって異なるのは、自動車生産の域内調達率の差があると考えられる。2000年には中部が86.7%なのに対し、最も低い北海道では37.2%となっている。域内調達率が低ければ、たとえ自地域での生産が増加したとしても、域外からの部品調達でまかなう部分が多く、部品需要の一部が他地域に漏れてしまう(第2-2-10図)。

第2-2-10図 自動車生産の域内調達率

第2-2-10図

(備考) 各経済産業局「平成12年産業連関表」により作成。

自動車産業の誘致は、第3章で詳述するように新規雇用を生み出し、地方税の増加という形で地域経済の活性化に貢献することが見込まれるが、需要の漏れのないように、いかにして域内で部品を調達できる体制を整えるかがポイントと言える。


5.
自動車産業においても、設備投資や、従業員への給与支払を通じた需要創出効果はある。

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