平成6年

年次世界経済報告

自由な貿易・投資がつなぐ先進国と新興経済

平成6年12月16日

経済企画庁


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第1章 世界経済の現況

第1節 拡大基調を強める世界経済

世界経済の成長率は,92年1.7%増の後,93年においては,大陸西ヨーロッパ諸国や日本は不振であったものの,アメリカ経済が拡大基調を強めるとともに,東アジア,中南米をはじめとする新興経済が高成長を続けたことなどにより,世界全体では2.3%増と上昇した。94年上半期には拡大基調は一層確かなものとなった(第1-1-1表)。

先進各国では景気回復の歩調がそろい始めている。途上国では,中東諸国は石油価格下落の影響から成長を鈍化させているものの,その他地域は成長を高めている。東アジア(アジアNIEs,ASEAN,中国),中南米,東ヨーロッパの一部,ベトナムやインド等のアジア諸国などにおいて経済は活性化している。これらの国・地域は新興経済(EmergingmarketsないしEmerging economies)と呼ばれ,先進国の輸出先ないし投資先として注目を集めている。これに対し,ロシアやその他の旧ソ連諸国においては,生産活動は引き続き低下している。

世界貿易は,大陸西ヨーロッパ諸国や日本などの景気後退のため,92年4.7%増の後,93年は4.0%増と低調であった。特に,先進国の輸入量は1.8%増の低い伸びにとどまった。また,貿易財価格は,原油,一次産品,工業品ともに対前年比で下落した。しかし,94年には,先進各国の景気が回復・拡大したことにより,世界貿易は大きく改善すると見込まれる。また,93年12月,世界貿易の自由化と貿易ルールの強化を目指し8年間にわたって交渉が続けられたガット・ウルグァイラウンドが妥結し,合意を実施するための国際機関,世界貿易機関(WTO;WorldTradeOrganization)の創設が予定されるなど,貿易自由化に向けた制度的取り組みが進展している。

(先進国経済は上昇局面)

先進国の実質GDP成長率は,92年1.5%増となった後,93年にはやや低下し1.3%増となった。しかし,94年に入ってから大きく上昇してきている(第1-1-2図)。93年の低い伸びは,アメリカ,カナダ,イギリスが好調であったものの,大陸西ヨーロッパ諸国や日本が不振であったためである。好調な国と不振な国との景気循環を比較すると,例えばアメリカは91年に底を打ち,その後は上昇に転じた。これに対して,ドイツやフランスでは93年に入って底を迎えるなど,両グループの間には景気循環のタイミングにずれがあった。こうした景気循環のずれは,世界的に景気変動が関連をもちながらも,ストック調整をはじめとする自律的な景気変動要因は各国毎に異なること,またさらに,金融政策のスタンスの違いなどによっても,景気変動は各国毎に異なってくるものであることを示している。

主要先進国の経済動向について国別にみると,まずアメリカ経済は,91年に回復過程に入り,93年半ば以降は実質GDP成長率が2%台半ば程度とみられる潜在成長率を大幅に上回る成長を続けている。こうした景気の好調さを示す指標として,遅れていた雇用の回復が挙げられる。それはサービス業にとどまらず製造業の分野にまで及んでおり,雇用環境の改善が顕著になるにつれ,インフレ懸念が高まり始めている。景気拡大のなかで,貿易収支は悪化している。

欧州連合(EU;EuropeanUnion)の実質GDP成長率は,88年までは順調に推移したものの,それを境に伸びを鈍化させはじめ,92年後半からはマイナス成長に転じた。93年には0.3%減となった。これは,個人消費が堅調なイギリスを除いて,各国とも内需が冷え込んだためである。EUの中でも,ドイツは最も深刻な不況にみまわれ,93年の実質GDP成長率は1.2%減となったが,94年に入って輸出に牽引されるかたちで回復過程に入っている。同様に,フランスやイタリアも外需を中心に上昇に転じている。EU全体として93年半ば以降ゆっくりと景気は回復に向かっている。しかし,雇用については容易に好転する兆しがみられず,ようやく94年央になって失業率の上昇は止まったものの,依然として厳しい情勢が続いている。

オーストラリア,ニュージーランド経済は,80年代に進められた経済自由化の結果,91年以降インフレなき持続的成長を続けている。これら大洋州の国は,地理的にも近いアジア市場に対して接近を強めている。

先進各国の財政政策についてみると,各国とも総じて財政赤字が大きく,裁量的政策をとる余地が少ない。93年の一般政府(中央政府・地方政府・社会保障基金)の財政赤字は,経済協力開発機構(OECD;Organizati on for Economic Co-operation and Development)加盟国平均でGDP比-4,2%となり,89年時点と比較して3%悪化した。こうした状況下,多くの国が赤字削減の中期計画に着手している。

金融政策については,アメリカでは景気拡大が長期化するなかで,約3年半続いた金融緩和政策がインフレを未然に防止するために94年2月に転換され,同年11月までに6度の政策金利引き上げが実施された。イギリスでも94年9月には引き上げが実施された。一方,ドイツ,フランス等の大陸西ヨーロッパ諸国においては,92年から数次にわたり政策金利の引き下げが実施され,94年半ば以降は据え置かれている。

(途上国を牽引する新興経済)

途上国経済全体の実質GPP成長率は,90年を境に徐々に伸び率を高めている。92年5.9%増の後,93年には6.1%増となった(第1-1-3図)。この高い成長を主導しているのは,東アジア諸国を中心とするアジア経済である。アジア経済の成長率は,93年には8.5%増となり,途上国全体を大きく牽引している。また,中南米は,80年代の債務危機を契機とした成長率の落ち込みから回復し,90年代初め頃から3%程度の成長を維持している。先進国から新興経済として注目を集めている東アジアと中南米は,輸出の拡大,投資率の上昇,生産性の向上といった良好な経済パフォーマンスを示している点で共通している。

一方,アフリカのほとんどの国においては,経済情勢は依然として厳しい。

サブサハラ地域では,一人当たり所得は90年から93年にかけて8%以上低下した。先進国経済の好調,堅調な商品価格や為替制度の改革をはじめとする経済改革努力などから,経済好転の契機を見出そうとしている。

東アジアの主要な国・地域の経済動向についてみると,80年代以降高成長を持続している中国は,89年から90年にかけて一時調整期を経たものの,依然高成長を続けている。93年に入り,経済の過熱化に対応して,通貨管理や投資規模の抑制等の引締め政策が講じられたが,94年に入ってからも物価上昇率は高く,過熱状態が続いている。アジアNIEs,ASEANは,堅調な内需,アジア域内向けの輸出の増加により拡大を続けており,また,ベトナムも92年以降引き続き活発な拡大を続けている。

(経済パフォーマンスの分化した旧ソ連・東ヨーロッパ諸国)

旧ソ連・東ヨーロッパ諸国全体としてみる,と,社会経済上の大きな変革期を迎え,88年を境として成長が減速し,90年からマイナス成長を続けている。

ロシアをはじめとする旧ソ連諸国では生産活動は縮小傾向にあり,旧ソ連諸国全休としては,92年に17.8%減の後,93年には11.5%減と落ち込み幅が縮小したものの,94年1~6月期には前年同期比20.0%減と再び落ち込み幅を拡大させた。ロシアなど一部の国においては,経済改革はある程度進展しているが,いまだ財政赤字の抑制やインフレ率の低下,安定を達成することができない国が多く存在する。ロシアでは物価上昇率が,94年に入って目立って鈍化している。インフレの急速な鎮静化は,実質所得の改善等好ましい経済状況を整えつつあるが,一方で,94年10月にはインフレ再燃の懸念等からルーブルが暴落しており,物価安定の先行きについては予断を許さない状況にある。

東ヨーロッパ諸国では,90年代初頭の急進的な市場経済移行政策による混乱が収束するとともに,改革を着実に進めたいくつかの国でその成果が現れつつある。ポーランドは経済改革の進展により92年に東ヨーロッパで最初に実質GDP成長率をプラスに転換させ,93年は4%増となった。チェコでも94年にはプラス成長に転換すると見込まれる。


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