平成7年
年次世界経済報告
国際金融の新展開が求める健全な経済運営
平成7年12月15日
経済企画庁
第1章 世界経済の現況
世界経済は,94年には多くの国で景気拡大の歩調が揃って拡大基調を強め,世界全体の経済成長は前年に比べて加速した。95年に入ってからは,年前半にアメリカなどで景気減速がみられたものの,世界経済全体としては拡大基調を維持している。
世界の実質GDP成長率(IMF統計,以下同じ)は,93年2.5%の後,94年は3.6%と過去四半世紀の世界の平均成長率水準にまで高まった。94年の世界の成長率の高まりには,アメリカ,イギリス,カナダなどの英語圏の国々の力強い景気拡大,大陸西ヨーロッパの足並みを揃えた景気回復・拡大,アジアや中南米の新興経済の高成長持続が貢献した(第1-1-1表)。
95年の世界の実質GDP成長率は3%台半ばと,ほぼ94年並みの成長となる見込みである。先進国全体の成長率がやや減速するものの,アジアを中心に途上国が高成長を維持し,ロシアや東ヨーロッパの市場経済移行国のマイナス成長幅が目立って縮小するため,世界全体では前年並みの成長を維持するとみられる。
先進国全体の実質GDP成長率は,94年3.1%の後,95年はアメリカなどの減速から2%台半ばへと,やや減速する見込みである。
アメリカ経済は,94年に力強い拡大を示した後,95年前半には大幅に減速した(第1-1-2図)。しかし,年半ば頃から回復の方向にある。94年2月以降のインフレ未然防止に向けた金融引締めが,住宅投資や耐久財消費の減少をもたらし,95年に入って意図せざる在庫の積み上がりから在庫調整を余儀なくされた結果,95年前半には大幅な減速となった。その後,金利の低下などから国内需要に持ち直しの動きがみられ,95年半ば頃から,アメリカ経済は回復の方向にある。失業率は94年末には5%台半ばの極めて低い水準に低下し,その後も5%台後半の低水準で推移しているが,物価は総じて落ち着いた動きとなっている。
西ヨーロッパでは,95年に入り,為替市場の大幅な変動による先行き不透明さなどから,ドイツ,イギリス,フランスなどの主要国では拡大テンポはやや低下しているが,イタリア,スペインなどの他の加盟国の景気拡大が強いことから,95年のEU全体の景気は,前年並みの成長率を達成する見込みである。雇用情勢は,91年以降悪化していたが,景気拡大の持続から失業率は,95年に入り低下傾向にあるものの,依然高水準にある(前掲第1-1-2図)。
その他先進国では,カナダの景気はアメリカの景気と連動して推移している。また,大洋州のオーストラリアでは,金融引締めから,95年に入って景気は減速している。日本の景気は,95年前半においては回復基調にあったものの,最近では足踏み状態が長引くなかで,弱含みで推移している。
途上国の実質GDP成長率は,95年には,メキシコを中心とした中南米の減速にもかかわらず,アジアの高成長維持,その他地域の若干の成長加速から,途上国経済全体として6%程度と,94年並みの成長が見込まれている(前掲第1-1-1表,第1-1-3図)。
94年末に通貨危機にみまわれたメキシコでは,厳しい引締め政策により,95年初めから年央にかけて大幅なマイナス成長となった。しかし,危機克服に向けた調整策が進展し,95年2月以降貿易収支が黒字化し,年中頃には,物価も落ち着き,国際金融市場に復帰するなど,明るい動きも見られる。メキシコ通貨危機のアジア諸国への影響は,経済ファンダメンタルズの違いなどによって,比較的軽微にとどまった。アジアの景気は,95年に入っても好調に拡大している。景気過熱気味であった中国では,拡大テンポはやや緩やかになっている。20%台であった物価上昇率も,95年に入ってから10%台に低下している。
市場経済移行国の実質GDP成長率は,94年に大幅に落ち込んだ後,ロシアの生産下げ止まりの動きと,東ヨーロッパの拡大持続から,95年はマイナス2%程度と減少幅が目立って縮小するとみられる。
ロシアでは,ソ連が崩壊した91年以降,4年にわたって大幅な生産減少が続いていたが,95年半ば頃から生産は下げ止まっており,経済回復の兆しがみられる。物価上昇率は95年初めをピークに低下してきているものの,依然として高い上昇率となっており,経済安定化は達成されていない。
東ヨーロッパは,改革開始以来初めて,地域全体として94年にプラス成長を記録し,95年に入っても経濤拡大が持続している。しかし,民営化や金融制度の整備の遅れ,インフレの長期化,ハンガリーなどの改革先行国の財政赤字や経常収支赤字の悪化など,依然多くの課題が残されている。
世界貿易量は,94年には,先進国経済の加速,アジアなどの新興経済の高成長などから,世界的需要の高まりを背景に8.7%増(実質,以下同じ)と目覚ましい拡大をみせた(前掲第1-1-1表)。途上国の輸入量が,93年の9.3%増から,94年には8.5%増へとやや鈍化したものの,先進国の輸入量は,93年の1.1%増から,94年には9.2%増へと著しく高まった。
95年の世界貿易量は,94年よりも伸びがやや鈍化するものの,世界経済の拡大基調が維持されるため,8%程度と高率の増加が続く見込みである。
貿易財価格の動向をみると,原油価格は91年以降低下を続け,94年は4.1%の低下となったのに対して,非原油一次産品価格は,89年以降低下を続けていたが,93年にはやや上昇した後,94年には13.6%の上昇となった。また,工業品価格は,93年の5.8%の低下から,94年は2.8%の上昇とやや回復した。
こうしたなか,95年1月に世界貿易機関(WTO:World Trade Organization)が発足した。WTOは,ウルグアイ・ラウンドの合意に基づき,多角的自由貿易体制の維持・強化に努めてきたGATTを引き継ぐ形で,同合意を実施する国際機関として設立された。また,アジア・太平洋地域では,アジア太平洋経済協力(APEC:Asia-PacificEconomicCooperation)において,域内の経済協力を一層進展させるため活発な活動が引き続き行われた。95年11月のAPEC大阪会議では,94年のボゴール宣言を受け,貿易・投資の自由化・円滑化,経済・技術協力推進に向けた「行動指針」が採択された。