平成3年
年次世界経済報告 資料編
経済企画庁
II 1990~91年の主要国の政策動向
第9章 韓 国
① 主な経済対策
(ア)物価安定対策
政府は,91年2月2日,湾岸危機等による物価不安を鎮静化させるため,総合的な物価対策を発表した。これによると,
a)バス等の公共交通料金を除く全ての公共料金の引上げを91年上半期中は見送る,
b)91年1~3月期の総通貨供給量(M2)規模を3月平均残高で前年同月比17~19%水準で厳格に管理し,通貨膨張を抑制する,
c)倹約・節約を奨励・誘導するため,信用カード割賦購買期間を現行の24カ月から12カ月に短縮し,また,購買限度額を現行の200万ウォンから150万ウォンに,現金貸出サービス限度額を現行の50万ウォンから30万ウォンにそれぞれ引き下げる,
d)政府は,節約を率先実施するため,予算節減計画を作成する,
e)農水畜産物の価格安定のため,政府保有米の放出,古米(89~89年)の価格引き下げを実施する,
f)商店街の賃貸料及び学費の引上げに関連し,当局のガイドラインに違反する料金・価格引上げを行った業体には徹底した税務調査を実施して,不当利益を還収する,
等としている。
(イ)製造業競争力強化対策
政府は,91年3月14日,韓国企業の輸出競争力が最近,限界に直面して大きな経済困難をもたらしているとの認識に立ち,「製造業競争力強化対策」を決定・公表した。
この対策の基本方針は,「政府は生産活動の主体である企業自らが技術開発と経営合理化を通じて競争力を回復できるようにするため,i)民間企業自らでは解決困難な共通した隘路技術の開発,資金支援の円滑化,人材養成,社会間接資本投資の拡大,産業立地難解決に注力する,ii)また,直接の財政・金融上の支援対策は中小企業部門を重点にする,iii)大企業に対しては,自律的に技術開発や生産性向上が行えるような環境を整備する,の3点に力点を置く」としている。具体的施策としては,
a)919の先端生産技術開発課題を選定して,91年から95年の5年間に1兆5,500億ウォンを投入し,先進国が技術移転を忌避しているとされるこれら先端技術を独自開発する,
b)92年から95年までの4年間,理工系大学の定員(毎年4千人ずつ計1万6千人)や理工系を中心とした自然科学系の大学院の定員(毎年2,500人ずつ計1万人)の増員を図り,国立工科大学の設立推進,工科大学を志望する高卒者に対する海外留学機会の拡大に努める,
c)関係業界が要望している925万坪の工業団地を早期に開発し,忠清南道,全羅南道地域の干拓・埋立地1千70万坪を工業用地に転換する,
d)国内生産が困難な工場自動化機器及び先端施設機材については関税を最高60%まで減免する,
等が骨格となっている。
(ウ)建設景気鎮静化対策
(i)「建設投資動向診断と建設景気鎮静対策」
政府は,61年5月3日,過熱現象をみせている「建設景気」を鎮静化させるため,「建設動向診断と建設景気鎮静対策」を決定・発表した。
この中で示された「建設景気の適正管理村策」の基本方向としては,住宅建設については住宅200万戸建設計画に対応して庶民への住宅供給に不足が生じないようにする,不要・不急の商業用建物の建築を規制する,住宅金融の供給を縮小調整する,上記の建設投資需要抑制措置と並行して,セメント等の建築,資材の供給円滑化の対策を推進する,等を掲げている。そして,具体策としては,
a)政府及び政府投資機関の建設事業の工期調整(政府機関や政府投資機関の庁舎・社屋で建築中の工事を中断し,91年9月以降に工事を延期する)
b)商業用建物の建築制限(200坪以上の近隣生活施設(商店,風呂屋,薬局等)は91年9月末まで,ホテル,旅館等の宿泊施設は91年末まで,サウナ等は人手不足解消時まで建築を制限する。91年6月までとなっている百貨店,ショッピング・センターの建築制限は91年末まで延長),
c)住宅建設調整(さら地に新築する専用面積50坪以上の(分譲面積63~65坪)の大型ビル(豪華マンション)及び集合住宅は91年末まで建築許可しない。既存住宅を撤去・再建築する場合,世帯当たり専用面積40坪を超す多世帯及び多世代住宅は91年9月末まで許可を制限する),
等を内容としている。
(ii)「建設投資適正化方案と5大新都市関連対策の基本方向」
政府は91年7月9日,「5・3建設景気鎮静対策」を拡大・補完するため,「建設投資適正化方案と5大新都市関連対策の基本方向」を取りまとめ,決定した。
これによると,
a)当初,91年下半期に新都市で6万5,900戸の住宅を分譲する予定であったが,3万戸を92年に延期し,92年度分譲予定戸数のうち6万戸を93年に順延する。新都市における住宅分譲を年間5~6万戸に平準化させる,
b)集合住宅の建築制限対象を,現行の専用面積50坪以上から40坪以上に範囲を拡大し,建築制限期間も91年末までから92年6月末まで延長する。また,多世代,多世帯住宅も専用面積40坪以上に対しては,建築制限期間を91年9月末までから92年6月末まで延長する(但し,住宅非保有者用住宅や小型住宅の供給を増やすため,公共部門の住宅供給数量は当初計画通りに実施する),
c)未分譲が発生している地方都市の民営アパートの分譲および着工の延期措置を91年9月末から91年末まで延長し,92年度民営住宅資金の供給規模を91年水準以内に抑制する,
d)政府及び政府投資機関の庁舎,社屋,支社等の91年度予算事業863億ウォンに対する執行を最大限延期させる,
e)商業用建物建築規制に関連し,「5・3対策」により91年9月末まで建築が規制されている延べ床面積5千m2以上の業務用建物と660m2以上の近隣生活施設は92年3月まで,大型小売店は92年6月まで建築制限規制が延長され,91年末まで建築制限規制がされている宿泊施設と百貨店も92年6月まで,また,これまで全く制限されていなかった観覧・集会施設,観光施設,展示施設も全て92年6月まで建築が制限される,
等を主な具体内容としている。
(工)物価安定及び国際収支改善対策
政府は,91年9月19日,引き続く物価不安と貿易収支の悪化状況に対応して「物価安定及び国際収支改善対策」を決定・公表した。
この対策の主な点としては,
a)総需要管理の持続的な強化
i)通貨供給量(M2)の増加率を91年10~12月期も91年1~8月平均の18.4%程度に抑制する,
ii)92年度予算規模を本年度予算比6.8%増に抑え,公務員給与の伸びを一桁に抑制する,
b)内需沈静対策の強化と貯蓄増大
i)非居住用建築物の建築規制徹底と住宅建築許可を年末までに60万戸とするなど「5・3」及び「7・9」建設景気沈静対策を効果的に推進する,
ii)不労所得者に対する税務調査強化,企業接待費に対する税務上の規制強化,信用カード会社に対する貸出抑制等,過剰消費への規制及び監視を強化する,
iii)金利自由化のための第一段階の措置を年内に実施する,
iv)小額家計貯蓄限度及び非課税の勤労者長期貯蓄の限度額引き上げ等を図る,
c)機械の国産化促進と金融機関の選別機能強化
i)外貨貸出と代替可能な外貨リース及び海外証券発行の抑制,92年中の外貨貸出制度の廃止と国内金融への統合化を図る
ii)91年中の機械国産化計画立案及び部品・機械類・素材等に対する金融支援を拡大する,
iii)銀行の貸出審査における選別機能を一層強化する,
d)輸出産業の競争力強化
i)製造業の競争力強化対策の遅滞なき推進と輸出増大努力を強化する,
ii)対日輸出有望品目の開発,日本からの輸入に依存する品目の国産化によって対日赤字の改善を図る,
等が掲げられている。
② 大規模企業集団(財閥)対策
(ア)財閥に対する与信管理
世界経済白書の本文の第4章第1節のところでも述べたように,韓国では経済構造調整を進める中で,財閥の有り方が問われている。財閥の少数個人による独占的な支配・経営構造,工業化を強力に推進するために60年代以降一貫して実施・提供されてきた低利の政策金融に対する過度の依存体質故に進まぬ財閥の経営効率の改善,財閥の各産業分野に対する「たこ足」的な拡張による資源の非効率的使用,非業務用不動産などの不動産の過剰保有にみられる投機的動き,等々の問題点が指摘されている。こうしたことが,韓国の構造調整を推進する上で検討されなければならない大きな課題として浮上してきている。
政府は,これまでも,財閥に対する与信規制を通じて財閥の活動を牽制してきたが,91年3月28日,財閥グループに対する「与信管理制度改編方案」を発表して,財閥に対する規制を大幅に改め,韓国の競争力強化及び構造調整促進に資する方向で財閥 の経済活動を導く方針を打ち出している。
この方案によると,i)与信(貸出限度)管理対象30大財閥の選定に当たっては,従来の総資産規模から総貸出(国外支店への貸出金と延べ払い輸出金融は除外)規模に選定基準を変更する,ii)与信管理財閥には最大5社まで「主力企業」を認め,これら主力企業は与信管理対象から外す,iii)財閥関連会社,財閥オーナー及び特殊関係人の株式持分比率が8%以下である企業は「国民企業」として,与信管理対象から外す,としている。
また,主力企業選定は,財閥が主取引銀行と協議して自律的に行うとしている。
この措置に従い,与信管理対象財閥は,主力企業を選定し銀行監督院に審査をもとめ,最終的には72社の主力企業と株式分散の進んだ4社の「国民企業」が選定されることとなった。この与信管理制度は91年6月初より実施されている。
(イ)財閥関連会社の株式異動調査
与信管理制度とは別に,国民の財閥に対する厳しい受け止め方を背景に,財閥企業所有者の税務調査や株式保有・株式異動調査を実施して,株式の変則的な移動による実質的な資産相続を厳しく正す努力も政府によってなされている。
③ 92年経済運用計画
(ア)10大主要検討課題の選定
政府は,91年10月31日, 10大主要経済課題を選定し,これに基づき「92年度経済運用計画」を作成することを決定した。
10大主要課題は,
a)賃金安定,
b)輸出産業への資金配分拡大,
c)中小企業の競争力強化,
d)効率的資金供給を確保するための金融の選別機能の制度的強化,
e)エネルギー消費増加の抑制,
f)対日貿易赤字の改善,
g)建設景気の安定と不動産対策の実効性向上,
h)農漁村の構造改善,
1)ウルグアイ・ラウンド交渉への備え,
j)国民生活安定,
である。
(イ)92年度経済運用計画の決定
政府は91年12月26日,「1992年度経済運用計画」を決定・公表した。この「運用計画」は,成長率を抑制する方向で経済運営を行い,インフレや国際収支の一層の悪化を喰い止める事に重点を置いている。また,成長を抑制しつつも,輸出産業を中心とした製造業の競争力強化のため,資金や労働力を優先投入するような政策を遂行することにも重点を置いている。主な内容は,以下の通り。
a)成長率の抑制
成長率を91年の8.6%(実績見込み)から92年には7%に抑制することにより,消費者物価上昇率を9%以下,経常収支赤字を80億ドルに抑える。このため,総通貨供給量(M2)の伸びを91年の18.8%(実績見込み)をやや下回る18.5%水準に抑える。
b)消費者物価上昇率の抑制
消費者物価上昇率を9%以下に抑えるため,公共料金の引上げ幅を5%以内に抑制する。5%以上の賃金引上げを行った大企業に対しては,貸し出し審査を強化するなど,政府の許認可事業において不利益を被るようにする。また,賃金引上げ率が5%以内であった企業に対しては,政府金融を優先的に供給するとともに,会社債の評価において有利にするなど,優遇する。更に,政府,地方自治体,政府投資機関,政府出資機関の予算の中で消費関連予算項目を10%節約する。
c)輸出および製造業支援
輸出及び製造業支援のため,大企業に対する貿易手形の割引総額規模を91年の1.2兆ウォンから3兆ウォンに大幅拡大する。輸出比率の高く,輸出拡大に貢献している企業に対しては,貿易手形の割引額を貸し出し規制枠に含めないことで,資金支援する。中小企業に関しては,商業手形の再割引比率70%の適用期限を92年末まで延長し,中小企業間で取引される商業手形の割引期間を90日から120日に延長する。市中銀行の中小企業に対する義務的な貸し出し比率を現行の35%から45%に引き上げる。また,生産性向上を助けるため,臨時投資税の控除期間を全ての企業に関し92年6月まで延長適用することとし,製造業の有償増資及び会社債発行規制を緩和する。
④ 第7次経済社会発展5ヵ年計画の決定
(ア)新5ヵ年計画の基本課題
政府は,91年11月12日,「経済社会発展計画審議会」を開き,「第7次経済社会発展5ヵ年計画」を正式決定・発表した。92年~96年の期間を対象とした「第7次経済社会発展5カ年計画」は,90年9月に「計画樹立のための基本構想」が,10月には「計画作成指針」が相次ぎ公表され,計画の概要が明らかになっていたが,その後,「作成指針」に基づき政府部内で33の部門に分かれて部門計画が作成・調整され,今回の計画の正式決定に漕ぎつけている。
第6次5カ年計画期間(1987~91年)中には,87年の盧泰愚大統領の「6・29民主化宣言」等を受けた政治・社会の民主化が進展し,それに伴って労働争議が活発化して賃金が大幅に上昇,インフレ率も高まった。こうした労働コストの上昇とウォン・レートの増価により輸出競争力が弱まり,経常収支は再び大幅な赤字に戻った。こうした,韓国経済を取り巻く情勢の変化を受けて,新5カ年計画では,大きく3つの戦略と,それをブレーク・ダウンした10の政策課題を掲げている。具体的には,
a)産業競争力の強化
i)産業発展に必要な人材の養成制度の改変
ii)技術開発・情報化の促進
iii)社会間接資本の拡充
iv)企業経営の効率化
b)公平の追究と経済の均衡発展
v)地域間の均衡発展
vi)庶民の住宅難解消と不動産投機の抑制
vii)社会保障と生活福祉の向上
c)開放化・国際化の推進と南北統一基盤の造成
viii)金融自由化の推進
ix)開放経済の拡大と発展
x)南北交流協力と統一基盤造成
となっている。
なお,先の5カ年計画でもそうであったように,今次5カ年計画も政府関与による目標達成というよりは自由化,国際化の趨勢に沿うよう,民間部門の活動方向を提示する誘導的計画との説明がなされている。
(イ)新5カ年計画のマクロ指標
新5ヵ年計画で明らかにされたマクロ経済指標は,第11表の通りである。計画によれば,実質経済成長率は,第6次計画の年平均10%よりは抑え,第7次計画前半は8%,後半は7%とし,期間平均で7.5%と韓国の潜在経済成長率と言われる8%前後に置き,適正水準を目指す。また,第6次計画後半に噴出した建設景気や過剰消費現象を抑制して,実質民間消費は第6次計画の年平均9.6%から同7%へ,実質建設投資は同17.2%から7.5%へ大きく引き下げる。輸出は,12~14%の増加を目指し,輸入は10~12%に抑え,96年には50~70億ドルの経常収支黒字を見込んでいる。従って,この計画の成否は,低下が顕著と言われる国際競争力の回復が大きな鍵を握っているとみられている。
いずれにしても,「新5カ年計画」が順調に達成されれば,96年には1人当たりGNPが10,908ドルと現在のシンガポールやニュージーランド並みの水準に到達し,先進国の仲間入りができるレベルに達するとの予測がなされている。