平成9年
年次世界経済報告
金融制度改革が促進する世界経済の活性化
平成9年11月28日
経済企画庁
第2章 金融制度の改革
ここではまず,1.欧米主要国などで進展している金融システムの規制緩和・自由化の概要について整理する。次に,2.金融システムと規制の関係について,(1)金融システムに規制が課せられた理由と規制の種類について述べ,(2)なぜそれらの規制が緩和されてきたのかについて考える。さらに,3.金融システムの改革が進む中で監督制度がどのように変化しているかを概観する。最後に,4.各国で進展していった金融システム改革の結果,金融業にどのようなことが起きたかをみる。
欧米主要国等の金融システム改革を概観すると,以下のようである。
アメリカにおける金融システムヘの規制は,1)預金金利規制,2)州際業務規制,3)業務分野規制が中心となっていた。このうち1)預金金利規制については,70年代後半にインフレーションが昂進すると共に,規制の適用を受けない市場金利が高騰し,その結果市場金利と預金金利の格差が拡大したため,預金から収益率の高いMMF(Money Market Mutual Fund)などの投資信託商品に資金が移動したことを契機として,自由化が急速に進められた。83年には定期預金金利が自由化され,86年にはすべての金利規制が廃止されている。
また,2)州際業務規制により銀行の営業地域が州内に限られていることは,銀行を競争から保護することになるものの,①銀行が他地域に進出して業務を拡大することによって得られる収益チャンスを制限し,②銀行収益が営業を許可された地域の景気に左右されるため,かえって経営安定性を損ねることになった。そのため,銀行自らが州外の業務に進出することを求める動きが出始め,徐々に銀行営業の地理的制限の規制緩和が進展し,94年の州際銀行支店効率化法の成立により,銀行が営業区域を一層拡大することが可能になった。
3)業務分野規制の緩和が進んだ要因としては,企業の資金調達が銀行からの借入よりも株式や債券など資本市場からの調達へと変化し,銀行が預金・貸出という伝統的な金融仲介業務の収益力の低下に直面していることが挙げられる。銀行・証券が相互に新たな業務への進出を目指しているなか,業務分野規制はいまだに存続しているものの,実体としては持株会社の子会社により参入が可能となっており,次第に垣根は消滅する方向で動いている。
イギリスでは,まず71年に預貸金金利を公定歩合と連動させる金利協定が廃止され,預貸金利は原則として自由化された(第1次金融革命)。
79年には預金保険制度を創設し,為替管理が撤廃され,銀行法が制定された。イギリスでは従来成文法としての銀行法が存在せず,各金融機関はそれぞれの業態ごとの自主規制に服してきた。銀行法の具体的な内容としては,①金融機関を預金受入れ機関と非預金受入れ機関とに分け,預金受入れ業務はイングランド銀行による免許制としたこと,②預金受入れ業務の免許については,大手を中心とした承認銀行と下位業態にあたる認可銀行に分け,銀行の定義を明確化したこと,などが挙げられる(ただし,87年の銀行法改正により,銀行免許は一元化された)。
81年には最低貸出金利廃止等の金利自由化の推進(第2次金融革命),86年10月にロンドン証券取引所のビッグ・バン(証券売買手数料の自由化など)が行われ,11月に金融サービス法が成立している(第3次金融革命)。金融サービス法は,ビッグ・バンにより国内外の金融機関の証券業務への参入が活発化し,明文化された証券業務に対する法規制が必要になり,それを受けて制定されたものである。同法は金融機関ごとの個別の規制法ではなく,投資家保護を目的に幅広い投資商品(株式,債券,生命保険,先物等)・行動を規制する網羅的な法律となっている。
ドイツでは,銀行がほとんどすべての金融関連業務を行えるユニバーサル・バンク制度をとっており,銀行・証券に関する業務分野規制はない。金利自由化も世界の中でも早い時期の64年に達成されている。8Q年代後半以降,資本市場の振興を目指した規制緩和が推進されている。具体的には,85年のマルク建て外債市場の自由化措置(外国金融機関の現地法人に対してマルク建て外債の主幹事業務の開放など),90年の先物取引所設立・91年の有価証券取引税の廃止等(第1次資本市場振興法),94年の証券取引法制定等(第2次資本市場振興法)が挙げられる。また,97年7月には,情報開示関連規制の強化を盛り込んだ第3次資本市場振興法が閣議決定されている。
フランスでは,以前から銀行が証券の引受業務等を手がけていたが,84年の銀行法で,法律上もユニバーサル・バンク制度を取っていることが明確化された。ただし,この時点では取引所におけるブローカー・ディーラー業務を行うことはできなかった。その後,イギリスに比さて規模は小さいものの87~89年(特に88年の証券市場改革はフランス版ビッグ・バンとよばれる)に証券市場を中心とした改革が行われ,銀行等の証券取引所会員会社への資本参加が可能となり,実態的にもユニバーサル・バンクとして業務を展開することとなった(なお,89年には証券売買手数料も自由化されている)。さらに96年には,金融業務近代化法等の成立により銀行が直接取引所取引を行う道が開かれた。
東アジアでは,香港,シンガポールにおいては,自由化が主要先進国なみに進展している。金利規制はすでに撤廃されており,銀行・証券の業務分野についても相互の参入が可能となっている。為替管理規制は香港は73年,シンガポールは78年に撤廃されており,イギリスの79年,フランスの90年などよりも早い。
その他の東アジアでは,金利規制については70年代後半から90年代前半までにほぼ廃止されている。業務分野規制や資本移動規制については,90年代に入ってから規制緩和の動きが進んでいる。
このように,各国で金融システムへの規制緩和・自由化が進展している。ここでは,(1)金融システムに規制が課せられた要因と規制の種類,(2)金融システムへの規制緩和・自由化が進展した要因,(3)金融システムにとって真に必要な規制,について考える。
金融システムの主な役割としては,①家計の余剰資金を広く吸収し,企業が必要とする資金を効率的に調達できるようにする金融仲介機能と,②一国の貨幣制度や国内外の決済システム機能が考えられる。金融業は,他の産業のインフラ的サービスを提供する重要な役割をも担っている。
金融システムに対して規制を課す根拠は,1)信用秩序の維持,2)預金者の保護,に集約することができる。
金融業は他の産業に対する基盤的なサービスを提供する役割を担い,国民生活とも強い,関係をもっている。そのために,金融業が機能不全を起こしたときには,他の産業や国民生活に与える影響が著しく大きいと予想できる。具体的には,金融業は,一国の貨幣制度や国内外の決済システムの担い手であり,貨幣制度・決済システムはあらゆる経済活動の基盤となるものである。そうした経済活動の基盤たる貨幣制度・決済システムが円滑に機能しなくなれば(=信用秩序の崩壊),経済の他の部分にもマイナスの影響が及ぶので,金融業に対しては規制が課されてきた。
預金者は,個々の金融機関の経営状態を的確に評価する能力が欠けているか,あるいは仮に能力があっても,正確な評価を行うために情報を収集・分析することは費用的にみて割に合わないことが多い。そのために,金融機関は当然自らの経営状態について情報を持っているのに対して,預金者はそうした情報を持たないという情報の非対称が存在することになる。
このような事態を回避するために,規制当局は,預金者に代わって金融機関に規制を課し,経営内容の監視を行っている。また,預金保険制度によって,預金者に対して預金の払い戻しを保証することにより,金融システム全体の安定性を図る必要があると考えられる。
信用秩序維持,預金者保護を目的とした金融システムに対する規制としては,①預金金利規制,②参入規制(免許制),③業務分野規制(銀行・証券・保険・信託分離,長短分離,中小分離など),④資本移動規制,などが主なものとしてこれまで考えられてきた。
預金金利規制の根拠として一般に説明されているのは,預金金利を規制しないと,銀行が多くの預金を獲得しようとして預金金利引上げ競争に走る結果,過当競争に陥り銀行経営が悪化するというものである。預金金利規制や証券売買手数料規制などの価格規制は,過当競争を回避させるための競争制限的規制の代表的なものといえる。
参入規制の目的は,詐欺や何らかの犯罪行為を目的としている個人や企業が銀行を開設したり,そもそも経営能力の乏しいスタッフからなる銀行が開設されることによって,銀行の倒産などが相次ぐことにより,金融上の混乱を未然に防ぎ,信用秩序を維持することが規制の根拠の1つとして挙げられる。また銀行数を制限することにより,過当競争を防止し,銀行の経営を健全化することも目的としていた。
業務分野規制については,特定の種類の金融機関の業務を専門化させることによって,結果的にそれらの金融機関の経営を安定的なものとし,さらには,その専門分野への円滑な資金供給を確保することを目的としている。
まず長短金融分野規制についてであるが,この規制は,預金を主たる原資として短期金融に専念する金融機関と,満期の長い債券発行による資金調達が認められ,主として長期金融を行う金融機関とを分離することをいう。これは銀行の資産・負債の満期構成がアンバランスになり,流動性リスクが高まることにより銀行経営の安定性が損なわれることを防ぐことを目的としていた。欧米主要国ではフランスとイタリアにおいて長短分離規制が課せられていたが,フランスでは66年に実質的に撤廃され,イタリアでも87年に制限付き(自己資本比率に応じて預金残高の10%以内かつ総貸出残高の30%以内で中長期貸出が可能)で緩和されている。
次に銀証分離についてであるが,この規制は銀行が本体で証券業務を営むことを禁止することをいう。この規制は主としてアメリカで行われており,銀行が証券業務を営むことは銀行経営の健全性を損ねるという考え方に基づいている。また,利益相反問題の発生を防止するという考え方もあった。ヨーロッパでは,銀証分離は行われていなかったものの,実際にはドイツを除き,銀行の証券業務は引受等に限られていた。
また92年に規制緩和されているものの,カナダでは銀行と信託も分離されていた。保険については,フランス,イギリスなどで,子会社による参入が可能となっている。アメリカでは,銀行本体・子会社による債権保全を目的とした信用保険の販売が認められている。
このように,金融システムへの規制は,①信用秩序維持,②預金者保護という目的のために課せられてきたものであるが,それが,なぜ欧米主要国において規制の緩和・自由化の方へと向かっていったのだろうか。
世界各国において,金融システムの規制緩和・自由化が進展している(第2-1-1表)。欧米主要国における金融システムに対する規制緩和の進展状況を,価格規制,業務分野規制などの規制ごとの観点からみると,価格規制である預金金利規制は欧米主要国では60年代後半より自由化が始まり,90年代前半にはすでに撤廃されている。資本市場における証券売買手数料も,70年代半ば頃より各国で自由化が進展している。業務分野規制の緩和については,全般的に価格規制自由化よりも開始時期は遅い。銀行・証券分野規制は,80年代半ば頃より徐々に垣根が撤廃される方向へ向かっている。ドイツでは,もともと銀行・証券の垣根のないユニバーサルバンク制度をとっているため,垣根の問題は生じない。その他の国においても,フランスがドイツに近い形態で銀行本体での証券への参入が可能な他,アメリカ,カナダなどでは子会社による参入が可能となっている。またイギリス,イタリアはユニバーサル・バンクも可能であるが,子会社で参入している例が多い。さらに,金融市場の国際化を加速する為替管理の撤廃も,ドイツは61年に,イギリスは79年に実施され,フランス,イタリアは90年に実施されるなど,主要国においてはすでに完了している。
このように,金融システムの規制緩和・自由化が行われていった要因には,70年代に入ってセキュリタイゼーション(証券化)とディスィンターミデイエーション(非金融仲介化)が進展したことがあげられる。
セキュリタイゼーションとは,資産及び負債の証券化が進展することをいう。すなわち,企業の資金調達が貸付から証券発行にシフトすることや,銀行においても住宅抵当証券,自動車ローン証券のように,これまで証券市場で売買されなかった債権を証券化して売買することであり,貸付と証券発行の区別が曖昧になり,両者の融合が進展していくことをいう。
セキュリタイゼーションの進展は,資金調達構成において銀行借入(間接金融)のウェイトが低下し,資本市場から直接資金を調達する(直接金融)ウェイトが高まる,ディスインターミディエーションを引き起こした。例えば,アメリカの企業の資金調達構成をみると,アメリカは従来より社債など,直接金融中心の資金調達構造となっていたものの,70年代央以降,銀行融資のシェアはさらに低下傾向を示している(第2-1-2図)。また,家計の資金運用面でも,預金金利が規制により低い水準に固定されていた一方,金融技術革新などにより様々な自由金利金融商品が生まれたため,預金の相対的な魅力が低下し,預金から自由な金利が設定されている金融商品への資金シフトが生じた。アメリ力の家計金融資産を商品別にみると,銀行預金のシェアは,70年代央頃をピークに急速に低下している(第2-1-3図)。
80年代に入り,経済のグローバリゼーションが進んだことも,金融システム改革を促した要因となった。経済のグローバリゼーションとは,企業が世界的な視野で最も効率的な地域で事業を行うようになることであり,それに伴い,資金も国境を越えて効率的な市場を目指して集まることである。金融市場のグローバル化をみるため,世界の資金移動を,国際収支表の資本収支でみてみよう(第2-1-4図)。例えばアメリカから全世界に向けて流出・流入した資金(資本取引の対外資産・負債の和)は,90年では1,440億ドルだったが,96年には8,318億ドルと,5.8倍に増加した。このような金融市場のグローバル化は,ディスインターミディエーションを加速させた要因の1つでもある。
このような状況の中,金融システムへの規制緩和・自由化を押し進める要因となったこととして,さらに以下の2点があげられる。
第1に,規制が金融機関の収益の低下や効率性低下の要因となっていることが認識されるようになった。金融機関にとって,規制が資金の流出をもたらし,逆に経営の安定性を損ねる不利なものになった。そして,金融機関に課せられている規制が緩和・撤廃されない限り,金融機関自身が新しい金融商品の開発を巡る競争に負け,生き残れないという状況が生まれた。
また,銀行・証券業の業務分野規制は,銀行・証券それぞれの業界への参入を規制することにより,金融機関を競争から保護することになり,結果として金融機関の効率化を遅らせる要因となった。このような効率化の遅れは,金融業がすべての産業のインフラであることから,すべての産業の効率性低下をもたらすことが懸念されるようになってきている。
第2に,これは第1の点を受けた結果でもあるが,金融機関自身が規制緩和・自由化を望むようになったことがある。アメリカなどでグラス・スティーガル法(銀行・証券業務規制)見直しの議論が進展しているのは,銀行・証券が自ら業務規制緩和を望んでいることが要因としてある。銀行が,セキュリタイゼーションが進展している中で,証券業務に参入することにより高い収益が得られると見込んだことや,銀行・証券が双方の業務を多角的に行うことにより範囲の経済が働くことを期待している。また,ロンドン証券市場のビッグ・バンは,ニューヨーク市場との競争上,劣位に立ったことに危機感を抱いたシティーの内側からの改革であったという側面もあり,ロンドン市場自らが自由化を推し進めた経緯がある。
国際的な金融業務や資本移動が活発化し,金融を取り巻く環境がよりグローバルになり,金融機関の競争相手は一国内ではなくむしろ全世界の金融機関がライバルとなってきている。そのような環境変化に対応するためには,これまでのような,金融システムの競争制限を中心とした規制ではなく,むしろ金融機関に対する規制緩和・自由化を進めることにより,金融機関の効率性を高めることが必要となってきている。同時にこれまで規制の根拠とされてきた,信用秩序の維持・預金者保護と金融システムへの規制の関係についての見直しが進んでいる。
金融自由化・国際化が進展し,金融機関の競争が一層激しくなれば,金融機関の経営が破綻する可能性が増大する。そのような状況の中で,信用秩序の維持,預金者保護を確保しつつ,金融システムの安定性を高めるためには,業態規制等の競争制限的規制によるのではなく,預金保険制度,情報開示規制,自己資本比率規制の一層の強化・拡充や早期是正措置の導入等により対応していくことが各国の流れとなっている。また,金融商品の多様化や金融業務の融合など,金融システムの変化に対応できる金融機関の監督制度構築のための見直しが各国で盛んに行われている。金融機関の監督制度や預金保険,自己資本比率規制は,従来の競争制限規制にかわる信用秩序維持の手段として位置づけられ,各国で強化されている。
預金保険制度は,いずれかの加盟金融機関が預金支払不能に陥った時に,加盟金融機関が保険機構に,預金等に基づき算出される保険料を支払って,保険機構が預金を保証するという制度である。預金保険制度の目的は,国民の金融機関に対する信頼喪失によって起こる預金の取り付け騒ぎの発生によってもたらされる,金融機関の連鎖的破綻を防止し,金融システムの安定性を確保することである。本来,市場経済においては預金者も自己責任原則に基づいて行動すべきであるが,一般に小口預金者は金融機関の経営情報の収集力や分析能力が不十分であること,預金の取り付け騒ぎが発生した場合の金融システムへのマイナスの影響が甚だ大きいことから,このような制度が各国で設けられている。
また,その他の主要国では,リスクによらず預金残高に応じて一定の保険料を支払うシステムが採用されている。
主要国においてはアメリカの連邦準備制度非加盟州法銀行などが任意加入となっているケースを除き,ほとんどの国では預金保険制度は強制加入となっている。
早期是正措置とは,金融機関の経営の健全度を一定の基準に基づき評価し,健全度に応じて経営改善措置を命じたり,時には金融機関を閉鎖し清算処分する制度である。
この措置は,①自己資本の充実度に応じて異なる措置を実施することで金融機関に健全な経営や自己資本拡充のインセンティブを与えること,②客観的な指標に基づく是正措置を監督当局に義務づけることで,問題金融機関に対する迅速な対応ができ,預金保険基金の損失や預金者の損失を回避すること,を目的としている。
早期是正措置は新しい制度であり,アメリカで制度化されている他は,各国で例を見ない。
情報開示の目的は,金融機関が自らの経営内容を預金者等の利用者や株主に開示し,経営の透明性を確保することにより,金融機関自らの行動や財務内容を健全なものとすることが挙げられる。また,市場においては,自己責任原則を求めるためにも,預金者や投資家に対して十分な情報開示が行われることが必要である。
金融機関の経営安定性を確保するため,金融機関に対し資産の一定割合の自己資本を保有することを求める規制を自己資本比率規制という。自己資本をある程度の割合保有することにより,①金融機関の経営破綻可能性を低下させること,②仮に経営が破綻した場合でも,預金保険機関や納税者の負担が少なくなること,が期待できる。
自己資本比率は,客観的な数値により金融機関の経営を把握できるメリットがある。早期是正措置が導入されているアメリカや,導入予定の日本においては,自己資本比率が措置発動の基準となる指標であることから今後も重要性の高い規制だとみられる。
自己資本比率規制については,金融市場のグローバル化が進展している中で各国が独自の規制を課していることは国際的な競争条件の不公平を招くなどの理由により,各国間の規制を調和させることが必要となった。そのため,88年7月に主要国の銀行監督当局及び中央銀行の代表で構成されるバーゼル委員会において,統一的な自己資本比率規制(BIS規制)が導入された。さらに96年1月にバーゼル委員会は,マーケット・リスクを考慮した新たな自己資本比率規制を発表している。88年に制定されたBIS規制は,信用リスクを対象としており,金融機関の資産やオフバランスシート・ポジションをリスク資産に換算し,リスク資産の8%以上の自己資本の保有が義務づけられていた。また,97年末までに各国で実施予定の新たな自己資本比率規制は,金利・株価等の価格変動リスクに対しても自己資本の保有を求めるものとなっている。
金融システムの改革に伴い,金融システムに対する監督制度の改革も行われている。
また,94年から第2段階に入った欧州の経済通貨の統合プロセスにおいて,各国中銀の独立性を保証するよう義務づけていることから,イギリスでは,従来大蔵省にあった金利政策に関する決定権限を中央銀行に委譲することによって中央銀行の独立性を高め,一方従来中央銀行にあった銀行監督権限を証券投資委員会を改組して設置される新監督機関に移管することにより,金融監督機関の監督権限を集中している。
また
金融システムの規制緩和・自由化の中で,金融業はどのような状況にあったのだろうか。
OECDの研究(“Financial Market Trends67-Regulatory Reform in the Financial Services Industry:Where Have We Been?Where Are We Going?-”,1997)は,金融システムの規制緩和は,競争の増大などを通じて金融業の生産性や金融サービスの質の向上,価格の低下をもたらしたとしている。また,規制緩和によって多様な金融商品が生まれ,消費者の利便性も高まったと分析している。
主要国におけるGDPに占める金融部門のシェアをみると,アメリカは70年代初から,イギリスは80年代央から90年代央までシェアを拡大させている(第2-1-7図)。ドイツ,フランス,日本でも,アメリカ,イギリスに比べ緩やかではあるが,70年代初から90年代初まで金融業のシェアは拡大している。86年にビッグ・バンを行ったイギリスは,G5の中でGDPに占める金融業のシェアも相対的に大きく,86年以降もシェアは拡大している。フランスでは80年代後半頃より金融業のシェアは減少していたが,88年に証券市場改革を中心としたフランス版ビッグ・バンを実行し,90年代に入ってシェアの低下傾向が止まっている。
また金融部門における雇用者数を全産業雇用者比でみると,アメリカ,フランス,日本では80年代中頃をピークにその後は緩やかな低下傾向にある(第2-1-8図)。一方ドイツは増加傾向が続いており,イギリスは90年代に入ってほぼ横ばいで推移しているが,主要5か国の中では最も高い割合を保っている。
賃金については,金融業賃金の製造業比をみると,ドイツ,フランス,日本は80年代後半以降90年代半ばまでほぼ横ばいであまり変化はない(第2-1-9図)。アメリカ,イギリスでは,80年代央以降をみると,金融業の相対賃金は高まってきている。また,5か国の中ではイギリスが最も高くなっている。
これらのことから判断すると,金融システムの規制緩和・自由化が,金融部門の競争を激化させ,金融部門のGDPや金融部門の雇用者数を大きく減少させるというような可能性は少ないと思われる。
コラム2-1 いろいろなバンク
日本では,銀行は都銀,地銀などと分けられているが,世界的にはその業務内容に着目して,コマーシャル・バンク,インベストメント・バンクなど様々な分類名称が使われている。
コマーシャル・バンク(商業銀行)とば,短期の預金を資金源として短期の貸出や有価証券投資を行うことを原則とする銀行である。日本では都銀,地銀等の普通銀行などがこれに該当する。コマーシャル・バンクは,各国の金融システムの中で中心的な地位を占めてきたが,金融の自由化,証券化などの進展や中長期金融の比重が高まってきたことにより,金融機関の中における地位は低下してきており,各国の商業銀行は業務の多様化を進めている。現在の主要な業務は,預金・貸出業務,手形割引,外国為替,国債・地方債の引受(新しく発行される証券や既に発行されている証券を一般投資家に販売することを目的として発行者もしくは所有者から取得すること)・ディーリング(自己の勘定において自らのリスク負担で既に発行されている証券を売買すること),証券ブローカー(顧客からの証券売買注文に対して,自らが直接の取引相手となるのではなく,その注文を別の注文に取り次ぎ,取引相手を見い出して売買を取り決める業務)業務など。
マーチャント・バンクとは,イギリス特有の金融機関であり,18世紀以降ヨーロッパ諸国からロンドンに移住してきた貿易業者が貿易手形の引受を始めたことが起源とされ,貿易手形引受に重点をおく引受商社,証券発行業務に重点をおく発行商社の総称であった。最近の主要業務としては,少数の大口顧客を対象に,預金・貸付等の銀行業務,証券発行の仲介や引受,企業の買収・合併の仲介やアドバイス業務,投資顧問業務などとなっている。また近年,有力なマーチャント・バンクが大陸欧州の保険会社や大銀行に買収されるケースが見られる(例:ベアリングズがオランダINGグループ(保険)に(95年),SGウォーバーグがスイス銀行に(95年)買収されている。)インベストメント・バンク(投資銀行)とは,厳密な意味での銀行ではなく,証券引受業者(under writing house)ともよばれる。具体的には,メリル・リンチ,ソロモン・ブラザーズ等が該当する。企業金融が中心であり,主要業務は①企業の有価証券の新規発行の引受,ディーリング,②それに伴って発生する事業組織,資本構成,企業買収戦略,に関するコンサルティング業務などである。インベストメント・バンクの業務内容は,イギリスのマーチャント・バンクに類似する。
ただし,33年のグラス・スティーガル法により証券・銀行業務が分離された結果,インベストメント・バンクは商業銀行業務を行うことは禁止されており,原則として個人預金の受入はできない。しかし,70年代初に高利回りと流動性を確保したMMF(Money Market Mutual Fund)を開発し,小口投資家を引きつけ,銀行預金を大量にMMFへ流出させた経緯がある。また,アメリカで機関投資家や個人投資家へ証券を販売する業者は証券ブローカーとよばれる。なお,日本の証券会社はインベストメント・バンクと証券ブローカーを兼ねたものとなっている。