平成3年
年次世界経済報告 資料編
経済企画庁
II 1990~91年の主要国の政策動向
第9章 韓 国
韓国では,経済規模の急速な拡大や経済の自由化・国際化の進展の中で政府の役割が相対的に小さくなっているとされるものの,現実には,経済における財政の役割は依然として大きいとみられる。特に,高度経済成長の影で,産業競争力の低下や地域間・階層間格差の拡大,インフラ整備の遅れ等の問題が顕在化しているため,そうした問題を解決する上での政府の果たす役割への期待があり,財政の効果的活用が求められている。
① 91年度当初予算
90年12月18日,一般会計規模で26兆9,798億ウォン(90年度当初予算比18.9%増)の91年度予算(当初予算)が国会で可決成立した。この予算は,道路や地下鉄等の社会間接資本の拡充,大都市圏での交通難緩和,農業構造改善促進と農漁村生活改善,低所得者層の福祉増進を重点課題としている。
② 91年度追加更正予算
政府は,湾岸戦争追加分担金支出のために編成した第1次追加更正予算(補正予算,91年5月7日成立)に次いで,6月27日,見通しを大幅に上回る歳入増を受け,総額4兆1,985億ウォンの第2次追加更正予算案を作成し,7月の臨時国会に提出・処理することを決めた。
これで,第1次追加更正予算の2,040億ウォンを含め,91年度の最終予算総額は31兆3,822億ウォンとなる。これは,91年度当初予算比16.3%増,90年度予算比(追加更正予算を含む)14.3%増となる。これに,90年度より本格的に始まった地方自治制度(韓国では,これまでも憲法や法律で地方自治の規定はあったが,地方議会は存在せず,地方自治は事実上存在しなかった。しかし,盧泰愚大統領が押し進める民主化政策により,91年3月には地方議会選挙が実施され,また,92年度には地方首長選挙も予定され,地方自治が本格実施されつつある)を支援するため新設された地方譲与金と地方教育譲与金の1兆9,930億ウォンを加えた実際の予算規模は,90年度予算比(同)21.5%増と大幅な拡大となる。
① 92年度予算編成方針の決定
政府は,恒例の手順に従い,91年3月28日の国務会議(閣議)で92年度予算編成方針を決定した。
これによれば,92年度予算においては,道路,港湾などの社会間接資本の拡充・整備に必要な財政需要を勘案しつつも,均衡予算の原則を維持して,高まるインフレ懸念にも配盧を示すことでできるだけ現実的な水準で予算を編成するとしている。92年度予算を編成するに際しては,
(ア)道路,港湾等の社会間接資本の拡充と中小企業の育成および投資促進などによって成長の潜在力を高める,
(イ)賃貸住宅建設拡大,大都市交通難緩和,環境汚染防止等の階層間・部門間の公平向上,国民生活安定に注力する,
(ウ)中期財政計画を基に,投資事業の優先順位,投資規模,投資時期等を再点検して,不要不急の新規事業を抑制する,
(エ)地方自治制度の実施にともない,中央政府と地方政府間の機能および財政制度を全面的に再整備する,
などを重点項目に掲げている。
② 92年度予算の政府案決定
(ア)重点課題
韓国政府は,91年9月26日,一般会計規模で33兆5,050億ウォンの92年度予算の政府案(91年度当初予算比24.2%増,追更予算を合わせた91年度最終予算比6.8%増)を国務会議(閣議)で決定した。
本予算案では,以下の点が強調されている。
a)80年代に物価安定のため社会間接資本の拡充を抑制したため,道路や港湾等の交通や運輸の渋滞・困難が生じて,経済発展の障害となっている。
従って,社会間接資本の拡充に踏み切らざるを得ない,
b)GATTウルグアイ・ラウンド後をにらみ,農水産業の構造改善を図る,
c)製造業の国際競争力の強化を図る,
d)地方自治制度の実施にともない,地方財政を支援する,
e)人材育成・確保のため,教育の継続的向上を図る,
f)社会保障・社会福祉の拡大を図る,などを掲げている。
(イ)歳入構造
92年度政府予算案の歳入内訳は,第2表の通りである。
(ウ)歳出構造
92年度政府予算案の歳出内訳は,第3表の通りである。
(エ)硬直性経費の高まり
92年度政府歳出予算案では,事業費比率の低下と硬直性経費(多年度にわたる出費や人件費等のように財政環境の変化に応じて伸縮自在に編成出来ない経費)の高まりが指摘されている。
(オ)92年度の全体予算規模
なお,92年度予算の政府案では,特別会計に農漁村構造改善促進特別会計が新設され,これで特別会計は22会計,総額で18兆4,736億ウォンとなり,会計間重複編成分を除くと,92年度予算総額は45兆2,321億ウォンで,91年度最終予算比13.5%増となっている。
③ 92年度予算成立(91.12.3)
91年12月3 日,92年度予算が,政府案の33兆5,050億ウォンから歳出と歳入それぞれ3,050億ウォンを削減した規模で,国会で可決成立した(韓国の場合,新年度予算は年度が始まる30日以前に成立させなければならないと法律で決められている)。