平成2年

年次世界経済報告 各国編

経済企画庁


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I 1989~90年の主要国経済

第8章 ソ  連

2. 生産・雇用

(1)工業生産

工業総生産(実質)は,80年以降おおむね前年比4%増前後の伸びを保ってきたが,89年同1.7%増を経て90年には1~9月期前年同期比0.9%減とマイナスに落ち込んでいる(前掲第8-1表)。工業のA・B二大部門別でみると,生産財生産部門(A部門)は90年1~9月期前年同期比2.9%減(89年は前年比0.7%増),消費財生産部門(B部門)は同4.5%増(同4.8%増)で,生産財の生産を抑えて消費財の生産を重視する政策を反映した姿となっている。しかし,工業総生産の7割以上を占める生産財生産部門の減少分を消費財生産部門でカバーするには至っておらず,年間600億ルーブルの消費財増産目標に対し,1~9月期で200億ルーブルの増産に止まっており,増産目標のペース7(9か月間では450億ルーブル相当)に対して半分以下となっている。また,89年夏以降の炭鉱スト,民族紛争の頻発や,各共和国の生産物の売り惜しみによる物流の停滞が,原燃料や食料品等の生産低下をもたらしている。

消費財生産部門における非食料品の消費財の生産動向をみると,1~9月期前年同期比でVTR260%増,ラジカセ26%増,洗濯機18%増,カラーテレビ15%増,ミシン17%増,電気掃除機14%増,テープレコーダー9%増等となっている。他方,生産財生産部門における主要品目の生産動向をみると(第8-2表),1~9月期前年同期比で原油5%減,石炭5%減,鋼管5%減,圧延鋼材2%減,苛性ソーダ7%減,硫酸3%減等と,燃料部門及び原材料部門の生産の落込みが顕著となっている。

(2)農業生産

農業総生産(実質)の動向をみると(第8-3表),好調であった86年(前年比5.3%増)に対して,87年同0.6%減,88年同1.7%増,89年同1%増と伸び悩みが続いており,90年には農産物の空前の豊作が伝えられるものの,収穫・保管・流通の不備から消費者に対する実際の食料供給は著しい不足となっている。

穀物生産は,88年に干ばつの影響から1億9,500万トンと2憶トン全割り込んだものの,89年には比較的天候に恵まれたこともあって2億1,110万トンと2億トン台を回復し,さらに90年には作柄が史上空前の2億4,000万トンに上る好調が伝えられている(アメリカ農務省資料では2億3,500万トン)。しかし,人手不足による収穫遅延,倉庫不足による保管の限界,流通事情の悪化等の構造的要因による莫大なロスに加え,経済主権を主張する共和国や値上がりを見越した農民が,農産物の出し惜しみをしていることから消費者にまで届かない状況が生じており,国内の食料不足を解消できないでいる。このため,アメリカ,カナダ等を中心とした西側諸国から依然として穀物輸入を行っている。ソ連の穀物輸入量は,86年度(=穀物年度:7月~翌6月,以下同)2,750万トン,87年度3,200万トン,88年度3,850万トンと次第に増加していたが,89年度は国内生産が持ち直したことから3,800万トンとやや減少し,90年度は2,800万トン(前出アメリカ農務省資料)程度になるとみられている。

畜産部門は,家畜頭数の減少傾向を受け,食肉は90年1~9月期前年同期比4%減と,減産を示している。

(3)雇用

雇用動向をみると,80年代以降労働力の伸び悩みがみられ,労働者・職員数は88年に前年比1.1%減とマイナスに転じ,89年同1.1%減,90年1~9月期前年同期比1.5%減と減少傾向を続けている(前掲第8-1表)。他方,国営企業の独立採算制への移行に伴う合理化等により失業者が急増しており,90年9月現在で失業者数は200万人に上るとされる(同時点の労働力人口は1億6,400万人)。失業率は,特に中央アジアの共和国(カザフ,トルクメン,ウズベク,キルギス,タジク)及びカフカス地方の共和国(アルメニア,アゼルバイジャン)で高まっている。


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