第1章 第4節 景気後退色強まるアジア・大洋州

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1 アジア:通貨・金融危機の影響本格化

1997年7日にタイで始まった通貨危機は,ASEAN諸国,韓国に波及し,タイ,インドネシア,韓国の3か国がIMFに支援を要請した。その後の緊縮政策の実施により,一応の通貨安定と対外収支の改善がみられたが,高金利などにより,98年に入って投資・消費の不振はさらに深刻なものとなっており,雇用情勢も悪化している。通貨危機発生から1年以上経過したが,生産はいまだ底を打っておらず,東アジア諸国の景気後退は,比較的堅調であった中国,台湾などにも影響を及ぼしている。98年の経済成長率は,インドネシア,タイをはじめ多くの国でマイナスに転じると見込まれている(第1-4-1表)。

物価上昇率は近年多くの国・地域で低下していたが,98年に入り通貨減価の影響や食料品価格の高騰などから,ASEAN諸国を中心に上昇しでいる。

経常収支は,中国,台湾,シンガポールなどを除くほとんどの国で90年代に入り赤字が続いていたが,輸入の大幅な減少を主因とする貿易収支の改善から赤字幅が縮小し,韓国,タイなどでは97年10~12月期以降黒字に転じている(後掲第1-4-4図)。

(1) 中国(香港を含む):景気は鈍化

中国は97年9月の第15回共産党大会で,市場経済化の重要課題である国有企業改革に本格的に取り組む方針を決定した。国有企業改革の進行につれて失業者が増加する懸念があり,また景気を牽引していた輸出も鈍化レCきたことから,政府は公共投資の拡大,金融緩和,輸出振興策などの政策を打ち出している。

香港が中国に返還された97年7月1日の直後に,タイで通貨危機が発生し,10月の株価の急落など香港経済にもその影響が及んだ。香港ドルのペッグ制維持のための金利引上げ,不動産・株価などの資産価格の下落などを要因に,景気は大幅に減速し,雇用情勢も悪化した。

(中国:生産が鈍化)

中国の実質GDP成長率は95年10.5%,96年9.6%の後,97年は8.8%と高水準ながら拡大テンポは次第に鈍化した(第1-4-2図)。政府は雇用確保の必要性などから,98年の経済成長率の目標を8%に設定しているが,98年に入っても1~3月期前年同期比7.2%,1~6月期同7.0%と鈍化傾向は続いている。

鉱工業生産の伸びも,95年14.0%,96年12.7%の後,97年11.1%,98年1~6月期前年同期比7.9%と増勢が鈍化している。鉱工業生産の鈍化については,消費の鈍化,家電製品等の過剰在庫などが背景にあるとみられる。また,長江流域で6月中旬に発生した大洪水により農作物に被害がでており,鉱工業生産にも影響が及ぶとみられる。中国政府は,洪水の被害により98年の経済成長率が0.5%押し下げられるとみている。

消費の動向を社会商品小売総額(消費財,実質)の伸びでみると,96年12.5%増,97年10,2%増の後,98年1~6月期前年同期比8.9%増と鈍化している。

固定資産投資の伸びは,96年18.2%,97年10.1%の後,98年1~6月期前年同期比13.8%となった。中国政府は,成長率目標達成のために98年後半に固定資産投資を加速させるとみられる。

消費者物価上昇率は,94年に24.1%まで高まったが,その後引締め政策などにより徐々に低下し,96年には一桁台の8.3%になった後,97年には2.8%と先進国並みの水準となった。97年の物価の安定には,工業製品の値引き販売や豊作による食糧価格の安定が寄与している。98年に入って消費者物価上昇率は更に低下し,1~3月期前年同期比0.3%,1~6月期は同▲0.3%どなった。

国際収支をみると,93年に赤字化した経常収支は,94年1月の元切下げや景気の引締めによる貿易収支の黒字化から94年以降再び黒字に転じ,96年72.4億ドル(GDP比0.9%)の黒字の後,97年は297億ドル(同3.3%)ど黒字幅が拡大した。輸出の伸び(ドルベース)は,通貨・金融危機の影響もあって98年に入り急速に鈍化しており,1~3月期前年同期比13.9%増の後,4~6月期は同2.6%増となった。輸入は1~3月期同2.7%増の後,4~6月期同1.8%増と低水準で推移していることから,貿易収支は依然として大幅な黒字である。

また,外貨準備高は96年末の1,050億ドルから97年末には1,399憶ドルに積み上がり,98年6月末は1,405億ドルとなっている。

金融情勢をみると,マネーサプライ(M2)増加率は徐々に低下し97年末は前年末比17.3%と目標圏の23~24%を大幅に下回った。98年6月末は前年同月末比14.0%(98年の目標圏は16~18%)となっている。人民銀行は97年10月に預金・貸出金利の引下げを行った後,98年3月及び7月にも引下げを実施し,1年物貸付金利は6.93%となっている。


《コラム1-5》 人民元の切下げはあるか

97年7月に起きたアジア通貨・金融危機以降,ASEAN,アジアNIEs諸国の通貨が香港を除いて大幅に減価するなが,人民元はドルに対して安定的な推移が続いている。その結果,人民元はアジア通貨に対して相対的に増価しており,輸出競争力の面で不利な状況が生じていると考えられることから,中国が人民元の切下げを実施するのではないかとの見方もでている。中国の人民元を取り巻く状況をみてみよう。

まず,輸出については,中国の輸出の伸びは,98年に入ってから徐々に鈍化している。しかし,中国政府は輸出奨励策の一環として,(1)輸出の際の増値税(付加価値税)還付率引上げ,(2)輸出企業に対する融資拡大など,人民元切下げ以外の措置を講じて輸出を下支えしている。また,(1)中国の労働コストは依然としてASEAN,アジアNIEs諸国に比べて優位にたっていること,(2)98年に入ってからの輸出の伸びの鈍化は,中国製品の競争力の低下だけでなく,輸入国側の需要の低迷も影響していることから,輸出の鈍化が全て中国製品の競争力の低下によるものとはいえない。

仮に人民元を切り下げた場合,輸出の価格競争力を増大させる反面,輪入価格の上昇や,外貨建て債務の負担増などのコストが伴うことに留意を要する。

一方,中国経済の対外面をみると,(1)人民元は資本取引に関する自由化が行なわれていないため資金の移動に制限があり投機の対象となりにくく,(2)中国の経常収支は大幅な黒字であり,(3)外貨準備も潤沢である。

以上のような状況が大きく変わらない限り,人民元の切下げが行われる経済的理由は乏しいと考えられる。


(香港:マイナス成長へ)

香港経済は95年に内需の不振から景気が停滞した後,96年から97年前半までは緩やかな回復を続けていたが,97年後半よりアジア通貨下落の影響を受けて景気は減速した。実質GDP成長率は,96年4.6%の後,97年は5.3%となった。

ただし,97年1~6月期は前年同期比6.3%の伸びであったのに対し,7~12月期は同4.4%と鈍化した。98年1~3月期は同▲2.8%,4~6月期同▲5.0%と景気は急速に後退している。香港政府は98年の成長率を▲4%と見込んでいる。

特に消費の落ち込みが目立ち,小売売上額は97年10~12月期以降前年同期比で減少が続き,98年1~3月期13.4%減,4~6月期15.3%減となっている。

小売売上不振の要因としては,(1)外国人観光客の減少(小売売上高の約20%は観光客による),(2)香港ドル防衛のための高金利(HIBOR3が月物98年6月現在10.0%),(3)雇用者所得の減少,などが挙げられる。

政府は98年5月に,94年に制定された住宅物件の投機抑制政策の一時緩和・撤廃や観光促進策などの経済対策を発表し,更に6月には,企業の預金利子の非課税化,不動産税の還付などを盛り込んだ総額320億香港ドル(GDPの2.5%)の経済対策を打ち出した。

消費者物価上昇率は96年以降総じて落ち着いた動きとなっており,96年6.0%,97年5.7%となった。98年に入っても,耐久財などが引き続き安定していることから,1~3月期前年同期比4.8%,4~6月期同4.1%と低下している。雇用情勢をみると,小売,レストラン,建設部門で失業者が増加している。失業率は97年7~9月期の2.2%を底に急速に上昇しており,98年1~3月期3.5%,4~6月期4.4%となっている。

貿易収支をみると,90年代に入って赤字が定着し,赤字幅も拡大する傾向にあり,97年の貿易収支赤字は206億ドル(GDP比12.0%)となった。98年に入って輸出入とも前年同期比で減少しているが,輸入の減少が大きいことがら赤字幅は縮小している。

(2) アジアNIEs:周辺国・地域の景気低迷の影響顕在化

アジアNIEsでは,80年代後半の高成長の後,90年代前半もおおむね堅調な景気拡大が続いていた。96年には半導体の市況悪化や円高是正などがら輸出の伸びが大幅に低下して成長率もやや鈍化し,韓国では経常収支の赤字が急拡大した。97年に入って,韓国では財閥企業の経営破綻が相次ぎ,金融機関の不良債権が増大して金融システムへの不安が高まり,通貨・株価が大幅に下落して経済は混乱した。一方,台湾,シンガポールでは,タイに端を発する通貨危機を受け通貨・株価がやや下落したものの,その直接的な影響は限定的で,97年の両国経済は堅調さを維持した。その背景には,(1)経常収支の黒字が続いていること,(2)外貨準備高が潤沢であること,(3)不良債権問題が深刻化していないこと,などがある。しかし,98年に入り周辺諸国の景気低迷の影響が輸出などにでてきており,両政府とも98年の成長率見通しを下方修正した(前掲第1-4-1表)。

(韓国:急増する失業者)

韓国経済は,96年には半導体の市況悪化やウォンの円に対する増価の影響などから輸出の伸びが大幅に鈍化し,景気は緩やかに減速した。97年に入っても民間設備投資の落ち込みなどから減速が続き,さらに97年央からの通貨・金融危機により経済は混乱し,11月にIMFに支援を要請した。消費や投資は98年に入って大幅に落ち込み,景気は後退している。実質GDP成長率は96年7.1%,97年5.5%の後,98年1~3月期は前年同期比▲3.9%,4~6月期同▲6.6%となった。

消費者物価上昇率は96年に4.9%とやや高まった後,97年は食料品価格の安定から4.5%へと低下した。97年末から通貨減価の影響で急上昇し,98年1~3月期前年同期比8.9%,4~6月期同8.2%となったが,ウォンの対ドル・レートの落ら着きもあって,7~9月期同7.0%と年央以降騰勢は鈍化執ている。

雇用情勢は,財閥の破綻による解雇の増加などから97年末から悪化し,失業率は98年7月に7.6%と既往最高を記録した。失業者数は97年末の65万人から98年7月には165万人に達している。

経常収支は,輸入の大幅な減少による貿易収支の改善により赤字が急速に縮小し,赤字額は96年の230.1億ドル(GDP比▲4,7%)に対し97年は81.7億ドル(同▲1.8%)となった。97年10~12月期以降は貿易収支,経常収支ともに黒字に転じ,198年に入って黒字幅が拡大している。

金融動向をみると,マネーサプライ(M2)増加率は,97年には伸びが高まったが,98年に入り金融機関の貸し渋りや実体経済の低迷を反映して伸びが低下した。また,IMF支援受入れ条件の一つである高金利が継続していたが,外貨準備高が増加するとともに徐々に低下した。

(台湾:景気の拡大テンポ鈍化)

台湾経済は,95年後半から96年にかけて,中台関係の悪化などによる投資マインドの後退などから減速傾向で推移したが,97年は民間消費,民間投資が活発となり堅調な景気拡大を遂げた。実質GDP成長率は96年の5.7%の後,97年は6.8%となった。98年に入り民間投資は高い伸びが続いているが,通貨・金融危機の影響などから輸出が落ち込み,成長率は1~3日期前年同期比5.9%,4~6月期同5.2%と景気拡大のテンポは鈍化している。政府は8月に,98年の経済成長率見通しを,当初の6.7%,5月時点の6.0%から5.3%へ下方修正した。

消費者物価上昇率は,80年代後半以降3~4%台で推移し,96年3.1%の後97年は0.9%と10年振りの低い水準となり,98年に入っても安定している。一方,96年から97年にかけて下落が続いていた卸売物価は,通貨減価の影響を受け97年末から上昇に転じたが,98年半ば以降は落ち着きをとり戻しつつある。

経常収支は,96年に大幅に黒字が拡大し110.3億ドル(GDP比4.O%)となった後,97年は貿易収支黒字の縮小から76.9億ドルの黒字(同2.7%)となった。輸出は日本を含むアジア諸国向けの落ち込みから98年に入り減少に転じており,1~3月期前年同期比6.5%減,4~6月期同7.8%減となっている。一方,輸入は98年1~3月期前年同期比0.1%増の後,4~6月期は同7,0%減と減少に転じている。

金融面の動向をみると,マネーサプライ(M2)の増加率は96年9.1%の後97年も8.O%と,9~14%の目標圏を下回る低い伸びにとどまった。台湾中央銀行は97年12月にM2の目標圏を6~12%に引き下げた。98年に入って,M2の伸びは前年比8%台で推移している。なお,中央銀行は為替の安定のため97年8月に公定歩合を5.0%から5.25%に引き上げたが,ぞの後の景気動向にかんがみ,98年9月に5.125%へ引き下げた。

(シンガポール:景気は減速)

シンガポール経済をみると,96年にはエレクトロニクス製品の輸出不振がら成長率は6.8%と鈍化した。97年にはアジア通貨・金融危機の影響で通貨・株価はやや下落したものの,年央のエレクトロニクス製品の輸出増加などから,成長率は7.8%と前年を上回った。97年末以降,周辺国の経済不振の影響が輸出や消費などに現れ,実質GDP成長率は98年1~3月期前年同期比6.1%の後,4~6月期同1.6%と大幅に減速した。政府は6月に,98年の経済成長率見通しを当初の2.5~4.5%から0.5~1.5%へ下方修正した。

物価は下落している。消費者物価上昇率は97年後半にやや上昇したが,98年に入り輸入物価の落ち着きなどから低下している。

国際収支をみると,経常収支は運輸,旅行等のサービス収支の黒字により,95年以降140億ドル台の高水準の黒字が続いた(GDP比で96年15.5%,97年15.2%)。貿易収支は赤字基調であったが,輸入の大幅な減少により98年に入って黒字に転じている。

金融動向をみると,マネーサプライ(M2)増加率は,97年中は緩やかな伸びを続け97年末は前年比10.3%となったが,98年に入って低下し6月末で8.1%となっている。貸出金利は98年に入って高止まっており,プライムレートは8月末で7.79%となっている。

(3) ASEAN:深刻な景気後退

ASEAN諸国は97年の通貨・金融危機の影響を最も強く・受けた。為替相場の安定などを図るために緊縮政策や高金利政策が採られ,投資や消費が大幅に落ち込み,98年に入って景気は一層後退した(前掲第1-4-2図)。

IMFの支援を受けたタイ,インドネシアでは経済改革に取り組んでおり,経常収支の改善や金融システムの再建などではある程度成果を挙げている(コラム1-6 参照)。一方,企業倒産や人員整理により失業率が高まり,社会不安が増したことなどから,多くの国で緊縮政策が緩和されてきている。

通貨減価による輸入品価格の上昇や食糧価格の高騰などから,98年に入って多くの国で物価が上昇している(第1-4-3図)。

(インドネシア:政治・経済の混乱続く)

インドネシアでは設備投資の拡大を背景に94年以降経済成長率が高まり,96年は8.O%の高成長となった。タイ・バーツ下落の影響を受け,インドネシア・ルピアは97年8月に変動相場制に移行した。10月のIMF支援決定後もルピアの下落が続き,金融不安の拡がりや干ばつによる農業生産の減少などから,経済状態は年末にかけて急速に悪化し,97年の経済成長率は4.6%と大幅に鈍化した。98年に入っても,通貨安定のための高金利政策などから,国内投資をはじめ経済活動全体が停滞し,98年1~3月期の実質GDP成長率は前年同期比▲7.9%,4~6月期は同▲16.5%と大幅に落ち込んでいる。

消費者物価は,通貨減価に伴う輸入品価格の上昇や,干ばつによる食糧価格の高騰などから97年末以降急騰し,98年1~3月期前年同期比27.7%,4~6月期同49.7%の後,7~9月期同76.3%となった。

インドネシアでは従来から,石油など一次産品の輸出が大きいことから貿易収支は黒字,対外債務の利払いから所得収支は大幅な赤字となっており,経常収支は赤字基調である。97年は輸入の大幅な減少により貿易収支の黒字が拡大し,経常収支赤字は96年の78.0億ドル(GDP比▲3.4%)から50.O億ドル(同▲2.3%)に縮小した。98年に入って貿易収支黒字がさらに拡大し,1~3月期の経常収支は10.0億ドルの黒字に転じた。

98年3月の大統領選挙ではスハルト大統領が七選されたが,多選に反対する勢力の存在や,食糧不足,インフレなどから政治不安が高まり,各地で反政府デモや暴動が発生した。5月にはガソリン価格の大幅引上げなどを契機に,首都ジャカルタでの大規模な暴動にまで発展し,スハルト大統領は辞任した。ハビビ新政権発足後も物価の急騰は続いており,社会不安は解消されていない。


《コラム1-6》 IMFの支援を受けた3か国の経済改革への取組

97年に,IMFの支援を受けることになったタイ,インドネシア,韓国の3か国では,現在,IMFとの合意に基づきそれぞれ経済改革に取り組んでおり,これまでに以下のような取組に着手,いくつかの成果を上げている。

タイ

1. 包括的金融再建策を発表(97年10月)

  • 金融再建庁(FRA),資産管理会社(AMC)を設立
  • 不良債権基準の厳格化

2. 金融機関の整理,再編

  • 経営悪化から営業停止を命じられていたファイナンスカンパニー(FC)58社のうち,56社を閉鎖
  • 金融機関に経営立て直しを求め,増資がかなわない金融機関については減資の上,国営化(商業銀行4行,ファイナンスカンパニー社)

3. 閉鎖されたFC56社の資産の処理

  • FRAにより,閉鎖されたFC56社の資産の売却を開始

4. 法制度の改正

  • 従来の破産法に会社再建の関連の規定を加えた改正破産法が発効

5. 金融部門再建策を発表(98年8月)

  • 商業銀行2行,FC5社を政府系金融機関に合併
インドネシア

1. 金融システムの再建

  • 資産管理会社を設立し,銀行再建庁監督下にある問題銀行54行の不良債権を移管(98年4月)
  • 中央銀行から銀行セクターに対する流動性の供給

2. 高金利水準の維持

  • インフレの抑制,為替レート下落の阻止

3. 対外民間債務問題処理

  • 一部の債務について返済猶予や長期債務への転換などの処理方法で合意(98年6月)

4. 緊縮的な財政改革

  • 食品,燃料,電気料金に対する補助金の削減

5. 弱体化した企業の淘汰を目的とした破産法を制定

韓国

1. 公的資金の導入による不良債権の整理

  • 公的資金約80兆ウォンを計上

2. 破綻銀行の国有化を始めとする金融機関の整理

  • BIS規制を下回る商業銀行12行のうち,5行を整理(98年6月)

3. 資本市場の外資への開放

  • 外国人投資家による証券投資の投資枠を撤廃,全面開放(98年5月)

4. 労働市場の流動化

  • 整理解雇制の実施(98年2月)

5. 財閥の構造改革

  • 相互債務保証の是正
  • 法的根拠のないグループ会長ポストを廃止して,財閥オーナーの経営責任明確化及び経営透明性の向上

(タイ:景気低迷が深刻化)

タイは96年に輸出が大幅に鈍化したことから,実質GDP成長率は95年の8.8%から5.5%へと減速した。97年に入り数度にわたる通貨減価圧力を受け,7月に為替制度を管理フロート制に移行した。通貨は大幅に下落し,その後も経済の動揺は収まらず,8月にIMFへ支援を要請した。景気は急速に後退し,97年の成長率は▲0.4%と60年代以降では初めてのマイナス成長となった。

IMFとの合意のもとに経済再建に取り組み,98年に入り通貨はやや落ち着きを取り戻した。しかし,高金利政策の継続,金融改革の過程で生じた金融機関の再編・淘汰の影響などから内需は大幅に落ち込んだ。こうした著しい景気の悪化にかんがみ,財政・金融政策は緩和されてきているものの,消費・投資ともに回復の兆しはみられない。製造業生産指数の動きをみると,98年1~3月期前年同期比16.9%減,4~6月期同15.6%減と大幅な減少が続いている。政府は98年の経済成長率を▲7.O%と見込んでいる。

物価は97年前半は落ち着いて推移したが,8月の付加価値税の引上げ(7%→10%)や通貨減価の影響から年央以降上昇した。消費者物価上昇率は98年4月以降二桁台の上昇率となったが,8月以降騰勢は鈍化している。

タイは貿易収支赤字が大きいため,経常収支は恒常的に赤字であり,95年以降赤字幅が拡大していた。97年には輸入が大幅に減少したことから,9月以降貿易収支,経常収支ともに黒字に転じ,年全体では赤字幅が大きく縮小した。98年に入っても貿易収支,経常収支の黒字が続いている(第1-4-4図)。

(マレイシア:急速な景気後退)

マレイシアは93年以降8%を超える高成長を続けてきた。しかし,97年には周辺アジア諸国の通貨が下落するなか,マレイシア・リンギも大きく減価し,経済成長率は7.8%に低下した。通貨減価圧力への対応から金融・財政ともに引締めを余儀無くされ,大型建設プロジェクトの中止,延期などもあって景気は急速に後退した。四半期ごとの実質GDP成長率の推移をみると,97年10~12月期前年同期比6.9%の後,98年1~3月期同▲2.8%,4~6月期同▲6.8%と急速に悪化している。

鉱工業生産は98年に入リマイナスに転じ,4~6月期には前年同期比6.0%減となった。こうした中,マレイシア政府は金融・財政政策を緩和するとともに,通貨,経済の安定のため,9月には為替・資本取引規制策を導入した。

消費者物価上昇率は,96年の3.5%から97年は2.7%へと低下したが,通貨下落による輸入物価の上昇などから97年末以降上昇し,98年1~3月期前年同期比4.3%,4~6月期同5.7%となっている。

貿易は輸出入ともに不振で,輸入の減少がより大きいことから,貿易収支は黒字に転じている。

(フィリピン:輸出は比較的順調)

ラモス政権下での規制緩和等の経済改革の効果から,フィリピンの経済成長率は93年以降年々高まり,96年は5.8%となった。97年は後半の通貨下落の影響による内需の減少から5.2%へと鈍化した。98年に入って,高金利や干ばつによる農業生産の不振などから景気は減速し,実質GDP成長率は,1~3月期前年同期比1.7%,4~6月期同▲1.2%となった。

消費者物価上昇率は,97年は食料品やエネルギー価格の安定により5.1%に低下したが,通貨ペソの下落に伴う輸入物価の上昇や農産物価格の上昇などから,97年末以降上昇率が高まっている。消費者物価上昇率は,98年1~3月期前年同期比7.9%,4~6月期同10.0%となった。

貿易収支は,輸出(ドルベース)が欧米向けを中心に高い伸びを続ける一方輸入が減少していることから,赤字幅が縮小している。

98年6月末に就任したエストラーダ新大統領は,ラモス前政権の改革路線を継続するとしている。

(ベトナム:直接投資の流入減少)

ベトナムの実質GDP成長率は,95,96年の9%台の高い成長の後,97年は8.8%とやや低下した。アジア通貨・金融危機の影響は他のASEAN諸国ほど大きくないものの,輸出や直接投資の流入などに鈍化がみられる。98年1~7月期の成長率は6.6%へと低下し,政府は7月に,98年の経済成長率見通しを当初の9%から6~7%へ下方修正した。

消費者物価上昇率は,96年4.5%,97年3.2%と低下してきたが,98年に入って食糧価格の高騰や通貨減価の影響により再び上昇し,98年7月の前年同月比は8.1%となった。

輸出は97年まで二桁台の伸びが続いていたが,98年1~6月期は前年同期比7.3%増と大幅に鈍化した。直接投資の受入額(認可ベース)は96年85.0億ドルの後,97年は55.5億ドルと大幅に減少した。

(4) 南アジア:経済制裁の影響現れる

(インド:景気の減速続く)

インドでは94~96年度の間7%を超える経済成長が続いていたが,97年度(97年4月~98年3月)は天候不順による農業生産の減少や工業生産の鈍化から,実質GDP成長率は5.1%に鈍化した。鉱工業生産は97年後半から低水準の伸びで推移している。

物価は景気の鈍化を反映して徐々に低下し,97年度の卸売物価上昇率は4.8%となったが,98年に入り農産品価格の上昇などから再び上昇している。

国際収支をみると,貿易収支は94年度以降赤字幅が拡大している。経常収支赤字は,96年度にサービス収支の改善から赤字幅が縮小し44.9億ドル(GDP比▲1.2%)となったが,97年度は貿易収支赤字の拡大がら64.7億ドル(GDP比▲1.7%)と再び拡大した。輸出(ドルベース)は97年中低い伸びで推移し,98年に入ってアジア向けを中心に減少に転じている。

ルピーの対ドル・レートは,アジア通貨・金融危機の影響やルピーの過大評価の修正などから97年11月以降大幅に下落し,98年1月の金融引締め策の発表で一時落ち着きを取り戻した。しかし,核実験実施に伴う経済制裁,98年度予算案に対する財政赤字拡大懸念などから,ルピーは5月以降再び減価している。

(パキスタン:対外債務返済問題深刻化)

パキスタンでは,93~95年度は4~5%台の経済成長が続いていたが,96/97年度(96年7月~97年6月)は綿花生産の不振などから実質GDP成長率は1.3%に落ち込んだ。97/98年度は,GDPの25%を占める農業生産が前年度比5.9%増と高い伸びとなり,製造業の生産も7.O%増と回復したことから,5.4%の成長となった。

消費者物価上昇率は90年代に入って二桁の上昇が続いていたが,農業生産の増加,政府借入れの抑制などから,97/98年度は8.2%へ低下した。財政赤字のGDP比は96/97年度の6.2%から97/98年度は5.O%へと縮小した。

国際収支をみると,97/98年度は輸入が大幅に減少し,貿易収支,経常収支ともに赤字幅が縮小した。外貨準備高は97年6月末の12.5億ドルから,98年6月末には8.4億ドルに減少した。5月の核実験実施に伴う経済制裁の影響や対外債務返済問題の深刻化などから,ルピーの対ドル・レートは下落している。

2 大洋州:アジア通貨・金融危機の影響及ぶ

97年央からのアジア通貨・金融危機の影響が輸出や観光面に現れており,特にニュージーランドでは98年に入って景気が後退している。

(オーストラリア:アジア向け輸出鈍化)

オーストラリアでは,94/95年度(94年7月~95年6月)以降景気拡大のテンポが鈍化し,実質GDP成長率(平均ベース)は95/96年度4.2%,96/97年度2.8%となった。96年後半から97年にかけての金融緩和により,住宅投資が回復し,設備投資や個人消費も堅調な伸びとなったことがら,97/98年度は4.0%の成長となった(第1-4-5図)。政府は9月にアジア経済の低迷など国際経済情勢の悪化による企業や消費者のコンフィデンスの低下を理由に,98/99年度の経済成長率見通しを3.O%(5月時点)から2.75%へ下方修正した。

消費者物価上昇率は96年初から98年初にかけて低下が続き,98年4~6月期前年同期比0.7%と落ち着いている。失業率は95年に改善して8%台半ばに下がった後,97年まで横ばいが続き,98年前半は8.1%と若干改善した。

国際収支をみると,97/98年度の輸出は,韓国やASEAN諸国向けが減少したものの,アメリカ,EU諸国向けが大幅に増加し堅調である。一方輸入は,堅調な国内需要を反映してアジア諸国からの輸入を中心に大幅に増加した。経常収支は95/96年度以降赤字幅が縮小していたが,97/98年度は貿易収支が赤字に転じたことから239億豪ドル(GDP比▲4.4%)の赤字となり,赤字幅が拡大した。対ドル・レートは,96年半ば以降数度にわたる政策金利引下げの影響などから,97年初から減価が続いている。

(ニュージーランド:景気後退へ)

ニュージーランドでは,94年後半の金融引締め以降景気拡大のテンポが鈍化し,実質GDP成長率(生産ベース)は96年度(96年4月~97年3月)2.7%の後,97年度は2.3%となった。98年に入っても,アジア通貨・金融危機に伴う輸出の伸び悩みや観光客の減少,干ばつの影響などで景気は悪化しており,1~3月期前期比年率▲4.1%,4~6月期同▲3.2%となった。政府は98年度の経済成長率を▲O.5%と見込んでいる(前掲第1-4-5図)。

消費者物価上昇率は97年中低下が続いた。98年に入って輸入物価の上昇などからやや上昇しているが,4~6月期の前年同期比は1.7%と落ち着いている。

金融は96年末から緩和基調が続いている。失業率は96年10~12月期の6.0%を底に上昇しており,98年4~6月期は7.7%となっている。

経常収支赤字は,96年度45,2億NZドル(GDP比▲4.7%)の後,97年度は71.9億NZドル(同▲7.3%)と赤字幅が拡大した。対ドル・レートは97年初より減価が続いている。

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