平成2年

年次世界経済報告 各国編

経済企画庁


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I 1989~90年の主要国経済

第7章 東ヨーロッパ:90年下半期以降緊縮政策を緩和

4. ルーマニア:90年夏以降,本格的改革へ着手

(1)経済動向

工業総生産は,90年1~6月期は低収益企業の閉鎖や産業用電力の家庭への振り分け等によって,前年同期比21%減となった後,1~7月期同19%減,8月前年同月比23%減,9月同26%減と大幅な減少が続いている。9月の内訳をみると殆どの工業製品は前年同月を下回ったが食品生産は増加している。また,労働生産性をみると,8月前年同月比24%,9月同22%低下しており,雇用者数が殆ど減少していないことがうかがえる。

90年後半に入り,政府は価格自由化に着手しており,7月11日からのガソリン,紙,ミネラル・ウォーター等の小売価格値上げ,11月1日からの,パン,肉,電気料金,家賃を除く消費財への補助金廃止と価格自由化が実施された。.しかし,商店の便乗値上げによって,多くの商品は2~3倍に急騰し,商品供給も増加しなかった。

対外貿易では,交換可能通貨建て輸出は1~6月期前年品期比48%減少し,同輸入は政府による消費財輸入等により,同46%増加した。1~7月期には,対西側輸出が前年同期比45%減少し,コメコン向け輸出は同44%減少した。こうした輸出の大幅な減少と交換可能通貨建て輸入の増加により,9月の貿易収支は,ルーブル建てでは1.2億ルーブル,交換可能通貨建てでは1.9億

のそれぞれ赤字となった。

(2)経済政策

89年末のチャウシェスク政権崩壊の後,救国戦線評議会が政権を掌握したが,戦線内に旧政権の高官が残留していたことに対して国民の不満が高まり,90年2月,その他の勢力も交えた国家統一暫定評議会へと改組された。しかし暫定評議会への救国戦線メンバーの横滑り等に対する国民の不満は大きく4月下旬以降大規模なデモがブカレスト等で行われた。政府側はこれを力で鎮圧したため,諸外国の非難を招いた。5月20日には自由選挙が行われ,救国戦線が議会の安定多数を獲得し,大統領には戦線議長のイリエスクが選ばれ,ロマンを首相とする内閣が組織された。

経済面では,90年上半期までは漸進的な改革に止まっていた。しかし,年後半に入り,7月31日には対象企業資産の30%の株式を新設の国家民営化庁を通じて国民に分配することを定めた国営企業民営化法案が議会で可決された。9月23日には民営化資金調達のためIFC(国際金融公社)に加盟,10月1日には,破産状態にある国営企業に対するエネルギー補助金を打ち切る等,重要な改革政策が実行に移されている。11月1日からは価格自由化とともに通貨レウの4割以上の切り下げが行われ,不採算企業の経営者の解雇も計画されている。こうしたロマン内閣の急進的ともいえる改革政策には,野党勢力の批判をかわし政権の支持基盤が堅いうちに必要な改革に着手しようとする姿勢がみられ,国民の支持を得ていない点と合せて,ブルガリアのルカノフ政権の末期と類似しており,価格自由化等国民に苦痛を強いる政策の実施は,救国戦線への支持を急速に失わせることにもなりかねない。


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