平成3年

年次世界経済報告 資料編

経済企画庁


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II 1990~91年の主要国の政策動向

第9章 韓  国

3. その他の政策

① 主な経済対策

(ア)物価安定対策

政府は,91年2月2日,湾岸危機等による物価不安を鎮静化させるため,総合的な物価対策を発表した。これによると,

等としている。

(イ)製造業競争力強化対策

政府は,91年3月14日,韓国企業の輸出競争力が最近,限界に直面して大きな経済困難をもたらしているとの認識に立ち,「製造業競争力強化対策」を決定・公表した。

この対策の基本方針は,「政府は生産活動の主体である企業自らが技術開発と経営合理化を通じて競争力を回復できるようにするため,i)民間企業自らでは解決困難な共通した隘路技術の開発,資金支援の円滑化,人材養成,社会間接資本投資の拡大,産業立地難解決に注力する,ii)また,直接の財政・金融上の支援対策は中小企業部門を重点にする,iii)大企業に対しては,自律的に技術開発や生産性向上が行えるような環境を整備する,の3点に力点を置く」としている。具体的施策としては,

等が骨格となっている。

(ウ)建設景気鎮静化対策

(i)「建設投資動向診断と建設景気鎮静対策」

政府は,61年5月3日,過熱現象をみせている「建設景気」を鎮静化させるため,「建設動向診断と建設景気鎮静対策」を決定・発表した。

この中で示された「建設景気の適正管理村策」の基本方向としては,住宅建設については住宅200万戸建設計画に対応して庶民への住宅供給に不足が生じないようにする,不要・不急の商業用建物の建築を規制する,住宅金融の供給を縮小調整する,上記の建設投資需要抑制措置と並行して,セメント等の建築,資材の供給円滑化の対策を推進する,等を掲げている。そして,具体策としては,

等を内容としている。

(ii)「建設投資適正化方案と5大新都市関連対策の基本方向」

政府は91年7月9日,「5・3建設景気鎮静対策」を拡大・補完するため,「建設投資適正化方案と5大新都市関連対策の基本方向」を取りまとめ,決定した。

これによると,

等を主な具体内容としている。

(工)物価安定及び国際収支改善対策

政府は,91年9月19日,引き続く物価不安と貿易収支の悪化状況に対応して「物価安定及び国際収支改善対策」を決定・公表した。

この対策の主な点としては,

a)総需要管理の持続的な強化

b)内需沈静対策の強化と貯蓄増大

c)機械の国産化促進と金融機関の選別機能強化

d)輸出産業の競争力強化

等が掲げられている。

② 大規模企業集団(財閥)対策

(ア)財閥に対する与信管理

世界経済白書の本文の第4章第1節のところでも述べたように,韓国では経済構造調整を進める中で,財閥の有り方が問われている。財閥の少数個人による独占的な支配・経営構造,工業化を強力に推進するために60年代以降一貫して実施・提供されてきた低利の政策金融に対する過度の依存体質故に進まぬ財閥の経営効率の改善,財閥の各産業分野に対する「たこ足」的な拡張による資源の非効率的使用,非業務用不動産などの不動産の過剰保有にみられる投機的動き,等々の問題点が指摘されている。こうしたことが,韓国の構造調整を推進する上で検討されなければならない大きな課題として浮上してきている。

政府は,これまでも,財閥に対する与信規制を通じて財閥の活動を牽制してきたが,91年3月28日,財閥グループに対する「与信管理制度改編方案」を発表して,財閥に対する規制を大幅に改め,韓国の競争力強化及び構造調整促進に資する方向で財閥 の経済活動を導く方針を打ち出している。

この方案によると,i)与信(貸出限度)管理対象30大財閥の選定に当たっては,従来の総資産規模から総貸出(国外支店への貸出金と延べ払い輸出金融は除外)規模に選定基準を変更する,ii)与信管理財閥には最大5社まで「主力企業」を認め,これら主力企業は与信管理対象から外す,iii)財閥関連会社,財閥オーナー及び特殊関係人の株式持分比率が8%以下である企業は「国民企業」として,与信管理対象から外す,としている。

また,主力企業選定は,財閥が主取引銀行と協議して自律的に行うとしている。

この措置に従い,与信管理対象財閥は,主力企業を選定し銀行監督院に審査をもとめ,最終的には72社の主力企業と株式分散の進んだ4社の「国民企業」が選定されることとなった。この与信管理制度は91年6月初より実施されている。

(イ)財閥関連会社の株式異動調査

与信管理制度とは別に,国民の財閥に対する厳しい受け止め方を背景に,財閥企業所有者の税務調査や株式保有・株式異動調査を実施して,株式の変則的な移動による実質的な資産相続を厳しく正す努力も政府によってなされている。

③ 92年経済運用計画

(ア)10大主要検討課題の選定

政府は,91年10月31日, 10大主要経済課題を選定し,これに基づき「92年度経済運用計画」を作成することを決定した。

10大主要課題は,

である。

(イ)92年度経済運用計画の決定

政府は91年12月26日,「1992年度経済運用計画」を決定・公表した。この「運用計画」は,成長率を抑制する方向で経済運営を行い,インフレや国際収支の一層の悪化を喰い止める事に重点を置いている。また,成長を抑制しつつも,輸出産業を中心とした製造業の競争力強化のため,資金や労働力を優先投入するような政策を遂行することにも重点を置いている。主な内容は,以下の通り。

a)成長率の抑制

成長率を91年の8.6%(実績見込み)から92年には7%に抑制することにより,消費者物価上昇率を9%以下,経常収支赤字を80億ドルに抑える。このため,総通貨供給量(M2)の伸びを91年の18.8%(実績見込み)をやや下回る18.5%水準に抑える。

b)消費者物価上昇率の抑制

消費者物価上昇率を9%以下に抑えるため,公共料金の引上げ幅を5%以内に抑制する。5%以上の賃金引上げを行った大企業に対しては,貸し出し審査を強化するなど,政府の許認可事業において不利益を被るようにする。また,賃金引上げ率が5%以内であった企業に対しては,政府金融を優先的に供給するとともに,会社債の評価において有利にするなど,優遇する。更に,政府,地方自治体,政府投資機関,政府出資機関の予算の中で消費関連予算項目を10%節約する。

c)輸出および製造業支援

輸出及び製造業支援のため,大企業に対する貿易手形の割引総額規模を91年の1.2兆ウォンから3兆ウォンに大幅拡大する。輸出比率の高く,輸出拡大に貢献している企業に対しては,貿易手形の割引額を貸し出し規制枠に含めないことで,資金支援する。中小企業に関しては,商業手形の再割引比率70%の適用期限を92年末まで延長し,中小企業間で取引される商業手形の割引期間を90日から120日に延長する。市中銀行の中小企業に対する義務的な貸し出し比率を現行の35%から45%に引き上げる。また,生産性向上を助けるため,臨時投資税の控除期間を全ての企業に関し92年6月まで延長適用することとし,製造業の有償増資及び会社債発行規制を緩和する。

第10表 「92年度経済運用計画」のマクロ指標

④ 第7次経済社会発展5ヵ年計画の決定

(ア)新5ヵ年計画の基本課題

政府は,91年11月12日,「経済社会発展計画審議会」を開き,「第7次経済社会発展5ヵ年計画」を正式決定・発表した。92年~96年の期間を対象とした「第7次経済社会発展5カ年計画」は,90年9月に「計画樹立のための基本構想」が,10月には「計画作成指針」が相次ぎ公表され,計画の概要が明らかになっていたが,その後,「作成指針」に基づき政府部内で33の部門に分かれて部門計画が作成・調整され,今回の計画の正式決定に漕ぎつけている。

第6次5カ年計画期間(1987~91年)中には,87年の盧泰愚大統領の「6・29民主化宣言」等を受けた政治・社会の民主化が進展し,それに伴って労働争議が活発化して賃金が大幅に上昇,インフレ率も高まった。こうした労働コストの上昇とウォン・レートの増価により輸出競争力が弱まり,経常収支は再び大幅な赤字に戻った。こうした,韓国経済を取り巻く情勢の変化を受けて,新5カ年計画では,大きく3つの戦略と,それをブレーク・ダウンした10の政策課題を掲げている。具体的には,

a)産業競争力の強化

b)公平の追究と経済の均衡発展

c)開放化・国際化の推進と南北統一基盤の造成

となっている。

なお,先の5カ年計画でもそうであったように,今次5カ年計画も政府関与による目標達成というよりは自由化,国際化の趨勢に沿うよう,民間部門の活動方向を提示する誘導的計画との説明がなされている。

(イ)新5カ年計画のマクロ指標

新5ヵ年計画で明らかにされたマクロ経済指標は,第11表の通りである。計画によれば,実質経済成長率は,第6次計画の年平均10%よりは抑え,第7次計画前半は8%,後半は7%とし,期間平均で7.5%と韓国の潜在経済成長率と言われる8%前後に置き,適正水準を目指す。また,第6次計画後半に噴出した建設景気や過剰消費現象を抑制して,実質民間消費は第6次計画の年平均9.6%から同7%へ,実質建設投資は同17.2%から7.5%へ大きく引き下げる。輸出は,12~14%の増加を目指し,輸入は10~12%に抑え,96年には50~70億ドルの経常収支黒字を見込んでいる。従って,この計画の成否は,低下が顕著と言われる国際競争力の回復が大きな鍵を握っているとみられている。

いずれにしても,「新5カ年計画」が順調に達成されれば,96年には1人当たりGNPが10,908ドルと現在のシンガポールやニュージーランド並みの水準に到達し,先進国の仲間入りができるレベルに達するとの予測がなされている。


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