平成8年度年次世界経済報告(世界経済白書)の公表に当たって

世界経済は,95年には先進国,途上国とも景気の拡大テンポがやや鈍化しましたが,96年に入り拡大基調はやや強まっています。アメリカ経済は,景気拡大が6年目に入っていますが,引き続き安定的な拡大を続けています。また,西ヨーロッパでも,96年後半,イギリスで拡大テンポが高まり,ドイツで緩やかな改善がみられるなど,基調は明るくなっています。また,アジア諸国では,アジアNIEsなどで景気減速がみられるものの,全体として拡大を続けています。

現在,ヨーロッパでは,通貨統合に向けて,財政赤字削減の動きが本格化しています。大陸ヨーロッパ諸国では,財政赤字削減に向け,社会保障制度の改革を行うとともに,規制緩和や民営化により市場メカニズムの活用を図り,経済構造の急速な変化に対応できる,柔軟な経済システム作りに取り組んでいます。一方,先行して規制緩和,民営化を進めてきたアメリカ,イギリスにおいては,持続的に景気が拡大する中で,物価の安定と失業率の低下が実現されていますが,賃金格差の拡大といった現象も現れています。

各国とも将来の高齢化社会を控え,累積している財政赤字を削減し,効率的な経済システムを作ることが,先進諸国の共通課題となっていますが,賃金格差等の問題についても留意しつつ,今後の議論を進めていくことが必要であると考えます。

グローバルな競争が増すなかで,我が国としても,規制緩和をはじめとした経済構造改革を推進することは,景気の回復を確実なものにするとともに,世界経済の持続的な発展にも寄与するものであると考えます。

今年度の世界経済白書は,このような認識の下で作成されています。世界経済の現状と課題について幅広く分析を行っている本白書が,世界経済及び日本経済の今後の進路を考える上で,参考となれば幸いです。

平成8年12月13日

麻生　太郎

経済企画庁長官