平成3年

年次世界経済報告 資料編

経済企画庁


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I 世界経済白書本編(要旨)

第1章 世界経済の現局面とその特徴

第1節 各国経済の景気局面の乖離

(先進国)

先進国経済は,①90年に景気後退期に入り,91年半ばに回復に向かいつつあるアメリカ,カナダ,イギリス,オーストラリア,②90年まで堅調な成長を続け,91年には緩やかに滅速しつつあるドイツ,日本,③90年まで減速傾向にあったものの,91年に入ると増勢が回復しつつあるフランス,イタリアの3つのグループに分けられる。

85年以降の金融政策の緩和基調の下で,①のグループでは早い時期にインフレ圧力が高まり88年には景気は過熱したが,他のグループではそれほどインフレ圧力は高まらなかった。この相違は,為替レート及び不動産投資の動向の相違でかなり説明できる。まず,為替レートについては,日独では85年以降,自国通貨が大幅に増価し,安価な輸入が増大し輸出が抑制される等の効果を通じてインフレ圧力が緩和された。アメリカでは逆にドル安の下で輸出が好調となり輸入品の価格が上昇する等の効果を通じてインフレ圧力が高まった。カナダ,オーストラリアでは,為替レートはほとんど横ばい,その他の国では若干の増価にとどまったので,為替レートはインフレ圧力の緩和にはあまり寄与していない。次に,不動産投資については,①のグループでは,景気の過熱に至る過程で不動産ブームが起こり,景気の山を高くした。こうしたブームは,税制の改正(アメリカ),金融制度の改革(イギリス)を契機に起こったものである。日本でも不動産ブームが起こったが,経済全体の過熱をひき起こすには至らなかった。ドイツ,フランスでは不動産ブームは起こらなかった。

このように①のグループでは88年にはインフレ圧力が高まり,強い引締めが行われた。その結果,不動産のブームは不況に転じ,景気全体の下降を早めることとなった。その他の国では,インフレ圧力はあまり高まらず,金融引締めも緩やかなものであったことから景気後退には至らなかったと考えられる。

ただし,ドイツ,日本は最近になって金融引締めの効果から景気は減速しつつあり,フランス,イタリアの景気拡大も力強さに欠けている。アメリカ,カナダ等は,91年半ば以降景気は回復に向かっているが,その足どりは重い。

第1-1-1表 世界の実質成長率と世界貿易

第1-1-3表 先進国の銀行不動産向け貸出比率

(途上国)

アジアNIEsでは,香港を除き,内需の好調を主因に順調に拡大が続いている。アセアンは,フィリピンを除き,海外がらの直接投資の増加,それに伴う建設と製造業生産の活発化等から好景気が続いている。中国では,内・外需ともに好調で拡大が続いている。

メキシコでは,市場志向の経済政策を採るなが,成長の持続,貿易の拡大,物価上昇率の低下等,経済のパフォーマンスが改善している。ブラジルでは,生産の減少が続く一方で物価の騰勢は鎮まっていない。


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