平成5年

年次世界経済報告

構造変革に挑戦する世界経済

平成5年12月10日

経済企画庁


[次節] [目次] [年次リスト]

第2章 持続的成長及び市場経済化の条件

第1節 アメリカ経済再生への取組み

アメリカでは昨年の大統領選挙の結果,12年ぶりに共和党から民主党に政権が交代した。1月に就任したクリントン大統領は「変革(change)」を掲げ,財政赤字削減,医療制度改革等のアメリカ経済再建に向けての政策を打ち出している。クリントン大統領が当選した経済的背景としては,景気回復のもたつきという昨年の経済状況に加えて,巨額の財政赤字の存在や競争力の低下,実質賃金の低下傾向,貧困世帯の増加等から,将来の生活は一層豊かになるというかつての「アメリカン・ドリーム」への期待が失われてきたということが言われている。

そこで,本節では,まず第1に,世界経済に与える影響の大きい財政赤字削滅計画の評価を行い,また,医療制度改革案等について検討する。第2に,経済成長や競争力の向上には欠かせない生産性向上について,研究開発,社会資本,人的資本の面からのクリントン政権がどう対応しようとしているかをみる。第3に,人的資本の問題とも関係する所得格差の拡大について検討することとする。

1 財政赤字削減計画と医療制度改革

クリントン大統領は,93年2月の経済演説で経済政策の基本方針を発表した。その中で3つの重点的課題として挙げられたのが,①雇用創出を重視した短期的景気刺激策,②生産性を高める長期的投資の促進(社会資本整備に加え,税による民間投資・勤労インセンティブの付与,教育・職業訓練等を含む広義の投資促進),③財政赤字の削減である。このうち,短期的景気刺激秦については,景気回復過程が定着する中で,財政赤字削減を優先すべきとの意見が強く,失業保険の延長等の一部が成立するにとどまったが,中長期的な課題である後の2つについては,いくつかの修正を受けながらも財政赤字削減規模等の基本的なフレームは保持した形で,8月10日に「93年包括財政調整法(Omnibus Budget Reconciliation Act of1993)」として成立した。

(1) 財政赤字削減計画の内容と評価

(アメリカの財政赤字の現状と問題点)

アメリカの財政赤字は80年代に入って急速に拡大し,93年度も2,549億ドル(対GDP比4.0%)と巨額の赤字が続いている。巨額の財政赤字が続く問題点としては,①金利の高止まりを招き,民間投資をクラウデイング・アウトし中長期的な経済成長を阻害すること,②マクロの貯蓄投資バランスの観点からは,経常収支の赤字が持続する一因となり,対外負債となって将来の世代の負担となること,③利払い費の増加が他の政策経費を圧迫する可能性があること等が挙げられる。

財政赤字の拡大に対しては,これまでも85年財政収支均衡法(通称「グラム・ラドマン・ホリングス法(GRH法)」),87年の修正GRH法,90年包括財政調整法等の措置が採られてきており,特に90年包括財政調整法の中の予算執行法では,①裁量的支出に対する支出上限の設定,②義務的支出に関するpayas-you-go方式の採用(義務的支出を新設・追加する場合には,他の項目の支出を削減するか増税等により支出増加分を相殺することを義務づけ)等の予算ブセスの改善が行われた()。

しかし,これまでのところ財政赤字削減の効果はほとんどあがっていない。

その背景として,まず歳入面の問題では,①81年の税制改革の減税が大きく,その後のいくつかの増税措置によっても相殺しきれていないこと,②累進性の緩和やタツクス・インデダセーション(税率適用所得区分の物価スライド)の導入により税収の伸び悩みがみられること等が挙げられる。次に歳出面の問題として,①義務的支出,とりわけメデイケア,メディケイド等の医療関係支出の増大,②累積債務の増大による利払い費の増加等が挙げられる。また,財政の見通しを策定する際に,税収や支出等の前提となる経済成長率が高めに想定される場合が多く,歳入は過大に,歳出は過少に見積もられがちであったという問題点も指摘できる。

(93年包括財政調整法の概要)

93年包括財政調整法は,長期的投資の促進にかかわる税制措置等もパッケージとして盛り込んだ形で財政赤字削減計画を定めたものである。予算執行法を延長して,裁量的支出に対する支出上限の設定,義務的支出に関するpay-as-you-go方式を採用しており,社会資本整備や医療改革等もこの枠内で行われることになる。

同法では,歳入増加策として,個人所得税の最高税率の引上げ,法人税率の引上げ,エネルギー関係税の引上げ等の増税措置が盛り込まれている。歳出削減策としては,国防費等の裁量的支出に上限額を設定することによって,94~98年度の5年間で約1,000億ドルの削減を行うとともに,メディケア改革等による義務的支出の削減,国債のマチュリティ(期間構造)の短期化による利払い)費の削減等を盛り込んでいる。また,長期的投資の促進策として,勤労所得控除の拡充,研究開発投資に対する減税等を盛り込んでいる。

クリントン大統領が2月の経済演説で示した当初案と比べてみると,財政赤字削減規模については大きな変更はないものの,歳入増加よりも歳出削滅の方が大きくなり,また,長期的投資(税制部分)に係る措置が圧縮されている。

更に,歳入増加のために提案された包括的なエネルギー新税の導入が見送られ,既存のエネルギー関係税(ガソリン税,軽油税)の引上げとなったことが大きな変更点といえる。

このようなパッケージにより,OMB(行政予算管理局)の年央見通しでは,94~98年度の5年間で,2,547億ドルの歳出削減,2,501億ドルの歳入増加,あわせて5,048億ドルの財政赤字削減効果があると見込んでいる(第2-1-1図)。この結果,財政赤字は93年度のGDP比4.6%から,98年度にはGDP比2.2%(財政赤字額1,810億ドル)まで縮小するとの見通しを示している。

(財政赤字削減計画の評価)

先にみたアメリカ財政の現状と問題点からみて,今回の財政赤字削滅計画はどのように評価できるであろうか。問題点と課題としては以下の点が指摘できよう。

第1に,財政赤字を縮小するといっても,98年度に依然GDP比で2%台の財政赤字が存在し,その後は赤字が拡大に向かうと予想されることである。歳出の中でメディケア,メディケイドの支出の拡大が予想されており,財政赤字の抜本的な削減には医療制度改革が不可欠となっている,(第2-1-2図)。

第2に,見積り通りの歳出削減を実現するにはかなりの努力を要すると考えられる。まず,義務的支出の削減では,メディケアの物価スライド抑制やメデイケイド給付の適正化による支出削減をかなり見込んでいるが,見込み通りの支出抑制効果を疑問視する見方もある。また,支出上限を設定している裁量的支出の削減に関しては,国防費の削減,人件費の凍結・抑制,行政改革等が中心になる見込みである。ただし,国防費の大幅削減は,特定地域・産業への影響が大きく,安全保障の観点からも反対が高まる可能性がある。また,クリントン政権は今回の赤字削減計画とは別に,行政改革を進めて95~99年で1,080億ドルの費用節減をするとしているが,中間管理職を中心とした連邦職員の12%(25.2万人)削減などについては不確定要素も多い。いずれにせよ,裁量的支出削減の内容は毎年度の予算審議によって具体化される性格のものであり,今後の支出削滅への着実な取組みが望まれる。こうした支出削減ができなかった場合には,クリントンの経済政策のもう1つの柱である長期的投資の促進のうち裁量的支出にかかわる社会資本整備等に振り向ける財源が圧迫されることになろう。

第3に,歳出削減額全体の約3割を利払い費の軽減によると見込んでいるが,そのためには上記の歳出削減や増税による歳入増が予定通り進む必要がある。また,国債の期間構造の短期化による利払い費の軽減も見込んでいるが,これは短期金利の上昇要因となり期待したほどの効果がないことも考えられる。

第4に,歳入増加策に関しては,当初提案された包括的なエネルギー税が,エネルギー効率や環境の観点からみても有効な税制と考えられるが,ガソリン税等の引上げにとどまった。国際的にみて相当低い石油価格からみても,増税の余地はかなりあったものと考えられる。

評価できる点としては,まず,今回の財政赤字削減計画の策定にあたり,当初,楽観的な経済見通し(「バラ色のシナリオ」)を描くことを避け,慎重な経済見通しが用いられたことが挙げられる。この結果,比較的規模の大きい財政赤字削減計画が成立することになったと評価できる。年央見通しにおいて経済見通しはより明るいものに改訂されたが,それでも成長率は2%台後半と従来よりも慎重な見通しを示している。したがって,上記の課題はあるものの,財政収支見通しも比較的信頼性の高いものとなっていると考えられる。次に,本格的な増税を実現したことが挙げられる。レーガン政権では高所得層減税による経済活性化が低所得層にも恩恵をもたらす(いわゆるtrickle-down)といわれていたが,後にみるように80年代を通じて所得格差はむしろ拡大した。今回の増税策では高所得層の負担増加が大きくなっており,これまでの考えを転換するものといえよう(第2-1-3図)。また,裁量的支出と義務的支出に関し上述の財政赤字削減を担保する枠組を引き継いだことは評価されよう。更に,pay-as-you-go方式は既存の義務的支出増大に対しては抑制策となっていないため,この法律とは別枠であるが,大統領は義務的支出を監視し,目標額を超えた分を相殺する措置を議会に対して勧告することになっている。

今回の財政赤字削減に伴うマクロ経済への影響については,数年間にわたって成長率をわずかに低下させるとみられている。しかし,歳出削減や増税は経済にデフレ効果をもたらすものの,財政赤字削減は金利の低下を通じて民間投資を拡大し,時間の経過とともにプラスの効果が大きくなると期待される。また,財政赤字削減による国内のISバランスの改善は,経常収支を縮小させる効果を持つ。経済企画庁の第4次世界経済モデルの乗数表を用いて試算してみると,今回の財政赤字削減計画により経常収支赤字の対GDP比は,初年度の94年度に0.2%,4年目の97年度には0.6%縮小する効果がある。

現在,長期金利は歴史的な低水準まで低下してきており,その点では順調な滑り出しになっている(第2-1-4図)。しかし,今後,景気の本格的な回復に伴って,インフレ懸念が生じ,見通し通り低水準を維持できない可能性もある。長期金利の動向は経済成長を左右するとともに,利払いにも影響することから,ここ数年の経済政策の鍵となる。そのためには,財政赤字削減に対する信頼性を確保し続けるとともに,金融政策との緊密な連携が重要といえる。

(2) 州・地方財政の状況

(悪化している州・地方財政)

財政赤字の民間投資への影響を考える場合には,連邦政府赤字だけでなく,一般政府の赤字を考える必要があるが,このところの一般政府の赤字の拡大には,州・地方政府の黒字が縮小したことも一因となっている。80年代後半がら州・地方政府の黒字は縮小傾向にある。特に社会保障基金を除いたベースでは赤字が定着してきており,経常的な支出や投資的な支出の抑制要因となっている(第2-1-5図)。

州・地方財政の悪化の原因としては,①メディケイド等の医療支出が増大していること,②80年代に連邦政府からの補助金が次第に減ってきていること,③税収の伸び悩みが挙げられる。なお,90年代に入ってから連邦補助金が急速に伸びているが,これはメディケイド支出の増加によって生じたメディケイド補助金の増加によるものである。

(重要な州・地方政府の役割)

このような州・地方政府の財政悪化は,クリントン政権の政策の足かせとなりかねない。なぜなら,クリントン大統領の目指す政策目標の多くは連邦政府レベルだけで解決しないことが多いからである。

アメリカは地方分権の強い国で,州・地方政府に大きな権限がある。アメリ力合衆国憲法修正第10条では「本憲法において合衆国に委任されず,また各州に対して禁止されなかった権限は,各州それぞれにまたば国民に留保される」となっており,このため外政は連邦政府,内政は州政府といった役割分担が基本になっている。地方政府は基本的には州憲法や州法に基づいて設置されているため,州によって行政組織が異なり,アメリカの地方行政制度は複雑なものになっている。また,行政区域とは別に,学校区と特別区が特定の公共サービス(学校区は学校教育,特別区は公共交通,上下水道,消防,都市開発等)を提供するために設けられている。州と地方政府の役割分担としては,社会保障政策(医療,所得保障等)は州が主に担当しているのに対し,教育,公安,生活インフラ等は地方政府が主に担当している。このように,医療制度,ハイウェイ等の社会資本整備,教育・職業訓練の人的資本にかかわる問題は,州・地方政府が一義的に行っている。

ここで州・地方財政の特徴をおると,その規模は70年代まで拡大の一途をたどってきた後,80年代になってやや縮小している。これは80年代になってベビーブーマーが学齢期を終えたことや,いわゆる「小さな政府」指向により公共サービスの需要が抑制されたことによる。歳入と歳出の内訳をみると,歳入面では,売上税,財産税,連邦補助金の割合が高いが,財産税の低下傾向,個人所得税の増加傾向,80年代以降の連邦補助金の抑制が目立つ。歳出面では,教育は横ばい,道路は低下傾向にある一方,医療支出の増加が顕著となっている。また,ベビーブーマーの子供が学齢期に入ってきたため,再び教育費の増加が予想される(第2-1-6図)。

もともと,連邦政府が統一的な指針を示しても州・地方政府が一律に対応する体制ではないが,州・地方政府の財政悪化は連邦政府の行おうとする施策を実行に移す上での制約となりうる。一般政府の赤字縮小のため,また,社会資本整備等の長期投資促進のためには,州・地方政府の財政状況の改善も重要である。

(3) 医療制度の改革

(アメリカの医療制度の問題点)

先にみたように財政赤字の抜本的な削減には,医療制度改革が最大のポイントとなっている。アメリカの医療制度の問題点は,①医療費の増大と,②15%程度の国民が医療保障の範囲(カバレッジ)外にいることである。

医療費増大の理由としては,次の点が挙げられる。1)医療のような専門的な分野では,消費者は医療サービスや医療保険のコスト・パフォーマンスを正確に知ることが難しく,適切な価格・量から外れて供給されがちである。しかし,アメリカではその需給を市場に委ねる傾向にあり,こうした状況を公的に監視し,抑制する仕組みがないため,高度な医療が生み出されてきた反面,他の先進諸国に比べて著しい医療費の高騰を招く一因となっている。その他,2)患者,医者,保険会社は互いに費用を転嫁しあっており,コスト負担をしている意識が希薄であるため,費用を節約するインセンティブが働きにくいこと,3)医療過誤訴訟に備えて治療・検査を過剰に行うこと(防衛的治療),4)医療保険制度が多様であることから巨額の事務経費がかかること等が挙げられる。

相当数の国民が無保険である理由は,アメリカの医療保険は民間主導型であることによる。公的医療保障制度は主にメディケア(高齢者)とメディケイド(低所得者層の一部)であり,この対象者は人口の約2割に過ぎない。そのため,個人で保険に入るか,または,企業が福利厚生として従業員に提供することによって医療保障が供給されている。このうち,雇用関連によって医療保障を得るケースが多いため,失業者や中小企業の従業員が医療保障の範囲外に置かれがちとなっている(第2-1-7図)。

このように公的医療保障は人口の2割程度しかカバーしていないにもかかわらず,医療費の高騰に伴い,財政赤字拡大の最大の要因となっている。更に,医療制度の問題は,財政赤字との関連だけではなく,以下のような様々な問題を有しており,その是正がアメリカの経済社会にとり極めて重要な課題となっている。

    ①医療費の高騰による企業負担の増大は競争力の低下や企業収益の圧迫を招く一因となっている。特に伝統的に医療給付が手厚い自動車等の製造業では,FAS106(第1章第2節の注参照)の導入により,改めて医療費負担の重さを認識しはじめでおり,例えば92年のビッグ3の退職後の医療費引当金は合計330億ドルとなっている。第1章第2節でみたように,企業の賃金以外の雇用コスト負担が増加しており,競争力を維持するため雇用を抑制する行動がみられている。

    ②アメリカの民間保険会社は詳細にリスク・クラスフィケーション(被保険者の病歴,年齢等による保険料設定)を行うことで業績をあげてきた。これは一度でも病気になると保険料が跳ね上がることを意味し,中小企業では1人の従業員が重病にかかると経営を圧迫するほど保険料が高くなることもある。

    ③無保険者は通常の医療機関では診察してもらえないため,救急受付で診察を受けるという行動をしており,救急性のある者が長時間待たされるといった矛盾も生じている。更に,無保険者の費用は他の有保険者に回され(コスト・シフティング),保険購入者である企業等がこれを問題視するようになってきている。

    ④中小企業や個人と異なり,大企業では自前の保険制度を持つ場合もあるし(self-insuredと呼ばれ税制上優遇されている),保険会社と交渉する力も強い。これに対し,中小企業や個人の場合は保険会社との交渉力が弱く保険料が高くなりがちで,その結果更に無保険者か増加するといった状況も生じている。

    ⑤医療保障を受けていても,給付範囲に相違があり自己負担が大きくなる場合がある。例えばメディケアは基本的には短期疾患に対する制度であり,また,外来時の薬剤等が給付対象外である等の制限があるため,長期疾患等の場合にはかなりの自己負担が必要となる。医療費を支払うことで資産を失い,経済的に破減的な状況が訪れて改めてメディケイドの適用対象になるというケースもかなりある。

(クリントン政権の医療制度改革)

こうしたアメリカの医療制度の矛盾に対応するため,クリントン政権は93年9月に医療制度改革案を発表した(第2-1-8図)。医療保障の拡大と財政赤字の削減を両立させなければならないという難しい課題であるが,ルーズベルト大統領以来といわれる社会保障制度の大改革に着手したことは大いに評価できる。医療費の抑制が実現できるかが改革成功の鍵を握っている。

改革案の中心となる考え方は「マネージド・コンペティション(Managed Competition:管理された競争)」である。この考え方の基礎には「医療の分野では情報の不完全性が存在するため市場の失敗が生じるので,政府の介入によって市場メカニズムを回復する」という考え方がある。具体的には,各州に医療保険組合を作り,これを通じて医療保険を購入することにしている。

医療費の抑制策としては,①医療保険組合が,個々の保険のコスト・パフォーマンスを明確にし,また,医療機関の質・実績の情報を提供することによって,消費者の選択能力を高め,医療保険市場や医療サービス市場の競争性を高める。②患者の自己負担を導入することで,医療費節約のインセンティブを働かせる,③弁護士報酬に上限を設けるなどして医療過誤訴訟を抑える,④医療保険カードの導入や保険金申請の様式を統一すること等で事務費を削減する,⑤医薬品メーカーに薬価の上昇抑制を要請する,などが挙げられている。

また,国民皆保険制の導入のために,①医療保険組合を通じて医療保険を購入することにより,消費者サイドを団休化し保険会社との交渉力を強める,②過度のリスク・クラスフィケーションを禁止することで,すべての人に適切な価格で医療保険を提供することにしている。そのために必要となる財源として,雇用者と被雇用者に保険料の負担を求めるとともに,既存の医療プログラムの経費節滅やタバコ税等の増税(いわゆるsin tax)を計画している。

医療費の高騰を抑制し,全国民に医療保障を提供することが必要であるということは国民の中でほぼコンセンサスが出来上がっており,また,この提案を国民は概ね妥当なものと考えている。例えば,ニューズ・ウィークの世論調査では,「クリントン大統領の提案が国家に対して,プラスとする者は55%,マイナスとする者は27%」であった。

ただし,この計画によって本当に医療費抑制が可能であるのかという点を除いても,以下のような問題点が指摘されている。①改革案に財源として示された医療コスト削減額や増収額等の見積もりが過大な可能性があり,その場合には更なる増税が必要となる。②国民,特に中小企業への負担が増大すると受けとめられており,雇用改善に悪影響カ咄る可能性がある。③医療の質クf低下したり,医師や医療機関の選択・変更が難しくなるといった懸念もある。④各自が医療保倹の上乗せをすることや医療費をすべてカバーするならば医療保障を企業の裁量に任せるとしていることから,医療を受ける権利が今後も不平等のままになる。更に,収益に悪影響がでる製薬会社,医師,保険会社や負担増を懸念する一部の中小企業等から反対の意見も出ている。

医療制度改革は財政再建の要であるだけではなく,アメリカ社会の公正確保や活力維持のための必須条件である。今後議会審議において以上の問題点が検討されていくであろうが,議論を通じてアメリカ社会に適した公平かつ効率的な医療制度が生まれることが期待される。

2 生産性向上の3つの鍵

(アメリカの経済成長)

アメりカの経済成長率は60年代から70年代,80年代と鈍化してきており,日本等と比べると相対的に低い成長となっている。経済成長の源泉は労働と資本の投入及び生産性の上昇(ここでは生産要素全体の生産性を示す全要素生産性を用いる)と考えられる。それぞれの経済成長への寄与をみてみると(第2-1-9図),労働投入に関しては生産年齢人口の動向に左右される面が大きく,戦後のベビーブーマーがこの年代に入ってきた70年代には高い寄与度を示したが,80年代に入ってからは寄与度が小さくなっている。したがって今後の経済成長には資本の投入と生産性上昇が重要と考えられるが,資本投入の寄与は次第に減少してきている。他方,生産性上昇については70年代に急速に鈍化した後,80年代後半に緩やかな改善がみられる。

資本投入を増やすためには設備投資の高まりが必要である。しかし,現在の貯蓄率を前提とすると,それは,赤字が続いているアメリカの経常収支を再び悪化させることになる。80年代前半は投資減税もあり一時的に投資が活発化したが,消費促進的な税制やベビーブーマーが耐久消費財を購入する世代に入ってきたため家計貯蓄率が低下し,財政赤字の拡大もあり,経常収支は急速に悪化した。89年代後半の経常収支の改善過程においても,貯蓄率の低下傾向は続いている。したがって,投資の促進と経常収支赤字の縮小を同時に達成するためには,貯蓄率の上昇が欠かせないと考えられる(第2-1-10図)。

生産性上昇には新技術の導入,国民の教育水準の向上等様々な要因が影響する。①研究開発投資,②社会資本整備,③教育投資と生産性上昇の関係をみてみると,いずれも生産性上昇に正の相関を有しており,とりわけ研究開発投資の役割が大きくなっている(第2-1-11表)。これらはクリントン政権の長期的投資促進の中でも重視されている分野であり,以下ではアメリカにおけるこれら3分野の特徴とクリントン政権の対応をみることとする。

(1) 研究開発投資

(アメリカの研究開発投資の特色)

アメリカの研究開発投資の主体を他の先進国と比較してみると,資金の出所では政府出資の割合が高い部類に入り,遂行段階では民間部門の割合が高くなっている(第2-1-12図)。また,90年度の連邦予算の研究開発費の内訳をみると63%が国防関連であり,相対的に国防関連の研究開発のウエイトが高い。国防関連の研究開発は,かつてはスピン・オフ効果が高く民間の研究開発の発展を促進していたが,国防関連の技術が非常に特殊化したため,スピン・オフ効果が低くなっていると言われている。70年代に入ってから,研究開発投資のGDP比と全要素生産性上昇との関係が急速に低下しているのは,このような要因もあるとみられる(第2-1-13図)。

また,80年代に入りレーガン政権の下で国防関連研究開発が急激に増加しており,研究開発投資を遂行主体別(民間・政府),使途別(国防・非国防)に分けてみると,87年までは83年を除いて民間国防の寄与が大きくなっている。88年以降は民間国防がマイナスとなり研究開発投資の伸び率は80年代前半よりも低くなっているものの,民間非国防は比較的堅調な増加を示している(第2-1-14図)。

(縮小する研究開発の優位)

研究開発力においてアメリカは依然として国際的に優位にあるとみられる。技術貿易収支の対GDP比をみると,アメリカは圧倒的な技術隼出国で黒字が続いており,80年代にやや黒字幅が縮小したものの,90年代に入り再び黒字輻が拡大している(第2-1-15図)。しかし,日本等の技術開発力も急速に高まっており,例えば,居住国別特許許可件数シェア(89年)をみると,特許総数では依然アメリカが第1位となっているものの,アメリカにおける海外居住者が取得する特許許可件数シェアが年々増加してきており89年には47.5%となっている(第2-1-16表)。特に,日本は77年の9.5%から89年には21.1%まで上昇している。

こうした要因として,前述のようにアメリカの研究開発が国防関連を中心としてきたことに加えて,他国における研究開発投資の充実が挙げられる。研究開発投資のGNP比を国際比較すると,70年代半ばにドイツ,80年代半ばに日本に追いつかれ,その後は同レベルで推移している。更に,非国防部門だけをみると,70年以前に既にドイツ・日本に追い越され,80年代に入りその格差が拡大している(第2-1-17図)。

他国に比べて研究開発が相対的に小さくなった背景として,①企業経営者が企業の長期的な発展よりも短期的利益を求めて行動する傾向が強いこと,②懲罰的賠償制度,陪審制度等アメリカ特有の司法制度を背景とした不確実性の高い製造物責任の追求,③共同研究・共同生産に対する独禁法の規制等が影響しているといわれている。また,④政府の技術政策が,例えば研究開発投資税額控除が時限立法であったことにみられるように,一時的な効果を優先し長期的な視点に欠けていたことも影響していると考えられる。

(クリントン政権の技術政策)

クリントン政権は三のようなアメリカの研究開発の現状を踏まえ,生産性上昇を図るための技術政策を発表している(「アメリカの経済成長のための技術-経済力強化のための新方針」:Technology for America's Economic Growth,A New Direction to Build Economic strength)。その内容は以下に示すようなものとなっている。

    ①政府出資研究開発投資の効率改善のため,国防研究開発投資を削減し非国防及び国防・非国防両用(デュアルユース)の研究開発投資にシフトさせる。

    具休的には,(1)連邦政府研究開発予算に占める非国防比率を,93年度の約41%から98年度までに50%以上に引き上げること,(2)国防総省の「国防先端研究計画局(DAPRA)」をデュアルユース技術のための「先端技術計画局(APRA)」に改組すること,(3)国立研究所に対する連邦政府研究開発予算の少なくとも10~20%を民間との共同研究に振り向けることを掲げている。

    ②研究開発投資税額控除の恒久化。これまで期限切れととも再度設けられてきたが,恒久化により,企業の研究開発投資に対する将来めリスクが解消され,安定した研究開発投資の増加が期待される。

    ③技術政策に関する行政機能の改善・強化。政策の企画立案を科学技術政策局(OSTP)がゴア副大統領と連携をとりながら行い,更に国家経済会議(NEQが関係部局との調整を行う。

    ④先端的な製造技術の開発と普及を図る。具休的には,中小企暴のための一「製造技術普及センター」の全国ネットワークの構築や環境調和型製造技術等を政府・民間で共同開発する。また,共同研究開発を独禁法の適用から除外した「84年国家共同研究法」を,共同生産にも拡大する。

以上のように,これまでの国防関連研究開発重視からの転換を図るものであり,また,民間産業技術への不介入という原則から大きく方向転換しようとするものである。非国防関連技術の重視や環境関連のような基礎的技術開発への官民連携の強化,研究開発投資税額控除のような研究開発全般の促進,技術の普及促進を行おうとしている点については評価できよう。しかし,技術開発における政府の役割については,第3章でみるように,政府の失敗,国際的な摩擦という視点からの検討が求められる。

(2) 社会資本整備

(社会資本の現状)

交通・通信施設等の社会資本は経済活動の広域的な展開を可能とし,経済成長に大きく影響するものである。また,教育施設や医療施設等,国民の生活水準の向上をもたらすものである。アメリカでは社会資本投資の対GDP比は,60年代の3.5%から,70年代の2.4%,80年以降は1.9%と低下してきている。これは,①ベビーブーマーが就学年齢を過ぎたため,75年以降学校建設等の支出が急激に減少したこと,②70年代初めに州間ハイウェイ・ネットワークが完成し,その後の道路関係支出が大幅に滅少したこと等によるところが大きい。,しかし,更新投資が不十分なことから現存する施設・設備の老朽化が進んでおり,特にハイウェイ,教育施設,医療施設の老朽化が進んでいる(第2-1-18図)。

(クリントン政権の社会資本整備政策)

クリントン政権では,特に情報インフラと輸送インフラの整備を重視している。

情報インフラの整備については,「情報スーパー・ノスイウエイ」の構築として,①地方自治体,学校,図書館等の公的機関のネットワークを構築し,全国を結ぶ高速通信ネットワ-クと接続すること,②全国研究・教育ネットワーク(NREN:National Research and Education Network)を開発することを目的としている。具体的には,①「高性能コンピューテイング法(High-Per.formanceComputingActof1991)」に基づき,政府機関ネットワークを結合した全国規模の高速ネットワークを構築すること,②国家経済会議(NEC)の中に情報インフラ整備に関するタスク・フォースを設置し,民間投資を促進する通信政策を策定すること,③製造業,医療・保健,生涯学習等の分野で使用するハード・ソフトの開発を援助する情報インフラ技術政策を策定すること,④地方自治体,学校,図書館等の公的機関の高速ネットワークへの接続を補助すること等である。

輸送インフラの整備については,「ISTEA(Intermodal Surface Transportation Efficiency Act:連邦政府の援助によりハイウェーの維持・補修を推進する法律)」事業の推進,マグレブ輸送(磁気浮上式鉄道)及び高速鉄道への投資の促進等を進めるとしている。

以上のように情報・輸送ネットワークの分野を重視しているが,財政赤字削減の制約もあり,民間部門との連携を図りながらどのように実行に移されていくかが注目される。

(3) 人的資本投資(教育・職業訓練)

生産性の向上には,新しい機械設備や新技術の導入だけでは不十分であり,それを使える人材の育成が必要といえる。また,研究開発の推進や生産現場の工程改善にも,それを担う人材が必要である。以下では,アメリカにおける教育と職業訓練の現状をみた上で,クリントン政権のこの分野での対応をみることとする。

(学校教育の地域格差)

アメリカの教育水準をみると,大学進学率では先進国の中でも極めて高い部類に入る。また,公教育に対する支出のGNP比をみても,他国に比べて遜色のない支出が行われている(第2-1-19表)。しかしながら,アメリカでは地域によって教育格差が大きいことが問題となっている。これは学校教育行政は基本的に学校区単位で行われるため,財政移転が十分とはいえないことによる。こうしたことは種々の試験結果からもうかがうことができる(第2-1-20表)。ここでは読解力,数学,理科の試験結果を取り上げたが,どの年代も,豊かな都市部の成績が良く,郊外その他,地方がこれに続き,貧しい都市部の成績はこれらの地域を下回る結果となっている。また,特に都市部での公立学校の荒廃も指摘されている。このため,高所得層は都市部近郊の教育環境の良い私立学校へ子どもを通わせる傾向があり,これが教育の地域格差を一層助長している面もある。

(新規雇用者に少ない職業訓練)

急速な技術進歩による新しい装置や製造工程プロセスの導入により,労働者への訓練が従来にも増して重要となってきている。しかし,アメリカでは,一般的技能は学校や被雇用者の負担で企業外で習得してくることが原則となっており,日本等に比べると企業内訓練はあまり行われていない。これは,労働者の企業間移動が活発なため,投資した効果が企業外へ流出する可能性が高いことも一因となっているとみられ,特に在職期間が5阜未満の者の企業内訓練受講率が低いのが日本と対照的である。また,これは日米共通していえることであるが,大企業の方が企業内訓練が充実しており,在職期間も長い傾向がある(第2-1-21表)。

また,訓練時間をアメリカ企業と日本企業で比べてみると,特に新規雇用の生産工においてアメリカ企業の訓練時間の短さが顕著である。その一方で,管理的職種についてはアメリカ企業と日本企業はほとんど同時間の訓練をしており,また技術者や熟練工の場合は差はあるものの新規雇用の生産工ほどの開きはない。また,アメリカにおいても日系企業では新規雇用の生産工の訓練時間が長くなっていることが注目される。

以上のように,アメリカでは新規雇用,非熟練労働者への職業訓練があまり行われておらず,これらーの者が離職すると一層職業訓練を受ける機会がなくなるという問題点があると考えられる。

(クリントン政権の対応)

情報化の進展等に伴う経済の知識集約化に伴い,高度な知識・技能を身につけた労働者への需要が高まっており,教育や訓練の重要性は増している。クリントン政権では,このため,幼児期から成人期までの教育・訓練プログラムの充実を図り,人的資本の充実を進めるとしている。

具体的には,教育関係として,①ヘッドスタート計画(低所得だったり,障害があったりする子供に対して,就学前に教育,栄養面.などで広範なサービスを提供する計画)の一層の推進,②高等教育機関在学者への連邦奨学金制度の充実等により,国内全体の教育水準の向上を進めようとしている。また,職業訓練に対しては,①企業に労働者への訓練費用を税額控除を認めることにより,職業訓練のインセンティブを高めること,②失業等による一時離職者に対する職業教育機関の充実等により,より高度な技術を身につける機会の充実を進めようとしている。

3 所得格差の拡大

(所得格差の拡大の現状)

アメリカの所得格差の動向をジニ係数の推移でみると,70年の0.394から90年には0.428へと上昇しており,次第に所得格差が拡大している。特に,80年から90年にかけての格差拡大が顕著となっている。また,所得階層別の所得割合をみると,上位20%層の所得割合が上昇する一方で,その他の所得階層の所得割合は全ての階層で低下しており,特に70年代は上昇していた下位20%層の所得割合も80年代に入って低下している(第2-1-22図)。こうした動きを反映して,貧困家庭数は80年代初めに急増しており,その後80年代末にかけてやや減少した後,再び90年代に入り増加し,貧困率は10%を超えている(第2-1-23図)。

このようにアメリカにおける所得格差の拡大は,国民全体の所得が向上する中で高所得層の所得がより一層向上するという形で生じているのではなく,低所得層が経済成長に取り残されているという問題であるといえる。そこで,以下ではこの時期に所得格差が拡大した要因を探ることとする。

(産業における労働の質の変化と教育)

80年代は情報化の時代といわれ,産業の各部門においてコンピュータライゼーションが進展し産業の知識集約化が進んだといわれている。職場におけるコンピュータの導入状況をみると,パーソナル・コンピュータの導入率は84年の8.3%から89年には36,1%へと4倍以上に上昇している。また,事務職員一人当たりのコンピュータ設置台数も84年の0.054台から89年には0.34台に増えており,コンピュータが職場の中に急速に普及している。こうした流れに対応して,Computer literacy(コンピュータを使いこなせるということ)という用語も生み出されており,コンピュータを使いこなせるような能力が職場で重視されてきていることがうかがわれる。

そこで職場におけるコンピュータ使用率と学歴との関係をみると,在庫管理等の例外はあるものの,総じて学歴が高いほどコンピュータ使用率が高い傾向がみられる(第2-1-24図)。このようにコンピュータ導入への適応に象徴的にみられるように,新技術の導入とともに産業が必要とする労働の質が変化してきており,そのような二-ズに高学歴者ほど適応しやすい傾向がみられたと考えられる。

こうした変化は,所得の動向にも影響してきている。学歴別所得の推移をみると,高卒以下め者の実質所得は81年から90年にかけてほとんど変化しないかむしろ若干低下しているのに対し,大卒者等の高学歴の者の実質所得は着実に増加を示している(第2-1-25図)。また,91年の年収10万ドル以上の高所得者の学歴別割合をみると,80%近くが大卒以上の者となっている。他方,年収1万ドル未満の者についてみると,逆に80%が高卒以下となっている(第2-1-26図)。

このように教育と所得との関係が従来にも増して重要となってきているが,先にみたように教育の地域格差が存在しており,低所得層が質の高い教育を受けられず,所得格差の拡大と教育格差の拡大が悪循環を引き起こしている可能性があり,その場合これがアメリカにおける最大の問題といえる。こうした傾向を是正するためにも,先述の人的投資の充実が重要であり,すべての考への機会均等の保証というアメリカの良き伝統が名実ともに回復されることが期待される。

(80年代に低下した所得移転効果)機会の均等が保証されていれば結果として所得格差が生じることは致し方ない。しかし,経済の知識集約化の流れは所得格差を従来よりも拡大させる可能性があり,所得格差の大幅な拡大は国民社会の統合を弱める可能性もあることから,ある程度の公的な所得移転が必要となってくる。

アメリカの所得移転を77年と89年で比べてみると,89年の方が所得移転率がやや小さくなっている(第2-1-27図)。実効税率は所得階層の上位20%層でやや低下する一方でその他の所得階層ではほぼ横ばいとなっており,また下位20%層への移転率が低下している。この背景には,レーガン政権において個人所得税の累進性が緩和され,社会保障関係支出の抑制が図られたことがある。しかし,産業の知識集約化の進展に伴う所得格差の拡大の中で,財政赤字削滅のところで述べたいわゆるtrickle-downの効果は現れなかった。

こうした状況を踏まえ,クリントン政権は,今回の財政赤字削減計画の中の税制改革では,中位所得者層の勤労所得税額控除を拡大する一方,高所得層への負担を重くし増税負担の80%を年間所得20万ドル以上の家計に課する等,所得格差の是正に取り組んでいる。こうした取組みが人的投資の充実とも相まって低所得層の教育水準の向上につながることが期待される。

4 アメリカ経済活性化への期待

財政赤字,生産牲,所得格差という3つの観点からアメリカ経済の抱える課題をみてきた。このうち最も明るい展望がみえるのは生産性の向上の問題である。アメリカの生産性は上昇率が鈍化したとはいえ,その水準は国際的にみて高水準にあり,再び上昇率を高めてきている。また,情報化等の新しい技術分野において,世界をリードしている。財政赤字削減は困難な課題であるが,クリントン政権が増税を含む財政再建案を成立させた点は評価できる。これが着実に実現されていけば,投資が増加して成長率の上昇に寄与していくであろう。3つの中でより困難な問題は所得格差の拡大である。この背景に情報化,知識集約化という経済社会の変化があるためである。しかし,クリントン政権は「変革」を旗印にこれらの大きな課題に対して真剣な取組みをみせている。

世界経済の持続的発展のためにはリーダー国であるアメリカ経済の活性化が必要不可欠であり,「アメリカ経済の再生」が進展することが期待される。