平成5年
年次世界経済報告
構造変革に挑戦する世界経済
平成5年12月10日
経済企画庁
第3章 世界貿易の新たな展開―「戦略的貿易政策」を越えて
自由な国際貿易・海外投資は世界の経済成長をリードしてきた。しかし,長期にわたる不況の継続や経常収支不均衡といったマクロ経済面の動向,更には,貿易に占める先端技術産業分野のウェイトの高まりや,それらの分野における貿易不均衡等を背景として,近年,種々の貿易摩擦の発生や,保護主義的措置の増大がみられ,世界の貿易ひいては経済成長に大きな影を落としている。
「戦略的貿易政策」は,先端技術産業に①規模の経済が存在する。また②外部経済が存在することなどから一国の経済発展にとって重要な鍵を握っている,との判断の下に,貿易政策,産業政策等によりそれらの産業を保護育成しようとするものである。
前節では,①先端技術産業には一般的に規模の経済は存在するものの,長期的に当該産業が国際競争力を持つためには,やはりその産業が必要とする生産要素(資本,労働,更にはR&Dのための資金や研究者等)が豊富に存在することが必要であること,②先端技術産業の市場が寡占的である場合でも,外部からの参入の脅威にさらされている限り企業の超過利潤は長期的には継続しにくいとみられること,③先端技術産業がR&D集約的であることなどから,外部経済が存在するとみられるものの,技術の外部経済効果の大きさは他産業に比べ必ずしも大きくはないとみられること,④他方,先端技術産業が製品を通じて他産業に及ぼす影響は高まりをみせ,また,先端技術産業における新製品の開発を契機として技術革新の連鎖するダイナミックな発展メカニズムが存在しているが,そうした経済効果は製品の貿易等を通し海外に流出し得ると考えられることなどから,先端技術産業の強さが当該国のマクロ経済(成長率,経常収支等)を大きく左右するとは必ずしもいえないことが示された。
「戦略的貿易政策」を採り仮にそれが成功し先端技術産業が育成されたとしても,そのメリットは必ずしも大きくないことを確認した訳であるが,本節では,まず,①アメリカを例にとり具体的にどのような先端技術産業育成策が採られているのかを概観した後,②「戦略的貿易政策」が所期の目的(政府の介入により先端技術産業を育成し,最終的には一国の経済厚生を引き上げる)を達成する可能性が小さいこと,すなわち先端技術産業に存在する「市場の失敗」に対し,「戦略的貿易政策」を採用しても「政府の失敗」に陥る可能性が高いことを示す。また,ナショナリスティックな貿易政策は,相手国の報復ひいては貿易戦争を招き,結果として世界全体の経済厚生を更に著しく損なう危険が大きいという問題点を指摘する。最後に,各国政府が目指すべき方向として③先端技術産業における「市場の失敗」を最小限のものにするための方策,またそれを実現するためのGATTの新たな役割について検討する。
先端技術産業の育成策として最も重要なものは政府による研究開発投資への支援である。第2章でもふれたように,アメリカでは従来,政府が研究開発投資のかなり大きな割合を負担してきたが,政府支出の過半(近年では約6割)は軍事関連の研究開発にあてられてきた。これらの軍事関連の研究開発の助成が民間技術(特に航空,通信,電子等の先端技術)にどの程度好影響をもたらしてきたかについては議論の分かれるところであるが,近年はこうした効果(スピン・オフ効果と呼ばれる)が小さくなってきているとの見方が有力である。また,非軍事部門の研究開発に対する政府支出をみても,大きなウェイトを占めているのは医療,エネルギーであり,直接,先端技術産業に結びつく分野のウェイトは小さい。更に,これらの支出は一部の例外を除いて,商業生産に結びつく以前の基礎研究に重点が置かれてきた。
しかし,冷戦終結後の軍事費削減の中で,研究開発投資に関する「軍事関係研究・基礎研究重視」のアメリカ政府の基本方針はブッシュ政権時がら徐々に変化しつつある。すなわも,政府による研究開発支出に占める非軍事のウェイトを高めると同時に,民間部門による研究開発投資を促進するため,減税や全国規模でのネットワークを構築しようというものである。クリントン新政権はこうした路線を踏襲・強化しつつあり,先端技術分野における政府の役割を強化するものとみられる。
米国の工業品輸入に影響を及ぼしている主な輸入制限措置等をみると(第3-4-1表),次のような特徴がみてとれる。
① 在来型産業に対する措置に加え,近年においてはIC等の先端技術産業分野においても日本,NIEsなどからの輸入に制限的措置が採用されるに至っている。
② GATT上無差別原則が適用され,また対抗措置が相手国に認められているセーフガードは近年ほとんど発動されておらず,アンチダンピングや,更にはGATT上の規定がなく灰色措置とされる輸出自主規制(VER=Voluntary Export Restraint)が多用されている。
③ 更に,日米半導体取極では,米国半導体工業会(SIA)による1974年通商法第301条(相手国の政府の不公正貿易政策・慣行に対する対抗措置)に基づく提訴を背景に日本企業の米国への輸出抑制のみでなく,日本のIC市場に対する外国系企業のアクセスの改善が盛り込まれている。また,アメリカ製自動車部品についても日系企業による購入拡大について合意がなされている。
以上のように米国の貿易政策は米国の先端技術産業の国内及び海外における生産を維持,拡大することを意識して運用されるようになってきている。
先端技術産業が国際競争力を持つためにはR&Dが重要であり,欧米各国政府はR&Dを重視する姿勢を示しているが,産業育成に関連する分野での研究開発に政府はどのように取り組むべきなのか。
過去の事例をみると,米国政府は従来「軍事関係及び基礎研究重視」ではあったものの,商業生産に密接に関連する応用研究に参画した例もある。それらのうち,石炭液化,超音速旅客機等についてはかなりの財政資金を投入しながら,結果的に失敗に終わっている。例えば,石炭液化プロジェクトについては,第2次世界大戦以前から3次にわたり政府は支援を行ってきた。特に第2次石油危機後の80年には「合成燃料公社」を設立し,商業化に向けた実証プラントの建設等のために約200億ドルに上る融資・債務保証等が計画された。しかし,この計画は度重なる政治的介入,公社の非効率性等から順調には進まず,エネルギー価格の低下とともに85年には中止された。
ヨーロッパについては,産業育成に関連する分野のR&Dにおける政府の役割が米国に比べ大きいといわれているが,例えば英国及びフランス政府がその開発のために大幅な財政資金を投下しながら16機を生産しただけで計画を中止したコンコルドのように,失敗に終わった事例もある。
結局,政府が先端分野において,今後発展するであろう事業や技術を的確に選択し,その研究開発を遂行することは,将来にわたる需要動向に関する情報や技術情報の不十分さ,商業的インセンティブの欠如,政治的介入の危険性等から大きな困難が伴うと考えられる。すなわち「政府の失敗」が発生する可能性が高い。逆に,そうした分野については企業は将来の利潤獲得のため研究開発を自ら行うインセンティブを有しており,政府の役割はリスク軽減等の条件整備を行うことで十分と考えられる。政府はむしろ民間企業が研究開発のインセンティブを有さない,真に外部性のある基礎的研究に力を注ぐことが適当である。クリントン新政権の技術政策やECの「ヨーロッパ・テクノロジー・コミュニティ構想」もこうした方向での展開が望まれる。また,発展途上国は経済発展を目指して種々の産業育成策を採っているが,70年代から80年代にがけての経験からも明らかなように,基本的には,輸出指向型の貿易自由化政策に加え,産業政策面では教育制度の整備等を通じた人的資本の充実,資本移動の自由化等による投資リスクの軽減策等が特に重要と考えられる。
貿易に関する保護主義的措置としては,先にアメリカの例でみたように,輸出自主規制(VER)等の輸入制限措置が採られてきた。しかしながら,その経済的効果については,「戦略的貿易政策」を主張する論者も否定的であり,近年は,相手国に市場アクセスの改善を要請するという新たな手法が現れてきていることに注意する必要がある。以下では,まず輸出自主規制の経済的効果を検討した上で相手国の輸入アクセスの改善要請の経済的な効果の検討を行うこととする。
輸出自主規制は,ある製品の輸出急増による貿易摩擦を回避するため,輸出国側が当該製品の輸出を自らの判断もしくは輸入国との合意によって制限するものである。この措置は,輸入国の産業の構造調整を円滑に行わせることなど積極的な意味が全くない訳ではないが,現実問題としては,輸入国がより保護主義的な措置を採ることを回避するために実施されることが多い。しかも,輸出自主規制は(第3-4-1表)にもみられるように,一度採用されると,かなりの期間,また複数の輸出国との間で適用されるようになるなど問題の多い措置となっている。
GATTに明確な規定を持つセーフガードやアンチダンピング課税ではなく,輸出自主規制がしばしば用いられてきた理由としては,①紛争相手国からの輸出のみを制限することができること,②輸出国側からの一方的措置という形をとり得ることから,機動的な実施が可能であり,また輸入国の保護主義的イメージが相対的に弱いこと等が指摘されている。
こうした輸出自主規制の経済的効果を考えると,輸入国にあっては,生産考は輸入の増加という脅威なしに生産,価格設定を行うこととなり,特に寡占的であることの多い先端技術産業の場合には,当該製品の価格は上昇する可能性が強く,輸入国企業の収益は増加する。他方,輸入国の当該製品のユーザー及び消費者は,輸入品及び国産品の価格上昇により損失を被ることになる。そして,これらの結果として輸入国全体としての経済厚生は,安い外国製品の輸入を抑制することによる経済効率の低下を反映して低下することになる。例えば,試算例の多いアメリカに対する鉄鋼の輸出自主規制がアメリカに及ぼした影響の試算をみると(第3-4-2表),いずれの試算においても消費者余剰の減少が生産者余剰の増加を上回り,アメリカ全体としての経済的厚生は低下している。また,鉄鋼産業における雇用を1人守るためにかかったコストが極めて大きいことが示されている。
それでは,こうしたコストを支払って,輸出自主規制により保護された輸入国の産業の国際競争力は強化されたのだろうか。輸出自主規制により恩恵を被ってきたはずのアメリカの鉄鋼業及び工作機械をみると,2業種とも,企業の国際競争力が根本的に強化されたとはいえない状況が続いている(なお,アメリカの自動車産業の業績は最近やや改善しているが,日本のVERは87年以降輸出台数が自主規制枠を下回り,その意味では実効性を失っていることから,VERのために業績が改善したとは必ずしもいえない)。これはこうした産業が,輸入制限の下での生産増により規模の経済が働き,その面からは平均費用が低下する形で利益を受けるはずであるものの,政府の保護の下でかえって効率化,国際競争力の強化が進まない場合が多いことを示唆している。
貿易摩擦は外国からの輸入の拡大により国内産業が損害を受ける場合のほか,特定国の市場に問題があるとみなされ,そのために当該国への輸出が拡大しないといった不満からも発生する。日米間においては,86年の日米半導体取極により日本の半導体市場における市場アクセスの改善について,また,92年の日米首脳会談において作成された行動計画によりアメリカ製自動車部品の日系企業による購入拡大について合意がなされている。
これらの措置の問題は,義務ではなく企業にとっての努力目標に過ぎないものとはいえ,アメリカが自由な貿易ではなく,アメリカ製品もしくは外国製品の結果としての輸入拡大を求めていることにある。こうした措置も,通商法301条による一方的制裁といったより保護主義的な措置を避けた結果という側面を持っている。通商法301条は相手国政府の不公正な貿易政策・慣行の認定及びそれへの対抗措置の決定を一方的に行うものであり,GATT上も極めて問題のある条項であるが,上記の輸入拡大策もGATT上の規定のない灰色措置である。
仮にこれらの措置における努力目標が,義務的なものとなる場合,それが輸入国に及ぼす悪影響は明白である。輸入国政府が企業や消費者に対し,特定製品の輸入を指導するなど,輸入を人為的に拡大するための介入を行わざるを得なくなり,経済効率は低下する。市場経済の下では輸入品の数量やシェアは市場における競争の結果として決まるものであり,あらかじめ適切な水準といったようなものを決めることはできない。仮に,輸入国市場に輸入を妨げる要因があるのであれば,その原因そのものを是正し,市場機能が十分に働くようにすることが問題解決の唯一の方法なのである。
他方,こうした措置により,輸出国企業の国際競争力は強化されるのであろうか。アメリカの半導体産業をみると,日本及び韓国の企業に追い上げられてきたDRAMについては,日米半導体取極の締結以降もアメリカ企業のDRAM分野からの撤退が続き,世界市場に占めるシェアは低いままである。他方,コンピュータ・ソフトとの関連が強く,高度の技術を必要とし,もともと米国が強い競争力を持つEPROMの分野では引き続き高いシェアを維持している。このように,日米半導体取極によりアメリカのIC産業の競争力が全体的に強化されたとはいえず,元々競争力の弱い分野では生産シェアの低下が続き,競争力の強い分野は引続き高いシェアを保っているというのが実情である。
上で述べたように,「戦略的貿易政策」は結果的にそれを採用した国の経済厚生を低下させるのみならず,自国企業の競争力強化にも必ずしも成功していないとみられる。更に,ある国の「戦略的貿易政策」に対し,相手国が報復的に同様の措置をもって対抗し,いわば貿易戦争を招来する場合には,事態は一層深刻なものとなる。例えば先進各国が競争して自国企業の保護育成を行う場合,結果的に当該産業の企業数は多くなり過ぎ,規模の経済を活かすことが不可能となるのみならず,超過供給の発生により当該産業の製品価格は低下し,生産国の経済厚生は大幅に低下してしまうことになるのである。また,そのような状況の下では,2節でみたように先端技術産業にも進出しつつあるNIEsの企業は競争に耐えることができず,大きなダメージを受けることになると考えられる。
更に,本章第1節及び第2節でみたように,近年における多国籍企業化とその提携化の進展により,上で述べた産業政策や貿易政策によって,自国籍企業のみを保護することは極めて困難となっており,その意味でもこれらの政策の実効性は低下しているといわざるをえない。
第3節では先端技術産業分野における「市場の失敗」(規模の経済による寡占的市場構造の下での先行企業による市場支配力の行使,外部経済)の程度は必ずしも大きいとはいえないことをみたが,その危険が存在しないわけではない。「戦略的貿易政策」はそれを是正しようとするものではなく,そうした状況の下で,政府の介入によって自国の経済厚生を高めようとするものであるが,上でみたように「政府の失敗」に終わる危険性が高い。更に問題なのは第3節の冒頭でも説明したように,「戦略的貿易政策」の目標は他国の経済的厚生を犠牲にしつつ,自国の厚生を高めようとするものであり,そもそもナショナリステックな要素を持っていることである。
各国政府が本来目指すべき方向は,各国が国際協調しつつ自国市場の「市場の失敗を是正」すること,更に,それでも残る「世界レベルでの市場の失敗」に対し,GATT等が世界政府的立場から対応を行うことを可能にすることである。そして,こうした努力により「市場の失敗」が是正されれば,他国の厚生を犠牲にすることなく,世界の厚生を改善しながら同時に自国の厚生を高められる。また,「戦略的貿易政策」という新たな保護主義の誘因(長期的な独占利潤の継続等)も減少することとなろう。
先端技術産業分野で先行企業が市場支配力を持ち,外部からの競争にさらされないような状況が継続する場合には,先行企業に独占的利潤が長期的に発生することとなり,当該国のみならず世界的にも資源配分上のロス(非効率)が発生することになる。こうした状況を防止するためには,①国際的な整合性の確保を強化しつつ,各国が競争政策を強化すること,②更に,各国が保護主義的措置を捨て,市場開放を強化することが必要である。
ここで,市場開放が独占的市場支配の抑制にとって極めて重要であることを,ECの自動車市場を例にとって調べてみよう(第3-4-3表)。
EC統合の進展に伴い,EC全体としてみた場合には,自動車産業における生産の集中度は高まっているものの,各国別の市場をみると,域内各国間の貿易及び各国企業の相互参入の拡大により,むしろ集中度は低下している。このように,市場開放を進め,全体としての市場規模を拡大することにより,規模の経済による利益を実現しつつ,競争性を高めることが可能になるのである。先端技術産業には確かに規模の経済が存在する。しかし,そうであるからこそ,むしろ完全競争的な市場以上に,市場開放により国際的な競争を促進し,規模の利益を活用しつつ競争性を高めていくことが重要である。
ただし,こうした市場開放を促進するにあたっては,あくまでも機会の均等を原則とすべきであり,免にもみたように,結果としての市場シェアの実現等を求めるいわゆる「結果主義」は,かえって市場にゆがみをもたらすことに十分留意する必要がある。
研究開発に関する市場の失敗は外部性の存在によってもたらされる。政府が果たすべき役割は,外部性の高い学術研究,基礎研究等に適切に資源を投入することであり,逆に外部性の低い(したがって利潤動機の働き易い)商業生産のための応用研究は民間に任せることが適切である。こうした観点から各国の研究開発政策に関して国際的なハーモナイゼーションを強化する必要があると考えられる。ただし,成果が海外にまで流出してしまうような研究開発,すなわち国際公共財的な研究開発については,一国の政府といえども資源配分を行うインセンティブが十分には存在しないとも考えられる。こうした分野については,我が国を始め先進各国が世界経済の発展のために積極的に取り組むべきである。また,将来的には,国際機関が一定の役割を果たすことも考えられる。
更に,知的所有権保護に関する国際的ルールを強化することも市場の失敗の防止策として重要である。民間部門が研究開発を行うインセンティブを持っためには,知的所有権を保護する必要がある。他方,それがあまりに長期にわたって保護される場合には,経済社会の発展を阻害することとなる。こうしたバランスを踏まえながら知的所有権保護の国際的な整合性を強化すべきである。
GATTについては,「内国民待遇原則」や「一般的最恵国待遇」等その規範の厳格な履行を各国に強制する力が弱く,EC等の地域協定や多国間繊維協定など様々な例外を容認するなど種々の問題があるといった指摘がなされている。しかし,各国間で公正で広範な均衡を得るためには,先端技術産業分野における「市場の失敗の是正」に関しても,やはりGATTが果たすべき役割は大きい。ウルグアイ・ラウンドにおいても
① 最終合意案において,輸出自主規制が明示的に禁止され,同協定案の発効後原則として4年以内に廃止する義務が規定されている。また,アンチダンピング規定についても濫用防止のため,ダンピング認定,損害認定等に関する規律を強化することとしている。更に米国の通商法301条やスーパー301条等のような一方的措置についても禁止することが明示されている。
② 「ガットの監視(サーベイランス)機能の強化」が検討され,各国の貿易政策全体(貿易に影響を及ぼす産業補助金等も含め)について監視,レビューの強化が図られる方向となっている。
③ 更に,TRIP(Trade-Related Aspects of Inte11ectual Property Rights)の分野では,先進国間の知的所有権保護の水準・権利行使手続き等の相違や,発展途上国における知的所有権保護の不備が,貿易の流れに大きな影響を及ぼすことから,貿易に関連する知的所有権の適切な保護に関する国際ルールを策定することを目指している。
以上のような試みが,上で述べた「市場の失敗の是正」に大きく寄与することが期待される。その意味でもウルグアイ・ラウンドの早期妥結が求められる。
更に,今後GATTにおいては,先にふれた現行のGATTに内在する基本的な問題の克服を図ると同時に,関連する国際機関との連携を強化しつつ,先端技術産業分野における「市場の失敗の是正」に関連して以下のような対応が図られるべきである。
① 各国の競争政策,産業政策,知的所有権に係る制度まで含めた,貿易に影響を及ぼす政策・制度全般について,国際的なハーモナイゼーションの機能を強化する。
② 不況,対外不均衡等マクロ的要因を背景とした保護主義への有効な対応を強化するため,GATTとIMF・OECD等の連携を強化する。
また,一国内にとどまらず世界的に外部経済効果の波及するような研究開発への国際機関による支援方策を検討していく必要がある。
我が国としては,自らはあくまで自由貿易を維持強化していくとの姿勢を明示しつつ,こうした新たな枠組みを形成していくために最大限努力していくことが必要である。