平成2年

年次世界経済報告 各国編

経済企画庁


[次節] [目次] [年次リスト]

I 1989~90年の主要国経済

第10章 アジア・中東

1. 韓  国:内需中心の経済拡大続く

(1)概  観

韓国経済は,86年以来3年連続の二桁成長と高度成長をみた後,89年にはこの間の賃金の大幅上昇やウォンの増価等によって国際競争力が大きく低下したことに加え,労働争議が多発したこともあり,鉱工業生産,輸出が不振に陥り,経済成長率は目立って鈍化した。

90年に入って,労使関係は比較的安定的に推移したものの,国際競争力の回復は容易に進まず,輸出の伸び悩みから外需は不振を続けた。しかし,高度経済成長による国民の所得水準の向上により消費は一層活発化し,また,建設投資,設備投資も大幅に増えるなど内需が好調に推移したことから,鉱工業生産は緩やかに増加し,90年の経済成長率は政府の当初見通しを大きく上回る見込みである。もっとも,過熱気味とも言える旺盛な内需は,一方で輸入の大幅増加傾向から貿易収支赤字を定着させると同時に,他方で賃金の大幅引き上げなどから上昇圧力を強めていたインフレ傾向を加速した。更に,中東情勢の緊迫化による国際石油価格の高騰がこの傾向に拍車をかけている。雇用情勢は,輸出不振による製造業生産の伸び悩み傾向にもかかわらず,サービス産業の好調による雇用吸収力の高まりから就業者数は順調に増加し,失業率も低水準で推移するなど安定した動きを示した。

91年の政府の経済見通しは,内需の鈍化から経済成長率は7%水準と90年に比べ鈍化し,安定的な成長になる見通しである。

更に,政府は,韓国経済が長期的に競争力を回復し,90年代中頃には先進国経済の仲間入りができるよう,産業構造の高度化等の経済構造調整を進める方向で,第7次経済社会発展5ヵ年計画の策定を急いでいる。

(2)需要動向

実質GNP成長率は,86年以降3年連続して二桁を記録した後,89年は前年比6.7%と大きく鈍化した(第10-1-1表)。高度経済成長の実現は,当初は,先進国経済の長期拡大による需要増を背景に,ウォン安,石油安,金利安の「三低」現象から輸出,投資が著しく増加して成長率を高める姿であったが,その後,88年にはウォンの増価調整,賃金の大幅上昇等による国際競争力の低下等,経済与件に変化がみられたものの,所得増効果もあって成長率は二桁を維持した。しかし,89年に入ると,ウォンの増価が続き,また,賃金上昇も加速化して国際競争力の低下が一層顕著になり,また,労働争議の多発から生産,輸出が落ち込むなどしたため,成長率の鈍化を余儀なくされた(第10-1-1図)。90年に入って,外需の不振は継続したものの,内需が大幅に拡大したため,実質GNP成長率は1~3月期前年同期比10.1%,4~6月期同9.7%,7~9月期同9.6%と高めの成長となっている。

需要項目別の動向をみると(第10-1-1表),実質民間消費支出は,89年には前年比9.8%増と88年並みの拡大を示し,好調であった。90年に入って,伸び率は更に高まり,1~3月期前年同期比11.8%増,4~6月期同10.3%増,7~9月期同9.2%増と高水準で推移している。消費の内訳(形態別実質家計消費支出)をみると,89年に耐久財消費が前年比13.6%増とやや鈍化したものの高い伸びをみせ,サービス消費も同9.5%増と88年並みの増加を示した。

こうした傾向は90年に入っても継続しているとみられ,例えば,内需用消費財出荷の中の耐久財出荷は1~3月期前年同期比21.2%増,4~6月期同13.9%増,7~9月期同18.4%増と好調な増加をみせている(89年は前年比33.6%増)。

実質総固定資本形成は,89年には建設投資活動の活発化もあって前年比16.2%増と88年より加速した。実質機械設備投資は,輸出不振等による景気の先行き見通し難もあって輸出企業を中心に年途中で設備投資計画を下方修正する動きもみられたが,労働コスト上昇を背景とした自動化投資,情報化投資が健闘したことから同12.3%増と88年並みの拡大となった。90年に入ると,こうした傾向は更に強まり,実費総固定資本形成は1~3月期前年同期比31.8%増,4~6月期23.9%増,7~9月期同19.8%増,実質機械設備投資もそれぞれ同18.6%増,21.1%増,14.8%増と89年より高い伸びを示している。特に,実質建設投資は住宅建設や商業用ビル建設の拡大からそれぞれ同46.9%増,21.1%増,14.8%増と急増している。

対外面では,実質輸出(財貨・サービス輸出)は,89年に競争力の一層の低下,労働争議の影響等から前年比4.0%減と79年以来初めて低下した。90年に入って,1~3月期前年同期比1.6%増,4~6月期同5.5%増,7~9月期同10.3%増と徐々に盛り返しているが,過去の増加テンポに比べ伸び悩みは否めない。他方,実質輸入(財貨・サービス輸入)は,89年には内需拡大から前年比16.3%増と88年よりも増勢を強めた。90年1~3月期は前年同期比17.2%増,4~6月期同17.9%増,7~9月期同11.4%増と引き続き大幅に拡大している。この結果,純輸出のGNP増加寄与度は89年以来マイナスを続け,89年はマイナス7.9%,90年1~3月期マイナス6.5%,4~6月期マイナス5.4%,7~9月期マイナス1.0%となっている。

(3)生産動向

鉱工業生産は,輸出需要の伸びに支えられて86年から3年連続して大幅な増加となった後,89年には競争力の低下,海外需要の鈍化,国内での労働争議の多発等の影響を受けて前年比2.9%増と僅かな伸びに止まった。90年に入ると,内需が更に強くなり,労使関係も比較的安定化し,輸出も増加に転じたため,鉱工業生産は緩やかに回復し,1~3月期前年同期比7.9%増,4~6月期囮9.2%増,7~9月期同9.7%増となっている。

業種別にみると(第10-1-1表),韓国の伝統的輸出産業であり,労働集約的な繊維・衣類が88年以降停滞・減少している他,これまで著しい伸びを示してきた電子・電気,輸送機器が89年にそれぞれ前年比0.4%減,5.3%増と不振に陥った。そうした中,一次金属や機械類は内需の好調もあって比較的健闘した。90年に入り,繊維・衣類は不振を続けているものの,電子・電気は徐々に回復し,輸送機器も国内自動車販売の好調が伝えられる中,再び大きく伸びている。

農業生産(林業,水産を含む,GDPベース)は,89年は88年が好天に恵まれ記録的豊作となった反動もあり,米,野菜等の栽培作物の生産が減少し,前年比0.7%減と僅かな低下となった。90年1~3月期は前年同期比3.6%減,4~6月期同3.5%減,7~9月期同0.3%減と振るわない状況となっている。9月には記録的な集中豪雨が襲い,農業生産への影響が懸念されたが,被害は最小限に止まったとみられる。

(4)貿易動向等

貿易動向(通関,ドル・ベース)をみると(第10-1-2表),輸出は欧米や日本の景気の順調な拡大による需要増とウォン安による国際競争力の高まり等を背景に86年から大幅な増加をみていたが,88年頃より顕著になってきた賃金コストの上昇,ウォンの増価等による競争力の低下が89年には具体的に効き始め,更に労働争議の多発が直接的に影響して89年の輸出は624億ドル,前年比2.8%増の僅かな増加に止まった。

90年に入ると,労使関係は比較的安定化し,労働争議の発生件数も著しく減少し,また,ウォンの対ドル・レートはやや減価傾向を示す中で安定化したが(第10-1-1図),年初に円安からウォンは円に対し更に増価することとなり,価格競争力の回復は遅れることになった。この結果,輸出は1~3月期前年同期比1.2%減,4~6月期同4.5%増,7~9月期同5.9%増,10~12月期同6.7%増と小幅増加に止まっている。

輸出先をみると(第10-1-3表),アメリカが最大の輸出市場(89年で輸出の33.1%を占める)である点に変わりはなく,続いて日本が大きいが,89年にはそれまで第3位の地位を占めていたEC4大国がアジアNIEsにその地位を譲り渡すことになり,この傾向は90年に入っても変化がない。

)対米輸出は89年に206億ドル,前年比3.6%減と落ち込み,90年に入っても前年同期比で減少傾向にある。また,対日輸出は89年に135億ドル,前年比12.1%増と拡大を続けたが,90年には対米輸出同様,減少している。また,対EC4大国輸出も89年以降減少傾向にある。更に,対NIEs輸出は89年に前年比5.9%増と88年の6割増から著しく鈍化,90年に入っても伸び悩んでいる。ただ,対アセアン(タイ,マレーシア,フィリピン,シンガポールの4ヵ国,以下同じ)輸出は89年前年比44.4%増と大幅な拡大を続け,90年に入っても他地域を凌ぐ増加を続けている。

品目別では,89年には履物(前年比5.5%減),玩具(同10.3%減)が大きく落ち込んだ他,主力輸出商品である繊維,鉄鋼,機械,電子,自動車等は小幅な増加(同7~9%台の増加)に止まった。90年に入ると,履物,船舶が目立って盛り返しているものの(1~9月前年同期比それぞれ29.9%増,56.3%増),繊維はほぼ横ばい,玩具,自動車は大きく落ち込んでいる。

他方,輸入をみると(第10-1-2表),韓国の場合には輸出が増えると資本財や原材料等の輸入が増えるという経済構造にあるため,輸入は輸出急増に牽引される形で87年以降大幅な増加をみせていた。しかし,輸出が不振に陥るようになっても内需が好調であり,これに輸入物価の下落効果等も加わって89年は前年比18.6%増,90年1~3月期は前年同期比13.1%増,4~6月期同10.2%増,7~9月期同8.1%増,10~12月期同21.6%増とあまり衰えをみせていない。

輸入先をみると(第10-1-3表),日本からの輸入が最大(89年の輸入の28.4%)であり,次いでアメリカ,EC4大国,アセアン,アジアNIEsの順となっている。

対日輸入は,89年に前年比9.5%増と鈍化し,90年に入っても僅かな増加に止まっている。また,対米輸入は,89年には88年の伸び率から半減したものの,前年比24.7%増と大幅に伸びた。しかし,90年に入り,増勢鈍化が目立つようになっている。EC4大国からの輸入は,89年に同10.9%増となった後,90年には乗用車等の輸入増加もあって3割前後の高い伸びを示している。また,NIEs,アセアンからの輸入は89年までは高い増加テンポにあったものの,このところ増勢が鈍化している。

品目別にみると,輸出加工用商品輸入は89年に前年比6.2%増と大きく鈍化したが,内需用は同27.2%増と大きく伸びた。90年1~9月でも輸出用は前年同期比横ばい,内需用は同16.3%増と内需中心の輸入構造が続いている。また,消費財は89年前年比25.0%増と所得水準の向上を反映して大幅に増加したが,90年には不動産投機抑制策の実施,株価の下落,消費抑制キャンペーンの展開等もあって消費財輸入は1~9月前年同期比9.2%増と鈍化している。資本財の中では,機械は89年に前年比28.1%増となった後,90年1~9月前年同期比17.8%増と増勢は鈍化したものの高い伸びとなっている。原資材の中では,原油輸入は89年には国際石油価格の上昇と消費増から前年比33.8%増と著しく増加したあと,90年1~9月では前年同期比9.8%増と増勢は鈍化したが,中東湾岸危機の影響による国際石油価格の上昇が年後半に現れるため,原油輸入は再び加速しよう。

貿易収支(通関ベース)は,黒字幅が89年には9.1億ドルと88年(88.9億ドル)に比べ著減した後,90年には47.3億ドルの大幅な赤字に転化している。

経常収支も,こうした貿易収支状況を反映して89年に50.6億ドルの黒字と88年に比べ黒字幅が大幅に圧縮され,90年1~9月では6.8億ドルの赤字となっている。

直接投資の動向(認可基準)をみると,直接投資の受け入れは,件数でみると87年の363件をピークに徐々に低下し,89年は336件となった(1962午以降累計3,090件,金額70.7億ドル)。特に,製造業での件数低下が目立っている。金額では,88年の12.8億ドルをピークとして89年は10.9億ドルへと減少した。こうした海外からの直接投資の一巡は,賃金コストの上昇,労働争議の多発にみられる労使関係の不安定さ等に起因しているとみられる。

一方,韓国の対外直接投資は,88年以降急拡大しており,88年は件数で前年比81.3%増の165件,金額で4.8億ドル,89年は同じく53.9%増の254件,9.3億ドルであった。特に,製造業が年々倍増の勢いにあり,賃金コストの上昇,貿易摩擦の激化等から労働集約型の製造業が生産拠点をアセアン等の地域に移転している姿が明確に現れていると言える。

(5)雇用・賃金・物価動向

雇用情勢は,86年以降,生産活動が活発化するにつれて目立って改善が進んだ。89年には鉱工業生産が僅かな増加に止まってほとんど停滞状況となり,雇用悪化が懸念されたが,就業者数は前年比3.9%増とむしろ88年の伸びを僅かに上回った(第10-1-4表)。これは,製造業における就業者数が前年比3.7%増と増勢鈍化となったものの,農林水産業では減少幅が従来に比べ小幅化し,更に,サービス産業(建設業を含む)では増加テンポが高まったためである。90年に入って,製造業での就業者数の減少がみられたものの,サービス産業の雇用吸収力の強さから,就業者数は全体として1~9月前年同期比3.1%増と僅かな増勢鈍化に止まっている。

失業者数は,86年以降減少していたが,89年は前年比5.7%増の46万人となった。更に,90年1~9月には前年同期比2.8%減と再び減少している。この結果,失業率は,89年に2.6%と88年並みの低水準となった後,90年1~9月には2.4%と更に低下し,労働需給は引き締まっている。

賃金は,高度成長を背景に,87年夏,88年春,89年春と3度の労使紛争の山を経て,その都度大幅に引き上げられた。89年の製造業賃金(常傭従業員,月平均)は前年比25.1%増の49.2万ウォン(10.4万円)となり,消費者物価上昇率を差し引いた実質賃金の伸びでみても,製造業の労働生産性上昇率11.9%を大幅に上回る増加となった(第10-1-4表)。90年1~6月の製造業賃金は,前年同期比21.9%増と高い伸びを示している。しかし,90年春の賃金改定交渉では,政府の賃金抑制姿勢,景気の先行き見通し難,労働側の過去の闘争姿勢に対する反省等もあって,労使が歩み寄りをみせ,賃金引き上げ率は従来に比べ小幅化し,労使紛争件数も激減した。90年10月末時点での賃金妥結状況をみると,平均引き上げ率は9.0%で89年同期の18.1%に比べ半減している。こうした影響は年後半には徐々に現れ,賃金上昇率も鈍化するとみられる。

物価は,87年中頃より徐々に高まり始め,89年にやや騰勢を緩める気配をみせたものの,90年に入って再び騰勢強めている(第10-1-4表,第10-1-1図)。卸売物価上昇率は,89年に前年比1.5%と88年より鈍化した後,90年には1~3月期前年同期比1.8%,4~6月期同3.2%,7~9月期同4.7%,10~12月期同6.9%と加速している(90年年間では前年比4.2%)。一方,消費者物価上昇率も89年には前年比5.7%,90年1~3月期前年同期比6.6%,4~6月期同8.9%,7~9月期同9.6%,10~12月期同9.3%と二桁に迫る勢いである。政府は,湾岸危機による石油価格の上昇に対し,石油事業基金を緩衝資金として使用して,しばらく国内石油価格の引き上げを見合わせてきた。しかし,11月末には,ガソリン,灯油価格を28%引き上げ(政府は物価に対する影響を0.08%と試算),また,12月下旬には国内航空料金,地下鉄,鉄道,上水道料金を引き上げており,消費者物価は更に上昇する懸念がある。消費者物価上昇率が更に加速するような事態になれば,これまで抑制気味に推移してきた賃金引き上げも再び高まる可能性がある。

なお,通貨供給量は,89年11月に輸出不振と景気の沈滞化を受けて公定歩合の1%引き下げ,設備資金・輸出資金供給枠拡大等が実施され,金融政策がやや緩められた結果,増加テンポが高まった(第10-1-5表)。M2(平均残高ベース)は,89年前年比18.4%増の後,90年1~3月期前年同期比23.5%増,4~6月期同22.4%増,7~9月期同20.0%増と政府目標圏(90年年間で前年比15~19%増)を上回って拡大しており,この面からもインフレ圧力が強いものとみられる。

(6)経済政策

政府は,輸出不振,内需過熱化,インフレ悪化等に対し,89年中頃より累次の経済対策,経済運用計画の修正,個別対策等を通じて経済安定化,構造改善に努めてきた。

この間,90年2月上旬には,与党の民正党と野党の民主党,共和党の3党が統合して巨大与党の民主自由党が誕生し,この新与党は成長指向の綱領を打ち出すに到った。これを受け3月央には成長指向派の閣僚が入閣する内閣改造があり,4月初には①輸出,設備投資促進のための特別設備資金の増額(1兆ウォン→2兆ウォン)②短資,投信等の実勢金利の1%以上の引き下げ誘導,③住宅難解消のための各種建築・土地利用規制の緩和,④物価安定のための公共料金引き上げ抑制及び引き下げ,⑤91年初より実施予定の「金融実名制(韓国版グリーンカード制)」の実施延期,等を内容とする景気に配慮した「経済活性化総合対策」が決定された。

更に,これを補完する対策として,4月下旬には「物価安定化対策」,5月上旬には「不動産投機抑制と物価安定のための特別補完対策」が決定された。

前者は通貨供給量抑制,公共料金抑制等を内容とする物価対策である。後者は3月初の土地公概念関係3法(「宅地所有上限法」,「開発利益還収法」,「土地超過利得税法」)実施によっても不動産投機が下火にならず,むしろ,土地・住宅価格の高騰,家賃の急上昇が続いていることに対し国民の不満が高まっているため,財閥,金融機関の不動産所有制限と非業務用不動産の放出によって価格高騰を抑制しようとした対策である。加えてこの対策は,株価の大幅下落等,証券市場の沈滞化状況を前にして,証券市場から不動産市場へ流出している資金の還流を図ることで株価の下落に歯止めを掛ける狙いをも持っていた。

6月末には,年央見通し改定を行い,予想外に強い内需拡大から成長見通しを引き上げる(年初見通し6.5%→8~9%)とともに,下半期の「経済政策運用方向」を決めて,内需安定化によって物価を鎮静化することと,輸出競争力回復に力点を置いた政策を発表した。また,8月初の中東情勢の緊迫化による国際石油価格高騰及びイラク,クウェート原油の供給停止の事態に対しては,省エネルギー対策の推進,石油輸入先の多角化等を決定した。しかし,国内石油価格引き上げはインフレ悪化を招くとして,石油事業基金の活用により年内は価格引き上げを行わない方針を明らかにしていた(11月末,ガソリン,灯油価格を28%引き上げた)。

財政面では,政府は90年9月下旬に「91年度予算案」を閣議決定した。一般会計規模で27兆2千億ウォン,90年度当初予算比19.8%増と83年以来最も高い伸び率の予算であり,収支均衡の予算となっている。この予算案では,①道路,地下鉄等の社会間接資本の拡充,②大都市圏での交通難緩和,③農業構造改善及び農村生活環境改善促進,④低所得層の福祉増進,等が重点施策として挙げられている。また,地方自治の強化のための配慮がみられる。同予算案は,12月央,約2000億ウォンの削減を受けて国会で成立している。

金融面では,90年3月初より,為替自由化の第1段階として,ウォン対ドルの為替レートの設定に関し,それまでの複数通貨バスケット制に基づく中銀によるレート決定を改めて,前日の銀行間取引の平均レートを中心点に上下一定範囲内のレートでの取引の自由を認めた市場平均為替レート制を導入・実施した。

対外面では,西側諸国との協調関係を発展させる一方,東西協調の流れの中で引き続き「北方外交」を積極的に推進し,ソ連・東欧諸国,中国等の国々との経済関係で前進がみられる。90年9月末には,ソ連との間で国交が樹立され,さらに12月央には廬大統領の訪ソが実現して,韓ソ間では政府・民間と種々のレベルで積極的な交流が行われている。

(7)経済見通し

経済企画院は,11月末の「90年経済展望」で90年の経済成長率を9.2%と予測,年央の8~9%見通しを更に上方改訂した。これは,90年下半期に民間消費や建設投資がやや鈍化しているものの,製造業生産が増加しており,商品輸出も伸びているとの判断に基づいている。

12月末,政府は「91年経済運用計画」を決定・公表した。同計画は,製造業の競争力強化,インフレ抑制,国民生活の安定・向上等を内容とし,91年度の経済成長率を内需の鈍化から7%水準と90年よりも鈍化するとしている。経常収支は,30億ドルの赤字と依然厳しい状況が続く見通しである。物価は,消費者物価上昇率で8~9%(年末対比上昇率)と一桁台に抑制する方針である。

現在,1992~96年を対象期間とした第7次経済社会発展5ヵ年計画が策定・準備中であるが,9月に「計画樹立のための基本構想」が,10月に「計画作成指針」が相次ぎ公表された。右「指針」は,①期間中の成長率を年平均7%,②92年には国際収支の均衡を達成し,95年には純債権国に転換する,③90年代央には先進国の仲間入りを果たせるよう,経済構造改善に努め,特に製造業の潜在力発展に重点をおく,④農漁民層,都市貧民層の福祉,生活安定を図る,⑤民主化,国際化等の流れの中で制度改革,組織・機能再編を行う等を主な内容としている。第7次計画は,更に細部がつめられ,最終的には91年末頃までには最終決定・公表される予定である。