平成8年

年次世界経済報告

構造改革がもたらす活力ある経済

平成8年12月13日

経済企画庁


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第2章 公的部門の役割の見直し


《第2章のポイント》

【歳出規模の拡大】

・先進国の財政収支は,70年代後半より赤字化し,政府債務もここ20年間増加を続けており,平時としては歴史的にも特異な状態である。

・財政赤字の主な要因は,社会保障支出と利払い費を中心とする移転支出の増加によって,歳出規模が拡大を続けたことにある。

・財政赤字の拡大(は,財政の硬直化を招くだけでなく,政府債務の累積により民間投資を抑制(クラウディング・アウト)する。

〔高福祉・高負担の見直し】

・「高福祉・高負担」の財政制度は,公的負担の上昇を通じて,企業の雇用意欲や労働者の就労インセンティブを低下させる。

【公的部門と市場経済】

・経済の効率化のためには,中長期的な観点からの財政面の見直しだけでなく,規制による関与を含めた公的部門と民間部門との関係の見直しが各国で必要となってきている。

【市場メカニズムの活用】

・経済の活性化のため,公的部門が供給すべき財・サービスの範囲を見直し,民営化などによって供給方法の効率化を図ったり,競争状態を確保するための規制改革が行われている。

・経済の活性化は,高失業の低下などによって民間の公的負担を軽減し,経済全体にメリットをもたらす。

【高齢化に向けた先進各国の取組】

・高齢化に伴う歳出膨張圧力は,短期的な予算切り詰めによって対処することは不可能であり,社会保障制度における構造的改革が必要である。

・医療・年金制度の改革には,市場原理の活用と共に,高齢化に伴う社会的な負担を社会全体としてどのように分担するかの観点が重要になる。


最近,先進諸国において,財政赤字・政府債務の削減が強く求められ,各国政府の重点課題となっている。この背景としては,石油危機後の約20年間,財政収支が赤字化し,政府債務が拡大し続けていることがある。本章で詳しく見るように,こうした財政赤字の主因は,裁量的な財政政策でなく,社会保障支出を中心とした移転支出の増加である。

先進諸国は,いずれの国もテンポに多少の違いはあるものの,高齢化の到来を控えており,現行の制度,税制を前提とすれば,近い将来に財政赤字が急増し,困難な状況に直面するが,こうした高齢化に伴う歳出増に対しては,短期的な予算切り詰めではなく,歳出の見直し,ひいては公的部門の役割の見直しが必要である。

本章では,各国の取組を財政面とともに,規制を含めた公的部門と民間部門との関係についても検討する。


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