平成3年
年次世界経済報告 資料編
経済企画庁
II 1990~91年の主要国の政策動向
第11章 中 国
中国では,88年末からの経済調整により停滞した生産,消費を刺激するため,89年末より金融緩和に転している。一方,証券取引所の設置,金融面の対外開放の進展等,金融市場の整備も進んでいる。また,外貨管理についても,公定レートの調整,外貨取引市場の整備等が行われた。
91年4月20日,人民銀行は預金金利を平均1%,貸出金利を平均0.7%引き下げた。87,88年に急騰した物価が90年以降鎮静化した(91年1~3月期は前年同期比3.3%)ことを受けて,生産増,商品流通の活発化を促すための措置として行われた。
91年10月末,深センで開催された「証券市場発展政策シンポジウム」の中で,第8次5ヵ年計画期の金融政策についての発言がなされた。内容は以下の通りである。
① 企業債券の発行の拡大,住宅債券等新たな債券の開発に取り組み,市場の遊休資金を吸収して企業の技術改造資金に活用する。
② 試験的な株式市場の設立を広げ,株式発行量を拡大する。上海,深センでは上場株式量をさらに増やす。
③ 海外向けのB株(国内向け株式のA株に対して海外向け株式をB株と呼ぶ)発行を進め,証券市場を通じでの外資吸収を進める。
90年12月19日,上海で国内初の証券取引所が開設された。当初上海には,株式制企業が11社あり,うち8社が株式を上場していたが,91年12月には3企業が新たに株式を発行する等,次第に市場拡大が進んでいる。
また,91年7月3日こは,半年前より試験的に営業していた深センの証券取引所が正式に開業することとなった。深センには200以上の株式制企業があるが,上場している企業は現在6社に過ぎない。92年には中国国際信託投資公司(CITIC)が国営の金融機関としては初めて株式を上場することとなっており,今後の市場拡大が期待されている。
上海証券取引所では,この1年間の取引高が,店頭取引を行っていた84~90年の累計取引高を2.3倍上回るなど取引規模を急速に広げており,全証券取引高に占める上海市場の割合は21%に達している。これら証券市場では,上場株式の種類,発行量が少ないことから店頭取引開始当初,取引が過熱化した。このため現在も株価の動きに制限が設けられており,自由な取引が妨げられているが,市場の発達に従い撤廃する予定にある。
① 91年1月,深センの企業「中国有色金属工業総公司」が,初の外貨建てC Pの公募を開始した。
発行額は800万ドルで,うち300万ドルは企業・事業体向け(ドル建て),500万ドルは一般個人向け(香港ドル建て)となっている。このCPは即日完売となるなど,市民の関心は高かった。
② 91年3月,中国人民銀行が,上海への外資銀行6行の支店設立申請を正式に受理した。上海では90年より浦東新区開発の大プロジェクトが進められており,外資導入を促すためにも外国銀行の支店設立が必要となっていた。今回の設立許可により,日本の三和銀行,日本興業銀行,米国のシティーバンク,バンクオブアメリカ,フランスのクレディ・リヨネ,バンク・インドスエズの6行が上海に支店を設置することとなった。
上海には既に,香港の東亜銀行,香港上海銀行,イギリスのスタンダード・チャータード,シンガポールのオーバーシー・チャイニーズ銀行が52年の革命以前より事務所を設置している。これらの銀行は人民元の預金受入れ・貸出業務は行えず,外国為替の交換,貿易金融のみが取り扱えられる。
③ 91年6月28日,中国銀行が東京市場で円建て公募外債(サムライ債)の発行を契約した。今回は「天安門事件」以後初の発行で,200億円(期間5年)が起債される。
④ 91年12月,上海の国営企業「上海真空電子」で外国機関投資家向けのB株(国内向けのA株に対応した呼称)の発行が開始された。発行額は1億元で,国内外で同時に発行される。また,深センでも「深セン市物業発展集団」(不動産業中心),「南方ガラス両公司」で海外向けのB株発行の準備が進められている。発行額は合計4,000万元余で,香港の関係会社で販売されることとなる。
外国投資家は,上海,深センの外貨調整センターでの交換レートに従い,人民元額面の株式を購入し,売買利益,配当はセンターで外貨に交換されることとなる。
① 91年4月より,為替の公定レートの微調整が開始された。政府側では貿易収支の均衡を図るための措置として説明しているが,西側アナリストの中では,元の本格的な交換性を確立するため,公定レートを市場の実勢レート(5.9元/ドル前後)に近づける措置との見方がなされている。
② 91年に入り,外貨調整センターの開設が進んでいる。既に公開市場が設置されている上海,アモイ,福州,深センに加え,4月に海南省,5月に浙江省抗州市,湖南省長沙市に各々開設された。
③ 91年12月から銀行に外貨預金のある国内居住者(国内の公民及び定住している外国人)は,外貨調整センターで外貨を売買することが可能となった。
従来は公定レートに従い売買されていたが,今後は外貨調整センターの市場レートにより売買することができる。